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序章
第五話 対策会議と胃痛
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首相官邸の会議室には、胃痛を感じている男が居た。
厳密には男『達』である可能性もあったが、他の者もお互いにそれを表情に出さない様、努力しているので何とも言えない。
少なくとも、奥に座っている初老の男は、確実に胃痛を感じていた。
男は、辛そうな表情こそ、見せる事は無かったが、その替わりに異変が始まってから、溜め息をつく事が多かった。
「それで?
衛星も海底ケーブルも含めて、国外との通信が全滅したというのは、いったいどういう事態なのかね?」
奥に座っている男、日本国内閣総理大臣である沢村恵は、事態が始まってから何度も繰り返している質問を、口にする。
時刻は、午後六時を回っていた。
国外との通信が途絶してから、約七時間が経過している。
沢村の元に第一報が届いたのは、午前十一時十分という、比較的早い段階であったが、第一報以降は詳細な情報が入らず、依然として状況は不明である。
沢村個人としては、同時に起こった地震がこの事態の切っ掛けかもしれない、と密かに思っているが、確証は無い。
各分野の専門家が何度も呼ばれてはいるが、無駄に時間を消費するだけで、未だに有力な説も存在しなかった。
沢村がうんざりするのも、無理はない。
そして、残念ながら今回も、その質問に明確な答えを持つ人物は、居ない様だ。
地震の専門家は地震と関連付けて、磁場の影響による通信途絶説を唱えている。
気象学者や天文学者の場合は、太陽の影響による通信途絶説だった。
沢村も、長男が小学生だった頃に自由研究で、太陽の影響を調べていたから、なんとなく理解できる。
通信途絶だけならば、太陽の影響説を信じたかもしれない。
専門家は、スーパーフレアだの、太陽黒点だのの影響と言いたいのだろう。
しかし、彼等には伝えていない情報が、それらの説を否定してしまうのだ。
そう、いくら何でも、海底ケーブルとスーパーフレアに関連性は無いだろう。
それに、対馬から見える筈の、巨済島が消失したという報告もある。
磁場の影響説も、それ等によって否定せざるを得なかった。
そして、今現在出ている学者達の説では、複数の出来事への関連性が見出だせそうにないのだ。
それぐらいなら、沢村にも分かる。
いっその事、この情報を早期に公開してしまう方が楽かもしれないと、沢村は考えつつあった。
実際問題、現代の情報化社会では、隠そうにも隠しきれない情報である。
「皆さんのご意見は大変参考になりました。
政府としてもこれ等のご意見を、大いに活用させていただきます」
権威ある専門家達ではあったが、沢村は社交辞令のみで帰らせた。
無論、部屋の入口までは秘書に見送らせるが、それだけである。
彼等が役に立たない様な事態である事は把握した。
何も解らない状態よりは、かなりましになったと言えるだろう。
溜め息を吐きながら、次の予定に関して、政務官に尋ねる。
「この後の緊急閣僚会議だが、全員揃ったかな?」
「皆様、もう間もなく到着される様です。
それから、航空自衛隊からの報告が挙がっています。
会議の前にご覧になりますか?」
「偵察機を飛ばしたのだったね?
先に見ておこうか」
そういって、報告書を受け取る。
もっとも各方面へ飛ばした偵察機が、それぞれ周辺各国の防空識別圏とされている空域限界まで到達して直ぐの、第一報である。
その厚さはかなり薄い。
一分と経たずに読み終えるだろう。
しかし、その内容は沢村の胃痛に、更なる悪影響を与えるものであった。
「消失に未知の大陸か……」
沢村は、困惑した様に短く呟いた。
「現時点では、そういった表現が適切である様です」
政務官も戸惑っているのか、言い回しが微妙なものとなっている。
「しかし、消失と言わずに何と言えばいい?
この報告によれば、実際に朝鮮半島等周辺の土地が、全く見当たらなくなっているのだよ。
まぁ、それ以外の周辺諸国へも、防空識別圏ギリギリまで偵察機を派遣しているから、続報があるかもしれないがね。
いや、もっとも他国が見付かったとしても、小笠原西方の大陸については、どういう事なのかさっぱり解らんが。
まさか、ムー大陸が浮上してきて、他の大陸が代わりに沈んだなんて、与太話では無いだろうしな」
「続報を待つしかありませんね。
ところで、そろそろ時間になります」
政務官がそう言ってすぐに扉がノックされ、閣僚等がぞろぞろと入室して来た。
その数は、やけに多い様に見える。
本来なら関係閣僚のみが、出席するべきなのであろうが、沢村が少しでも多くの情報を求めた結果、全閣僚の参加となったのだ。
コの字型に並べられたテーブルには、沢村から見て右手前から順に官房長官、総務大臣、気象庁長官等が、同じく左側に防衛大臣、外務大臣、国土交通大臣、警察庁長官等が座る。
さらに正面の末席には、自衛隊機による情報収集の関係もある為、統合幕僚本部長の姿があった。
「では、対策会議を始めよう。
最初に、清瀬総務大臣から報告をお願いする」
沢村の宣言で会議が始まる。
「総務省と致しましては現在、海底ケーブル及び衛星通信の復旧を目指して、活動中です。
しかし、衛星その物の反応が消失している様でありますので、地震の直前に打ち上げられた八百万組のモノを使用しなければ、復旧は絶望的と思われます。
幸いな事に、彼らは官民問わず、衛星電波を必要とする機関全てが、すぐにでも利用出来る様に取り計らうとの事です。
早ければ今日中に、消失した衛星機能の八割が、新型衛星で代替可能になるとの事です。
一見不可能な話に見えますが、我々も実際に可能であると、判断しております。
ここにいらっしゃる方々は、皆さんご存知だと思いますが、八百万組の打ち上げた衛星は、即座に高速移動が可能な、高出力イオンエンジンを搭載した、新型衛星です。
それだけでありません。
実用型の中では、世界最小記録の三割程のサイズを、同じく最軽量記録の四割程の重量を、実現化する事に成功しております。
今回、南大東島沖のメガフロートから打ち上げられた衛星は、92基です。
それら全てが既に、消失した衛星の替わりとなる様に、それぞれ移動を開始しております。
GPSの代替システム、通称『アマテラス』も早期に起動する事が可能でしょう」
清瀬はまるで、八百万組の広報担当者の様に言う。
「海底ケーブルに関しましても、やはり断線というよりは、消失と思われるとの事です。
こちらは未だに、詳しい状況が不明です。
おそらく断線箇所は、全て我が国の領海ギリギリの付近と思われます。
間もなく、消失した箇所の特定調査を行う予定でありますが、完全復旧までには最低でも、数年程の時間が必要かと思われます。
ただ、国外と繋がるケーブルに関しては、復旧する意味が無くなっている可能性があります。
その辺りも含めて、慎重な復旧計画計画を策定中です」
沢村も、衛星の反応が消失しているという事に関しては、報告を受けていた。
しかし、海底ケーブルに関しては、一部初耳の内容があった。
「海底ケーブルの件は、テロによるものでは無いと、断言できるのかね?
私の方では、断言出来ないと聞いているのだが?」
「その話はおそらく、本件が同時多発的だったので、公安部辺りがテロの可能性を考慮したのでしょう。
海底ケーブルは、断線等トラブルの際に異常の内容を自動的に報告する様、設計されています。
今回の事態は、複数個所で同時に起きていますが、爆破の衝撃が感知されていませんので、テロの可能性もありません。
少なくとも、自然現象による断線ですよ」
警察庁長官が肯定する様に首を振ったので、全員納得する。
「解った。
爆発などの反応は無いので、テロの可能性は無いのだね。
少しは安心できたよ。
ありがとう。
次に、気象庁長官から報告をして貰おう」
「我々としましては、正直お手上げです。
人類が未経験の現象であると断言は出来ますが、逆に言えばそれだけです。
他は何も解りません。
これは、あくまで可能性の一つですが、消失したのは我々日本という事も考えられます。
所謂、神隠しですね」
「こんな規模でかい?」
防衛大臣があきれた様な声を挙げる。
「厳密には、神隠しと呼ばれる現象と同様の事態です。
都市伝説というのでしょうか?
無論可能性の一つに過ぎませんよ。
しかし、十分あり得る話なのです。
お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、丁度いい機会ですので、皆さん窓から上空をご覧ください」
気象庁長官は、気分を害した素振りも見せずに、応じる。
言われた通り、窓側に座っていた閣僚が何人か、窓から空を見上げた。
しかし、直ぐに絶句して自分の席に座り込む。
夕暮れ時の空には、二つの月が浮かんでいた。
「各地の天文台からも、星の配置がおかしいという、悲鳴の様な報告が挙がっています。
ここが地球上でない事は、ほぼ確実かと……」
「しかし、プレートはどうなっているのかね?
海沿いの土地が沈んだとか、そういう報告は受けていないのだが?」
今度は官房長官が質問する。
「その通りです。
官房長官、ご存知の通り日本列島は、海に浮かんでいる訳ではありません。
この現象には、地表のみならずプレートも含まれているのです。
それどころか領海内の船舶や、領空域の航空機まで影響下にあったのです。
更に、新潟沖油田や沖縄沖の資源採掘現場にも影響が無い事から、我が国の領土だけでなく領海、領空に至るまで全てが、この現象の影響下にあると、推測されます。
外国勢力の占領下にあるものも含めて、我が国が領有する空間全てがですよ。
要するに、そういった規模も含めて、この現象は現代科学で説明の出来ない事態だと、判断せざるを得ません」
「では、原因の究明や、地理的な意味での復旧は、不可能という訳だね」
官房長官がそう言うと、室内では一斉に溜め息が漏らされた。
「仕方がない、これからは解決可能な問題と、困難な問題のみを議題にしよう」
そう言って沢村は、次の議題に移ろうとするが、末席の方で手を挙げている人物を見付ける。
今回の会議の席順は当然の事ながら、今回の事態に関係のありそうな順番となっており、沢村には彼の挙手が意外に思えた。
手を挙げているのは宮内庁長官であり、皇室の安否確認に関しては、地震の直後に終えている筈なのだ。
言い方は悪いが、これ以上この場で報告する様な、重要な案件は無いだろう。
「何かね大山宮内庁長官?」
沢村がぞんざいな口振りで尋ねた。
下らない事で時間を浪費したくない、という態度が透けて見える。
会議に呼んだ事を後悔しているのだ。
大山は自信が無さそうに立ち上がり、遠慮がちな口調で爆弾を落とす。
「実は、今回の事態が事前に予測されていた可能性があります」
一瞬室内の空気が凍りついた。
発言の内容を、いち早く呑み込んだ沢村が、続きを促す。
「それは、極めて重要な情報だと思います。
どうぞ、続けてください」
沢村は口調を改めて続きを促す。
「はい。
実は、ちょうど地震の十日程前から、皇族の方々が同じ夢を視られている、という報告がありまして…………
畏れ多い話ではありますが、庁内でも内々に精神科へ相談すべきでは、という意見が出ているところでした」
宮内庁長官の発言は、予想の斜め上だった。
確かに、皇室の権威を揺るがす重要な案件であるが、今の状況に関係のある話とは思えない。
閣僚達は、宮中で流行している夢がなんだというのか、という顔をする。
「夢を視られているのは皇室直系の方々のみで、内々に調査を行ったところ、直系であれば旧皇族の方々も含まれる様です。
そして、その内容ですが、なんでもカウントダウンになっているとか。
それも、神話に出てくる様な、古墳時代の格好をした人物が、後光と共にだそうです。
そして、昨晩の夢で、ゼロになったとの事でして。
神隠しと聞き、何か関係があるのではないかと思いましたので、一応御報告致しました」
宮内庁長官の報告を聞いた閣僚らであったが、今になってそんな話をされても困る、というのが室内の総意であった。
「ご意見、参考にさせていただきます」
沢村がそう言いつつも、溜め息をついた。
この報告は後に、現象との関連が証明されたが、この時点では報告した宮内庁長官自身も含めて、それを信じる者はいなかった。
彼は、あくまで念の為に報告しただけなのだ。
その上、この報告の直後には、それ以上のインパクトを持った、緊急連絡が入った為、沢村の意識から抜け落ちてしまったのである。
そういった事もあって、この現象の原因解明は、遅れる事となった。
厳密には男『達』である可能性もあったが、他の者もお互いにそれを表情に出さない様、努力しているので何とも言えない。
少なくとも、奥に座っている初老の男は、確実に胃痛を感じていた。
男は、辛そうな表情こそ、見せる事は無かったが、その替わりに異変が始まってから、溜め息をつく事が多かった。
「それで?
衛星も海底ケーブルも含めて、国外との通信が全滅したというのは、いったいどういう事態なのかね?」
奥に座っている男、日本国内閣総理大臣である沢村恵は、事態が始まってから何度も繰り返している質問を、口にする。
時刻は、午後六時を回っていた。
国外との通信が途絶してから、約七時間が経過している。
沢村の元に第一報が届いたのは、午前十一時十分という、比較的早い段階であったが、第一報以降は詳細な情報が入らず、依然として状況は不明である。
沢村個人としては、同時に起こった地震がこの事態の切っ掛けかもしれない、と密かに思っているが、確証は無い。
各分野の専門家が何度も呼ばれてはいるが、無駄に時間を消費するだけで、未だに有力な説も存在しなかった。
沢村がうんざりするのも、無理はない。
そして、残念ながら今回も、その質問に明確な答えを持つ人物は、居ない様だ。
地震の専門家は地震と関連付けて、磁場の影響による通信途絶説を唱えている。
気象学者や天文学者の場合は、太陽の影響による通信途絶説だった。
沢村も、長男が小学生だった頃に自由研究で、太陽の影響を調べていたから、なんとなく理解できる。
通信途絶だけならば、太陽の影響説を信じたかもしれない。
専門家は、スーパーフレアだの、太陽黒点だのの影響と言いたいのだろう。
しかし、彼等には伝えていない情報が、それらの説を否定してしまうのだ。
そう、いくら何でも、海底ケーブルとスーパーフレアに関連性は無いだろう。
それに、対馬から見える筈の、巨済島が消失したという報告もある。
磁場の影響説も、それ等によって否定せざるを得なかった。
そして、今現在出ている学者達の説では、複数の出来事への関連性が見出だせそうにないのだ。
それぐらいなら、沢村にも分かる。
いっその事、この情報を早期に公開してしまう方が楽かもしれないと、沢村は考えつつあった。
実際問題、現代の情報化社会では、隠そうにも隠しきれない情報である。
「皆さんのご意見は大変参考になりました。
政府としてもこれ等のご意見を、大いに活用させていただきます」
権威ある専門家達ではあったが、沢村は社交辞令のみで帰らせた。
無論、部屋の入口までは秘書に見送らせるが、それだけである。
彼等が役に立たない様な事態である事は把握した。
何も解らない状態よりは、かなりましになったと言えるだろう。
溜め息を吐きながら、次の予定に関して、政務官に尋ねる。
「この後の緊急閣僚会議だが、全員揃ったかな?」
「皆様、もう間もなく到着される様です。
それから、航空自衛隊からの報告が挙がっています。
会議の前にご覧になりますか?」
「偵察機を飛ばしたのだったね?
先に見ておこうか」
そういって、報告書を受け取る。
もっとも各方面へ飛ばした偵察機が、それぞれ周辺各国の防空識別圏とされている空域限界まで到達して直ぐの、第一報である。
その厚さはかなり薄い。
一分と経たずに読み終えるだろう。
しかし、その内容は沢村の胃痛に、更なる悪影響を与えるものであった。
「消失に未知の大陸か……」
沢村は、困惑した様に短く呟いた。
「現時点では、そういった表現が適切である様です」
政務官も戸惑っているのか、言い回しが微妙なものとなっている。
「しかし、消失と言わずに何と言えばいい?
この報告によれば、実際に朝鮮半島等周辺の土地が、全く見当たらなくなっているのだよ。
まぁ、それ以外の周辺諸国へも、防空識別圏ギリギリまで偵察機を派遣しているから、続報があるかもしれないがね。
いや、もっとも他国が見付かったとしても、小笠原西方の大陸については、どういう事なのかさっぱり解らんが。
まさか、ムー大陸が浮上してきて、他の大陸が代わりに沈んだなんて、与太話では無いだろうしな」
「続報を待つしかありませんね。
ところで、そろそろ時間になります」
政務官がそう言ってすぐに扉がノックされ、閣僚等がぞろぞろと入室して来た。
その数は、やけに多い様に見える。
本来なら関係閣僚のみが、出席するべきなのであろうが、沢村が少しでも多くの情報を求めた結果、全閣僚の参加となったのだ。
コの字型に並べられたテーブルには、沢村から見て右手前から順に官房長官、総務大臣、気象庁長官等が、同じく左側に防衛大臣、外務大臣、国土交通大臣、警察庁長官等が座る。
さらに正面の末席には、自衛隊機による情報収集の関係もある為、統合幕僚本部長の姿があった。
「では、対策会議を始めよう。
最初に、清瀬総務大臣から報告をお願いする」
沢村の宣言で会議が始まる。
「総務省と致しましては現在、海底ケーブル及び衛星通信の復旧を目指して、活動中です。
しかし、衛星その物の反応が消失している様でありますので、地震の直前に打ち上げられた八百万組のモノを使用しなければ、復旧は絶望的と思われます。
幸いな事に、彼らは官民問わず、衛星電波を必要とする機関全てが、すぐにでも利用出来る様に取り計らうとの事です。
早ければ今日中に、消失した衛星機能の八割が、新型衛星で代替可能になるとの事です。
一見不可能な話に見えますが、我々も実際に可能であると、判断しております。
ここにいらっしゃる方々は、皆さんご存知だと思いますが、八百万組の打ち上げた衛星は、即座に高速移動が可能な、高出力イオンエンジンを搭載した、新型衛星です。
それだけでありません。
実用型の中では、世界最小記録の三割程のサイズを、同じく最軽量記録の四割程の重量を、実現化する事に成功しております。
今回、南大東島沖のメガフロートから打ち上げられた衛星は、92基です。
それら全てが既に、消失した衛星の替わりとなる様に、それぞれ移動を開始しております。
GPSの代替システム、通称『アマテラス』も早期に起動する事が可能でしょう」
清瀬はまるで、八百万組の広報担当者の様に言う。
「海底ケーブルに関しましても、やはり断線というよりは、消失と思われるとの事です。
こちらは未だに、詳しい状況が不明です。
おそらく断線箇所は、全て我が国の領海ギリギリの付近と思われます。
間もなく、消失した箇所の特定調査を行う予定でありますが、完全復旧までには最低でも、数年程の時間が必要かと思われます。
ただ、国外と繋がるケーブルに関しては、復旧する意味が無くなっている可能性があります。
その辺りも含めて、慎重な復旧計画計画を策定中です」
沢村も、衛星の反応が消失しているという事に関しては、報告を受けていた。
しかし、海底ケーブルに関しては、一部初耳の内容があった。
「海底ケーブルの件は、テロによるものでは無いと、断言できるのかね?
私の方では、断言出来ないと聞いているのだが?」
「その話はおそらく、本件が同時多発的だったので、公安部辺りがテロの可能性を考慮したのでしょう。
海底ケーブルは、断線等トラブルの際に異常の内容を自動的に報告する様、設計されています。
今回の事態は、複数個所で同時に起きていますが、爆破の衝撃が感知されていませんので、テロの可能性もありません。
少なくとも、自然現象による断線ですよ」
警察庁長官が肯定する様に首を振ったので、全員納得する。
「解った。
爆発などの反応は無いので、テロの可能性は無いのだね。
少しは安心できたよ。
ありがとう。
次に、気象庁長官から報告をして貰おう」
「我々としましては、正直お手上げです。
人類が未経験の現象であると断言は出来ますが、逆に言えばそれだけです。
他は何も解りません。
これは、あくまで可能性の一つですが、消失したのは我々日本という事も考えられます。
所謂、神隠しですね」
「こんな規模でかい?」
防衛大臣があきれた様な声を挙げる。
「厳密には、神隠しと呼ばれる現象と同様の事態です。
都市伝説というのでしょうか?
無論可能性の一つに過ぎませんよ。
しかし、十分あり得る話なのです。
お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、丁度いい機会ですので、皆さん窓から上空をご覧ください」
気象庁長官は、気分を害した素振りも見せずに、応じる。
言われた通り、窓側に座っていた閣僚が何人か、窓から空を見上げた。
しかし、直ぐに絶句して自分の席に座り込む。
夕暮れ時の空には、二つの月が浮かんでいた。
「各地の天文台からも、星の配置がおかしいという、悲鳴の様な報告が挙がっています。
ここが地球上でない事は、ほぼ確実かと……」
「しかし、プレートはどうなっているのかね?
海沿いの土地が沈んだとか、そういう報告は受けていないのだが?」
今度は官房長官が質問する。
「その通りです。
官房長官、ご存知の通り日本列島は、海に浮かんでいる訳ではありません。
この現象には、地表のみならずプレートも含まれているのです。
それどころか領海内の船舶や、領空域の航空機まで影響下にあったのです。
更に、新潟沖油田や沖縄沖の資源採掘現場にも影響が無い事から、我が国の領土だけでなく領海、領空に至るまで全てが、この現象の影響下にあると、推測されます。
外国勢力の占領下にあるものも含めて、我が国が領有する空間全てがですよ。
要するに、そういった規模も含めて、この現象は現代科学で説明の出来ない事態だと、判断せざるを得ません」
「では、原因の究明や、地理的な意味での復旧は、不可能という訳だね」
官房長官がそう言うと、室内では一斉に溜め息が漏らされた。
「仕方がない、これからは解決可能な問題と、困難な問題のみを議題にしよう」
そう言って沢村は、次の議題に移ろうとするが、末席の方で手を挙げている人物を見付ける。
今回の会議の席順は当然の事ながら、今回の事態に関係のありそうな順番となっており、沢村には彼の挙手が意外に思えた。
手を挙げているのは宮内庁長官であり、皇室の安否確認に関しては、地震の直後に終えている筈なのだ。
言い方は悪いが、これ以上この場で報告する様な、重要な案件は無いだろう。
「何かね大山宮内庁長官?」
沢村がぞんざいな口振りで尋ねた。
下らない事で時間を浪費したくない、という態度が透けて見える。
会議に呼んだ事を後悔しているのだ。
大山は自信が無さそうに立ち上がり、遠慮がちな口調で爆弾を落とす。
「実は、今回の事態が事前に予測されていた可能性があります」
一瞬室内の空気が凍りついた。
発言の内容を、いち早く呑み込んだ沢村が、続きを促す。
「それは、極めて重要な情報だと思います。
どうぞ、続けてください」
沢村は口調を改めて続きを促す。
「はい。
実は、ちょうど地震の十日程前から、皇族の方々が同じ夢を視られている、という報告がありまして…………
畏れ多い話ではありますが、庁内でも内々に精神科へ相談すべきでは、という意見が出ているところでした」
宮内庁長官の発言は、予想の斜め上だった。
確かに、皇室の権威を揺るがす重要な案件であるが、今の状況に関係のある話とは思えない。
閣僚達は、宮中で流行している夢がなんだというのか、という顔をする。
「夢を視られているのは皇室直系の方々のみで、内々に調査を行ったところ、直系であれば旧皇族の方々も含まれる様です。
そして、その内容ですが、なんでもカウントダウンになっているとか。
それも、神話に出てくる様な、古墳時代の格好をした人物が、後光と共にだそうです。
そして、昨晩の夢で、ゼロになったとの事でして。
神隠しと聞き、何か関係があるのではないかと思いましたので、一応御報告致しました」
宮内庁長官の報告を聞いた閣僚らであったが、今になってそんな話をされても困る、というのが室内の総意であった。
「ご意見、参考にさせていただきます」
沢村がそう言いつつも、溜め息をついた。
この報告は後に、現象との関連が証明されたが、この時点では報告した宮内庁長官自身も含めて、それを信じる者はいなかった。
彼は、あくまで念の為に報告しただけなのだ。
その上、この報告の直後には、それ以上のインパクトを持った、緊急連絡が入った為、沢村の意識から抜け落ちてしまったのである。
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【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
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楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
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第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
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とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
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クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
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その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
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