幸せな10年でしたが、なかったことに致します。〜だから私に関わらないでください〜

織り子

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第4話ー劇場へ

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「ではごゆっくり」
エリシャは2人分のお茶の用意をすると、部屋を出ていった。

お茶をごくりと飲むと、ノクティスが口を開いた。

「姫が幼少期こんなに活発だとは知りませんでした」

ロワナは動揺しそうだった心を静め、平静を装う。
「公子、何故私をそう呼ぶのです?」

躱したつもりだが、ノクティスは気にした風もない。
「では、皇女殿下。会えて本当に嬉しく思います。私が回帰したのは4年前ですから。ずいぶん待ちました」

「えっ」
ノクティスも回帰したことはもう疑う余地もないが、4年も前だとは。
(だからこんなに大人びた眼をしているのね)

ノクティスの綺麗な両眼。回帰前は見られないものだった。

いきなりノクティスと2人きりになり、更にノクティスも回帰している。ロワナはどう対処していいか決めかねていた。ノクティスを自分と関わらせたくない。自分も回帰しているということは、知られない方が良い気がする。
(もう手遅れかもしれないけど、決定的な返事はしないようにしよう)

目の泳ぐロワナを見て、ノクティスは微笑った。
「そんなに緊張しないでください。貴方からそのように他人行儀な態度をとられると傷付きます」

その言葉にロワナは胸を打たれた。自分だって本当は会えてものすごく嬉しい。抱きつきたいし、たくさん話したいこともある。

でも、それでは回帰前と変わらない。
ロワナは唇を噛み下を向いた。

「皇女殿下、殿下は今後どう動くのでしょう?」
ふいに問われた確信めいた言葉に、どう返せばいいのか分からない。

まだ自分でも決めきれていないからだ。それを誤魔化しながらどう答えればいいのか。

ノクティスは小さなため息を吐いた。
「その頑なな感じからして、私は護衛騎士にはしていただけないのでしょうね?」

ロワナはパッと前を向いた。それなら決まっている。
「もちろんです。貴方を護衛騎士には任命しません」

ノクティスの瞳が揺らいだ。
明らかな失意が見えたが、ロワナの決心は揺るがない。
(今回は絶対に護衛騎士にはさせない)

「理由を聞いても?」
分かりきっている答えを聞かれて、ロワナはカッとなった。
「だっ···!」

(だってそのせいで貴方は片目を奪われたじゃない!)

言いかけて、また唇を噛み、手をきつく握りしめた。

回帰前のノクティスは隻眼だった。当時皇太子だった兄に、護衛騎士を降ろさせる為に奪われた。


「分かりました。私もどう動くか悩んでいましたので、ここは引きましょう」

ノクティスは席を立った。
「では私はこれで。兄たちを待たせてしまいますので。またお会い出来ますか?」

ロワナは下を向いたまま首を振った。
「いいえ。公子はもう私に関わらないでください」

ノクティスの顔は見れなかった。

「それは私が決めることです」
ノクティスはそう言い、部屋を出ていった。
扉の閉まる音を聞いて、ロワナはようやく力を抜いた。すると涙がポロポロ溢れた。

彼と話せた事が嬉しかった。これだけで充分なのだ。
これからはノクティスに会わないようにしよう。それが自分にとっても、彼にとっても最良だ。
ぐいっと涙を拭う。
(時々、こっそり夜会とかで一目見れたら嬉しいな)


とりあえず、ロワナにはやるべきことがあった。ノクティスに関わらないこともそうだが、まだ元気なロワナの姉、第一皇女のアリアナを助けることだ。

ノクティスに初めて会った6歳の日からしばらくして起きた事件により、アリアナはほぼ寝たきりになってしまった。

皇都の魔素事件。アリアナが出掛けた劇場で、魔素の大量流出が起きた。魔素は大量に吸い込むと身体機能が低下する。アリアナは元々耐性がなかったのか、身体機能が麻痺してしまった。

(いつだったかしら。この時期はアリアナ姉さまはしょっちゅう劇場に行かれていたから、正確な時期を覚えていないわ)







❋❋❋❋❋❋

「ロワナ、今日もついてくるの?」

アリアナの問にロワナは食い気味に答える。
「ええ!私も観劇にとても興味があります!私が行っても問題ないでしょう?」

アリアナにとっては問題だった。ロワナはまだ小さいし、観劇は二刻続く。いつも途中で寝てしまうし、時にはグズるし、ゆっくり観れない。
「今日のはロワナには難しい内容よ?次回のは連れてってあげるから、今日は留守番していたら?」

「いいえ!一緒に行きます」
頑として譲らないロワナにため息をつき、これ以上は何も言わないことにした。


ロワナだって申し訳ないと思っている。思考は子供ではないが、身体が子供なので長時間の観覧に耐えられないのだ。途中で寝てしまうロワナを、アリアナが呆れたように見ていることも知っている。

護衛の為に付いて来ている身からして、途中で寝てしまうなんてなんとも頼りない。

ロワナの鞄にはいざという時の為に、ガスマスクが入っている。エリシャに不審がられたが、ごっこ遊びに使うと言った。6歳らしい言い訳が出来たと思う。


「あら?」
アリアナの声に顔をあげると、たくさんの人の中に紅い髪が見えた。

皇族席から見ていると、挨拶に来たのだろう後ろのカーテンが開いた。
「第一皇女殿下と、第二皇女殿下にご挨拶いたします」

「珍しいですね、ヴァルグレイス公爵。劇場で会うなんて」
ヴァルグレイス公爵は軍人だ。アリアナの言う通り、ここで会うとは思わなかった。

「息子にせがまれまして」
公爵の後ろから赤銅色と赤茶色の頭が見えた。

「殿下方にお会いできるとは、来て正解でした」
「あら、小公爵も観劇に興味があるのですね」
「今日は弟のノクティスがどうしてもと言うので···第二皇女殿下もいらしてるのですね」

不思議そうにノクティスの兄が言う。今日のは特に6歳が観る観劇ではないのだろう。

「はい。最近よく付いて来たがるのです」
「ロワナ様はアリアナ様を慕っておいでなのですね」

会話に口をはさまず、ノクティスと目が合わないようにロワナは下を向いていた。


「事件が起きるのは今夜です。第一幕が終わりましたら、アリアナ様と一緒に外へ出てください」

耳元の声に驚いて顔を上げる。いつのまにここまで近くに来たのか、ロワナが衝撃を受けていると、ノクティスは微かに微笑って一礼して出ていった。




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