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第一章 小笠原事変
第二話 母島駐在所の駐在 木村亮太
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海が綺麗だなぁ。
そんな事を思う。
でも、ぼんやり眺めている暇は無かった。
全力で自転車を漕ぐのは、いつ以来だろうか?
この歳になると、結構疲れるもんだな。
それにしても、何時からこんな事になったんだろう?
今朝は、何時も通りの朝だった筈だ。
昼前には地震があって、テレビなんかじゃあ全国一律で震度3だの、GPSが使えないだの騒いでいるが、この島にはあまり関係の無い話だった。
GPSが使えなくなったのは大変だが、島の漁師は無くても出れるらしいしな。
警察官が放っておいて良いのかと思わないでもないのだが、田舎の駐在さんに求められている役割とは微妙に違うので、何も言わないでおいた。
世の中、杓子定規ではやっていけないのだ。
特に、田舎だからな。
そういう適当にやっていけるところが、田舎の醍醐味だろう。
まあ、俺の場合はーフィンという立派な趣味が、この島への赴任を志望した一番の動機だけどね。
それでも警察官だ。
仕事はする。
地震の直後に一応見回ったが、被害も無いらしい。
強いていうならあまりにも暇なので、個人スペース化しつつある駐在所の一角に積んである本の山が倒れたぐらいだ。
父島の署まで報告する様な事は、何も無かった。
しかし、午後になると状況が変わって来た。
港で漁師連中が騒いでいると聞いて駆けつけてみると、どうにも変な魚ばかり釣れるという話だった。
それだけなら、駐在さんには関係の無い話だろう。
海洋汚染だの何だので、やれ裁判だの賠償だのになったとしても、田舎の駐在さんには関係が無いのだ。
だが、それからどんどん異常な話が出て来る。
夕方になると、父島沖で海賊が出たなんて聞いたから、もう落ち着いてはいられない。
考えてもみろ。
ただでさえ日本では、エイプリルフールが定着していないのだ。
6月にもなってから警察や消防、村役場みたいな公的機関が無線で嘘を垂れ流す、何て事はあり得ないだろう。
当然、漁協だって同じだ。
つまり、海賊云々は事実って事になる。
まあ、皆して誤報に踊らされているという可能性もあるが、念の為にそれが事実であるという前提で動かないと、後でマズイ。
残念ながら、情報を集めようにも父島は混乱しているらしく、無線も混信気味だ。
どうやら、海賊は父島に上陸したらしい、という事だけは分かった。
信じられないけど、嘘では無いだろう。
珊瑚の密漁者だろうか?
正直、極東で海賊なんてあり得ないと、思うのだが………………。
でも、テレビでは、中国の漁船が武装云々と言っているしな。
事実、上陸してきたものはしょうがない。
こういう時こそ、俺の出番だろう。
本署からの指示が無くても、避難準備だけは進めておかないと。
幸いと言って良いのか、ここは過疎地。
島民の数は少ないから、お年寄りを予め港に集めて置けば、避難は楽だろう。
なにせ船に乗せたら、後は任せっきりだ。
同じ田舎でも山間の避難とは違って、気楽なもんだな。
とにかく、防災放送で、呼び掛けよう。
港に集合する様に言って………………。
荷物は、手で持てるだけだろうな。
真面目にマニュアルを読んでおくべきだったけど、今更だ。
マニュアルは、崩れた本の山の一番下だったからな。
本署が混乱していなければ、もっと楽だったのに。
と、まあそんな風に考えて行動した結果、現在に到る。
そんなこんなで避難準備はだいたい終わり、今は駐在さんの義務としての置き去り確認を始めている訳だ。
結局、誰もいないんだろうけどな。
島民の顔ぐらい把握しているんだ。
一応は観光客とか、イレギュラーな相手がいる可能性を考えて、確認だけはと思ったけど誰もいないだろう。
とにかく、疲れた。
ん、なんだあれ?
帆船………………だよな?
見掛けはそれっぽいけど、まさかあれが海賊船って訳じゃ無いよな。
て事は………………観光船なのか?
でも、あれはおかしいだろ。
素人の俺でも、エンジン無しのモノホンな帆船だってのが、一目で分かるぞ。
面倒の予感しかしない。
考えみると、父島は混乱している様ではあったけど、全部の無線が一貫して海賊と言ってたよな。
テロリストとも武装集団とも、聞いていない。
って事はパッと見て明らかな、海賊ルックって事なのかも。
だとすると、怪し過ぎるよな、あの船………………。
どうしよう。
いや、待て落ち着こう。
弾はあるな。
装弾はしていないと。
よし、まずは装弾だな。
それから、島民全員の安否確認して、脱出。
よし、完璧だ。
これで行こう。
ん、なんだこの、シュバーって音は?
花火か?
え、何あれ、ロケットランチャーなの!?
砲撃なの!?
平和で暇そうな、サーフィンのできる楽園みたいな島まで、わざわざ希望して赴任して来たってのに、海賊船から火の玉みたいのが飛んでくるとか、予想外過ぎるんだが!?
「返せ、俺の平穏を!!!」
ふう、スッキリしたな。
よし、さっさと切り替えよう。
とにかく、置き去りにされた人は居ないらしいし、港まで戻ろう。
うん、それがいい。
そうとも。
訳が分からんけど、とにかく島民全体の避難誘導が、俺の義務だからな。
ここで港まで戻って、誰か避難し損ねていたら………………。
その時は、遺書を預けて覚悟を決めよう。
多分大丈夫だけど、その場合は戻って捜すしかない。
これでも一応、警察官だからな。
命懸けるには安い月給だけど、それを納得した上で受け取ってんだ。
俺の命を懸けるのも、給料の内って訳だな。
仕方ないさ。
でもさ、一つだけ言うならあれだよ。
「田舎の駐在さん、嘗めんな!!!」
ってね。
さあ、体力が尽きるかもしれないが、頑張ろう。
そんな事を思う。
でも、ぼんやり眺めている暇は無かった。
全力で自転車を漕ぐのは、いつ以来だろうか?
この歳になると、結構疲れるもんだな。
それにしても、何時からこんな事になったんだろう?
今朝は、何時も通りの朝だった筈だ。
昼前には地震があって、テレビなんかじゃあ全国一律で震度3だの、GPSが使えないだの騒いでいるが、この島にはあまり関係の無い話だった。
GPSが使えなくなったのは大変だが、島の漁師は無くても出れるらしいしな。
警察官が放っておいて良いのかと思わないでもないのだが、田舎の駐在さんに求められている役割とは微妙に違うので、何も言わないでおいた。
世の中、杓子定規ではやっていけないのだ。
特に、田舎だからな。
そういう適当にやっていけるところが、田舎の醍醐味だろう。
まあ、俺の場合はーフィンという立派な趣味が、この島への赴任を志望した一番の動機だけどね。
それでも警察官だ。
仕事はする。
地震の直後に一応見回ったが、被害も無いらしい。
強いていうならあまりにも暇なので、個人スペース化しつつある駐在所の一角に積んである本の山が倒れたぐらいだ。
父島の署まで報告する様な事は、何も無かった。
しかし、午後になると状況が変わって来た。
港で漁師連中が騒いでいると聞いて駆けつけてみると、どうにも変な魚ばかり釣れるという話だった。
それだけなら、駐在さんには関係の無い話だろう。
海洋汚染だの何だので、やれ裁判だの賠償だのになったとしても、田舎の駐在さんには関係が無いのだ。
だが、それからどんどん異常な話が出て来る。
夕方になると、父島沖で海賊が出たなんて聞いたから、もう落ち着いてはいられない。
考えてもみろ。
ただでさえ日本では、エイプリルフールが定着していないのだ。
6月にもなってから警察や消防、村役場みたいな公的機関が無線で嘘を垂れ流す、何て事はあり得ないだろう。
当然、漁協だって同じだ。
つまり、海賊云々は事実って事になる。
まあ、皆して誤報に踊らされているという可能性もあるが、念の為にそれが事実であるという前提で動かないと、後でマズイ。
残念ながら、情報を集めようにも父島は混乱しているらしく、無線も混信気味だ。
どうやら、海賊は父島に上陸したらしい、という事だけは分かった。
信じられないけど、嘘では無いだろう。
珊瑚の密漁者だろうか?
正直、極東で海賊なんてあり得ないと、思うのだが………………。
でも、テレビでは、中国の漁船が武装云々と言っているしな。
事実、上陸してきたものはしょうがない。
こういう時こそ、俺の出番だろう。
本署からの指示が無くても、避難準備だけは進めておかないと。
幸いと言って良いのか、ここは過疎地。
島民の数は少ないから、お年寄りを予め港に集めて置けば、避難は楽だろう。
なにせ船に乗せたら、後は任せっきりだ。
同じ田舎でも山間の避難とは違って、気楽なもんだな。
とにかく、防災放送で、呼び掛けよう。
港に集合する様に言って………………。
荷物は、手で持てるだけだろうな。
真面目にマニュアルを読んでおくべきだったけど、今更だ。
マニュアルは、崩れた本の山の一番下だったからな。
本署が混乱していなければ、もっと楽だったのに。
と、まあそんな風に考えて行動した結果、現在に到る。
そんなこんなで避難準備はだいたい終わり、今は駐在さんの義務としての置き去り確認を始めている訳だ。
結局、誰もいないんだろうけどな。
島民の顔ぐらい把握しているんだ。
一応は観光客とか、イレギュラーな相手がいる可能性を考えて、確認だけはと思ったけど誰もいないだろう。
とにかく、疲れた。
ん、なんだあれ?
帆船………………だよな?
見掛けはそれっぽいけど、まさかあれが海賊船って訳じゃ無いよな。
て事は………………観光船なのか?
でも、あれはおかしいだろ。
素人の俺でも、エンジン無しのモノホンな帆船だってのが、一目で分かるぞ。
面倒の予感しかしない。
考えみると、父島は混乱している様ではあったけど、全部の無線が一貫して海賊と言ってたよな。
テロリストとも武装集団とも、聞いていない。
って事はパッと見て明らかな、海賊ルックって事なのかも。
だとすると、怪し過ぎるよな、あの船………………。
どうしよう。
いや、待て落ち着こう。
弾はあるな。
装弾はしていないと。
よし、まずは装弾だな。
それから、島民全員の安否確認して、脱出。
よし、完璧だ。
これで行こう。
ん、なんだこの、シュバーって音は?
花火か?
え、何あれ、ロケットランチャーなの!?
砲撃なの!?
平和で暇そうな、サーフィンのできる楽園みたいな島まで、わざわざ希望して赴任して来たってのに、海賊船から火の玉みたいのが飛んでくるとか、予想外過ぎるんだが!?
「返せ、俺の平穏を!!!」
ふう、スッキリしたな。
よし、さっさと切り替えよう。
とにかく、置き去りにされた人は居ないらしいし、港まで戻ろう。
うん、それがいい。
そうとも。
訳が分からんけど、とにかく島民全体の避難誘導が、俺の義務だからな。
ここで港まで戻って、誰か避難し損ねていたら………………。
その時は、遺書を預けて覚悟を決めよう。
多分大丈夫だけど、その場合は戻って捜すしかない。
これでも一応、警察官だからな。
命懸けるには安い月給だけど、それを納得した上で受け取ってんだ。
俺の命を懸けるのも、給料の内って訳だな。
仕方ないさ。
でもさ、一つだけ言うならあれだよ。
「田舎の駐在さん、嘗めんな!!!」
ってね。
さあ、体力が尽きるかもしれないが、頑張ろう。
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