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Episode4ー新たな道
しおりを挟む「······私が?お前に?莫迦なことを。関心がなかっただけだ。――しかし、ふむ。それをお前が優しさと取っていたならば、私も前王妃陛下に謝らなければならないな」
グレイグの冷たく響く声に、アスランは青ざめる。
(ああ、これは彼には堪えるでしょうね)
タレイアはほんの少し同情した。アスランはグレイグに憧れていたから。グレイグは関心のないことにはとことん無関心だ。その為、アスランがいくら不祥事を起こしてもいつも変わらぬ態度で接していた。
(それをアスランは特別扱いと捉えていたのね)
「今期の生徒は残念なものだな。第二王子の波に呑まれていたとはいえ、宰相代理にあのような態度を取り続けていたのだから。王都で有益な職は諦めた方がいい」
グレイグは生徒たちを一瞥して言った。後ろに控えていた親たちも動揺する。
「王太子殿下、愚息が大変失礼を致しました。未熟ゆえに――」
騎士科の生徒を押さえていた騎士が訴えた。おそらく生徒の父親なのだろう。
「イノック卿、発言は許していない」
グレイグが低い声で黙らせた。
タレイアですら冷や汗が出た。
(グレイグ殿下は思ってたよりだいぶお怒りなのね。弟の不祥事にそこまで関心がない方だったのに)
「生徒も10歳以下の子供ではないんだ。発言には責任を取れ」
「王太子殿下、お怒りを収めてくださいませ。私は彼らの未来には関与しません」
タレイアが言うと、グレイグは大きく頷いた。
「ああ。もちろんだ。現、宰相代理の君に関与されない場所に居てもらおう」
(王都から出ていけと?)
「そういう意味ではありません」
呆れながらタレイアは答えた。
「君は寛大だな。まあいい。卒業生の名簿を私の机の上に置いておけ」
生徒たちとその両親たちは血の気が引くばかりだ。
「アレックス。さっさと問題を起こした奴らを下がらせろ。アスランもな。諸外国の王侯貴族たちが集まるこの場で問題を起こしたこと、父上が戻りしだい沙汰があるだろう」
アスランはテイラー卿に促され会場を出た。呆然としているが、抵抗はしていない。
彼らが出て行ったあと、タレイアもしばし呆然と立っていた。
アスランと婚約して3年。あの男と長年連れ添わねばならないのだと、辟易していた。王子との婚姻を、破棄できるとは思えなかった。
(―嬉しい。もう王族との婚姻は御免だわ)
「王太子殿下、この度はお騒がせしてしまい申し訳ありません」
「良い。――さて、オルトラン嬢。アスランが婚約破棄を申し出て、貴方が受け入れた。なので昨日の私の申し出を、もう一度思い出してほしい」
タレイアはパッと顔を上げた。
(昨日の?)
思い出してすぐに血の気が引く。
――昨夜、会議を中断して眠気を覚ますために、グレイグとバルコニーに出た。グレイグもタレイアもお互い寝不足でクマを作っている。タレイアもボーッとしており、グレイグの発言も冗談だと思っていた。
『オルトラン嬢、私と婚約をしてくれないか?』
『ふふ、ご冗談を。私には既に婚約者がおります』
『·····そうなのだが』
「オルトラン嬢――」
「殿下!とんでもないことでございます。私のような――カラスと言われたような令嬢が恐れ多いです」
グレイグが口を開こうとしたので、タレイアは慌てて言葉を被せた。王太子の言葉を遮るなどと、処罰ものだが、タレイアはグレイグにこれ以上喋らせる訳にはいかなかった。公の場で王太子に求婚されて断れる令嬢など、王国には存在しない。
なので慌てて言った言葉に、タレイアは我ながら驚いた。アスランの言う、「カラスのような髪」タレイアは祖母から受け継いだ髪と瞳に誇りを持っている。持っているが、長年蔑まれると、自分でも気づかぬうちにしこりとなってタレイアの心に沈んでいたようだ。
(今はそんなこと気にしている暇はないわ。どうにかこの場を)
タレイアが下を向いていると、ふわりと視界が開いた。タレイアの眼前に降りていた黒髪を、グレイグが掬いキスをした。
「私は初めて見た時から黒曜石のようだと思ったよ」
輝くような金糸の髪が揺れ、合間から熱を帯びた金の瞳が見えた。その瞳に自分が映った瞬間、タレイアの顔は火を噴いたように紅くなった。
そしてグレイグがその隙を逃すはずもなく、
「オルトラン嬢、私と婚約してください」
という言葉に、タレイアはなすすべもなく頷いた。
その後のパーティーは滞りなく行われた。
普段は冷ややかで、感情のない瞳を携えている王太子も、2人掛けのソファーに新たな婚約者と共に寄り添って穏やかな表情を浮かべ座っていた。
タレイアは恥ずかしくて少し離れたかったが、グレイグの腕にがっちりホールドされ離れることも出来ない。
王族はこりごりだと心に誓ってすぐの展開に、タレイアは項垂れるしか出来ない。
(でも、カラスと言う弟より、黒曜石と言ってくれたこの方と共に過ごせるなら)
タレイアは少しだけ前を向いて、将来を悲観するのをやめた。
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