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第一章 小笠原事変
第十四話 現地情勢と歴史的経緯(中編)
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「さて、そうは言っても、某は何処から話しますか……
これ以上、大陸史を掘り下げても、あまり意味はありませんしなぁ……
軍事協力体制の話をしましょうか。
それから、各国の話に移るのが無難でしょうな」
ベアトリクスの後を引き継いだ伯爵は、そう前置きしてから、話を始める。
第一次神聖軍の侵攻以来、断続的に戦争が続いている情勢下、西方大陸は強い結び付きを必要とした。
そしてその答えは、第二次神聖軍との戦争の最中、『多種族連盟』という形で、導き出されたのである。
そして今現在も、西方大陸の諸国と諸部族全ては、『多種族連盟』に参加しているとの事だった。
連盟は四百年前の、神聖軍による西方大陸侵攻、俗に言う第二次神聖軍遠征に対抗する、と言う名目で西天津国主導の下に結成された、純粋な軍事同盟である。
本来ならば、西端半島を制した時点で、解消されてもおかしくは無いだろう。
しかし、西方大陸での神聖軍の蛮行が、あまりにも酷かった為、神聖軍を中央大陸に押し返した後も、条約を更新し続けているという事だった。
(地球の十字軍は、善意で住民を切り刻んだらしいしなぁ。
危機感持って当然か)
万屋は、あくまで他人事として聴いている。
万屋の立場では、むしろ感情移入する方が難しいだろう。
もちろん、平時が長く続く事で、分裂の危機もあったと言う話だが、連盟は奇跡的にこれまで存続している。
これには、神殿が主導している、と言う大きな理由があったが、それにしても長期の同盟だと言えよう。
現在の連盟軍は、主力を西端半島に配備している。
その構成は、各国が二年交代で派遣する駐留軍や、在地貴族の私兵、各村を守る義勇兵との事だ。
そして、いざという時には他の各国が援軍を送る、という制度を採っているとの事だった。
一応、西天津国の領土とされているが、少なくとも最前線に当たる、城塞都市『シドン』や『ティルス』等は、事実上の共同統治状態が、続いている。
(軍制度に関して、ここまで話すって事は、日本を中立にさせる気は無いんだろうな。
引き込む気満々だ)
万屋はそう思ったが、困るのはお偉方と考え直す。
実際、万屋が直接的に困る事には、まずならないだろう。
一方、万屋とは違い、山田は何かを考えている様だ。
万屋には分からない何かを、察したのであろう。
万屋は、後で訊けると思い、気にしない事とした。
連盟の様な組織が成立すれば、中央大陸側の諸国も、同様に団結するのが必然である。
『聖十字条約機構』と呼ばれるその組織は、中央大陸諸国が聖十字教の法主という権威の下、軍事的指揮系統を統一する為のものであった。
そういう意味で言えば、連盟よりも一歩踏み込んだ組織なのだろう。
結成は、『多種族連盟』と同時期であり、西端半島を喪失した第二次神聖軍遠征の後である。
正確には、西端半島の喪失と連盟の成立が、引き金となって結成された、と言うべきだろう。
その最終目標は、あくまでも西方大陸の教化、布教と強気に設定されている。
しかし、中央大陸の防衛と、西端半島の回復を目的としている事は、公然の秘密であった。
加盟国は戦争の際に法主の号令で集結し、神聖皇帝の指揮下で行動する事が、義務付けられている。
しかし、近年は教国内での宗教論争から、結束が乱れつつあるとの事だった。
(隊長、少しおかしくありませんか?)
伯爵がここまで話終えると、山田が万屋に小声で話し掛けた。
余程慌てているのだろう。
恐ろしい程失礼な振る舞いだが、伯爵は気にしなかった。
厳密には、小声を聞き取ろうと、意識を集中している。
(何がおかしい?)
(連盟や、条約機構という概念です。
文明の度合いと、不釣り合いではありませんか?)
万屋は呆れた様に、溜め息を吐いた。
(あのねぇ。
ここはあくまでも異世界だよ。
ズレが無い方がおかしいだろう
魔法とかある世界で、そんな事を気にしたら、切りが無い。
割り切って、報告するしかないだろう)
万屋は呆れつつも、何処か嬉しそうにそう言った。
普段は、フォローされてばかりなのだ。
逆の立場に、浮かれているのだろう。
「話を続けてよろしいですかな?」
そのタイミングで、伯爵が声を掛ける。
ちなみに、この状況なら真っ先に、騒ぎ出しそうなアンジェリカは、話が難しかったのか、居眠りをしていた。
「し、失礼致しました」
山田は落ち着いたのか、自分の振る舞いに気付いた様だ。
顔を真っ青にして席を立ち上がり、九十度近く頭を下げている。
ただし、まだ気になっているのか、表情は腑に落ちない、という様子のままだ。
「いや、お気になさらず。
そういう事もありましょう」
伯爵はそう言ってから、話を続けた。
中央大陸には、人族以外の国家は存在しない。
これは、聖十字教会の主流派が、人族至上主義である事が原因との事だ。
ちなみに、多種族(当然と言うべきか、魔族は除く)間の平等を唱える派閥は、原理主義である。
現在の法主こそ原理主義派であるが、聖十字教会全体では少数派であり、この争いによって教会の動きは鈍っていた。
故に、隠れ里があるならともかくも、基本的に人族以外の種族は、奴隷という扱いを受けている。
さらには、同じ奴隷でも人族の奴隷とは、異なる扱いを受けるとの事だ。
例えば人族の奴隷は、債務奴隷や犯罪奴隷と呼ばれ、何かあっても傷害罪や殺人罪の範疇であるが、異種族はあくまでも、器物の損壊という扱いを受ける。
そして、債務奴隷や犯罪奴隷とは、決定的に異なる点は、終わりが無い事だ。
債務奴隷ならば借金の返済、犯罪奴隷ならば刑期の終了や恩赦等、奴隷という立場から脱け出せる。
しかし、異種族奴隷は違う。
亡命に成功さえすれば、西天津国領内に土地を与えられ、人並みの生活も可能であるが、その成功率は低い。
彼等は、奴隷のまま一生を終える他無いのだ。
それが中央大陸の現状である。
(人権団体とか、騒ぐだろうなぁ)
万屋は溜め息を吐いた。
こういう場合、非難されるべきは、中央大陸各国なのであるが、下手をすると何故か日本政府にまで飛び火する、と言う事もあるのだ。
極めて理不尽な話である。
もっとも、伯爵が大袈裟に言っている可能性も、否定は出来ないだろう。
同情を誘うというのは、なかなか効果的な手段なのだ。
あり得ない話でもない。
アメリカ人なら、今の話で間違い無く参戦するだろう。
伯爵の予想が、どの程度のものかは分からないが、日本人でも少なからず影響を受ける筈だ。
さて、伯爵の真意はともかく、一方の西方大陸でも、実は大差無い制度が敷かれている。
やはり、債務奴隷や犯罪奴隷以外の奴隷が、一定数存在するのだ。
捕虜奴隷である。
中央大陸側が全く交渉に応じない(一方的な通告はするのだが)為、捕虜を交換出来ないと言う、西方大陸の基準では至極真っ当な理由はあるのだ。
しかし、日本人の基準ではどっちもどっちである。
(余計な事を喋らないで欲しい)
万屋は頭を抱えながら、そう思った。
知った以上は報告すべきなのだが、そうなると知っていた政府も、人権団体からの批判に晒されるのだ。
知らなければ、知らなかったで済む話である。
もちろん、万屋が報告しなければ済む話であるが、それだけ器用ならもっと楽に生きられるだろう。
しかし、残念な事に万屋は、非常に不器用な男だった。
もちろん、本人も自覚はしているが、治せるぐらいなら、それは不器用とは呼ばないだろう。
治せないからこそ、不器用なのだ。
万屋を置いて、話は各国とその軍備の話へと進んでいく。
万屋の事情等、伯爵の知った事では無いのだ。
ハイエルフ王国の正式名称は、『エルフ森林連合王国』と言う。
ハイエルフ王国という呼び方は、国際的に定着している呼び方であるが、自ら名乗った事は無いらしい。
西方大陸東部の内陸に位置する大森林地帯を、主な国土とする国という話だ。
大森林地帯の中心には湖が、さらにその中心には島があり、統治者たるハイエルフは、精霊の恩恵を受け易い様にと言う理由で、滅多に島から出る事が無く、神官に近い存在らしい。
ただし王族の役割は、他のハイエルフと異なり、戦争を指揮する事とされているので、ベアトリクスの様に前線に出る事もある。
その為王族は、唯一島を出入りする事の多い存在となった。
住人の多くは、大森林地帯に住むエルフであり、一部山岳地帯にダークエルフの集落も存在する。
ハイエルフは、精霊が俗世を嫌うという迷信から、政治に干渉する事が少ない。
政体は事実上の部族連合である。
その為、王国とは名ばかりであり、基本的に族長会議での合議制となっている。
王族は、戦争を指揮する為に、非常時のみ独裁権を持ち、判断を下す。
軍備はほとんどが長弓兵や魔法兵であり、ダークエルフのみが、夜襲やゲリラ戦を得意とする軽装歩兵を構成する。
総戦力は十万人程であるが、大森林地帯での防衛戦となると、ほぼ全ての国民が動員されるとの事だ。
そして、エルフは基本的に弓が得意である為、全国民百二十万人のほぼ全てが、他国のベテランの弓兵に相当する、と言われている。
「軍備の話等なさって、大丈夫なのですか?」
万屋が心配して、声を掛けた。
「少し調べれば解る程度の話です。
貴国に無駄な隠し事をするよりは、正直に話した方が良いと思いましてな。
余計な事でしたか?」
「いえいえ、そんな事はありませんよ」
万屋はそう言ってから、続きを促した。
歴史や『勇者』絡みの話で、何度も出てきた『ジン朝西天津国』は、約400年前に突然現れた、太祖サキノウダイ・ジンによって建国された国である。
サキノウダイの功績としては、神託を受けたイザナギ神殿からの支援の下、新兵器ティネガーシマの開発、量産化に成功しただけではない。
建国から僅か二年で、西方大陸西部を統一し、西方大陸東部に侵攻中の神聖軍を撃破した上に、中央大陸への逆上陸を敢行、西端半島をも手中に収めたのである。
しかし、戦争中に袂を分かったイザナギ神殿、激しく抵抗する聖十字教会への、徹底した焼き討ちや、生きながらにして自身を崇めさせようとした事から、他国からの評価は低い。
現在のジン朝は神道と共存つつも、太祖を主神とするデロークテンマー派を、国教としており、デロークテンマー神殿には、王族から大神官を輩出している。
軍事力は常備軍のみで、ティネガーシマを装備したティボー・アシガーレ兵を中心に、約三十万程保持しているが、アシガーレの全ては屯田兵の模様。
屯田兵である理由は、海上交易が沿岸部のみである以上、交易による利益が見込めないからである。
そういった、交易による利権が小さい以上、交易よりも開墾等を優先すべき、と言う判断があったのだろう。
常備軍を欲したものの、このままではそれを維持出来ない。
サキノウダイは、その事を充分に理解していたのだろう。
親子二代で、津港の莫大な利益を得たが、その様な好条件は滅多にない、という事に気付いたのである。
その為、純粋な常備軍を諦め、平時に職業を持つ屯田兵制度を、考案したのだ。
アシガーレは、平時には常に最新の開拓地で開墾を行う。
そして、退役後はその土地が自分のものとなるのだ。
故に、農家を中心に各地から、次男以下の若者が殺到する職業となっている。
アシガーレの長男は農地を継いで農民となるが、場合によってはその近くで、次男がアシガーレとなる事も、多々ある様だ。
騎士階級の兵は、キヴァ・ティボーと呼ばれ、小型のティネガーシマを装備している。
鎧は軽装備であり、地球の龍騎兵に近い。
西天津国は、これらの他にもヲーヅツ隊等、多数の兵科を保持している。
海軍の方は、タルターニャ海軍の次に強いと言われており、主力であるヲーヅツを搭載した、ティコーゼンと呼ばれる鉄張りの船は、数さえ揃えばタルターニャ海軍と互角に戦う事が可能との事だ。
屯田兵制度によって農地、人口共に未だ増加を続けており、現在の人口は六百万程である。
そして、何より日本に都合の良い事があった。
それは、西天津国の食料生産量である。
これ以上、大陸史を掘り下げても、あまり意味はありませんしなぁ……
軍事協力体制の話をしましょうか。
それから、各国の話に移るのが無難でしょうな」
ベアトリクスの後を引き継いだ伯爵は、そう前置きしてから、話を始める。
第一次神聖軍の侵攻以来、断続的に戦争が続いている情勢下、西方大陸は強い結び付きを必要とした。
そしてその答えは、第二次神聖軍との戦争の最中、『多種族連盟』という形で、導き出されたのである。
そして今現在も、西方大陸の諸国と諸部族全ては、『多種族連盟』に参加しているとの事だった。
連盟は四百年前の、神聖軍による西方大陸侵攻、俗に言う第二次神聖軍遠征に対抗する、と言う名目で西天津国主導の下に結成された、純粋な軍事同盟である。
本来ならば、西端半島を制した時点で、解消されてもおかしくは無いだろう。
しかし、西方大陸での神聖軍の蛮行が、あまりにも酷かった為、神聖軍を中央大陸に押し返した後も、条約を更新し続けているという事だった。
(地球の十字軍は、善意で住民を切り刻んだらしいしなぁ。
危機感持って当然か)
万屋は、あくまで他人事として聴いている。
万屋の立場では、むしろ感情移入する方が難しいだろう。
もちろん、平時が長く続く事で、分裂の危機もあったと言う話だが、連盟は奇跡的にこれまで存続している。
これには、神殿が主導している、と言う大きな理由があったが、それにしても長期の同盟だと言えよう。
現在の連盟軍は、主力を西端半島に配備している。
その構成は、各国が二年交代で派遣する駐留軍や、在地貴族の私兵、各村を守る義勇兵との事だ。
そして、いざという時には他の各国が援軍を送る、という制度を採っているとの事だった。
一応、西天津国の領土とされているが、少なくとも最前線に当たる、城塞都市『シドン』や『ティルス』等は、事実上の共同統治状態が、続いている。
(軍制度に関して、ここまで話すって事は、日本を中立にさせる気は無いんだろうな。
引き込む気満々だ)
万屋はそう思ったが、困るのはお偉方と考え直す。
実際、万屋が直接的に困る事には、まずならないだろう。
一方、万屋とは違い、山田は何かを考えている様だ。
万屋には分からない何かを、察したのであろう。
万屋は、後で訊けると思い、気にしない事とした。
連盟の様な組織が成立すれば、中央大陸側の諸国も、同様に団結するのが必然である。
『聖十字条約機構』と呼ばれるその組織は、中央大陸諸国が聖十字教の法主という権威の下、軍事的指揮系統を統一する為のものであった。
そういう意味で言えば、連盟よりも一歩踏み込んだ組織なのだろう。
結成は、『多種族連盟』と同時期であり、西端半島を喪失した第二次神聖軍遠征の後である。
正確には、西端半島の喪失と連盟の成立が、引き金となって結成された、と言うべきだろう。
その最終目標は、あくまでも西方大陸の教化、布教と強気に設定されている。
しかし、中央大陸の防衛と、西端半島の回復を目的としている事は、公然の秘密であった。
加盟国は戦争の際に法主の号令で集結し、神聖皇帝の指揮下で行動する事が、義務付けられている。
しかし、近年は教国内での宗教論争から、結束が乱れつつあるとの事だった。
(隊長、少しおかしくありませんか?)
伯爵がここまで話終えると、山田が万屋に小声で話し掛けた。
余程慌てているのだろう。
恐ろしい程失礼な振る舞いだが、伯爵は気にしなかった。
厳密には、小声を聞き取ろうと、意識を集中している。
(何がおかしい?)
(連盟や、条約機構という概念です。
文明の度合いと、不釣り合いではありませんか?)
万屋は呆れた様に、溜め息を吐いた。
(あのねぇ。
ここはあくまでも異世界だよ。
ズレが無い方がおかしいだろう
魔法とかある世界で、そんな事を気にしたら、切りが無い。
割り切って、報告するしかないだろう)
万屋は呆れつつも、何処か嬉しそうにそう言った。
普段は、フォローされてばかりなのだ。
逆の立場に、浮かれているのだろう。
「話を続けてよろしいですかな?」
そのタイミングで、伯爵が声を掛ける。
ちなみに、この状況なら真っ先に、騒ぎ出しそうなアンジェリカは、話が難しかったのか、居眠りをしていた。
「し、失礼致しました」
山田は落ち着いたのか、自分の振る舞いに気付いた様だ。
顔を真っ青にして席を立ち上がり、九十度近く頭を下げている。
ただし、まだ気になっているのか、表情は腑に落ちない、という様子のままだ。
「いや、お気になさらず。
そういう事もありましょう」
伯爵はそう言ってから、話を続けた。
中央大陸には、人族以外の国家は存在しない。
これは、聖十字教会の主流派が、人族至上主義である事が原因との事だ。
ちなみに、多種族(当然と言うべきか、魔族は除く)間の平等を唱える派閥は、原理主義である。
現在の法主こそ原理主義派であるが、聖十字教会全体では少数派であり、この争いによって教会の動きは鈍っていた。
故に、隠れ里があるならともかくも、基本的に人族以外の種族は、奴隷という扱いを受けている。
さらには、同じ奴隷でも人族の奴隷とは、異なる扱いを受けるとの事だ。
例えば人族の奴隷は、債務奴隷や犯罪奴隷と呼ばれ、何かあっても傷害罪や殺人罪の範疇であるが、異種族はあくまでも、器物の損壊という扱いを受ける。
そして、債務奴隷や犯罪奴隷とは、決定的に異なる点は、終わりが無い事だ。
債務奴隷ならば借金の返済、犯罪奴隷ならば刑期の終了や恩赦等、奴隷という立場から脱け出せる。
しかし、異種族奴隷は違う。
亡命に成功さえすれば、西天津国領内に土地を与えられ、人並みの生活も可能であるが、その成功率は低い。
彼等は、奴隷のまま一生を終える他無いのだ。
それが中央大陸の現状である。
(人権団体とか、騒ぐだろうなぁ)
万屋は溜め息を吐いた。
こういう場合、非難されるべきは、中央大陸各国なのであるが、下手をすると何故か日本政府にまで飛び火する、と言う事もあるのだ。
極めて理不尽な話である。
もっとも、伯爵が大袈裟に言っている可能性も、否定は出来ないだろう。
同情を誘うというのは、なかなか効果的な手段なのだ。
あり得ない話でもない。
アメリカ人なら、今の話で間違い無く参戦するだろう。
伯爵の予想が、どの程度のものかは分からないが、日本人でも少なからず影響を受ける筈だ。
さて、伯爵の真意はともかく、一方の西方大陸でも、実は大差無い制度が敷かれている。
やはり、債務奴隷や犯罪奴隷以外の奴隷が、一定数存在するのだ。
捕虜奴隷である。
中央大陸側が全く交渉に応じない(一方的な通告はするのだが)為、捕虜を交換出来ないと言う、西方大陸の基準では至極真っ当な理由はあるのだ。
しかし、日本人の基準ではどっちもどっちである。
(余計な事を喋らないで欲しい)
万屋は頭を抱えながら、そう思った。
知った以上は報告すべきなのだが、そうなると知っていた政府も、人権団体からの批判に晒されるのだ。
知らなければ、知らなかったで済む話である。
もちろん、万屋が報告しなければ済む話であるが、それだけ器用ならもっと楽に生きられるだろう。
しかし、残念な事に万屋は、非常に不器用な男だった。
もちろん、本人も自覚はしているが、治せるぐらいなら、それは不器用とは呼ばないだろう。
治せないからこそ、不器用なのだ。
万屋を置いて、話は各国とその軍備の話へと進んでいく。
万屋の事情等、伯爵の知った事では無いのだ。
ハイエルフ王国の正式名称は、『エルフ森林連合王国』と言う。
ハイエルフ王国という呼び方は、国際的に定着している呼び方であるが、自ら名乗った事は無いらしい。
西方大陸東部の内陸に位置する大森林地帯を、主な国土とする国という話だ。
大森林地帯の中心には湖が、さらにその中心には島があり、統治者たるハイエルフは、精霊の恩恵を受け易い様にと言う理由で、滅多に島から出る事が無く、神官に近い存在らしい。
ただし王族の役割は、他のハイエルフと異なり、戦争を指揮する事とされているので、ベアトリクスの様に前線に出る事もある。
その為王族は、唯一島を出入りする事の多い存在となった。
住人の多くは、大森林地帯に住むエルフであり、一部山岳地帯にダークエルフの集落も存在する。
ハイエルフは、精霊が俗世を嫌うという迷信から、政治に干渉する事が少ない。
政体は事実上の部族連合である。
その為、王国とは名ばかりであり、基本的に族長会議での合議制となっている。
王族は、戦争を指揮する為に、非常時のみ独裁権を持ち、判断を下す。
軍備はほとんどが長弓兵や魔法兵であり、ダークエルフのみが、夜襲やゲリラ戦を得意とする軽装歩兵を構成する。
総戦力は十万人程であるが、大森林地帯での防衛戦となると、ほぼ全ての国民が動員されるとの事だ。
そして、エルフは基本的に弓が得意である為、全国民百二十万人のほぼ全てが、他国のベテランの弓兵に相当する、と言われている。
「軍備の話等なさって、大丈夫なのですか?」
万屋が心配して、声を掛けた。
「少し調べれば解る程度の話です。
貴国に無駄な隠し事をするよりは、正直に話した方が良いと思いましてな。
余計な事でしたか?」
「いえいえ、そんな事はありませんよ」
万屋はそう言ってから、続きを促した。
歴史や『勇者』絡みの話で、何度も出てきた『ジン朝西天津国』は、約400年前に突然現れた、太祖サキノウダイ・ジンによって建国された国である。
サキノウダイの功績としては、神託を受けたイザナギ神殿からの支援の下、新兵器ティネガーシマの開発、量産化に成功しただけではない。
建国から僅か二年で、西方大陸西部を統一し、西方大陸東部に侵攻中の神聖軍を撃破した上に、中央大陸への逆上陸を敢行、西端半島をも手中に収めたのである。
しかし、戦争中に袂を分かったイザナギ神殿、激しく抵抗する聖十字教会への、徹底した焼き討ちや、生きながらにして自身を崇めさせようとした事から、他国からの評価は低い。
現在のジン朝は神道と共存つつも、太祖を主神とするデロークテンマー派を、国教としており、デロークテンマー神殿には、王族から大神官を輩出している。
軍事力は常備軍のみで、ティネガーシマを装備したティボー・アシガーレ兵を中心に、約三十万程保持しているが、アシガーレの全ては屯田兵の模様。
屯田兵である理由は、海上交易が沿岸部のみである以上、交易による利益が見込めないからである。
そういった、交易による利権が小さい以上、交易よりも開墾等を優先すべき、と言う判断があったのだろう。
常備軍を欲したものの、このままではそれを維持出来ない。
サキノウダイは、その事を充分に理解していたのだろう。
親子二代で、津港の莫大な利益を得たが、その様な好条件は滅多にない、という事に気付いたのである。
その為、純粋な常備軍を諦め、平時に職業を持つ屯田兵制度を、考案したのだ。
アシガーレは、平時には常に最新の開拓地で開墾を行う。
そして、退役後はその土地が自分のものとなるのだ。
故に、農家を中心に各地から、次男以下の若者が殺到する職業となっている。
アシガーレの長男は農地を継いで農民となるが、場合によってはその近くで、次男がアシガーレとなる事も、多々ある様だ。
騎士階級の兵は、キヴァ・ティボーと呼ばれ、小型のティネガーシマを装備している。
鎧は軽装備であり、地球の龍騎兵に近い。
西天津国は、これらの他にもヲーヅツ隊等、多数の兵科を保持している。
海軍の方は、タルターニャ海軍の次に強いと言われており、主力であるヲーヅツを搭載した、ティコーゼンと呼ばれる鉄張りの船は、数さえ揃えばタルターニャ海軍と互角に戦う事が可能との事だ。
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「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」
――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。
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氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。
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大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。
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【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
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これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
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