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第二章 西端半島戦役
第二十二話 とある竜騎士の脱出行
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隊長騎が消失した。
正確には木っ端微塵に撃墜された訳だが、とにかく問題は隊長騎がいなくなったという事実だ。
部隊の中央に位置する隊長騎であっても、撃墜される事態は想定されている。
これがただ撃墜されただけなら、副隊長が指揮を継承するだけだ。
隊長の死はそれなりに悲しいが、大きな問題は無かっただろう。
副隊長の指揮の下、統制された行動を維持出来た筈だ。
重要なのは、未知の攻撃を一方的に受けているという、現在の状況だった。
この状況と、隊長騎の被撃墜という事実が組合わさると何が起こるのか?
答えは、部隊の壊走だ。
統制は失われ、士気が崩壊して我先にと逃げ出す。
そして、お世辞にも退却や撤退とは言い難い様な、醜い逃亡劇が始まる。
手振り信号は風の強い上空であっても、僚機と意志疎通を可能にする便利な仕組みだ。
それは間違い無い。
だが、こういった状況での欠点も確かに存在する。
手振り信号の発信は、どうしても悠長になってしまう為、敵に怖じ気付いた際に指示を待ちきれないのだ。
隊長騎が撃墜されるという想定は、確かに存在する。
しかし、竜騎兵以外に撃墜されるというのは、全くの想定外だった。
竜騎兵には竜騎兵を。
他の兵科では撃墜不可能。
それが常識というものだ。
そんな絶対的な常識が崩されたとなれば、怖じ気付くのも当然だろう。
これが竜騎兵同士の戦闘であれば、隊長騎の被撃墜によって多少怯む事はあっても、手振り信号を待てない程に怯む事は無い。
何故なら相手の指示もまた、手振り信号という時間を食う手段だからだ。
つまり、態勢を立て直す時間がある。
この手振り信号の簡略化こそが、竜騎兵運用の命題なのだろう。
何にせよ、俺は自身の乗騎を右旋回させるだけだ。
部隊が壊走した場合、先に逃げる者の方が生存率は高い。
今は唖然としている連中がほとんどだが、状況を理解した者は既に逃げ始めている。
唖然としている愚鈍な連中こそが、混乱を巻き起こすのだ。
逆に言えば、連中が唖然としている間は脱出する事が出来る。
連中を落ち着かせて、整然と退却する事が出来ればそれに越したことはない。
だが、それが簡単に出来るのであれば、そもそも壊走という概念は存在しないだろう。
それ程、困難な事なのだ。
副隊長にそれが出来るとは思えない。
だから逃げる。
こうなると、逃げる以外に生き延びる方法が無いからだ。
俺が生粋の貴族であれば、また違う選択をしたかもしれない。
貴族らしく、正面からあの対象に突っ込んで、被撃墜とは名ばかりの肉片となる道を選んだ可能性は、充分にある。
あるいは、律儀に副隊長の指示を待って、味方の壊走に巻き込まれるという選択もあったろう。
だが、俺は竜騎兵に憧れたのであって、貴族に憧れたのではない。
何せ領地経営に興味は無いし、功績を積もうという気も無ければ、名声欲の類いも無いぐらいだ。
貴族らしさを求めて無駄に死ぬつもりは、毛頭無かった。
農奴よりはマシだが、最下層の庶民出らしく生き延びるつもりだ。
竜に乗り続ける為に、手段を選んでいる余裕は無い。
極端な話、竜の事以外どうでもいいと思っている。
もちろん、それは養子入りの時にも確認した話だ。
庶民出と思って、嘗めていたのだろう。
養父母は、竜騎士になれたらという条件で、アッサリと承諾してくれた。
実際に竜騎士となった以上、誰にも文句は言わせない。
文句が出ると分かっていてもだ。
まあ、最悪何を言われようと聞き流す。
ドゴーン
ドゴーン
もう何度目かになる衝撃が、俺を現実に引き戻した。
側面鏡で爆散した位置を見る限りだと、どうやら対象へ突撃をかました馬鹿がやられたらしい。
壊走の際には混乱が生じるものだが、恐怖を紛らわす為に前進する者もいるのか。
正直、俺の予想を越えていた。
整然と突撃するならともかく、これは酷過ぎる。
俺の価値観でも馬鹿らしく見えるが、貴族社会で言うところの『名誉ある討死』とも言えないだろう。
ここまで酷いと哀れみすら感じない。
一周回って感心はするが、それだけだ。
それでも馬鹿のおかげで一つ分かった事がある。
最早、対象が自然現象では無く、敵対的な何者かである事は明白だ。
しかし、それと同時に敵は積極的な攻撃を行わないという事が、確信を持って分かった。
向かって行った馬鹿は、容赦無く叩き落とされたものの、俺を含めて逃げる者は無傷だ。
おそらく、何らかの目的はあるのだろうが、その邪魔さえしなければ向こうから手出しはしないという事だろう。
その何らかの目的が、帝国にとって不利益である可能性もあるが、ここは放置するのが正しいだろうと思える。
少なくとも、逃げる為の大義名分として言える位には正しい。
問題は、現状を上手く伝えられるかどうかだ。
臆病者扱いそのものはいい。
竜騎士でいられるのなら、評判など気にはならないからだ。
だが、臆病者扱いにより竜騎兵として不適格とされるのは、非常に困る。
竜に乗る事は、最早俺の存在意義だ。
今さら降ろされるのは、堪えられない。
最悪の事態を避ける為には、『退却は仕方がなかったのだ』という、言い訳が必要になる。
口裏を合わせる必要があるな。
こんな時、庶民出は『真っ先に逃げた』だの、『あいつが逃げたので自分も逃げた』だのと、責任を擦り付けられる事が多い。
まともなヤツも居なくはないが、大抵の場合は隙あらば追い落とすというのが、基本姿勢だ。
都合によっては、何かしらの協力関係を築く事もあるが、その都合が済んだら関係も解消される。
最初から対等な関係のつもりは無いのだろう。
どうやら連中は庶民出の事を、都合の良い時に利用するだけの、駒としか思っていないらしい。
俺は何度か痛い目を見てから、連中との取引では先払いを求めると決めている。
これで、おかしな連中の大半は寄って来なくなった。
それから、契約の明文化だな。
これがあると、後ろめたい事を求められなくなる。
後ろめたい事を求める連中は、特に庶民出を駒扱いするので、これは良かった。
どうにもそういう連中は、庶民を一纏めに認識しているらしいので厄介だ。
中途半端に、後ろめたい仕事をする庶民を知っているからこそ、面倒な誤解をしているのだろう。
迷惑極まりない話だ。
そりゃあ、裏社会やスラムの連中なら、餌をぶら下げるだけで何でもやるだろう。
強者には決して逆らわないから、支払いを惚けても文句の一つも言わずに擦り寄って来る様な、どうしようもない連中だ。
それを見て践ましさを感じるのも、当然だろう。
だが、俺としてもそいつ等と区別がつかない程、践ましい振る舞いをしたつもりは無い。
後発な分、連中よりも努力している。
伊達に、厳しく躾られた訳じゃ無いんだ。
そうなると、やはり連中の目が節穴なのだろうな。
ふと、連中への恨めしい気持ちが溢れ出す。
出来る事なら、全員を口封じしたいところだ。
しかし、それをやってしまうとそれはそれで、面倒な事になるだろう。
ただでさえ『うちの跡取りを見捨てて』云々、『弟が』云々『甥が』云々と、騒ぎ出す連中は必ず居る。
そういう連中を増やしたくはない。
万が一、全員殺し切るのに失敗した場合も大変だろう。
もちろん、証言だけではどうにもならない。
煩いだけなら耳を塞ぐが、こうなると恨まれるは面倒だ。
これから先の人生にも、影響を引き摺りたくはない。
嫌がらせどころか、暗殺者を仕向けられる可能性だってある。
いや、確実に殺されると観て間違い無いだろう。
それは避けたい。
見捨てたくなる気持ちは、どうにかして抑えなければ。
ドゴーン
ドゴーン
ドゴーン
俺が嫌な経験を思い出して、感傷に浸っていると連続して衝撃が響く。
「馬鹿なっ!?」
自身の声が聞こえないと分かっていても、叫ばずにはいられなかった。
絶望的な衝撃波だ。
そして、それは尚も続く。
攻撃が終わったのだと思い込んでいたからか、余計にそう感じる様だ。
敵は最初から、攻撃を中断する事で此方を安心させてから再度攻撃し、俺達の心を折るつもりだったのだろう。
質の悪い連中だ。
圧倒しているのだから、態々そんな事をしなくてもいいだろうに。
側面鏡を見ると、辛うじて統制されていた筈の部隊が、完全に散り散りとなっていた。
これは壊走したと観て間違い無いだろう。
まあ、俺と目端の利く何騎かが勝手に逃げた時点で、壊走しつつあったという考え方もあるだろうが、そこには目を瞑って置く。
それにしても、恐ろしい事に敵の攻撃手段が未だ分からない。
これでは、生き延びて情報を持ち帰ったとしても、対抗策を考える事は難しいだろう。
何度か目にした筈だが、どう観ても竜が突然爆発した様にしか見えない。
一つだけ言えるのは、敵が狙いを外さないという事だけだ。
壊走しつつある俺達だが、上手く回避しようとしている連中もいる。
混乱しているヤツは、ただ真っ直ぐに敵から離れようとしているから、落とされるのも当然だ。
直進する竜など、敵にしてみれば良い的だろう。
だが、落ち着いて回避行動を取っている連中まで、簡単に落とされている。
これには、恐怖を通り越して理不尽さを感じた。
側面鏡でしか見ていない為、正確な事は言えないのだが、それでも結構な急機動を行っているかどうかは分かる。
急上昇や急降下、急加速や急減速と様々な機動が行われているが、結果は同じだ。
今までの訓練を嘲笑うかの様に、技量の良し悪し関係無く平等に次々と落とされていく。
理不尽極まりない。
そう思った瞬間、頭にカーッと血が上る。
気が付くと俺は乗騎を反転させていた。
らしくないと自分でも思う。
何がしたいのかも分からない。
ただ、絶対に敵わない相手に「せめて一矢報いたい」という、騎士らしい感情が急に湧き出たのか。
それとも死を悟ったのか。
訳の分からない感情だった。
生き汚さを誇る様に生きてきたのに、今さら騎士道精神に目覚めたとでもいうのか?
不合理だと馬鹿にしていた連中の真似を、他ならぬ俺がするというのは予想を遥かに越えている。
馬鹿げている。
そう思っても、乗騎の向きを変える事はしない。
恐怖のあまり、狂ってしまったのだろうか。
だが、意外な事に嫌な感じは全くしない。
むしろ清々しさを感じる程だ。
今日は予想外の事が多い。
そんな事を考えているうちに、敵と判断した空飛ぶ箱が目の前に迫った。
回避しようとしているが、逃がしはしない。
側面鏡を見ると僚騎は壊滅している。
だが、俺の乗騎への攻撃は皆無だ。
ああ、近付けば良かったのか。
敵の驚いた顔を近くに見ながら、俺はそう思った。
正確には木っ端微塵に撃墜された訳だが、とにかく問題は隊長騎がいなくなったという事実だ。
部隊の中央に位置する隊長騎であっても、撃墜される事態は想定されている。
これがただ撃墜されただけなら、副隊長が指揮を継承するだけだ。
隊長の死はそれなりに悲しいが、大きな問題は無かっただろう。
副隊長の指揮の下、統制された行動を維持出来た筈だ。
重要なのは、未知の攻撃を一方的に受けているという、現在の状況だった。
この状況と、隊長騎の被撃墜という事実が組合わさると何が起こるのか?
答えは、部隊の壊走だ。
統制は失われ、士気が崩壊して我先にと逃げ出す。
そして、お世辞にも退却や撤退とは言い難い様な、醜い逃亡劇が始まる。
手振り信号は風の強い上空であっても、僚機と意志疎通を可能にする便利な仕組みだ。
それは間違い無い。
だが、こういった状況での欠点も確かに存在する。
手振り信号の発信は、どうしても悠長になってしまう為、敵に怖じ気付いた際に指示を待ちきれないのだ。
隊長騎が撃墜されるという想定は、確かに存在する。
しかし、竜騎兵以外に撃墜されるというのは、全くの想定外だった。
竜騎兵には竜騎兵を。
他の兵科では撃墜不可能。
それが常識というものだ。
そんな絶対的な常識が崩されたとなれば、怖じ気付くのも当然だろう。
これが竜騎兵同士の戦闘であれば、隊長騎の被撃墜によって多少怯む事はあっても、手振り信号を待てない程に怯む事は無い。
何故なら相手の指示もまた、手振り信号という時間を食う手段だからだ。
つまり、態勢を立て直す時間がある。
この手振り信号の簡略化こそが、竜騎兵運用の命題なのだろう。
何にせよ、俺は自身の乗騎を右旋回させるだけだ。
部隊が壊走した場合、先に逃げる者の方が生存率は高い。
今は唖然としている連中がほとんどだが、状況を理解した者は既に逃げ始めている。
唖然としている愚鈍な連中こそが、混乱を巻き起こすのだ。
逆に言えば、連中が唖然としている間は脱出する事が出来る。
連中を落ち着かせて、整然と退却する事が出来ればそれに越したことはない。
だが、それが簡単に出来るのであれば、そもそも壊走という概念は存在しないだろう。
それ程、困難な事なのだ。
副隊長にそれが出来るとは思えない。
だから逃げる。
こうなると、逃げる以外に生き延びる方法が無いからだ。
俺が生粋の貴族であれば、また違う選択をしたかもしれない。
貴族らしく、正面からあの対象に突っ込んで、被撃墜とは名ばかりの肉片となる道を選んだ可能性は、充分にある。
あるいは、律儀に副隊長の指示を待って、味方の壊走に巻き込まれるという選択もあったろう。
だが、俺は竜騎兵に憧れたのであって、貴族に憧れたのではない。
何せ領地経営に興味は無いし、功績を積もうという気も無ければ、名声欲の類いも無いぐらいだ。
貴族らしさを求めて無駄に死ぬつもりは、毛頭無かった。
農奴よりはマシだが、最下層の庶民出らしく生き延びるつもりだ。
竜に乗り続ける為に、手段を選んでいる余裕は無い。
極端な話、竜の事以外どうでもいいと思っている。
もちろん、それは養子入りの時にも確認した話だ。
庶民出と思って、嘗めていたのだろう。
養父母は、竜騎士になれたらという条件で、アッサリと承諾してくれた。
実際に竜騎士となった以上、誰にも文句は言わせない。
文句が出ると分かっていてもだ。
まあ、最悪何を言われようと聞き流す。
ドゴーン
ドゴーン
もう何度目かになる衝撃が、俺を現実に引き戻した。
側面鏡で爆散した位置を見る限りだと、どうやら対象へ突撃をかました馬鹿がやられたらしい。
壊走の際には混乱が生じるものだが、恐怖を紛らわす為に前進する者もいるのか。
正直、俺の予想を越えていた。
整然と突撃するならともかく、これは酷過ぎる。
俺の価値観でも馬鹿らしく見えるが、貴族社会で言うところの『名誉ある討死』とも言えないだろう。
ここまで酷いと哀れみすら感じない。
一周回って感心はするが、それだけだ。
それでも馬鹿のおかげで一つ分かった事がある。
最早、対象が自然現象では無く、敵対的な何者かである事は明白だ。
しかし、それと同時に敵は積極的な攻撃を行わないという事が、確信を持って分かった。
向かって行った馬鹿は、容赦無く叩き落とされたものの、俺を含めて逃げる者は無傷だ。
おそらく、何らかの目的はあるのだろうが、その邪魔さえしなければ向こうから手出しはしないという事だろう。
その何らかの目的が、帝国にとって不利益である可能性もあるが、ここは放置するのが正しいだろうと思える。
少なくとも、逃げる為の大義名分として言える位には正しい。
問題は、現状を上手く伝えられるかどうかだ。
臆病者扱いそのものはいい。
竜騎士でいられるのなら、評判など気にはならないからだ。
だが、臆病者扱いにより竜騎兵として不適格とされるのは、非常に困る。
竜に乗る事は、最早俺の存在意義だ。
今さら降ろされるのは、堪えられない。
最悪の事態を避ける為には、『退却は仕方がなかったのだ』という、言い訳が必要になる。
口裏を合わせる必要があるな。
こんな時、庶民出は『真っ先に逃げた』だの、『あいつが逃げたので自分も逃げた』だのと、責任を擦り付けられる事が多い。
まともなヤツも居なくはないが、大抵の場合は隙あらば追い落とすというのが、基本姿勢だ。
都合によっては、何かしらの協力関係を築く事もあるが、その都合が済んだら関係も解消される。
最初から対等な関係のつもりは無いのだろう。
どうやら連中は庶民出の事を、都合の良い時に利用するだけの、駒としか思っていないらしい。
俺は何度か痛い目を見てから、連中との取引では先払いを求めると決めている。
これで、おかしな連中の大半は寄って来なくなった。
それから、契約の明文化だな。
これがあると、後ろめたい事を求められなくなる。
後ろめたい事を求める連中は、特に庶民出を駒扱いするので、これは良かった。
どうにもそういう連中は、庶民を一纏めに認識しているらしいので厄介だ。
中途半端に、後ろめたい仕事をする庶民を知っているからこそ、面倒な誤解をしているのだろう。
迷惑極まりない話だ。
そりゃあ、裏社会やスラムの連中なら、餌をぶら下げるだけで何でもやるだろう。
強者には決して逆らわないから、支払いを惚けても文句の一つも言わずに擦り寄って来る様な、どうしようもない連中だ。
それを見て践ましさを感じるのも、当然だろう。
だが、俺としてもそいつ等と区別がつかない程、践ましい振る舞いをしたつもりは無い。
後発な分、連中よりも努力している。
伊達に、厳しく躾られた訳じゃ無いんだ。
そうなると、やはり連中の目が節穴なのだろうな。
ふと、連中への恨めしい気持ちが溢れ出す。
出来る事なら、全員を口封じしたいところだ。
しかし、それをやってしまうとそれはそれで、面倒な事になるだろう。
ただでさえ『うちの跡取りを見捨てて』云々、『弟が』云々『甥が』云々と、騒ぎ出す連中は必ず居る。
そういう連中を増やしたくはない。
万が一、全員殺し切るのに失敗した場合も大変だろう。
もちろん、証言だけではどうにもならない。
煩いだけなら耳を塞ぐが、こうなると恨まれるは面倒だ。
これから先の人生にも、影響を引き摺りたくはない。
嫌がらせどころか、暗殺者を仕向けられる可能性だってある。
いや、確実に殺されると観て間違い無いだろう。
それは避けたい。
見捨てたくなる気持ちは、どうにかして抑えなければ。
ドゴーン
ドゴーン
ドゴーン
俺が嫌な経験を思い出して、感傷に浸っていると連続して衝撃が響く。
「馬鹿なっ!?」
自身の声が聞こえないと分かっていても、叫ばずにはいられなかった。
絶望的な衝撃波だ。
そして、それは尚も続く。
攻撃が終わったのだと思い込んでいたからか、余計にそう感じる様だ。
敵は最初から、攻撃を中断する事で此方を安心させてから再度攻撃し、俺達の心を折るつもりだったのだろう。
質の悪い連中だ。
圧倒しているのだから、態々そんな事をしなくてもいいだろうに。
側面鏡を見ると、辛うじて統制されていた筈の部隊が、完全に散り散りとなっていた。
これは壊走したと観て間違い無いだろう。
まあ、俺と目端の利く何騎かが勝手に逃げた時点で、壊走しつつあったという考え方もあるだろうが、そこには目を瞑って置く。
それにしても、恐ろしい事に敵の攻撃手段が未だ分からない。
これでは、生き延びて情報を持ち帰ったとしても、対抗策を考える事は難しいだろう。
何度か目にした筈だが、どう観ても竜が突然爆発した様にしか見えない。
一つだけ言えるのは、敵が狙いを外さないという事だけだ。
壊走しつつある俺達だが、上手く回避しようとしている連中もいる。
混乱しているヤツは、ただ真っ直ぐに敵から離れようとしているから、落とされるのも当然だ。
直進する竜など、敵にしてみれば良い的だろう。
だが、落ち着いて回避行動を取っている連中まで、簡単に落とされている。
これには、恐怖を通り越して理不尽さを感じた。
側面鏡でしか見ていない為、正確な事は言えないのだが、それでも結構な急機動を行っているかどうかは分かる。
急上昇や急降下、急加速や急減速と様々な機動が行われているが、結果は同じだ。
今までの訓練を嘲笑うかの様に、技量の良し悪し関係無く平等に次々と落とされていく。
理不尽極まりない。
そう思った瞬間、頭にカーッと血が上る。
気が付くと俺は乗騎を反転させていた。
らしくないと自分でも思う。
何がしたいのかも分からない。
ただ、絶対に敵わない相手に「せめて一矢報いたい」という、騎士らしい感情が急に湧き出たのか。
それとも死を悟ったのか。
訳の分からない感情だった。
生き汚さを誇る様に生きてきたのに、今さら騎士道精神に目覚めたとでもいうのか?
不合理だと馬鹿にしていた連中の真似を、他ならぬ俺がするというのは予想を遥かに越えている。
馬鹿げている。
そう思っても、乗騎の向きを変える事はしない。
恐怖のあまり、狂ってしまったのだろうか。
だが、意外な事に嫌な感じは全くしない。
むしろ清々しさを感じる程だ。
今日は予想外の事が多い。
そんな事を考えているうちに、敵と判断した空飛ぶ箱が目の前に迫った。
回避しようとしているが、逃がしはしない。
側面鏡を見ると僚騎は壊滅している。
だが、俺の乗騎への攻撃は皆無だ。
ああ、近付けば良かったのか。
敵の驚いた顔を近くに見ながら、俺はそう思った。
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これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
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