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序章
第十四話 非公式な初接触
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ヘリから降りた万屋は、そのまま硬直した。
『いずも』への移動中には、着艦する直前に目を覚ましたベアトリクスから謝罪を受け、それを見た残念騎士アンジェリカに突っ掛かられる、というハプニングもあったが一応無事に着艦した。
そこまでは良かったのだ。
ベアトリクスは真っ赤になっているが、大した問題では無いだろう。
むしろ、微笑ましいぐらいだ。
しかし、落ち着いていられたのはそこまでだった。
何故なら、飛行甲板で彼等を出迎た人物が、今回の演習に於ける日本側の最高指揮官で第一護衛隊群司令の、大谷海将だったからだ。
出迎えたのが幕僚ではなく司令であるという事は、大谷が万屋の報告を信じているという意味だろう。
だが、万屋にとっては雲の上の人物だ。
異世界の姫君という、可愛いだけで実感の伴わないVIPとは訳が違う。
陸と海で分野が違うとはいえ、雲の上の上官として実感のある相手だった。
その為、緊張のあまり大谷の意思表示という、重要な点に気付けなかったのは仕方の無い事だろう。
「大谷海将へ敬れーい!!!」
不覚にも、山田の号令を聞くまで呆然としてしまった万屋だが、体は訓練を覚えているものだ。
途端に切れを取り戻し、号令に合わせて敬礼をする。
「陸自さん、万屋君といったね。
ご苦労様です」
大谷が答礼をして、そう言った。
そして、万屋の事を値踏みする様に、爪先からヘルメットまでじろじろと細かく観察する。
いや、実際に値踏みしているのであろう。
(足を観ても正気度なんて分からないだろ………………)
万屋はそんな風に、かなり失礼な事を考えながら報告する。
「は!
万屋三彦二等陸尉であります。
『みうら』より、ハイエルフ王国第三王女ベアトリクス・ミ・エルフィンクと名乗る女性、及びサー・ゴードン・ウェセックス伯爵を名乗る男性、他4名の御付きの方々を護送して参りました。
尚、小官の発言のみが現地語として現地の方々に伝わるという現象の為、僭越ながら小官が通訳を務めさせていただきます」
余程、憎たらしいのだろう。
万屋は、残念騎士の紹介を略した。
本人から、睨まれているが完全に黙殺している。
流石のアンジェリカも、こういった場所で騒ぐ事は出来ないのであろう。
もっとも当人にしてみれば、伯爵の視線が怖いという事の方が大きかった。
(ざまあみろい、バーカ、バーカ。
お前の叔父さん、つるっぱげ??)
もちろん、何か意図があってした事ではない。
単純な意趣返しだ。
ちなみに、伯爵の髪はまだ少しある。
万屋は、大人気ない男であった。
「うん、報告は聞いている。
貴官の耳にも、彼等の言葉が日本語として聞こえているそうだが、確かかね?」
(その確かっていうのは、脳味噌とか精神的な話でしょうかね?)
大谷は自分の報告を信じていないと思い込んでいる万屋は、心の中で毒を吐くが顔には出さない。
ここで無表情を保たないと怪しまれるからだ。
そうして次の手を打つ。
「確かであります。
王女殿下、こちらは近海に於ける最上位の指揮官を務めておられます、海上自衛隊の大谷誠一郎海将です。
日本では、お互いの右手を握り合うというのが、一般的な挨拶です」
万屋がそう言うと、大谷の方から手を差し出した。
「よろしくお願いします、提督」
ベアトリクスが、そう言って応じた。
これで大谷に対しても、万屋の言葉が彼等に通じているという事が証明されるのだ。
しかし、一安心する間も無く直ぐに、ベアトリクスの発言を訳した。
「さて、皆様は虜囚の身であらせられたとか?
情勢も含めて、その辺りの情報をご説明いただけませんでしょうか?」
大谷は武官らしく、挨拶もそこそこに本題へと切り込んだ。
(もうちょっと何か言えや!?)
万屋は、不満を押し殺しつつ任務を継続する。
「もちろんですぞ、提督。
ですがその前に、貴国の方針について教えていただけませんかな?
貴国は、どうやら国家ごと転移していらしたと、聞き及んでおります。
今後の貴国の動向、我国としては大いに気になるところでしてな」
早くも斬り返したのは、伯爵だった。
ベアトリクスもつい先程まで、真っ赤になって身悶えていた姿が嘘の様に、引き締まった顔をしている。
「既に、第一報は政府に届いております。
政府も一応は、気象庁等関係機関からの報告で、異世界に転移したという状況は把握していますが、それだけです。
詳細な報告が無ければ、動けないでしょう。
故に、小官からはお答え出来かねます」
当然ながら自衛官は立場上、政府の方針に口を出せない。
大谷としてもこう言う他無いのだ。
「それは、貴国にとって困る事になると思いますよ。
神聖軍の残存戦力は、殆んどが北へ向かいました。
『みうら』でしたか?
艦内で海図を拝見しましたが、演習場となっているこの硫黄島海域の位置から観ますと、小笠原諸島に到達するでしょう。
貴国の領土に上陸した場合、議論している余地は無くなるのでは?」
伯爵によって、万屋の防諜意識の低さが露呈した。
他に、地図を読んで訳せる人間がいない以上、勝手に情報を教えた人物は特定される。
そう、戦時中あれ程痛い目を見たにも拘らず、日本人の防諜能力は低いままなのだ。
一瞬、大谷の顔が不機嫌そうになる。
誤魔化し切れない万屋は、真っ青になりつつ通訳を続けた。
後でばれてしまえばどうしようも無くなるので、嘘はつけない。
他に、どうしようもないのだ。
「ご心配には及びませんよ。
現に彼等は、我々に太刀打ち出来ませんでした。
最初の奇襲攻撃以外、負傷者すら出ておりません」
大谷の言葉に、アンジェリカと伯爵が驚きの声を上げた。
ベアトリクスも目を見開いている。
流石に、先制攻撃の一撃以外無傷とまでは、思っていなかったらしい。
侍女達は、それがどういう意味を持つのか分かっていないらしく、王女達が驚いているのを不思議そうに見ている。
彼女等も下級ながら貴族の子女である為、これは教育水準の低さというよりも方向性の問題であろう。
ベアトリクスとアンジェリカが特殊なのだ。
「しかし閣下。
それは貴国の軍艦が、完全に鉄製であればこそです。
鉄で防いでいる部分以外には、魔法が有効ですからな。
貴国の陸軍は、重装歩兵や重装騎兵が、充分に揃っているのでしょうか?」
伯爵の質問に万屋は吹き出しかけた。
すかさず、アンジェリカが睨み付ける。
大谷も、苦笑しつつ応じた。
「それは、大変興味深いお話ですな。
我々にとって魔法技術は未知のモノです。
しかし、鉄によって魔法が無効化されるのであれば、問題はありません。
重装歩兵も重装騎兵もありませんが、装甲車輛があれば充分でしょう」
伯爵は、さりげなく日本の戦力を探ろうとしたが、煙に巻かれる。
装甲車輛等と言われても、判断しようがないのだ。
ただ、鉄製の大型兵器である事だけを、漠然と理解する。
もし、これがジン朝西天津国の高官ならば、クォガー・ネーチの記録から推測可能であったろう。
しかし、こういった勇者の情報は、各国それぞれの秘匿すべき機密情報だ。
ベアトリクスであっても、他国の勇者の記述等そうそう知る事は出来ない。
伯爵の場合は、偶然野営を共にした事があり、クォーガー・ネーチの話を聞けただけだ。
一晩で知り得たのは、せいぜい無線通信の情報ぐらいであった。
「貴国の陸上戦力に問題が無いのであれば、某から申し上げる様な事は何も無いでしょう」
伯爵は取り敢えず納得して見せる。
「ですが、閣下。
皇弟めは船から逃げる際に、隠匿の宝具を持ち出していました。
勝敗はともかく、皇弟めの乗った船に逃げられる可能性は、充分にありますぞ」
「隠匿の宝具とはなんです?」
大谷が興味を示す。
「古代文明の遺産の一つです。
敵の認識を阻害する厄介な宝具ですよ。
効果を及ぼす範囲が広いので、暗殺や偵察よりも奇襲に利用されます。
船一隻ならば、充分に隠しきれるでしょう。
面倒な事に目視だけではなく、探知魔法までも阻害してしまう、厄介な装備ですな」
伯爵の説明に、大谷が反応した。
「探知魔法?も阻害ですか……………………。
もしも、それがレーダーに対してまで有効ならば、敵の上陸を許す事も充分にあり得る…………………………。
警戒すべきだろうか。
ふむ……………………。
探知魔法の、仕組みを教えていただく訳にはいきませんか?」
意外と独り言の多い大谷だが、在日米軍と自衛隊の違いすら説明するつもりが無いのに、必要な情報は手に入れるつもりの様だ。
隙があるのか、無いのか判断が難しい。
万屋は、
(このおっさん、政界に入れそうだな)
などと思ったが、やはり顔には出さないで淡々と通訳を続けた。
陸と海の違いはあっても、大谷が遥か雲の上の人物であるという事実を、万屋はきっちりと弁えているのだ。
伯爵の返答は、曖昧なものだった。
曰く、探知魔法は斥候としての訓練を受けた魔法兵のみが扱える、特殊な魔法である。
さらに、軍事用魔法でもある為、分野が違う人間には理論すら知らされない、との事だった。
「申し訳ないです」
ベアトリクスが、本気で申し訳なさそうな顔をして頭を下げるのに対して、伯爵は惚けた表情だ。
(((狸だ!!!)))
気付いていない王女とアンジェリカ、伯爵本人を除いてその場に居る全員の心が一つに合わさった。
大谷も追撃する様な真似はしない。
追い詰め過ぎて将来的に外交問題へ発展すると、困るのは日本なのだ。
早期の国交樹立と、食料輸入。
大谷としては、立場上口には出せないものの、それが必要不可欠であると考えている。
そして、外務省が交渉を開始するまでのお膳立てこそが、自分の使命であるという強い使命感を持っていた。
故に、将来まで禍根を遺す訳にはいかないのだ。
無論、『食料不足が予想されます』などと、正直に言ったりもしない。
嘘をつくつもりこそ無いものの、訊かれるまでは答えないつもりなのだ。
そういう点を観ても、政治家として通用するタイプなのだろう。
「とにかく、目視での警戒も怠らない様に、各艦に通達しなくてはならんか。
ああ、立ち話を強いてしまった様ですな。
失礼致しました。
皆様はどうぞ艦内で、お寛ぎください。
と言っても今日か明日には、東京へ向かっていただくつもりですが。
ああ、案内を附けるから万屋二尉達は、臨時の貴賓室まで同行して差し上げる様に。
当然その後、東京やその先も暫くは一緒だろうから、粗相のない様に頼むよ。
もちろん君の上官には、話が通る様にしておこう」
「は、了解致しました」
万屋以外に通訳のなり手がいない以上、暫く同行するのは当然なのであるが、万屋はアンジェリカに辟易していたので、少しショックを受ける。
しかし、仕方の無い事と思い素直に敬礼した。
もちろん、不満を顔に出す様なヘマはしない。
既に、無許可で情報を与えたという、大失態があるのだ。
無論、一般常識の範囲内であったが、この失点は大きい。
これ以上、下手な事は出来ないのだ。
ちょうど良いタイミングで案内役の三尉が到着した為、万屋は相変わらず自分の周囲を見ている、ベアトリクスに引っ付かれながら、臨時貴賓室へ向かった。
こちらも相変わらずと言うべきか、アンジェリカが睨んで来るものの、最早気にしている余裕は無い。
東京まで着けば少しは楽になるのではという、儚い希望だけが今の万屋にとって唯一つの原動力であった。
しかし、その希望は数分後の急報によって、見事に打ち砕かれる事となる。
その急報の発信地とは、小笠原村役場であった。
『いずも』への移動中には、着艦する直前に目を覚ましたベアトリクスから謝罪を受け、それを見た残念騎士アンジェリカに突っ掛かられる、というハプニングもあったが一応無事に着艦した。
そこまでは良かったのだ。
ベアトリクスは真っ赤になっているが、大した問題では無いだろう。
むしろ、微笑ましいぐらいだ。
しかし、落ち着いていられたのはそこまでだった。
何故なら、飛行甲板で彼等を出迎た人物が、今回の演習に於ける日本側の最高指揮官で第一護衛隊群司令の、大谷海将だったからだ。
出迎えたのが幕僚ではなく司令であるという事は、大谷が万屋の報告を信じているという意味だろう。
だが、万屋にとっては雲の上の人物だ。
異世界の姫君という、可愛いだけで実感の伴わないVIPとは訳が違う。
陸と海で分野が違うとはいえ、雲の上の上官として実感のある相手だった。
その為、緊張のあまり大谷の意思表示という、重要な点に気付けなかったのは仕方の無い事だろう。
「大谷海将へ敬れーい!!!」
不覚にも、山田の号令を聞くまで呆然としてしまった万屋だが、体は訓練を覚えているものだ。
途端に切れを取り戻し、号令に合わせて敬礼をする。
「陸自さん、万屋君といったね。
ご苦労様です」
大谷が答礼をして、そう言った。
そして、万屋の事を値踏みする様に、爪先からヘルメットまでじろじろと細かく観察する。
いや、実際に値踏みしているのであろう。
(足を観ても正気度なんて分からないだろ………………)
万屋はそんな風に、かなり失礼な事を考えながら報告する。
「は!
万屋三彦二等陸尉であります。
『みうら』より、ハイエルフ王国第三王女ベアトリクス・ミ・エルフィンクと名乗る女性、及びサー・ゴードン・ウェセックス伯爵を名乗る男性、他4名の御付きの方々を護送して参りました。
尚、小官の発言のみが現地語として現地の方々に伝わるという現象の為、僭越ながら小官が通訳を務めさせていただきます」
余程、憎たらしいのだろう。
万屋は、残念騎士の紹介を略した。
本人から、睨まれているが完全に黙殺している。
流石のアンジェリカも、こういった場所で騒ぐ事は出来ないのであろう。
もっとも当人にしてみれば、伯爵の視線が怖いという事の方が大きかった。
(ざまあみろい、バーカ、バーカ。
お前の叔父さん、つるっぱげ??)
もちろん、何か意図があってした事ではない。
単純な意趣返しだ。
ちなみに、伯爵の髪はまだ少しある。
万屋は、大人気ない男であった。
「うん、報告は聞いている。
貴官の耳にも、彼等の言葉が日本語として聞こえているそうだが、確かかね?」
(その確かっていうのは、脳味噌とか精神的な話でしょうかね?)
大谷は自分の報告を信じていないと思い込んでいる万屋は、心の中で毒を吐くが顔には出さない。
ここで無表情を保たないと怪しまれるからだ。
そうして次の手を打つ。
「確かであります。
王女殿下、こちらは近海に於ける最上位の指揮官を務めておられます、海上自衛隊の大谷誠一郎海将です。
日本では、お互いの右手を握り合うというのが、一般的な挨拶です」
万屋がそう言うと、大谷の方から手を差し出した。
「よろしくお願いします、提督」
ベアトリクスが、そう言って応じた。
これで大谷に対しても、万屋の言葉が彼等に通じているという事が証明されるのだ。
しかし、一安心する間も無く直ぐに、ベアトリクスの発言を訳した。
「さて、皆様は虜囚の身であらせられたとか?
情勢も含めて、その辺りの情報をご説明いただけませんでしょうか?」
大谷は武官らしく、挨拶もそこそこに本題へと切り込んだ。
(もうちょっと何か言えや!?)
万屋は、不満を押し殺しつつ任務を継続する。
「もちろんですぞ、提督。
ですがその前に、貴国の方針について教えていただけませんかな?
貴国は、どうやら国家ごと転移していらしたと、聞き及んでおります。
今後の貴国の動向、我国としては大いに気になるところでしてな」
早くも斬り返したのは、伯爵だった。
ベアトリクスもつい先程まで、真っ赤になって身悶えていた姿が嘘の様に、引き締まった顔をしている。
「既に、第一報は政府に届いております。
政府も一応は、気象庁等関係機関からの報告で、異世界に転移したという状況は把握していますが、それだけです。
詳細な報告が無ければ、動けないでしょう。
故に、小官からはお答え出来かねます」
当然ながら自衛官は立場上、政府の方針に口を出せない。
大谷としてもこう言う他無いのだ。
「それは、貴国にとって困る事になると思いますよ。
神聖軍の残存戦力は、殆んどが北へ向かいました。
『みうら』でしたか?
艦内で海図を拝見しましたが、演習場となっているこの硫黄島海域の位置から観ますと、小笠原諸島に到達するでしょう。
貴国の領土に上陸した場合、議論している余地は無くなるのでは?」
伯爵によって、万屋の防諜意識の低さが露呈した。
他に、地図を読んで訳せる人間がいない以上、勝手に情報を教えた人物は特定される。
そう、戦時中あれ程痛い目を見たにも拘らず、日本人の防諜能力は低いままなのだ。
一瞬、大谷の顔が不機嫌そうになる。
誤魔化し切れない万屋は、真っ青になりつつ通訳を続けた。
後でばれてしまえばどうしようも無くなるので、嘘はつけない。
他に、どうしようもないのだ。
「ご心配には及びませんよ。
現に彼等は、我々に太刀打ち出来ませんでした。
最初の奇襲攻撃以外、負傷者すら出ておりません」
大谷の言葉に、アンジェリカと伯爵が驚きの声を上げた。
ベアトリクスも目を見開いている。
流石に、先制攻撃の一撃以外無傷とまでは、思っていなかったらしい。
侍女達は、それがどういう意味を持つのか分かっていないらしく、王女達が驚いているのを不思議そうに見ている。
彼女等も下級ながら貴族の子女である為、これは教育水準の低さというよりも方向性の問題であろう。
ベアトリクスとアンジェリカが特殊なのだ。
「しかし閣下。
それは貴国の軍艦が、完全に鉄製であればこそです。
鉄で防いでいる部分以外には、魔法が有効ですからな。
貴国の陸軍は、重装歩兵や重装騎兵が、充分に揃っているのでしょうか?」
伯爵の質問に万屋は吹き出しかけた。
すかさず、アンジェリカが睨み付ける。
大谷も、苦笑しつつ応じた。
「それは、大変興味深いお話ですな。
我々にとって魔法技術は未知のモノです。
しかし、鉄によって魔法が無効化されるのであれば、問題はありません。
重装歩兵も重装騎兵もありませんが、装甲車輛があれば充分でしょう」
伯爵は、さりげなく日本の戦力を探ろうとしたが、煙に巻かれる。
装甲車輛等と言われても、判断しようがないのだ。
ただ、鉄製の大型兵器である事だけを、漠然と理解する。
もし、これがジン朝西天津国の高官ならば、クォガー・ネーチの記録から推測可能であったろう。
しかし、こういった勇者の情報は、各国それぞれの秘匿すべき機密情報だ。
ベアトリクスであっても、他国の勇者の記述等そうそう知る事は出来ない。
伯爵の場合は、偶然野営を共にした事があり、クォーガー・ネーチの話を聞けただけだ。
一晩で知り得たのは、せいぜい無線通信の情報ぐらいであった。
「貴国の陸上戦力に問題が無いのであれば、某から申し上げる様な事は何も無いでしょう」
伯爵は取り敢えず納得して見せる。
「ですが、閣下。
皇弟めは船から逃げる際に、隠匿の宝具を持ち出していました。
勝敗はともかく、皇弟めの乗った船に逃げられる可能性は、充分にありますぞ」
「隠匿の宝具とはなんです?」
大谷が興味を示す。
「古代文明の遺産の一つです。
敵の認識を阻害する厄介な宝具ですよ。
効果を及ぼす範囲が広いので、暗殺や偵察よりも奇襲に利用されます。
船一隻ならば、充分に隠しきれるでしょう。
面倒な事に目視だけではなく、探知魔法までも阻害してしまう、厄介な装備ですな」
伯爵の説明に、大谷が反応した。
「探知魔法?も阻害ですか……………………。
もしも、それがレーダーに対してまで有効ならば、敵の上陸を許す事も充分にあり得る…………………………。
警戒すべきだろうか。
ふむ……………………。
探知魔法の、仕組みを教えていただく訳にはいきませんか?」
意外と独り言の多い大谷だが、在日米軍と自衛隊の違いすら説明するつもりが無いのに、必要な情報は手に入れるつもりの様だ。
隙があるのか、無いのか判断が難しい。
万屋は、
(このおっさん、政界に入れそうだな)
などと思ったが、やはり顔には出さないで淡々と通訳を続けた。
陸と海の違いはあっても、大谷が遥か雲の上の人物であるという事実を、万屋はきっちりと弁えているのだ。
伯爵の返答は、曖昧なものだった。
曰く、探知魔法は斥候としての訓練を受けた魔法兵のみが扱える、特殊な魔法である。
さらに、軍事用魔法でもある為、分野が違う人間には理論すら知らされない、との事だった。
「申し訳ないです」
ベアトリクスが、本気で申し訳なさそうな顔をして頭を下げるのに対して、伯爵は惚けた表情だ。
(((狸だ!!!)))
気付いていない王女とアンジェリカ、伯爵本人を除いてその場に居る全員の心が一つに合わさった。
大谷も追撃する様な真似はしない。
追い詰め過ぎて将来的に外交問題へ発展すると、困るのは日本なのだ。
早期の国交樹立と、食料輸入。
大谷としては、立場上口には出せないものの、それが必要不可欠であると考えている。
そして、外務省が交渉を開始するまでのお膳立てこそが、自分の使命であるという強い使命感を持っていた。
故に、将来まで禍根を遺す訳にはいかないのだ。
無論、『食料不足が予想されます』などと、正直に言ったりもしない。
嘘をつくつもりこそ無いものの、訊かれるまでは答えないつもりなのだ。
そういう点を観ても、政治家として通用するタイプなのだろう。
「とにかく、目視での警戒も怠らない様に、各艦に通達しなくてはならんか。
ああ、立ち話を強いてしまった様ですな。
失礼致しました。
皆様はどうぞ艦内で、お寛ぎください。
と言っても今日か明日には、東京へ向かっていただくつもりですが。
ああ、案内を附けるから万屋二尉達は、臨時の貴賓室まで同行して差し上げる様に。
当然その後、東京やその先も暫くは一緒だろうから、粗相のない様に頼むよ。
もちろん君の上官には、話が通る様にしておこう」
「は、了解致しました」
万屋以外に通訳のなり手がいない以上、暫く同行するのは当然なのであるが、万屋はアンジェリカに辟易していたので、少しショックを受ける。
しかし、仕方の無い事と思い素直に敬礼した。
もちろん、不満を顔に出す様なヘマはしない。
既に、無許可で情報を与えたという、大失態があるのだ。
無論、一般常識の範囲内であったが、この失点は大きい。
これ以上、下手な事は出来ないのだ。
ちょうど良いタイミングで案内役の三尉が到着した為、万屋は相変わらず自分の周囲を見ている、ベアトリクスに引っ付かれながら、臨時貴賓室へ向かった。
こちらも相変わらずと言うべきか、アンジェリカが睨んで来るものの、最早気にしている余裕は無い。
東京まで着けば少しは楽になるのではという、儚い希望だけが今の万屋にとって唯一つの原動力であった。
しかし、その希望は数分後の急報によって、見事に打ち砕かれる事となる。
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イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
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楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
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【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
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しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
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