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第一章 小笠原事変
第十話 投降と、隠匿の宝具の行方
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「捕虜の扱いは、平等とする。
身分に拘わらず、全員同じ条件だ」
万屋の立場からは、そう言う他無かった。
当然だろう。
しかし、使者らしき男は、驚愕した。
信じられない、という顔だ。
「その様な、非常識な条件は呑めない!
呑める訳がない。
お前たちは、何を考えているのだ!?
交渉する気が無いのか!?」
案の定男は激昂して、そう言い放った。
「常識とは文化や、習慣に根付くものであり、それが異なる事は、多々あるものだろう。
しかし、だからといって、条件を変えるつもりは無い。
投降するならば、我々に合わせるのが、筋である。
それとも、最後まで抵抗するか?
そもそも我々は、降伏を勧告したのであって、交渉するつもりは一切無い。
受諾しなければ、戦闘を再開するだけだ」
万屋は一歩も譲らない。
正確には、譲り様が無いのだが、そういった日本の事情が、相手に理解されるとは万屋も思わないので、説明はしなかった。
そこまでの義理は無いし、必要性も無いのだ。
「む、むう。
私には判断出来ない。
主の意思を仰ぐので、期限の延長を求める」
男は少しの間、沈黙したが、意を決したのか、条件を出してきた。
「あと、三百秒待とう。
それまでに決める様に」
万屋としては、逃げられさえしなければ、それで良いので、短い期限を定めて了承する。
もっとも、返事を待つ間、ボンヤリしている訳ではない。
その間に他の投降者を、拘束しなくてはならないのだ。
「拘束作業、開始!」
本来は服務規定違反なのだが、特別に小笠原警察署から借り受けた手錠を、上手く活用して、拘束作業が始まった。
もちろん、武装解除を確認しながらだが、危険を伴う作業なので、二人一組で実行する。
大分減ったものの、捕虜となった兵士は二百人以上。
そう簡単に終わるものではない。
「山さん。
増員無しには、無理だ。
呼んでも問題無いかい?」
捕虜数の見積りに、すっかり参ったのか、万屋が情けない声を出した。
「そうですね。
戦闘は終わりましたから、大丈夫でしょう。
上も、文句は無いと思います」
「でも首謀者は、降伏してくれない可能性も、あるんだよなぁ。
戦闘終結とは、言い切れないかも」
「いえ、降伏しない可能性は、かなり低いでしょう。
先程、殿下と伯爵のお話を伺いましたが、皇弟は愚物で臆病者、卑怯な事で有名だとか。
率先して降伏するか、最悪降伏を望む味方に、殺される可能性もありますが、組織的抵抗は無いかと……」
山田は、面倒な未来を予測した。
だが、皇弟が生きて抵抗しても、味方に殺されても、万屋が困る事には変わりがない。
悩んでも無駄だろう。
万屋は諦め気味に、溜め息を吐いた。
「自害されても、それはそれで困るしなぁ。
生け捕りが、一番ましなんだが」
「そうなる事を、祈りましょう」
万屋の言葉に、山田も諦め気味な反応だ。
「とにかく、増員を求めましょう。
今回の任務は、統合幕僚本部からの、指揮系統を飛び越した特命ですが、そちらには、事後承諾で大丈夫でしょう。
時間に余裕がありませんので、直接『みうら』に要請します。
ですが、艦隊では収容しきれませんので、それに関しては、島の建物を借りましょう。
それで、よろしいでしょうか?」
山田は相変わらず、的確な案を出す。
万屋は山田の有能っぷりに、「もう俺、必要無いんじゃない?」と思ったが、口には出さなかった。
宮司の息子なので、言霊を信じているのだ。
「うん、それでいこう。
小笠原村役場には、俺から交渉する。
増員要請は、山さんに任せた」
万屋は割り当てを決めて、行動を開始した。
と言っても、何処かへ移る訳ではない。
どちらも、無線で済ませる事が可能だ。
万屋の方は、運が良かった。
警察署に残した部下を経由して、村役場と交渉しようとしたが、幸いにも村役場の機能は、警察署に移動したままだったのだ。
部下は、特に移動する必要も無く、すぐに村長へ無線機を手渡した。
交渉そのものも、増員があるという話で、納得してくれたらしい。
流石に、小笠原署の警官任せでは、困るのだろう。
観光業で賑わっている村は、治安の維持も大切なのだ。
ただでさえ、観光客に死者が出ているのに、万が一にも、捕虜の大量脱走等があっては、小笠原諸島の観光業は、完全に潰れるだろう。
少なくとも、表向きは理解している様だったが、増員や一時的な収容、という点を説明しなければ、猛反発を受けた筈だ。
山田の増員要請も、彼の読み通り上層部は、戦闘終結後の後処理まで、万屋小隊のみに任せるつもりは無いらしく、すんなりと認められる。
どうやら、予め統合幕僚本部から、許可が降りていた様だ。
他の部下達は、投降者の拘束作業に、従事している。
あまりにも人手が足りないので、作業にはエルフ達にも、参加してもらっていた。
もちろん、本当は服務規定違反だろうが、それで隙を衝かれては、たまらない。
要は、報告書に書かず、口頭で報告すれば良いのだ。
そうすれば、多少は見逃してもらえるだろう。
そうこうしている間に、延長された時間が、近付く。
その間にも、勝手に離脱したのか、高級そうな兜を抱えた騎士達が、ちらほらと投降して来る。
伯爵の説明では、低い身分からの成り上がった、『現実の見える者達』との事だ。
鎧を脱いでいるのが、その証らしい。
万屋は失念していたが、魔法兵にとっての鎧は、魔力の集束装置の様なものであって、武装解除の一環なのだ。
どうやら、魔法を使えない為に、鎧を脱ぐ必要の無い騎士が、それを脱ぐという事は、現実を見て恭順の意思を表している、という事らしい。
そして、期限直前になってから、先程の男が姿を現した。
「期限ギリギリだが、投降するのか?
抵抗を続けるのか?」
万屋は高圧的に問い質す。
これはあくまでも、交渉ではなく勧告なのだ。
間違っても、テロリストと交渉した、と取られる様な振る舞いは出来ない。
ただ万屋は、戦闘終結を確信していた。
何故なら、男は武器だけでなく、先にちらほらと、投降していた騎士達と、同じ様に、鎧を脱いでいるからだ。
それでも、降伏の意思を明確にしていない以上、油断は出来ないので、万屋は小銃を構えていた。
当然、連射ではないが、何時でも撃てる様にしている。
「主は、条件を呑むと、仰せである。
しかし、あまりの事に受諾した直後、卒倒なされた。
こちらで、お連れするが、それでよろしいか?」
万屋の予想通り、少なくとも戦闘は終わったらしい。
だが、卒倒という点に、疑問を持った万屋は、そこを問い質そうとする。
「卒倒!?
殺し……げふん、げふん。
自害とかではなく、卒倒?
生きているという事か?」
「そちらも、生け捕りが望ましいのだろう?
それぐらいは、分かる」
男は、不敵な笑みを浮かべて、そう言った。
降伏後の、厚待遇を期待しての事だろう。
しかし、日本には司法取引制度が無い。
そして万屋には、それを教える義理は無いのだ。
万屋に、同情する気は一切無かった。
港でも街中でも、市民の御遺体を見て来たのだ。
同情する気になれないのが、当然である。
『不幸な誤射事件が起きないだけ、感謝されたい』というのが、小隊の総意であった。
やがて、ロープでぐるぐる巻きにされた男が、AAV7の後方まで、運ばれて来る。
気絶している事から、万屋はこれが皇弟だと察した。
皇弟は余程重いのか、五人がかりで運ばれている。
鎧を着ていないのは、恭順の意思を示した騎士達と同じだが、身に纏っている服は随分異なるものだ。
おそらく、絹だろうが、騎士達と較べると、そのままの格好で居ても、不自然ではない服装だった。
鎧を脱いだ騎士達の格好は質素なもので、下着の様にも見える程、薄着なのだ。
伯爵の情報は、噂程度のものであるが、ひょっとすると運動不足で、鎧を着れないのかもしれない、と万屋は思った。
最初からこの格好なら、納得のいく話だ。
しかし、肥満体とはいえ、結構な巨体である。
二メートルは越えているだろう。
ロープで巻かれているのは、暴れられると困るからだろうか。
主君への振る舞いとは思えないが、噂が事実なら騎士達も、相当苦労させられたのだろう。
心なしか、荷物を運ぶ様に雑な扱いだ。
「まあ、助かるのは事実だな。
その辺に転がしといてくれ」
無事に戦闘が終わったと、確信したのだろう。
万屋の口調は、少し軽くなった。
「隠匿の宝具は何処です?」
万屋の背後から、突然現れたベアトリクスが、男に訊ねた。
万屋が、車外へ出ない様にと伝えた筈だが、安全になったと、勝手に解釈したらしい。
万屋としては、エルフと神聖軍の間に、強い軋轢が存在する事を、艦上で知ったので、戦闘終結後も「捕虜とは関わって欲しくない」というのが、本音だった。
しかし、伯爵はともかく、ベアトリクスやアンジェリカには、それを察する能力が無かった様だ。
「お前達の様な、穢らわしい生き物に、教える義理は無い」
案の定、男の態度は硬化する。
「俺も知りたいのだけど、教えちゃくれないかい?」
この様子では、エルフに任せる訳にはいかないと判断したのか、万屋も問い掛けた。
「む。
実は、先程の戦闘の前に、従軍司教が逃げ出してな。
従軍していた聖騎士達も、いつの間にか居なくなった。
それだけならよいのだ。
だが、連中は隠匿の宝具を、持ち出した。
今は島の反対側に停泊していた、『グロース・リヒト』の、船内にある筈だ。
もっとも、今頃連中は、それを使って逃げているだろう」
男は万屋が相手だと、素直に答えるらしい。
しかし、隠匿の宝具がこの場に無いのでは、あまり意味は無かった。
そんな事は知らずに、男は喋り続ける。
どうやら、先に逃げ出した聖職者達に、不満がある様だ。
「もう、坊主共は信用出来ないな。
聖戦というから、仕方なく参陣したが、とんだ災難だ。
奴等め、女だけでなく男の捕虜まで、独占している。
まあ、あれだけ捕虜を乗せれば、逃げたところで船脚は遅い。
その気になれば、捉える事も可能かもしれないぞ。
隠匿の宝具の効果には、時間制限があるからな」
自己弁護の為か、訊かれていない事を、ペラペラと喋る男だったが、聴き逃せない事を喋った。
「おい!?
まさか、この島で民間人を捕虜にしたのか!?」
万屋の大声に、隊員達がざわつく。
「まさか」
「いやしかし、行方不明者の調査もまだ……」
「有り得ない事でもないのか?」
「だとしたら、大変な話だぞ」
ざわめきが、次第に大きくなっていく。
「落ち着かんかい!」
山田の一喝で、その場は鎮まるが、やはり動揺は隠せない様だ。
気が散って、作業に集中出来ていない様に見える。
「隊長。
ここは、統合幕僚本部と、『いずも』に報告すべきです。
連続しての、指揮系統無視ですが、これはそれだけの価値がある、重要な情報だと思います」
山田は冷静に言うが、その手は震えていた。
山田程の古参でも、動揺を隠し切れないらしい。
「お、お、お、落ち着こう。
そもそも、本当かどうかは、まだ分からない。
島の反対側に、港は無い筈だ。」
山田とは逆に、動揺を隠せない万屋だが、判断力は健在だった。
この男が味方を逃がす為に、嘘を言っている可能性も、少なからずあるのだ。
「嘘ではない!
少し沖に停泊させて、小舟を使って逃げれる様、予め手配したのだ。
万が一に備えて、この私が考えたのだぞ。
一時的な戦力の分散があっても、実行するだけの価値はあったのだ。
主や、坊主共の説得には手間取ったが、我ながら良い策だった。
惜しいのは、主の頭の鈍さと、坊主共の脚の軽さだな。
そこさえ踏まえていれば、逃げ切れたろうに、まったく……」
男は口数が多いのだろう。
無駄に喋る。
だが、万屋小隊のだれもが、それに構っている余裕は無かった。
エルフ達は別として、誰もが冷静さを失っている。
「そうだ!
『いずも』に連絡すれば、捜索してくれるかもしれない!
む、無線機は何処だ!?」
万屋が思い付いた様に、言い出した。
「そうですね。
一刻を争います。
それが最善でしょう」
山田もそれを支持する。
万屋の、慌ただしい日々は、こうして1日目を終えるのだった。
身分に拘わらず、全員同じ条件だ」
万屋の立場からは、そう言う他無かった。
当然だろう。
しかし、使者らしき男は、驚愕した。
信じられない、という顔だ。
「その様な、非常識な条件は呑めない!
呑める訳がない。
お前たちは、何を考えているのだ!?
交渉する気が無いのか!?」
案の定男は激昂して、そう言い放った。
「常識とは文化や、習慣に根付くものであり、それが異なる事は、多々あるものだろう。
しかし、だからといって、条件を変えるつもりは無い。
投降するならば、我々に合わせるのが、筋である。
それとも、最後まで抵抗するか?
そもそも我々は、降伏を勧告したのであって、交渉するつもりは一切無い。
受諾しなければ、戦闘を再開するだけだ」
万屋は一歩も譲らない。
正確には、譲り様が無いのだが、そういった日本の事情が、相手に理解されるとは万屋も思わないので、説明はしなかった。
そこまでの義理は無いし、必要性も無いのだ。
「む、むう。
私には判断出来ない。
主の意思を仰ぐので、期限の延長を求める」
男は少しの間、沈黙したが、意を決したのか、条件を出してきた。
「あと、三百秒待とう。
それまでに決める様に」
万屋としては、逃げられさえしなければ、それで良いので、短い期限を定めて了承する。
もっとも、返事を待つ間、ボンヤリしている訳ではない。
その間に他の投降者を、拘束しなくてはならないのだ。
「拘束作業、開始!」
本来は服務規定違反なのだが、特別に小笠原警察署から借り受けた手錠を、上手く活用して、拘束作業が始まった。
もちろん、武装解除を確認しながらだが、危険を伴う作業なので、二人一組で実行する。
大分減ったものの、捕虜となった兵士は二百人以上。
そう簡単に終わるものではない。
「山さん。
増員無しには、無理だ。
呼んでも問題無いかい?」
捕虜数の見積りに、すっかり参ったのか、万屋が情けない声を出した。
「そうですね。
戦闘は終わりましたから、大丈夫でしょう。
上も、文句は無いと思います」
「でも首謀者は、降伏してくれない可能性も、あるんだよなぁ。
戦闘終結とは、言い切れないかも」
「いえ、降伏しない可能性は、かなり低いでしょう。
先程、殿下と伯爵のお話を伺いましたが、皇弟は愚物で臆病者、卑怯な事で有名だとか。
率先して降伏するか、最悪降伏を望む味方に、殺される可能性もありますが、組織的抵抗は無いかと……」
山田は、面倒な未来を予測した。
だが、皇弟が生きて抵抗しても、味方に殺されても、万屋が困る事には変わりがない。
悩んでも無駄だろう。
万屋は諦め気味に、溜め息を吐いた。
「自害されても、それはそれで困るしなぁ。
生け捕りが、一番ましなんだが」
「そうなる事を、祈りましょう」
万屋の言葉に、山田も諦め気味な反応だ。
「とにかく、増員を求めましょう。
今回の任務は、統合幕僚本部からの、指揮系統を飛び越した特命ですが、そちらには、事後承諾で大丈夫でしょう。
時間に余裕がありませんので、直接『みうら』に要請します。
ですが、艦隊では収容しきれませんので、それに関しては、島の建物を借りましょう。
それで、よろしいでしょうか?」
山田は相変わらず、的確な案を出す。
万屋は山田の有能っぷりに、「もう俺、必要無いんじゃない?」と思ったが、口には出さなかった。
宮司の息子なので、言霊を信じているのだ。
「うん、それでいこう。
小笠原村役場には、俺から交渉する。
増員要請は、山さんに任せた」
万屋は割り当てを決めて、行動を開始した。
と言っても、何処かへ移る訳ではない。
どちらも、無線で済ませる事が可能だ。
万屋の方は、運が良かった。
警察署に残した部下を経由して、村役場と交渉しようとしたが、幸いにも村役場の機能は、警察署に移動したままだったのだ。
部下は、特に移動する必要も無く、すぐに村長へ無線機を手渡した。
交渉そのものも、増員があるという話で、納得してくれたらしい。
流石に、小笠原署の警官任せでは、困るのだろう。
観光業で賑わっている村は、治安の維持も大切なのだ。
ただでさえ、観光客に死者が出ているのに、万が一にも、捕虜の大量脱走等があっては、小笠原諸島の観光業は、完全に潰れるだろう。
少なくとも、表向きは理解している様だったが、増員や一時的な収容、という点を説明しなければ、猛反発を受けた筈だ。
山田の増員要請も、彼の読み通り上層部は、戦闘終結後の後処理まで、万屋小隊のみに任せるつもりは無いらしく、すんなりと認められる。
どうやら、予め統合幕僚本部から、許可が降りていた様だ。
他の部下達は、投降者の拘束作業に、従事している。
あまりにも人手が足りないので、作業にはエルフ達にも、参加してもらっていた。
もちろん、本当は服務規定違反だろうが、それで隙を衝かれては、たまらない。
要は、報告書に書かず、口頭で報告すれば良いのだ。
そうすれば、多少は見逃してもらえるだろう。
そうこうしている間に、延長された時間が、近付く。
その間にも、勝手に離脱したのか、高級そうな兜を抱えた騎士達が、ちらほらと投降して来る。
伯爵の説明では、低い身分からの成り上がった、『現実の見える者達』との事だ。
鎧を脱いでいるのが、その証らしい。
万屋は失念していたが、魔法兵にとっての鎧は、魔力の集束装置の様なものであって、武装解除の一環なのだ。
どうやら、魔法を使えない為に、鎧を脱ぐ必要の無い騎士が、それを脱ぐという事は、現実を見て恭順の意思を表している、という事らしい。
そして、期限直前になってから、先程の男が姿を現した。
「期限ギリギリだが、投降するのか?
抵抗を続けるのか?」
万屋は高圧的に問い質す。
これはあくまでも、交渉ではなく勧告なのだ。
間違っても、テロリストと交渉した、と取られる様な振る舞いは出来ない。
ただ万屋は、戦闘終結を確信していた。
何故なら、男は武器だけでなく、先にちらほらと、投降していた騎士達と、同じ様に、鎧を脱いでいるからだ。
それでも、降伏の意思を明確にしていない以上、油断は出来ないので、万屋は小銃を構えていた。
当然、連射ではないが、何時でも撃てる様にしている。
「主は、条件を呑むと、仰せである。
しかし、あまりの事に受諾した直後、卒倒なされた。
こちらで、お連れするが、それでよろしいか?」
万屋の予想通り、少なくとも戦闘は終わったらしい。
だが、卒倒という点に、疑問を持った万屋は、そこを問い質そうとする。
「卒倒!?
殺し……げふん、げふん。
自害とかではなく、卒倒?
生きているという事か?」
「そちらも、生け捕りが望ましいのだろう?
それぐらいは、分かる」
男は、不敵な笑みを浮かべて、そう言った。
降伏後の、厚待遇を期待しての事だろう。
しかし、日本には司法取引制度が無い。
そして万屋には、それを教える義理は無いのだ。
万屋に、同情する気は一切無かった。
港でも街中でも、市民の御遺体を見て来たのだ。
同情する気になれないのが、当然である。
『不幸な誤射事件が起きないだけ、感謝されたい』というのが、小隊の総意であった。
やがて、ロープでぐるぐる巻きにされた男が、AAV7の後方まで、運ばれて来る。
気絶している事から、万屋はこれが皇弟だと察した。
皇弟は余程重いのか、五人がかりで運ばれている。
鎧を着ていないのは、恭順の意思を示した騎士達と同じだが、身に纏っている服は随分異なるものだ。
おそらく、絹だろうが、騎士達と較べると、そのままの格好で居ても、不自然ではない服装だった。
鎧を脱いだ騎士達の格好は質素なもので、下着の様にも見える程、薄着なのだ。
伯爵の情報は、噂程度のものであるが、ひょっとすると運動不足で、鎧を着れないのかもしれない、と万屋は思った。
最初からこの格好なら、納得のいく話だ。
しかし、肥満体とはいえ、結構な巨体である。
二メートルは越えているだろう。
ロープで巻かれているのは、暴れられると困るからだろうか。
主君への振る舞いとは思えないが、噂が事実なら騎士達も、相当苦労させられたのだろう。
心なしか、荷物を運ぶ様に雑な扱いだ。
「まあ、助かるのは事実だな。
その辺に転がしといてくれ」
無事に戦闘が終わったと、確信したのだろう。
万屋の口調は、少し軽くなった。
「隠匿の宝具は何処です?」
万屋の背後から、突然現れたベアトリクスが、男に訊ねた。
万屋が、車外へ出ない様にと伝えた筈だが、安全になったと、勝手に解釈したらしい。
万屋としては、エルフと神聖軍の間に、強い軋轢が存在する事を、艦上で知ったので、戦闘終結後も「捕虜とは関わって欲しくない」というのが、本音だった。
しかし、伯爵はともかく、ベアトリクスやアンジェリカには、それを察する能力が無かった様だ。
「お前達の様な、穢らわしい生き物に、教える義理は無い」
案の定、男の態度は硬化する。
「俺も知りたいのだけど、教えちゃくれないかい?」
この様子では、エルフに任せる訳にはいかないと判断したのか、万屋も問い掛けた。
「む。
実は、先程の戦闘の前に、従軍司教が逃げ出してな。
従軍していた聖騎士達も、いつの間にか居なくなった。
それだけならよいのだ。
だが、連中は隠匿の宝具を、持ち出した。
今は島の反対側に停泊していた、『グロース・リヒト』の、船内にある筈だ。
もっとも、今頃連中は、それを使って逃げているだろう」
男は万屋が相手だと、素直に答えるらしい。
しかし、隠匿の宝具がこの場に無いのでは、あまり意味は無かった。
そんな事は知らずに、男は喋り続ける。
どうやら、先に逃げ出した聖職者達に、不満がある様だ。
「もう、坊主共は信用出来ないな。
聖戦というから、仕方なく参陣したが、とんだ災難だ。
奴等め、女だけでなく男の捕虜まで、独占している。
まあ、あれだけ捕虜を乗せれば、逃げたところで船脚は遅い。
その気になれば、捉える事も可能かもしれないぞ。
隠匿の宝具の効果には、時間制限があるからな」
自己弁護の為か、訊かれていない事を、ペラペラと喋る男だったが、聴き逃せない事を喋った。
「おい!?
まさか、この島で民間人を捕虜にしたのか!?」
万屋の大声に、隊員達がざわつく。
「まさか」
「いやしかし、行方不明者の調査もまだ……」
「有り得ない事でもないのか?」
「だとしたら、大変な話だぞ」
ざわめきが、次第に大きくなっていく。
「落ち着かんかい!」
山田の一喝で、その場は鎮まるが、やはり動揺は隠せない様だ。
気が散って、作業に集中出来ていない様に見える。
「隊長。
ここは、統合幕僚本部と、『いずも』に報告すべきです。
連続しての、指揮系統無視ですが、これはそれだけの価値がある、重要な情報だと思います」
山田は冷静に言うが、その手は震えていた。
山田程の古参でも、動揺を隠し切れないらしい。
「お、お、お、落ち着こう。
そもそも、本当かどうかは、まだ分からない。
島の反対側に、港は無い筈だ。」
山田とは逆に、動揺を隠せない万屋だが、判断力は健在だった。
この男が味方を逃がす為に、嘘を言っている可能性も、少なからずあるのだ。
「嘘ではない!
少し沖に停泊させて、小舟を使って逃げれる様、予め手配したのだ。
万が一に備えて、この私が考えたのだぞ。
一時的な戦力の分散があっても、実行するだけの価値はあったのだ。
主や、坊主共の説得には手間取ったが、我ながら良い策だった。
惜しいのは、主の頭の鈍さと、坊主共の脚の軽さだな。
そこさえ踏まえていれば、逃げ切れたろうに、まったく……」
男は口数が多いのだろう。
無駄に喋る。
だが、万屋小隊のだれもが、それに構っている余裕は無かった。
エルフ達は別として、誰もが冷静さを失っている。
「そうだ!
『いずも』に連絡すれば、捜索してくれるかもしれない!
む、無線機は何処だ!?」
万屋が思い付いた様に、言い出した。
「そうですね。
一刻を争います。
それが最善でしょう」
山田もそれを支持する。
万屋の、慌ただしい日々は、こうして1日目を終えるのだった。
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取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった
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俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。
学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。
だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。
暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。
よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!?
……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい!
そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。
赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。
「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」
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直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。
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――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。
氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!
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氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。
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【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
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※カクヨムにも投稿しています
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