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第二章 西端半島戦役
第四十八話 帝国の窓口を探れ!!!
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「ま~た、変な任務押し付けられた~」
万屋はウンザリした顔でボヤく。
現地人一行と部下をゾロゾロと引き連れ、『いずも』艦内の狭い通路を移動しながらであり、当然ながら目立つ。
すれ違う者の中には、万屋の表情を見て顔を顰める者も多かったが、そんな事は気にしていられない様だ。
「仕方がありませんよ。
始まった以上は、どうにかして終わらせなければ」
山田がそれを慰めている。
ここまでは、すっかりパターン化した光景だ。
「来賓と一緒に!?
それも仕方が無いの!?」
だが、万屋の鬱憤はかなり溜まっていたらしい。
今のキレっぷりは普段以上の迫力だった。
「まあまあ………。
実際問題、現地語を自由に話せるのは隊長だけですから、仕方が無いですよ。
来賓方は貴重な協力的現地人で、同時にコネも知識も持っています。
これも仕方が無いのでは?」
「そりゃあね、百歩譲ってそこまでは良いよ。
もう慣れたからさ。
人間って、環境に適応する生き物なんだね。
だからこそ、地球で栄えたんだよね」
万屋の目付きは据わっている。
(これは相当来てるな)
山田は危機感を抱く。
油断していた事を実感したのだ。
精神的に不安定な上官と聞かされて、付き合い始めてから数年。
打たれ弱い面も見られたが、そこまで問題を感じた事は無かったのだ。
今回の事件で、初めて顕在化したと言ってもよい。
事前に思っていた人物像とは違った状態が長く、油断していたのだとしても山田を責められないだろう。
とにかく、宥める他はない。
「幸い、車両は良い物を譲って貰えました。
来賓方にはなるべく車内に居てもらいましょう。
隊長は要領を覚えるべきです」
山田は割とハッキリした言い回しで、手抜きを推奨する。
これもベテラン下士官本来の仕事なのだ。
そもそも、この手の事はもっと早くに教えるべきだった。
過労から体を壊されても、困るのは組織全体である。
疲れを見せた時に然りげ無く教える事で、過労死を防ぐのだ。
しかし、幸か不幸か万屋は非常に丈夫だった。
山田が機会を逃す程に、疲れを見せなかったのだ。
(例を挙げてでも教えるべきだったか)
山田は面倒な状況になってから、心底後悔した。
「要領ねぇ…………」
万屋は複雑そうな顔をする。
最低限、給料分の仕事はすべしというのが彼のポリシーであり、要領云々はグレーゾーンなのだ。
ポリシーに反するとは言い難いが、合致するとも言い切れない。
何とも言えないモヤモヤ感が万屋を襲う。
「少なくとも、護衛対象の安全は保たれます。
御偉方も危険性は承知な筈です。
煩くは言わないでしょう」
「はぁ…………。
それで?
御目当ての人物は、シドンだかティルスだかに居るんだっけ?」
万屋は山田の説得に折れる。
元より、折れないという選択肢は存在しないのだ。
万屋にしてみれば、命令を受け入れるのは当然である。
重要なのは、いつまで駄々をこねるのかという点だった。
子供なのだろう。
そして、潮時を読む力は大人並みにある。
「そのどちらかという噂ですな。
姫様が御存知なのでは?」
伯爵が口を挟む。
「え、噂なんですか!!!!!!?」
万屋は叫ぶ。
板だと思って縋っていた物が、実は藁だと聞かされたのだから当然であろう。
溺れる者の絶望は深いのだ。
「私も正確な事までは…………。
ただ、シドンとティルスを行き来されておられるとの事です」
ベアトリクスが申し訳無さそうに答える。
「えぇ…………」
万屋は残念そうな顔を隠さなかった。
だが不満を口にはしない。
アンジェリカが騒ぐ事を恐れたのだ。
彼女は、口にさえ出さなければ気付かないタイプであり、その点は楽だった。
「暗殺を恐れての事でしょうな。
シドンもティルスも繁雑としております。
行き来もし易いので、追われている身であれば最良の選択でしょう。
居場所が秘匿されているのも、止むを得ぬ事です」
伯爵が解説をする。
「はあ…………」
万屋は亡命や夜逃げ、証人保護プログラムといった様な、逃げたり隠れ潜む状況とは無縁だ。
その為、反応は酷く鈍かった。
実感が無いのだろう。
(まあ、姫様は知らぬのも当然か…………)
伯爵には、ベアトリクスの耳へ情報が回っていない理由に心当たりがあったものの、そこは語らなかった。
幾ら団結力が強いとは言え、多種族連盟も所詮は諸国の集まり。
西天津国へ亡命して来た帝国における玉となり得る人物の情報を、ハイエルフ王族が詳しく知る事は難しいのだ。
知っていれば、それはベアトリクスの耳が特別なのだろう。
だが、それに関して伯爵は語らない。
組織を作れば内部抗争が絶対に発生するものだが、だからこそ連盟の不協和音は可能な限り秘匿されるべきなのだ。
伯爵は日本への協力を惜しまないものの、売国奴染みた事はしない。
不都合な事は、聞かれた場合にのみ答えると決めていた。
「シドン、ティルスと噂を流した上で、実際には天津大陸方面へ逃す。
そういう可能性もあるのでは?」
山田が鋭く突っ込む。
細かく重要な点に気付くのは流石である。
「それは無いでしょう。
ガザ辺りまでであればともかく、海を越えるとなると万が一の事もあり得ますから」
「「はぁ………」」
伯爵の返答に万屋と山田は違和感を感じた。
「船旅はリスクが大きいのですよ」
そこまで言われると山田が納得した様な顔で頷く。
「(どういう意味だろう?)」
万屋は事情を理解した様子の山田に、コッソリと助けを求めた。
「(造船技術やら航海技術の違いです)」
山田の説明は最低限で簡潔なものだ。
面倒に思ったのだろう。
この世界で船旅とは、命懸けよりマシな程度の安全性しか確保されていない。
何せ最大級の軍船であっても、ガレオン船程度の大きさしかないのだ。
当然木造帆船であり、速度も遅ければ耐久性も低い。
魔法技術の存在によって、地球の大航海時代よりは大分マシな点も多くあるのだが、それは耐久性に限っての事だ。
航路によっては、地球には存在しない巨大生物の襲撃に脅かされる事も多い。
日本でも、船員を目指す身内に対して『船底一枚下は地獄』と言って諌める場合が、極近年まであった。
この世界での船旅とは、まさにその表現が正しいのだ。
タルタン人の航海技術があって、初めてそれなりに安全な移動が可能である。
だが、重要人物を秘密裏に移動させるのに、彼等程適さない者はいなかった。
彼等は商人気質が強いものの、同時に機会主義的な傾向も強い。
ただの乗客相手であっても、隙があり発覚する可能性が低ければ、容赦無く海賊と化す。
もちろん、信用を売りにして高い輸送費をせしめる者も居るが、それでさえ詐欺師が混ざっていないとは言い切れないのだ。
調べる事の難しさが理由としては大きい。
大陸間航路ともなれば、情報の価値は酷く高いからだ。
さらに秘密裏にともなれば、余程の幸運でもない限り、発覚を恐れる事無く船客は売られてしまうだろう。
身分に察しが付けば帝国へ。
察しが付かなければ奴隷の密売所であろうが、どちらにしても鴨葱としか言い様がない。
人間一人である以上、落下したという言い訳は充分に通用する。
万屋達は神聖軍という、歴史的な例外を目の当たりにしていた為に、ピンと来なかったのだろう。
何せ山田ですら違和感を感じた程だ。
(通じていないな…………)
伯爵は細かい意思疎通の難しさに面倒臭さを感じた。
だが、必要以上の情報を漏らなさいという利点を思い出すと、一長一短だと気を取り直す。
「まあ、とにかくガザ以東である事は確実なのです。
接待すべき点を考慮しますと、西端半島では候補地も限られますからな。
正確な情報が無くとも、悲観する事はありませんぞ」
伯爵の言葉に万屋は落ち込む。
前回の邦人救出作戦で、西端半島の衛星写真を見ていたからだ。
西端半島の細長い地形は、それなりに理解していた。
その道路事情も知っている。
(未舗装道路を長距離か…………。
クッションが欲しいな)
万屋は地獄を予想して憂鬱になった。
現代日本人であれば、未舗装道路の長距離移動という経験をした事が無い者も多い。
万屋自身、海外派遣から帰って来た先輩から話を聞いているだけだ。
無理も無い。
今時は発展途上国ですら、首都ともなればそれなりにアスファルトで整備されれいるものだ。
発展途上国の首都なら商談で訪れるきかもあるだろう。
だがそれ以外となると、行った事のある者は少ない。
皆無と言っていい筈だ。
日本国内でも未舗装道路が存在しない訳ではない。
だが、流石に長距離の未舗装道路というものはお目にかかれない。
山道はともかく、平坦なものともなれば廃道か自然公園ぐらいだろうか。
それも数十キロが精々といったところだ。
百キロ単位で未舗装道路を走破した者など、今となってはバックパッカーか一部の学者しか経験者がいないだろう。
未舗装道路の長距離移動。
それは文字通りの地獄である。
振動で尻を痛めるのだ。
場合によっては背中も痛める。
もちろん、近世の馬車よりは大分マシなのだろうが、それでも経験の無い者にはキツい。
高級自動車であっても尻の痛くなる様な行程となるのは確実だ。
それが、乗り心地を考慮していない軍用車である。
(ヒップサイズが削れて減るだろうなぁ)
万屋は現実逃避を始めた。
何せただの長距離移動では無く、いつまで続くのかが明確に判明していない行程である。
士気の低下は止むを得まい。
もっとも、万屋は部下の士気低下を気にするべき立場である。
(トランプ、ブノとカードゲーム一式は必須として…………)
万屋は具体的な暇潰し方法を模索し始めた。
時間を潰していれば気が紛れ、気が紛れれば士気の低下も緩やかになる。
そういう予想を立てたのだ。
「野営装備は調達しておきましょう。
衛星写真を見る限りでは、必要かもしれません」
山田も必要そうな装備を提案する。
元々、万屋の足りない部分を補うのが本分であり、慣れていた。
「医薬品の補充は大丈夫です!」
万屋が野営という言葉に反応すると、二階堂が持ちネタを披露してみせる。
「ハハッ……………」
万屋はその気遣いを台無しにするかの様に、乾いた笑い方をした。
悪意は無い。
それが万屋の精一杯なのだ。
「隊長、下手な町よりも野営の方がマシだと思いますよ」
危うく嫌な空気になりそうなところだったが、それは山田によって誤魔化される。
「そ、それもそうだな。
安宿だと衛生観念が発達していない可能性もある」
それ以前に、宿泊費をどうするかすら指示されていないのだが、万屋は山田の誤魔化しに乗る事に夢中で気付かない。
「何か、装甲車両が手配されるらしいから、その確認に行ってくる」
そして不自然に走り去って行くのだった。
万屋はウンザリした顔でボヤく。
現地人一行と部下をゾロゾロと引き連れ、『いずも』艦内の狭い通路を移動しながらであり、当然ながら目立つ。
すれ違う者の中には、万屋の表情を見て顔を顰める者も多かったが、そんな事は気にしていられない様だ。
「仕方がありませんよ。
始まった以上は、どうにかして終わらせなければ」
山田がそれを慰めている。
ここまでは、すっかりパターン化した光景だ。
「来賓と一緒に!?
それも仕方が無いの!?」
だが、万屋の鬱憤はかなり溜まっていたらしい。
今のキレっぷりは普段以上の迫力だった。
「まあまあ………。
実際問題、現地語を自由に話せるのは隊長だけですから、仕方が無いですよ。
来賓方は貴重な協力的現地人で、同時にコネも知識も持っています。
これも仕方が無いのでは?」
「そりゃあね、百歩譲ってそこまでは良いよ。
もう慣れたからさ。
人間って、環境に適応する生き物なんだね。
だからこそ、地球で栄えたんだよね」
万屋の目付きは据わっている。
(これは相当来てるな)
山田は危機感を抱く。
油断していた事を実感したのだ。
精神的に不安定な上官と聞かされて、付き合い始めてから数年。
打たれ弱い面も見られたが、そこまで問題を感じた事は無かったのだ。
今回の事件で、初めて顕在化したと言ってもよい。
事前に思っていた人物像とは違った状態が長く、油断していたのだとしても山田を責められないだろう。
とにかく、宥める他はない。
「幸い、車両は良い物を譲って貰えました。
来賓方にはなるべく車内に居てもらいましょう。
隊長は要領を覚えるべきです」
山田は割とハッキリした言い回しで、手抜きを推奨する。
これもベテラン下士官本来の仕事なのだ。
そもそも、この手の事はもっと早くに教えるべきだった。
過労から体を壊されても、困るのは組織全体である。
疲れを見せた時に然りげ無く教える事で、過労死を防ぐのだ。
しかし、幸か不幸か万屋は非常に丈夫だった。
山田が機会を逃す程に、疲れを見せなかったのだ。
(例を挙げてでも教えるべきだったか)
山田は面倒な状況になってから、心底後悔した。
「要領ねぇ…………」
万屋は複雑そうな顔をする。
最低限、給料分の仕事はすべしというのが彼のポリシーであり、要領云々はグレーゾーンなのだ。
ポリシーに反するとは言い難いが、合致するとも言い切れない。
何とも言えないモヤモヤ感が万屋を襲う。
「少なくとも、護衛対象の安全は保たれます。
御偉方も危険性は承知な筈です。
煩くは言わないでしょう」
「はぁ…………。
それで?
御目当ての人物は、シドンだかティルスだかに居るんだっけ?」
万屋は山田の説得に折れる。
元より、折れないという選択肢は存在しないのだ。
万屋にしてみれば、命令を受け入れるのは当然である。
重要なのは、いつまで駄々をこねるのかという点だった。
子供なのだろう。
そして、潮時を読む力は大人並みにある。
「そのどちらかという噂ですな。
姫様が御存知なのでは?」
伯爵が口を挟む。
「え、噂なんですか!!!!!!?」
万屋は叫ぶ。
板だと思って縋っていた物が、実は藁だと聞かされたのだから当然であろう。
溺れる者の絶望は深いのだ。
「私も正確な事までは…………。
ただ、シドンとティルスを行き来されておられるとの事です」
ベアトリクスが申し訳無さそうに答える。
「えぇ…………」
万屋は残念そうな顔を隠さなかった。
だが不満を口にはしない。
アンジェリカが騒ぐ事を恐れたのだ。
彼女は、口にさえ出さなければ気付かないタイプであり、その点は楽だった。
「暗殺を恐れての事でしょうな。
シドンもティルスも繁雑としております。
行き来もし易いので、追われている身であれば最良の選択でしょう。
居場所が秘匿されているのも、止むを得ぬ事です」
伯爵が解説をする。
「はあ…………」
万屋は亡命や夜逃げ、証人保護プログラムといった様な、逃げたり隠れ潜む状況とは無縁だ。
その為、反応は酷く鈍かった。
実感が無いのだろう。
(まあ、姫様は知らぬのも当然か…………)
伯爵には、ベアトリクスの耳へ情報が回っていない理由に心当たりがあったものの、そこは語らなかった。
幾ら団結力が強いとは言え、多種族連盟も所詮は諸国の集まり。
西天津国へ亡命して来た帝国における玉となり得る人物の情報を、ハイエルフ王族が詳しく知る事は難しいのだ。
知っていれば、それはベアトリクスの耳が特別なのだろう。
だが、それに関して伯爵は語らない。
組織を作れば内部抗争が絶対に発生するものだが、だからこそ連盟の不協和音は可能な限り秘匿されるべきなのだ。
伯爵は日本への協力を惜しまないものの、売国奴染みた事はしない。
不都合な事は、聞かれた場合にのみ答えると決めていた。
「シドン、ティルスと噂を流した上で、実際には天津大陸方面へ逃す。
そういう可能性もあるのでは?」
山田が鋭く突っ込む。
細かく重要な点に気付くのは流石である。
「それは無いでしょう。
ガザ辺りまでであればともかく、海を越えるとなると万が一の事もあり得ますから」
「「はぁ………」」
伯爵の返答に万屋と山田は違和感を感じた。
「船旅はリスクが大きいのですよ」
そこまで言われると山田が納得した様な顔で頷く。
「(どういう意味だろう?)」
万屋は事情を理解した様子の山田に、コッソリと助けを求めた。
「(造船技術やら航海技術の違いです)」
山田の説明は最低限で簡潔なものだ。
面倒に思ったのだろう。
この世界で船旅とは、命懸けよりマシな程度の安全性しか確保されていない。
何せ最大級の軍船であっても、ガレオン船程度の大きさしかないのだ。
当然木造帆船であり、速度も遅ければ耐久性も低い。
魔法技術の存在によって、地球の大航海時代よりは大分マシな点も多くあるのだが、それは耐久性に限っての事だ。
航路によっては、地球には存在しない巨大生物の襲撃に脅かされる事も多い。
日本でも、船員を目指す身内に対して『船底一枚下は地獄』と言って諌める場合が、極近年まであった。
この世界での船旅とは、まさにその表現が正しいのだ。
タルタン人の航海技術があって、初めてそれなりに安全な移動が可能である。
だが、重要人物を秘密裏に移動させるのに、彼等程適さない者はいなかった。
彼等は商人気質が強いものの、同時に機会主義的な傾向も強い。
ただの乗客相手であっても、隙があり発覚する可能性が低ければ、容赦無く海賊と化す。
もちろん、信用を売りにして高い輸送費をせしめる者も居るが、それでさえ詐欺師が混ざっていないとは言い切れないのだ。
調べる事の難しさが理由としては大きい。
大陸間航路ともなれば、情報の価値は酷く高いからだ。
さらに秘密裏にともなれば、余程の幸運でもない限り、発覚を恐れる事無く船客は売られてしまうだろう。
身分に察しが付けば帝国へ。
察しが付かなければ奴隷の密売所であろうが、どちらにしても鴨葱としか言い様がない。
人間一人である以上、落下したという言い訳は充分に通用する。
万屋達は神聖軍という、歴史的な例外を目の当たりにしていた為に、ピンと来なかったのだろう。
何せ山田ですら違和感を感じた程だ。
(通じていないな…………)
伯爵は細かい意思疎通の難しさに面倒臭さを感じた。
だが、必要以上の情報を漏らなさいという利点を思い出すと、一長一短だと気を取り直す。
「まあ、とにかくガザ以東である事は確実なのです。
接待すべき点を考慮しますと、西端半島では候補地も限られますからな。
正確な情報が無くとも、悲観する事はありませんぞ」
伯爵の言葉に万屋は落ち込む。
前回の邦人救出作戦で、西端半島の衛星写真を見ていたからだ。
西端半島の細長い地形は、それなりに理解していた。
その道路事情も知っている。
(未舗装道路を長距離か…………。
クッションが欲しいな)
万屋は地獄を予想して憂鬱になった。
現代日本人であれば、未舗装道路の長距離移動という経験をした事が無い者も多い。
万屋自身、海外派遣から帰って来た先輩から話を聞いているだけだ。
無理も無い。
今時は発展途上国ですら、首都ともなればそれなりにアスファルトで整備されれいるものだ。
発展途上国の首都なら商談で訪れるきかもあるだろう。
だがそれ以外となると、行った事のある者は少ない。
皆無と言っていい筈だ。
日本国内でも未舗装道路が存在しない訳ではない。
だが、流石に長距離の未舗装道路というものはお目にかかれない。
山道はともかく、平坦なものともなれば廃道か自然公園ぐらいだろうか。
それも数十キロが精々といったところだ。
百キロ単位で未舗装道路を走破した者など、今となってはバックパッカーか一部の学者しか経験者がいないだろう。
未舗装道路の長距離移動。
それは文字通りの地獄である。
振動で尻を痛めるのだ。
場合によっては背中も痛める。
もちろん、近世の馬車よりは大分マシなのだろうが、それでも経験の無い者にはキツい。
高級自動車であっても尻の痛くなる様な行程となるのは確実だ。
それが、乗り心地を考慮していない軍用車である。
(ヒップサイズが削れて減るだろうなぁ)
万屋は現実逃避を始めた。
何せただの長距離移動では無く、いつまで続くのかが明確に判明していない行程である。
士気の低下は止むを得まい。
もっとも、万屋は部下の士気低下を気にするべき立場である。
(トランプ、ブノとカードゲーム一式は必須として…………)
万屋は具体的な暇潰し方法を模索し始めた。
時間を潰していれば気が紛れ、気が紛れれば士気の低下も緩やかになる。
そういう予想を立てたのだ。
「野営装備は調達しておきましょう。
衛星写真を見る限りでは、必要かもしれません」
山田も必要そうな装備を提案する。
元々、万屋の足りない部分を補うのが本分であり、慣れていた。
「医薬品の補充は大丈夫です!」
万屋が野営という言葉に反応すると、二階堂が持ちネタを披露してみせる。
「ハハッ……………」
万屋はその気遣いを台無しにするかの様に、乾いた笑い方をした。
悪意は無い。
それが万屋の精一杯なのだ。
「隊長、下手な町よりも野営の方がマシだと思いますよ」
危うく嫌な空気になりそうなところだったが、それは山田によって誤魔化される。
「そ、それもそうだな。
安宿だと衛生観念が発達していない可能性もある」
それ以前に、宿泊費をどうするかすら指示されていないのだが、万屋は山田の誤魔化しに乗る事に夢中で気付かない。
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※カクヨムにも投稿しています
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