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第二章 西端半島戦役
第五十話 名も無い村にて
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「親父さん、この服幾ら?
え、三百ダッカ貫文?
(ダッカ貫文て何だよ…………)
これでも良い?
んじゃ、それで頼みます。
こっちの連中のもね」
万屋達は上陸後、ダッカを目指す前に近くの村で服の調達を始めていた。
山田などは、エルフ達ですら初めて寄る様な名も無い村で買い物が出来るのだろうか?
そもそも、商店が存在するのかと頭に疑問符を浮かべていたが、その心配は杞憂だった。
細長い半島の地形上、名も無い様な村であっても街道沿いに存在する為、規模は小さくとも宿屋の類いはどの村にも存在する。
複数の店で競い合う様な程では無いものの、何処の村でも小規模な需要があるのだ。
そしてその客を目当てにした、農家との兼業商店も各村に一つはあった。
つまり、何処の村であっても最低限の買い物は可能なのだ。
ただし、兼業商売であり質は期待出来ない。
「あんたら、隊商には見えんべな。
どっから来た?」
いかにも田舎農夫といった雰囲気の、朴訥とした店主が無遠慮に問い掛ける。
そこには、あからさまな警戒感が見えていた。
やはり、客商売という意識は無さそうだ。
(こっちも怪し過ぎるのか)
万屋は店主の態度に、自分達の異質さを意識する。
腹を立てる様な余裕は無い。
「いや~、タルターニャの方ですよ。
異邦人ってやつです」
万屋は所謂、『消防署の方から』というやり口で乗り切る。
実際、嘘では無い。
タルターニャを押し退けた国から来たのだから、ある意味では事実だろう。
ついでに他所者である事も明かす。
これには、後から露見するよりも申告した方がマシといった程度の効果が期待出来る。
山田から教えられた、ちょっとしたコツだ。
他所者である事が露見する可能性が高い場合、こうするのがベターらしい。
(何処で覚……、特戦群か)
万屋は不思議に思うが、触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに、思考を無理矢理断ち切った。
「(貫高制なのは予想外でしたね。
日本の硬貨が通用したのは幸いです。
ついてますよ)」
山田は何故か嬉しそうだ。
「(まあ、ボッタクられてるかもしれないんだけどね………)」
万屋は上手く行った事に警戒する。
かえって悲観的になってしまったらしい。
だが、万屋の心配もあながち杞憂とは言い切れなかった。
たしかに、伯爵が結構な値を付けた事もあって、損をする可能性は低い。
物価を一概に較べる事は難しいが、仮に『ハンドメイドの古着』として考えた場合、日本で買えばそれなりの値段になる。
物にもよるのだろうが、おそらく千円を下回れば上手く買えた方だろう。
それが二百円で買えたのだから、相当安い買い物となった筈だ。
ただ、そこには大きな落とし穴があった。
伯爵も含めた彼等全員が、商売の素人である点だ。
伯爵が博識だからといっても、物価は変動する。
それは何処の世界でも変わりの無い真理だ。
もっとも、今回の調達は名も無い田舎村での事。
素人に毛が生えた程度の兼業商人相手であれば、お互い値切る事も吹っ掛ける事も無く、交渉は容易い。
大きな問題は起きなかった。
ここでの問題は別なところから出て来る。
(臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い)
万屋の思考はそれだけに満たされた。
この世界では、服を買うと言えば古着である。
場合によっては騎士階級ですら、礼服以外の普段着は古着を買う。
作る場合もあるがそれは晴れ着のみであり、それさえも個々人の持ち物ではない。
それぞれの節目の行事が過ぎれば、家族や親戚で着回すものだった。
そして、当然ながら日本の古着とは違う。
衛生観念が無い為か。
パッと見で目立つ様な汚れこそ落とされているものの、全体的に薄汚れた雰囲気が残る。
本格的な家庭菜園で使う様な、使い古した野良着よりも酷い。
万屋としても、ペーターの格好からツギハギ程度は覚悟していた。
仕事、仕事と自分に言い聞かせてどうにか覚悟を決めたのだ。
だが、ペーターの格好は富農のそれであり、一般的に普及している服は万屋の想像を越えていた。
(臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い)
万屋が発狂しそうになっている原因。
それは、受け取った服から漂う嗅覚への刺激だった。
異世界の洗礼とも言えるそれは、汗と汚物のものだ。
石鹸の類いが無い為に、汗の臭いが落ちないのは万屋にも理解出来る。
目立たない様にする事が目的であり、それに古着が適しているのだから、万屋も覚悟はしていた。
(汚物って何だよ……………)
中世ヨーロッパ社会では、道端に汚物が捨てられていたというのは有名な話である。
万屋もそれぐらいは知っていた。
故に、街中が臭くとも動揺はしていない。
しかし、これから身に付ける服から、有機的な悪臭が漂って来る事態には辟易した。
「(この臭いは土地柄ですかね?)」
万屋は店の主人から離れると、一縷の望みを掛けて伯爵に問い掛ける。
ダッカでマトモな服に着替える事さえ出来れば、それを頼みにどうにか生きて行けると思ったのだ。
「(日本の様な、手洗いの紙?というのですか?
この地域では、ああいう物の代わりに古い布を使います。
普通は古着を解して使う様ですが、連中は無頓着ですからなぁ。
洗って綺麗に見えれば逆に、ツギハギ代わりに縫い付ける事もあるのやもしれませんが………)」
伯爵も事情は知らないらしく、推測で答える。
万屋以上に困惑しているらしい。
「(西端半島は西天津国の領土です。
某も、ダッカの様な都市部にはそれなりに詳しいのですが、農村部となりますとあまり知りませぬ。
都市部よりはかなり貧しいと聞きますので、そういう事もあるのかもしれませんなぁ)」
(知らない………、そんな話知らないぞ)
万屋は呆然となり、頭を抱えた。
エルフ達には、このポーズが万屋の癖だと思われている様だが、そんな事は無い。
日本の転移以来、想像を超える事態が多過ぎるだけだ。
今回の状況も、万屋が事前に調べて来た最悪のパターンを、遥かに超える事態だった。
もちろん、資料は中世ヨーロッパ史関連である。
異世界云々の参考資料はあくまでもフィクションであり、万屋は信用も信頼もしなかった。
「(ただ………)」
「『ただ』何です!?」
伯爵が何か言おうとすると、万屋は前のめりになって食い付く。
周囲がドン引きしているのには、気付いた様子も無い。
「(街中全体が臭っているのであればともかく、店の中ですらない大した臭いはありませんでした。
そこが、どうにも妙でしてなぁ)」
伯爵の疑問ももっともだと万屋は思った。
実際問題、臭いを感じたのは店主が品物を出してからである。
品物がこの村での普段使いと同じ物なら、村に入った時点で臭うのが当然だろう。
「(旅人相手の商売です。
最後に手洗いに使ったものを、ツギハギに使って高く売り付けようとしているのでは?)」
「んふぇあ!!!???」
万屋は伯爵の説に、思わず声を大声を出した。
(いや、でもあり得る?、のか………?)
リピーターを期待せず、通りすがりの客のみを狙ったぼったくり商法。
日本では、今時サービスエリアでもやらない商法である。
情報伝達速度の発展によって、弩田舎の峠道ですら悪どい商売は難しい。
だがこの世界では、情報伝達速度が違う。
そして客側にしても、遠方から来た通りすがりでは情報収集にも限界がある。
どんなに酷くとも、次の村や町の方がマシという確証が得られない以上、通り過ぎのには躊躇するだろう。
「買うんがい?
買わんのがえ?」
店主はどちらでも良さそうにそう言った。
実際、やる気は無いのだろう。
本業がある為、売れれば儲けもの程度の商売なのだ。
それでもぼったくるのだから、逞しいのかそうでも無いのか難しいところだ。
あるいは、客の数を増やす事を一切考えず、客一人当たりから幾ら多く儲けるのかに拘っているのかもしれない。
そうで無くとも、『面倒だから』という素人染みたどうしようもない理由があっても、何ら不思議では無かった。
どちらにしろ、万屋が困っている事に変わりはない。
(水洗いはしているのか…………。
でも熱湯消毒ですらないか。
感染症………。
二階堂達、衛生科が居るだけじゃどうしようもないし…………。
自力で消毒すれば…………)
万屋は必死に頭を働かせる。
自分にしろ部下達にしろ、感染症はゴメンなのだ。
感染症以前にこんな服を部下達に着せては、どんな事になるだろうか。
万屋はそれを想像して震える。
下手をすれば、後ろ弾を喰らいかねないだろう。
「隊長。
正面から堂々と乗り込みましょう。
これは無理です」
山田が後ろ向きな事を言う。
普段とは逆で珍しいが、正しい意見だった。
「無理だよなぁ………。
煮沸消毒でどうにかなったとしても、精神衛生なぁ………」
万屋も山田の意見には賛成である。
後ろ向きな意見には、渋る理由が無いのだ。
(伝手は伯爵頼みか………。
良いのかなぁ~?)
万屋は悩む。
現地調査が進むに連れ、最早無線の使用制限が馬鹿らしいという事は明白だ。
つまり、上からの指示を仰ぐ事は容易い。
(で、怒られると)
万屋はいつも通り悲観する。
実際、臭いという問題は伝わり難いものだ。
現場を知らない相手の反応を懸念するのも、杞憂とは言い切れない。
最悪、『借りを作るな!』と一言怒鳴られるだけで終わってしまう可能性も、充分にあった。
「防疫という観点から具申すれば、怒鳴られる事は無いでしょう」
山田は万屋の躊躇する理由を察して、知恵を付ける。
怒られるのが怖いという、子供染みた考えは見透されていた。
「あ、それ戴こう」
万屋は、山田の助け船に飛び乗る事をアッサリと決める。
意地を張る必要が無いのだ。
そういう意味で、万屋は扱い易い上官だった。
(手柄を横取りする脳も無いしな)
山田は、そっちの意味でも問題は無いだろうと安堵する。
「未知の感染症という、今最も現実味のある脅威を強調すると良いでしょう」
それでも気を抜かず、細々としたアドバイスを入れるのは流石だ。
「それなら大丈夫そうだ。
あ、やっぱりこれは要らないので、お金返してください」
万屋は、既に予定変更に関する問題は解決済みと言わんばかりに、聞き流す。
目先の小銭の方が重要なのだろう。
「バカ言うでねぇ。
こらぁ、もうオラのもんだ」
だが、重要なアドバイスを聞き流した事に対するバチが当たったのか。
万屋の前には別の問題が現れた。
「隊長、行きましょう」
小銭で面倒を起こされては堪らないとでも思ったのか。
山田は万屋の腕を掴んで、強引に引き寄せる。
「待てぃ!!!
言い掛かり付けよってからに、タダじゃ置かんど!
身包み全部置いてけや!!!」
つい先程とは打って変わった様子の店主は、そう言って鞘に入ったままの長剣を持ち出した。
(ええ~………)
想像すらしていなかった事態に、万屋は困惑する。
ピペェ~
店主はその隙に口笛を吹いた。
その妙に上手く、無駄な才能を聞いて一行は益々困惑する。
「もう、嫌だ………」
万屋は暗い表情でボソリと呟いた。
え、三百ダッカ貫文?
(ダッカ貫文て何だよ…………)
これでも良い?
んじゃ、それで頼みます。
こっちの連中のもね」
万屋達は上陸後、ダッカを目指す前に近くの村で服の調達を始めていた。
山田などは、エルフ達ですら初めて寄る様な名も無い村で買い物が出来るのだろうか?
そもそも、商店が存在するのかと頭に疑問符を浮かべていたが、その心配は杞憂だった。
細長い半島の地形上、名も無い様な村であっても街道沿いに存在する為、規模は小さくとも宿屋の類いはどの村にも存在する。
複数の店で競い合う様な程では無いものの、何処の村でも小規模な需要があるのだ。
そしてその客を目当てにした、農家との兼業商店も各村に一つはあった。
つまり、何処の村であっても最低限の買い物は可能なのだ。
ただし、兼業商売であり質は期待出来ない。
「あんたら、隊商には見えんべな。
どっから来た?」
いかにも田舎農夫といった雰囲気の、朴訥とした店主が無遠慮に問い掛ける。
そこには、あからさまな警戒感が見えていた。
やはり、客商売という意識は無さそうだ。
(こっちも怪し過ぎるのか)
万屋は店主の態度に、自分達の異質さを意識する。
腹を立てる様な余裕は無い。
「いや~、タルターニャの方ですよ。
異邦人ってやつです」
万屋は所謂、『消防署の方から』というやり口で乗り切る。
実際、嘘では無い。
タルターニャを押し退けた国から来たのだから、ある意味では事実だろう。
ついでに他所者である事も明かす。
これには、後から露見するよりも申告した方がマシといった程度の効果が期待出来る。
山田から教えられた、ちょっとしたコツだ。
他所者である事が露見する可能性が高い場合、こうするのがベターらしい。
(何処で覚……、特戦群か)
万屋は不思議に思うが、触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに、思考を無理矢理断ち切った。
「(貫高制なのは予想外でしたね。
日本の硬貨が通用したのは幸いです。
ついてますよ)」
山田は何故か嬉しそうだ。
「(まあ、ボッタクられてるかもしれないんだけどね………)」
万屋は上手く行った事に警戒する。
かえって悲観的になってしまったらしい。
だが、万屋の心配もあながち杞憂とは言い切れなかった。
たしかに、伯爵が結構な値を付けた事もあって、損をする可能性は低い。
物価を一概に較べる事は難しいが、仮に『ハンドメイドの古着』として考えた場合、日本で買えばそれなりの値段になる。
物にもよるのだろうが、おそらく千円を下回れば上手く買えた方だろう。
それが二百円で買えたのだから、相当安い買い物となった筈だ。
ただ、そこには大きな落とし穴があった。
伯爵も含めた彼等全員が、商売の素人である点だ。
伯爵が博識だからといっても、物価は変動する。
それは何処の世界でも変わりの無い真理だ。
もっとも、今回の調達は名も無い田舎村での事。
素人に毛が生えた程度の兼業商人相手であれば、お互い値切る事も吹っ掛ける事も無く、交渉は容易い。
大きな問題は起きなかった。
ここでの問題は別なところから出て来る。
(臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い)
万屋の思考はそれだけに満たされた。
この世界では、服を買うと言えば古着である。
場合によっては騎士階級ですら、礼服以外の普段着は古着を買う。
作る場合もあるがそれは晴れ着のみであり、それさえも個々人の持ち物ではない。
それぞれの節目の行事が過ぎれば、家族や親戚で着回すものだった。
そして、当然ながら日本の古着とは違う。
衛生観念が無い為か。
パッと見で目立つ様な汚れこそ落とされているものの、全体的に薄汚れた雰囲気が残る。
本格的な家庭菜園で使う様な、使い古した野良着よりも酷い。
万屋としても、ペーターの格好からツギハギ程度は覚悟していた。
仕事、仕事と自分に言い聞かせてどうにか覚悟を決めたのだ。
だが、ペーターの格好は富農のそれであり、一般的に普及している服は万屋の想像を越えていた。
(臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い)
万屋が発狂しそうになっている原因。
それは、受け取った服から漂う嗅覚への刺激だった。
異世界の洗礼とも言えるそれは、汗と汚物のものだ。
石鹸の類いが無い為に、汗の臭いが落ちないのは万屋にも理解出来る。
目立たない様にする事が目的であり、それに古着が適しているのだから、万屋も覚悟はしていた。
(汚物って何だよ……………)
中世ヨーロッパ社会では、道端に汚物が捨てられていたというのは有名な話である。
万屋もそれぐらいは知っていた。
故に、街中が臭くとも動揺はしていない。
しかし、これから身に付ける服から、有機的な悪臭が漂って来る事態には辟易した。
「(この臭いは土地柄ですかね?)」
万屋は店の主人から離れると、一縷の望みを掛けて伯爵に問い掛ける。
ダッカでマトモな服に着替える事さえ出来れば、それを頼みにどうにか生きて行けると思ったのだ。
「(日本の様な、手洗いの紙?というのですか?
この地域では、ああいう物の代わりに古い布を使います。
普通は古着を解して使う様ですが、連中は無頓着ですからなぁ。
洗って綺麗に見えれば逆に、ツギハギ代わりに縫い付ける事もあるのやもしれませんが………)」
伯爵も事情は知らないらしく、推測で答える。
万屋以上に困惑しているらしい。
「(西端半島は西天津国の領土です。
某も、ダッカの様な都市部にはそれなりに詳しいのですが、農村部となりますとあまり知りませぬ。
都市部よりはかなり貧しいと聞きますので、そういう事もあるのかもしれませんなぁ)」
(知らない………、そんな話知らないぞ)
万屋は呆然となり、頭を抱えた。
エルフ達には、このポーズが万屋の癖だと思われている様だが、そんな事は無い。
日本の転移以来、想像を超える事態が多過ぎるだけだ。
今回の状況も、万屋が事前に調べて来た最悪のパターンを、遥かに超える事態だった。
もちろん、資料は中世ヨーロッパ史関連である。
異世界云々の参考資料はあくまでもフィクションであり、万屋は信用も信頼もしなかった。
「(ただ………)」
「『ただ』何です!?」
伯爵が何か言おうとすると、万屋は前のめりになって食い付く。
周囲がドン引きしているのには、気付いた様子も無い。
「(街中全体が臭っているのであればともかく、店の中ですらない大した臭いはありませんでした。
そこが、どうにも妙でしてなぁ)」
伯爵の疑問ももっともだと万屋は思った。
実際問題、臭いを感じたのは店主が品物を出してからである。
品物がこの村での普段使いと同じ物なら、村に入った時点で臭うのが当然だろう。
「(旅人相手の商売です。
最後に手洗いに使ったものを、ツギハギに使って高く売り付けようとしているのでは?)」
「んふぇあ!!!???」
万屋は伯爵の説に、思わず声を大声を出した。
(いや、でもあり得る?、のか………?)
リピーターを期待せず、通りすがりの客のみを狙ったぼったくり商法。
日本では、今時サービスエリアでもやらない商法である。
情報伝達速度の発展によって、弩田舎の峠道ですら悪どい商売は難しい。
だがこの世界では、情報伝達速度が違う。
そして客側にしても、遠方から来た通りすがりでは情報収集にも限界がある。
どんなに酷くとも、次の村や町の方がマシという確証が得られない以上、通り過ぎのには躊躇するだろう。
「買うんがい?
買わんのがえ?」
店主はどちらでも良さそうにそう言った。
実際、やる気は無いのだろう。
本業がある為、売れれば儲けもの程度の商売なのだ。
それでもぼったくるのだから、逞しいのかそうでも無いのか難しいところだ。
あるいは、客の数を増やす事を一切考えず、客一人当たりから幾ら多く儲けるのかに拘っているのかもしれない。
そうで無くとも、『面倒だから』という素人染みたどうしようもない理由があっても、何ら不思議では無かった。
どちらにしろ、万屋が困っている事に変わりはない。
(水洗いはしているのか…………。
でも熱湯消毒ですらないか。
感染症………。
二階堂達、衛生科が居るだけじゃどうしようもないし…………。
自力で消毒すれば…………)
万屋は必死に頭を働かせる。
自分にしろ部下達にしろ、感染症はゴメンなのだ。
感染症以前にこんな服を部下達に着せては、どんな事になるだろうか。
万屋はそれを想像して震える。
下手をすれば、後ろ弾を喰らいかねないだろう。
「隊長。
正面から堂々と乗り込みましょう。
これは無理です」
山田が後ろ向きな事を言う。
普段とは逆で珍しいが、正しい意見だった。
「無理だよなぁ………。
煮沸消毒でどうにかなったとしても、精神衛生なぁ………」
万屋も山田の意見には賛成である。
後ろ向きな意見には、渋る理由が無いのだ。
(伝手は伯爵頼みか………。
良いのかなぁ~?)
万屋は悩む。
現地調査が進むに連れ、最早無線の使用制限が馬鹿らしいという事は明白だ。
つまり、上からの指示を仰ぐ事は容易い。
(で、怒られると)
万屋はいつも通り悲観する。
実際、臭いという問題は伝わり難いものだ。
現場を知らない相手の反応を懸念するのも、杞憂とは言い切れない。
最悪、『借りを作るな!』と一言怒鳴られるだけで終わってしまう可能性も、充分にあった。
「防疫という観点から具申すれば、怒鳴られる事は無いでしょう」
山田は万屋の躊躇する理由を察して、知恵を付ける。
怒られるのが怖いという、子供染みた考えは見透されていた。
「あ、それ戴こう」
万屋は、山田の助け船に飛び乗る事をアッサリと決める。
意地を張る必要が無いのだ。
そういう意味で、万屋は扱い易い上官だった。
(手柄を横取りする脳も無いしな)
山田は、そっちの意味でも問題は無いだろうと安堵する。
「未知の感染症という、今最も現実味のある脅威を強調すると良いでしょう」
それでも気を抜かず、細々としたアドバイスを入れるのは流石だ。
「それなら大丈夫そうだ。
あ、やっぱりこれは要らないので、お金返してください」
万屋は、既に予定変更に関する問題は解決済みと言わんばかりに、聞き流す。
目先の小銭の方が重要なのだろう。
「バカ言うでねぇ。
こらぁ、もうオラのもんだ」
だが、重要なアドバイスを聞き流した事に対するバチが当たったのか。
万屋の前には別の問題が現れた。
「隊長、行きましょう」
小銭で面倒を起こされては堪らないとでも思ったのか。
山田は万屋の腕を掴んで、強引に引き寄せる。
「待てぃ!!!
言い掛かり付けよってからに、タダじゃ置かんど!
身包み全部置いてけや!!!」
つい先程とは打って変わった様子の店主は、そう言って鞘に入ったままの長剣を持ち出した。
(ええ~………)
想像すらしていなかった事態に、万屋は困惑する。
ピペェ~
店主はその隙に口笛を吹いた。
その妙に上手く、無駄な才能を聞いて一行は益々困惑する。
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タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
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しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
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