87 / 92
第二章 西端半島戦役
第五十一話 農民兼商人兼盗賊
しおりを挟む
身分制度の存在する社会であっても、職業の選択が可能な範囲であれば、その辺りは曖昧になる事もある。
万屋はその事実を目の当たりにしたものの、状況を認識するのには暫く時間を必要とした。
頭が追い付かなかったのだ。
人間の頭は機械の様に数年で進化はしない。
幾ら発展速度が速まっても、脳の処理速度まで速まる事はないのだ。
「こんな田舎で、珍しい銀貨が通じるなんておかしいとは思わなかったのか?」
今や標準語を話す店主はそう言うと、長剣を抜く。
彼だけでは無い。
先程の口笛は合図だったのだろう。
ゾロゾロと集まって来た村人も、武器を手にしている。
「身包み全部に女も置いてけ。
それで勘弁してやる」
「????????????????」
万屋は要求が徐々に大きくなっていく為だろう。
混乱から戻って来れないどころか、余計に混乱する。
「れ、連中は盗賊も兼ねている様です」
山田が慌てた様に言う。
慌てつつも、然りげ無く銃の安全装置を外しているのだから大したものだ。
「こういった手合いは珍しくありませんぞ。
戦争があれば落武者狩りをするんでしょうが、平和な場合は商隊を襲います。
どうやら間違えられましたな」
伯爵が憐れむ様な視線を向ける。
もちろん、万屋達にでは無い。
村人兼商人兼盗賊が、為す術も無く蜂の巣になると思っての事だ。
ところが、話はそう簡単に終わるものでは無かった。
伯爵があまり理解し切れていない日本の事情によって、今の状況は非常に面倒なのだ。
理由は色々とあるが、大まかに言えば世論や法律、隊規といったところか。
これ等の鎖は、あまりにも現状にそぐわなかった。
法律上、隊規上は問題無くとも世論の反発が大きければ、責任を押し付けられるのだ。
そして、法律と隊規も怪しかった。
武装しているものの相手は村人、つまり一般市民とも解釈出来るからだ。
商人であっても同じである。
盗賊である証拠が必要なのだが、現地の慣例や法律が分からない以上、相手を盗賊と定義する事も難しい。
もっとも、国際法の話をすればそれはまた別である。
武装して害意を露わにしている以上、自衛の為に発砲する事は何の問題も無い話だった。
ジュネーブ条約にしろハーグ陸戦協定にしろ、カビが生えかけてはいるものの基本的な部分はそれで通用している。
もちろん、現状に当て嵌めるには不具合もあった。
前提条件が違うのだ。
相手が弓矢や剣等で武装している、技術的に圧倒された民間人である事は、想定すら(少なからず黙殺された存在はあったのだろうが)されていないだろう。
だが民間人である事を否定し切れない存在だ。
商人であり村人でもあるのだから、現地の慣例がハッキリしない以上、断言は出来ない。
対応を誤れば、マスコミが群がって来る案件になり兼ねなかった。
「ささ、万屋殿。
やってしまってくだされ」
伯爵がまるで、用心棒を呼び寄せるヤクザの親分の様な事を言う。
その言い回しは時代劇に出て来る小者の様でもあり、側から見ればクスリと笑えたのだろうが、当事者達は笑えなかった。
「「「……………」」」
アンジェリカを除くエルフ達の期待に満ちた視線に、万屋達自衛官は何とも居た堪れない気分になる。
「(正当防衛になるのかねぇ?)」
万屋は誰とも無くヒソヒソと訊ねた。
問題がデリケートな事もあってか、山田だけで無く幅広い意見を求めたのだ。
「今の政権は、少なくとも現状を理解しようとはしています。
政権交替でも起こればお仕舞いでしょうがね」
山田は明言する事も、万屋と目を合わせる事も避けた。
『相手のリーチと射程は重要っスよ。
長剣は怪しいっスけど、弓矢と槍を持ってるんで正当防衛っス。
発砲許可願うっス』
インカムからは、緊張感の薄い霧谷の声が聞こえる。
任務の性質上、遠くで待機しているのは仕方の無い事だが、緊張感が欠けている様な意見だ。
状況を肌で感じていないのだろう。
「いや、正当防衛になるか分からないって議論だからね。
二階堂はどう思う?」
現状、万屋の頼れる相手は少ない。
以前はもう少し頼れる部下が多かったのだが、美人に言い寄られている今となってはそれも居なくなっている。
ベアトリクスに言い寄られた結果として、失ったものは多かった。
部下には若い男が多く、万屋が嫉妬されるのは当然だ。
そして、その気も無いのに突き放せない立場から、中途半端な振る舞いをしていると、女の部下からの受けも悪い。
ただでさえ低い権威と、少ない人望がゴリゴリと削られているのが、万屋の現状だった。
「隊長が逮捕されても大丈夫です!」
二階堂は元気に毒を吐く。
「酷い………」
以前と変わらない付き合いをしてくれる、数少ない部下ではあるのだが、だからこそ万屋は落ち込むしかなかった。
「やいやいやい!!!
言う事を聞く気がねぇのか!?」
無視された形となった店主改め、村人兼商人兼盗賊は遂に堪忍袋の緒を切らしたのだろう。
抜いた長剣をブンブンと振り回して、怒りの叫び声をあげる。
(挑発してたのに………)
万屋は、相手が予想以上にお人好しだった事で苛立つ。
議論という名目で相手を無視し、怒り出して斬り掛かって来てからであれば、誰がどう見ても正当防衛である。
万屋はそれを狙ったのだ。
だが、相手は口調こそ田舎訛りを止めているものの、根本から悪人になりきれて無いらしい。
普段は朴訥な田舎者なのだろう。
「殺り辛いなぁ」
万屋は面倒臭くなったのか、投げやり気味だ。
「お前ら、恐れを知らないのか!?」
投げやりな態度に、不気味なものを感じてのだろう。
盗賊達は、脅しに屈しない万屋に動揺する。
「村長、何かおかしいべ」
訛ったままの中年が、店主だった盗賊に近付く。
当然の反応だろう。
彼等から見ると、万屋達はロクに武器も持っていないカモだ。
武装もしない、護衛も雇わないで旅をする世間知らずにしか見えない。
その筈だった。
エルフ三人は長剣やレイピアを持っているが、大人数を護衛しながら戦える程度の戦力差ではない。
普通なら、彼等は戦うまでも無く圧倒しているだろう。
だが、万屋達は何やら相談している。
それも、盗賊達を無視して熱心に話しているのだ。
余裕があるのか、極端に世間知らずなのか。
とにかく、盗賊達にはその姿が不気味に映った。
「おかしいのは分かっとる!」
動揺はダダ漏れだ。
相談するにしても、もう少し声を小さくすれば良いのだが、彼等は所詮素人である。
誰にでも分かる程度の情報秘匿すら、落ち着きを失えば出来なくなった。
(村長だったのか………)
万屋は盗賊店主の意外な素性に、困惑を深める。
囮だの足止めだのを、村長自らが率先して行うのに違和感を感じたのだ。
「(連中、本当に盗賊なんですか?)」
万屋は伯爵に確認を取る。
万が一の事があっては困るのだ。
万屋としても、大事件を起こして責任を取らされる訳にはいかない。
世話になった親族に、迷惑は掛けられないのだ。
(最悪、首でも吊ればいいか…………)
日本の場合、何か事件が起これば世間からの風当たりが親族にまで及ぶ。
だがその風潮には、起こした当事者さえ死ねばそれで終わるという側面もあった。
基本的には、死人に鞭を打つ様な事が無い。
追求出来ずに有耶無耶になってしまう事もあるが、この場合万屋自身には関係無かった。
身内の平穏こそが第一目標となるからだ。
(でも迷惑だろうなぁ…………)
だが、部下にも影響がある事を考えると、そう簡単には終われない。
ベストなのは、明らかに正当防衛が認められる状況だ。
「(盗賊であり、農民でもありますな。
武具が古いので、昔は落ち武者狩りもしていたでしょう)」
万屋にとって、落ち武者狩り云々はどうでもよかった。
このメンツの中ではおそらく一番確実であろう、伯爵の見解を欲したのだ。
「よーし、面倒だから撃っちまえ!(正当防衛射撃用意)」
面倒臭い最終確認を終え、テンションが上がったのだろう。
万屋は本音と建て前を取り違えるという、恐ろしいミスをやらかした。
「ちょっと、待ってくだせぇ!」
山田がその大ポカを咎めようとする前に、村長兼盗賊が武器を捨てる。
「あれ?」
万屋が周囲を見渡すと、盗賊兼村人達は既に村人モードに戻っていた。
具体的には、村長の半歩後ろで横並びに揃って平伏している。
「(どうしてこうなったの?)」
万屋は山田に囁き掛けるが、首を横に振る反応しか得られない。
奇妙なまでに余裕を持った彼等に対して、農業の片手間に弱そうな相手ばかりを狙う盗賊達は、いつの間にか勝手に戦意を喪失していた。
余裕の有無は大きかったのだ。
「何か言い訳がある様で」
万屋は棘を持った言い回しで続きを促す。
「へぇ。
オラ達は、神聖軍の斥候さを探しとったんですだぁ」
盗賊改め村長がそう言うと、盗賊改め村人達が示し会わせたかの様に、揃って頷く。
「はぁ…………」
万屋は溜息を吐いた。
呆れからではなく、ややこしさが増した為だ。
言い訳は稚拙な嘘だった。
動きは揃っていたが、全員目が泳いでいる。
いざという時の為に、最初から言い訳を決めていたのだろう。
そういった点も含めて、計画的な盗賊行為である事は明白だった。
(放置していいのか?)
計画的な凶悪犯罪である以上、放置しては良心が痛む。
だが、万屋達は全員が外国人であり、現地人に代わって盗賊を捕らえるのも、それはそれで問題があるだろう。
そもそも、この土地に主権国家が存在する事は明確に確認されていない為、自国内と言い張る事も出来なくはない。
だが、それはそれで捜査権限が自衛官に無い点から、警察庁と揉める事になりかねない。
自衛隊も、駐屯地外で捜査をしたい訳ではなかった。
そもそも、こんな事態は想定しておらず、任せられるものなら警察庁に任せたいのが本音だろう。
それでも、やはり警察官を現地に派遣するのはあまりにも危険過ぎる。
国内と言い張って警察官に任せるという手法は、現実的ではないだろう。
放置出来ない以上、現地の人々に引き渡すのが、現状で一番良い方法である。
だが、そこにも問題はあった。
西天津国と日本の間に、国交が無い点だ。
今の密入国状況で村人として暮らしている人々を捕まえては、後々の交渉に差し障りが出てしまう。
つまり、悪人である事が明白であっても、万屋達にはそれをどうこうする権限が無いのだ。
「これ、どうすればいいんですかね?」
万屋は伯爵に問い掛ける。
そこに貸し借り云々と言っている余裕は無い。
「?
ダッカの政庁へ引き渡すだけですぞ」
伯爵は当然の事を訊かれたかの様に、戸惑った顔をする。
(ああ、難しく考える必要を感じていないのか)
万屋は少し反省した。
将来的には、この世界が日本の慣例に合わせるべきだと、完全に思い込んでいたのだ。
彼方の世界の慣例に合わせるのであれば、ここで下手な行動を起こすと将来的に問題とされてしまう。
外交的な失点となるのだ。
だが、そこまで考えると既に領土侵犯等の失点も存在している為、今更感が強い。
現場で考えるべき事ではないのだ。
「隊長、盗賊を連れ回すのは無理です。
車両にスペースがありません」
万屋が『外交問題には発展しそうに無い』とばかりに安堵していると、山田が物理的な問題を提起する。
やはり、そう簡単に解決する問題ではないのだ。
「綱で数珠繋ぎにして引き摺れば良い」
山田の発言が天津語であった為か。
自衛官達がドン引きする様な意見を、
アンジェリカが言い出した。
万屋はその事実を目の当たりにしたものの、状況を認識するのには暫く時間を必要とした。
頭が追い付かなかったのだ。
人間の頭は機械の様に数年で進化はしない。
幾ら発展速度が速まっても、脳の処理速度まで速まる事はないのだ。
「こんな田舎で、珍しい銀貨が通じるなんておかしいとは思わなかったのか?」
今や標準語を話す店主はそう言うと、長剣を抜く。
彼だけでは無い。
先程の口笛は合図だったのだろう。
ゾロゾロと集まって来た村人も、武器を手にしている。
「身包み全部に女も置いてけ。
それで勘弁してやる」
「????????????????」
万屋は要求が徐々に大きくなっていく為だろう。
混乱から戻って来れないどころか、余計に混乱する。
「れ、連中は盗賊も兼ねている様です」
山田が慌てた様に言う。
慌てつつも、然りげ無く銃の安全装置を外しているのだから大したものだ。
「こういった手合いは珍しくありませんぞ。
戦争があれば落武者狩りをするんでしょうが、平和な場合は商隊を襲います。
どうやら間違えられましたな」
伯爵が憐れむ様な視線を向ける。
もちろん、万屋達にでは無い。
村人兼商人兼盗賊が、為す術も無く蜂の巣になると思っての事だ。
ところが、話はそう簡単に終わるものでは無かった。
伯爵があまり理解し切れていない日本の事情によって、今の状況は非常に面倒なのだ。
理由は色々とあるが、大まかに言えば世論や法律、隊規といったところか。
これ等の鎖は、あまりにも現状にそぐわなかった。
法律上、隊規上は問題無くとも世論の反発が大きければ、責任を押し付けられるのだ。
そして、法律と隊規も怪しかった。
武装しているものの相手は村人、つまり一般市民とも解釈出来るからだ。
商人であっても同じである。
盗賊である証拠が必要なのだが、現地の慣例や法律が分からない以上、相手を盗賊と定義する事も難しい。
もっとも、国際法の話をすればそれはまた別である。
武装して害意を露わにしている以上、自衛の為に発砲する事は何の問題も無い話だった。
ジュネーブ条約にしろハーグ陸戦協定にしろ、カビが生えかけてはいるものの基本的な部分はそれで通用している。
もちろん、現状に当て嵌めるには不具合もあった。
前提条件が違うのだ。
相手が弓矢や剣等で武装している、技術的に圧倒された民間人である事は、想定すら(少なからず黙殺された存在はあったのだろうが)されていないだろう。
だが民間人である事を否定し切れない存在だ。
商人であり村人でもあるのだから、現地の慣例がハッキリしない以上、断言は出来ない。
対応を誤れば、マスコミが群がって来る案件になり兼ねなかった。
「ささ、万屋殿。
やってしまってくだされ」
伯爵がまるで、用心棒を呼び寄せるヤクザの親分の様な事を言う。
その言い回しは時代劇に出て来る小者の様でもあり、側から見ればクスリと笑えたのだろうが、当事者達は笑えなかった。
「「「……………」」」
アンジェリカを除くエルフ達の期待に満ちた視線に、万屋達自衛官は何とも居た堪れない気分になる。
「(正当防衛になるのかねぇ?)」
万屋は誰とも無くヒソヒソと訊ねた。
問題がデリケートな事もあってか、山田だけで無く幅広い意見を求めたのだ。
「今の政権は、少なくとも現状を理解しようとはしています。
政権交替でも起こればお仕舞いでしょうがね」
山田は明言する事も、万屋と目を合わせる事も避けた。
『相手のリーチと射程は重要っスよ。
長剣は怪しいっスけど、弓矢と槍を持ってるんで正当防衛っス。
発砲許可願うっス』
インカムからは、緊張感の薄い霧谷の声が聞こえる。
任務の性質上、遠くで待機しているのは仕方の無い事だが、緊張感が欠けている様な意見だ。
状況を肌で感じていないのだろう。
「いや、正当防衛になるか分からないって議論だからね。
二階堂はどう思う?」
現状、万屋の頼れる相手は少ない。
以前はもう少し頼れる部下が多かったのだが、美人に言い寄られている今となってはそれも居なくなっている。
ベアトリクスに言い寄られた結果として、失ったものは多かった。
部下には若い男が多く、万屋が嫉妬されるのは当然だ。
そして、その気も無いのに突き放せない立場から、中途半端な振る舞いをしていると、女の部下からの受けも悪い。
ただでさえ低い権威と、少ない人望がゴリゴリと削られているのが、万屋の現状だった。
「隊長が逮捕されても大丈夫です!」
二階堂は元気に毒を吐く。
「酷い………」
以前と変わらない付き合いをしてくれる、数少ない部下ではあるのだが、だからこそ万屋は落ち込むしかなかった。
「やいやいやい!!!
言う事を聞く気がねぇのか!?」
無視された形となった店主改め、村人兼商人兼盗賊は遂に堪忍袋の緒を切らしたのだろう。
抜いた長剣をブンブンと振り回して、怒りの叫び声をあげる。
(挑発してたのに………)
万屋は、相手が予想以上にお人好しだった事で苛立つ。
議論という名目で相手を無視し、怒り出して斬り掛かって来てからであれば、誰がどう見ても正当防衛である。
万屋はそれを狙ったのだ。
だが、相手は口調こそ田舎訛りを止めているものの、根本から悪人になりきれて無いらしい。
普段は朴訥な田舎者なのだろう。
「殺り辛いなぁ」
万屋は面倒臭くなったのか、投げやり気味だ。
「お前ら、恐れを知らないのか!?」
投げやりな態度に、不気味なものを感じてのだろう。
盗賊達は、脅しに屈しない万屋に動揺する。
「村長、何かおかしいべ」
訛ったままの中年が、店主だった盗賊に近付く。
当然の反応だろう。
彼等から見ると、万屋達はロクに武器も持っていないカモだ。
武装もしない、護衛も雇わないで旅をする世間知らずにしか見えない。
その筈だった。
エルフ三人は長剣やレイピアを持っているが、大人数を護衛しながら戦える程度の戦力差ではない。
普通なら、彼等は戦うまでも無く圧倒しているだろう。
だが、万屋達は何やら相談している。
それも、盗賊達を無視して熱心に話しているのだ。
余裕があるのか、極端に世間知らずなのか。
とにかく、盗賊達にはその姿が不気味に映った。
「おかしいのは分かっとる!」
動揺はダダ漏れだ。
相談するにしても、もう少し声を小さくすれば良いのだが、彼等は所詮素人である。
誰にでも分かる程度の情報秘匿すら、落ち着きを失えば出来なくなった。
(村長だったのか………)
万屋は盗賊店主の意外な素性に、困惑を深める。
囮だの足止めだのを、村長自らが率先して行うのに違和感を感じたのだ。
「(連中、本当に盗賊なんですか?)」
万屋は伯爵に確認を取る。
万が一の事があっては困るのだ。
万屋としても、大事件を起こして責任を取らされる訳にはいかない。
世話になった親族に、迷惑は掛けられないのだ。
(最悪、首でも吊ればいいか…………)
日本の場合、何か事件が起これば世間からの風当たりが親族にまで及ぶ。
だがその風潮には、起こした当事者さえ死ねばそれで終わるという側面もあった。
基本的には、死人に鞭を打つ様な事が無い。
追求出来ずに有耶無耶になってしまう事もあるが、この場合万屋自身には関係無かった。
身内の平穏こそが第一目標となるからだ。
(でも迷惑だろうなぁ…………)
だが、部下にも影響がある事を考えると、そう簡単には終われない。
ベストなのは、明らかに正当防衛が認められる状況だ。
「(盗賊であり、農民でもありますな。
武具が古いので、昔は落ち武者狩りもしていたでしょう)」
万屋にとって、落ち武者狩り云々はどうでもよかった。
このメンツの中ではおそらく一番確実であろう、伯爵の見解を欲したのだ。
「よーし、面倒だから撃っちまえ!(正当防衛射撃用意)」
面倒臭い最終確認を終え、テンションが上がったのだろう。
万屋は本音と建て前を取り違えるという、恐ろしいミスをやらかした。
「ちょっと、待ってくだせぇ!」
山田がその大ポカを咎めようとする前に、村長兼盗賊が武器を捨てる。
「あれ?」
万屋が周囲を見渡すと、盗賊兼村人達は既に村人モードに戻っていた。
具体的には、村長の半歩後ろで横並びに揃って平伏している。
「(どうしてこうなったの?)」
万屋は山田に囁き掛けるが、首を横に振る反応しか得られない。
奇妙なまでに余裕を持った彼等に対して、農業の片手間に弱そうな相手ばかりを狙う盗賊達は、いつの間にか勝手に戦意を喪失していた。
余裕の有無は大きかったのだ。
「何か言い訳がある様で」
万屋は棘を持った言い回しで続きを促す。
「へぇ。
オラ達は、神聖軍の斥候さを探しとったんですだぁ」
盗賊改め村長がそう言うと、盗賊改め村人達が示し会わせたかの様に、揃って頷く。
「はぁ…………」
万屋は溜息を吐いた。
呆れからではなく、ややこしさが増した為だ。
言い訳は稚拙な嘘だった。
動きは揃っていたが、全員目が泳いでいる。
いざという時の為に、最初から言い訳を決めていたのだろう。
そういった点も含めて、計画的な盗賊行為である事は明白だった。
(放置していいのか?)
計画的な凶悪犯罪である以上、放置しては良心が痛む。
だが、万屋達は全員が外国人であり、現地人に代わって盗賊を捕らえるのも、それはそれで問題があるだろう。
そもそも、この土地に主権国家が存在する事は明確に確認されていない為、自国内と言い張る事も出来なくはない。
だが、それはそれで捜査権限が自衛官に無い点から、警察庁と揉める事になりかねない。
自衛隊も、駐屯地外で捜査をしたい訳ではなかった。
そもそも、こんな事態は想定しておらず、任せられるものなら警察庁に任せたいのが本音だろう。
それでも、やはり警察官を現地に派遣するのはあまりにも危険過ぎる。
国内と言い張って警察官に任せるという手法は、現実的ではないだろう。
放置出来ない以上、現地の人々に引き渡すのが、現状で一番良い方法である。
だが、そこにも問題はあった。
西天津国と日本の間に、国交が無い点だ。
今の密入国状況で村人として暮らしている人々を捕まえては、後々の交渉に差し障りが出てしまう。
つまり、悪人である事が明白であっても、万屋達にはそれをどうこうする権限が無いのだ。
「これ、どうすればいいんですかね?」
万屋は伯爵に問い掛ける。
そこに貸し借り云々と言っている余裕は無い。
「?
ダッカの政庁へ引き渡すだけですぞ」
伯爵は当然の事を訊かれたかの様に、戸惑った顔をする。
(ああ、難しく考える必要を感じていないのか)
万屋は少し反省した。
将来的には、この世界が日本の慣例に合わせるべきだと、完全に思い込んでいたのだ。
彼方の世界の慣例に合わせるのであれば、ここで下手な行動を起こすと将来的に問題とされてしまう。
外交的な失点となるのだ。
だが、そこまで考えると既に領土侵犯等の失点も存在している為、今更感が強い。
現場で考えるべき事ではないのだ。
「隊長、盗賊を連れ回すのは無理です。
車両にスペースがありません」
万屋が『外交問題には発展しそうに無い』とばかりに安堵していると、山田が物理的な問題を提起する。
やはり、そう簡単に解決する問題ではないのだ。
「綱で数珠繋ぎにして引き摺れば良い」
山田の発言が天津語であった為か。
自衛官達がドン引きする様な意見を、
アンジェリカが言い出した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった
ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。
学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。
だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。
暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。
よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!?
……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい!
そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。
赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。
「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」
そう、他人事のように見送った俺だったが……。
直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。
「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」
――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。
氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!
本条蒼依
ファンタジー
氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。
死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。
大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる