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最終話ージュナとエリアル
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クライス邸にて、エリアルは応接室で緊張した面持ちで待たされていた。
王宮から帰って2週間が経った。エリアルはこの中期休暇、ほぼ休息しかとっていない。
魔力切れを2度も起こし、床に伏していた中期休暇ももう少しで終わる。
「待たせたね」
クライス伯爵が入ってくると、エリアルはサッと立ち上がった。
「伯爵、本日はお時間をくださりありがとうございます」
クライス伯爵はエリアルを見て、なんともいえない表情で微笑んだ。
「もうすっかり元気なのかい?」
「はい。魔力も戻って普段通りの生活に戻りました。ーあの、伯爵····」
エリアルは言いかけて止まらざるを得なかった。
クライス伯爵は手をエリアルの前にスッと出して静止させた。
エリアルは冷や汗が額を流れる感覚を味わった。
(不味い。やはり僕の印象は良くなっていなかったのでは。いや、反対されようとも諦めれるはずもないが)
「··············」
ー沈黙ののち、伯爵は口を開いた。
「エリアル。君が何を言いに来たのか分かっている。けれども、私は許可出来ない」
「·····理由をお伺いしても?ーただ、クライス伯爵。たとえ理由を聞いても僕が諦める訳ではありません」
「そうだろうね?まぁ1番の理由は君、一度断ったじゃないか。あの時ジュナはひどく落ち込んでいてね」
あの場にジュナが居たことは自分のミスだ。エリアルは誠心誠意、頭を下げた。
「ジュナを傷つけたこと、申し訳ありませんでした。ーですが」
「まぁ待ちなさい。私だって娘の幸せを願っている」
エリアルは頭を上げた。
伯爵はニヤリと笑った。
「卒業まで、ジュナの気持ちが君にあるままなら、婚約を許そう」
「えっ」
思っていたより、条件が軽い。
(いや、待て。僕じゃなく、ジュナの気持ちが····となると)
一瞬の間にエリアルの気持ちは上がって少し下がった。
パッと顔を上げたエリアルの表情が変わり、伯爵は笑った。
「そうだ。油断するなよ?ジュナの闇属性が周知されてしまった今、彼女をとりまく環境は変わるだろう。心ない事を言う者や、貴重ゆえに研究材料に求められるかもしれない。心身ともに、彼女を守れない者には許可できないからな」
(そんなことは、僕にとっては当たり前だ)
彼女を守りたい。それは6歳の頃から、いや前の生から、ずっとエリアルを突き動かしていたものだ。
「承知しました。クライス伯爵、今のお言葉忘れないでください」
エリアルは伯爵に念を押した。
ーーーーーーーーー
夕刻、ジュナはバルコニーにあるテーブルでお茶を飲んでいた。
王宮から戻ると、ルナマリアもローウェン家の邸宅に戻ることになり、ジュナは2週間静かにクライス邸に閉じこもっていた。
外に出てもいいが、家でのんびり過ごしたかった。
「クロ」
名前を呼ぶと、クロは近づいてきて、頭をジュナの膝の上に乗せた。
ジュナが頭を撫でると気持ち良さそうな顔をする。
闇の眷属、黒い狼はジュナから離れない。クロと名付け、2週間ずっと一緒に過ごした。
淀んだ気を背後に感じ、ジュナは振り返った。
「なんとも妬ける光景だな」
エリアルがブスっと腕を組んでこちらを見ていた。
「エリアル?来てたの?」
ジュナは立ち上がり駆け寄った。手紙のやり取りをしていたので、エリアルが元気になったことは知っていたが、実際に元気そうな姿を見て、心底ホッとした。
「どうしたの?お父様に用事があったの?」
「ああ。婚約の許可を貰いに」
ジュナの身体が跳ねた。
「っえ?ここ婚約」
声も震えた。
ジュナは予想外のことに慌て、エリアルから一歩下がった。
ーが、エリアルの風でふわりと引き寄せられた。
顔が熱い。きっと真っ赤なのだろうと下を向いたものの、エリアルの視線を感じてすぐに顔を上げた。
熱のこもったラベンダー色の瞳に自分の顔がしっかり映っている。
「許可、貰えたの?」
「駄目だった」
「えぇ」
力のない声を出すと、エリアルの手がジュナの頬を包んだ。
「ジュナ。僕はジュナ以外と結婚するつもりは全くないから、もし僕と結婚したくないなら今言ってくれる?公爵夫人は色々と大変だ」
ジュナはちょっと意地悪をしてみたくなった。
「いやって言ったらどうするの?」
エリアルは目をパチパチさせたものの、にやりと言う。
「そうだな。代理を立てるかな。ジュナとは結婚して、面倒なことはサイラスにでも頼もう。君には、何も苦労させたくない」
ジュナはびっくりした。普段生真面目なエリアルがこんな冗談を言うなんて。
「ふふ」
ジュナは最近クロとするようになった鼻キスをした。
「エリアルのお嫁さんになりたいから頑張るね。全然苦労とかじゃないよ」
エリアルは固まったのち、わなわなと震えた。
「ジュナ、それ毎回クロとしてるの?」
「うん?クロは鼻がひんやりしてて気持ちいいんだよ」
エリアルは下を向いたまま深いため息をついている。
「エリアル?久しぶりなんだから顔みせて」
ジュナが頼むと、エリアルは下を向いたままジュナを抱き寄せた。
「これ以上、僕を試さないでくれないか」
何のことやら分からず、ジュナが問おうと顔を上げると、目を閉じたエリアルと口付けた。
また何度もするのかな?と思っていると、エリアルは一度でジュナを離した。
物足りないと思ってしまった自分を恥ずかしく思ったものの、エリアルにお願いしてしまった。
「もう1回、だめ?」
答えを聞く間もなく、エリアルは口付けしてくれた。一度、長く、二度。
ぎらぎらと熱のこもったラベンダーの瞳を見ると、ジュナの心はとても満たされた。
苦しくなって、「もうおわり」と言いかけたものの、エリアルに口を塞がれて言えなくなってしまった。
「ジュナ。卒業したら結婚しよう」
鼻が付く距離でエリアルが言った。ジュナは「うん」と短く返事をして自分からキスをした。
王宮から帰って2週間が経った。エリアルはこの中期休暇、ほぼ休息しかとっていない。
魔力切れを2度も起こし、床に伏していた中期休暇ももう少しで終わる。
「待たせたね」
クライス伯爵が入ってくると、エリアルはサッと立ち上がった。
「伯爵、本日はお時間をくださりありがとうございます」
クライス伯爵はエリアルを見て、なんともいえない表情で微笑んだ。
「もうすっかり元気なのかい?」
「はい。魔力も戻って普段通りの生活に戻りました。ーあの、伯爵····」
エリアルは言いかけて止まらざるを得なかった。
クライス伯爵は手をエリアルの前にスッと出して静止させた。
エリアルは冷や汗が額を流れる感覚を味わった。
(不味い。やはり僕の印象は良くなっていなかったのでは。いや、反対されようとも諦めれるはずもないが)
「··············」
ー沈黙ののち、伯爵は口を開いた。
「エリアル。君が何を言いに来たのか分かっている。けれども、私は許可出来ない」
「·····理由をお伺いしても?ーただ、クライス伯爵。たとえ理由を聞いても僕が諦める訳ではありません」
「そうだろうね?まぁ1番の理由は君、一度断ったじゃないか。あの時ジュナはひどく落ち込んでいてね」
あの場にジュナが居たことは自分のミスだ。エリアルは誠心誠意、頭を下げた。
「ジュナを傷つけたこと、申し訳ありませんでした。ーですが」
「まぁ待ちなさい。私だって娘の幸せを願っている」
エリアルは頭を上げた。
伯爵はニヤリと笑った。
「卒業まで、ジュナの気持ちが君にあるままなら、婚約を許そう」
「えっ」
思っていたより、条件が軽い。
(いや、待て。僕じゃなく、ジュナの気持ちが····となると)
一瞬の間にエリアルの気持ちは上がって少し下がった。
パッと顔を上げたエリアルの表情が変わり、伯爵は笑った。
「そうだ。油断するなよ?ジュナの闇属性が周知されてしまった今、彼女をとりまく環境は変わるだろう。心ない事を言う者や、貴重ゆえに研究材料に求められるかもしれない。心身ともに、彼女を守れない者には許可できないからな」
(そんなことは、僕にとっては当たり前だ)
彼女を守りたい。それは6歳の頃から、いや前の生から、ずっとエリアルを突き動かしていたものだ。
「承知しました。クライス伯爵、今のお言葉忘れないでください」
エリアルは伯爵に念を押した。
ーーーーーーーーー
夕刻、ジュナはバルコニーにあるテーブルでお茶を飲んでいた。
王宮から戻ると、ルナマリアもローウェン家の邸宅に戻ることになり、ジュナは2週間静かにクライス邸に閉じこもっていた。
外に出てもいいが、家でのんびり過ごしたかった。
「クロ」
名前を呼ぶと、クロは近づいてきて、頭をジュナの膝の上に乗せた。
ジュナが頭を撫でると気持ち良さそうな顔をする。
闇の眷属、黒い狼はジュナから離れない。クロと名付け、2週間ずっと一緒に過ごした。
淀んだ気を背後に感じ、ジュナは振り返った。
「なんとも妬ける光景だな」
エリアルがブスっと腕を組んでこちらを見ていた。
「エリアル?来てたの?」
ジュナは立ち上がり駆け寄った。手紙のやり取りをしていたので、エリアルが元気になったことは知っていたが、実際に元気そうな姿を見て、心底ホッとした。
「どうしたの?お父様に用事があったの?」
「ああ。婚約の許可を貰いに」
ジュナの身体が跳ねた。
「っえ?ここ婚約」
声も震えた。
ジュナは予想外のことに慌て、エリアルから一歩下がった。
ーが、エリアルの風でふわりと引き寄せられた。
顔が熱い。きっと真っ赤なのだろうと下を向いたものの、エリアルの視線を感じてすぐに顔を上げた。
熱のこもったラベンダー色の瞳に自分の顔がしっかり映っている。
「許可、貰えたの?」
「駄目だった」
「えぇ」
力のない声を出すと、エリアルの手がジュナの頬を包んだ。
「ジュナ。僕はジュナ以外と結婚するつもりは全くないから、もし僕と結婚したくないなら今言ってくれる?公爵夫人は色々と大変だ」
ジュナはちょっと意地悪をしてみたくなった。
「いやって言ったらどうするの?」
エリアルは目をパチパチさせたものの、にやりと言う。
「そうだな。代理を立てるかな。ジュナとは結婚して、面倒なことはサイラスにでも頼もう。君には、何も苦労させたくない」
ジュナはびっくりした。普段生真面目なエリアルがこんな冗談を言うなんて。
「ふふ」
ジュナは最近クロとするようになった鼻キスをした。
「エリアルのお嫁さんになりたいから頑張るね。全然苦労とかじゃないよ」
エリアルは固まったのち、わなわなと震えた。
「ジュナ、それ毎回クロとしてるの?」
「うん?クロは鼻がひんやりしてて気持ちいいんだよ」
エリアルは下を向いたまま深いため息をついている。
「エリアル?久しぶりなんだから顔みせて」
ジュナが頼むと、エリアルは下を向いたままジュナを抱き寄せた。
「これ以上、僕を試さないでくれないか」
何のことやら分からず、ジュナが問おうと顔を上げると、目を閉じたエリアルと口付けた。
また何度もするのかな?と思っていると、エリアルは一度でジュナを離した。
物足りないと思ってしまった自分を恥ずかしく思ったものの、エリアルにお願いしてしまった。
「もう1回、だめ?」
答えを聞く間もなく、エリアルは口付けしてくれた。一度、長く、二度。
ぎらぎらと熱のこもったラベンダーの瞳を見ると、ジュナの心はとても満たされた。
苦しくなって、「もうおわり」と言いかけたものの、エリアルに口を塞がれて言えなくなってしまった。
「ジュナ。卒業したら結婚しよう」
鼻が付く距離でエリアルが言った。ジュナは「うん」と短く返事をして自分からキスをした。
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