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第二章 西端半島戦役
第五十一話 農民兼商人兼盗賊
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身分制度の存在する社会であっても、職業の選択が可能な範囲であれば、その辺りは曖昧になる事もある。
万屋はその事実を目の当たりにしたものの、状況を認識するのには暫く時間を必要とした。
頭が追い付かなかったのだ。
人間の頭は機械の様に数年で進化はしない。
幾ら発展速度が速まっても、脳の処理速度まで速まる事はないのだ。
「こんな田舎で、珍しい銀貨が通じるなんておかしいとは思わなかったのか?」
今や標準語を話す店主はそう言うと、長剣を抜く。
彼だけでは無い。
先程の口笛は合図だったのだろう。
ゾロゾロと集まって来た村人も、武器を手にしている。
「身包み全部に女も置いてけ。
それで勘弁してやる」
「????????????????」
万屋は要求が徐々に大きくなっていく為だろう。
混乱から戻って来れないどころか、余計に混乱する。
「れ、連中は盗賊も兼ねている様です」
山田が慌てた様に言う。
慌てつつも、然りげ無く銃の安全装置を外しているのだから大したものだ。
「こういった手合いは珍しくありませんぞ。
戦争があれば落武者狩りをするんでしょうが、平和な場合は商隊を襲います。
どうやら間違えられましたな」
伯爵が憐れむ様な視線を向ける。
もちろん、万屋達にでは無い。
村人兼商人兼盗賊が、為す術も無く蜂の巣になると思っての事だ。
ところが、話はそう簡単に終わるものでは無かった。
伯爵があまり理解し切れていない日本の事情によって、今の状況は非常に面倒なのだ。
理由は色々とあるが、大まかに言えば世論や法律、隊規といったところか。
これ等の鎖は、あまりにも現状にそぐわなかった。
法律上、隊規上は問題無くとも世論の反発が大きければ、責任を押し付けられるのだ。
そして、法律と隊規も怪しかった。
武装しているものの相手は村人、つまり一般市民とも解釈出来るからだ。
商人であっても同じである。
盗賊である証拠が必要なのだが、現地の慣例や法律が分からない以上、相手を盗賊と定義する事も難しい。
もっとも、国際法の話をすればそれはまた別である。
武装して害意を露わにしている以上、自衛の為に発砲する事は何の問題も無い話だった。
ジュネーブ条約にしろハーグ陸戦協定にしろ、カビが生えかけてはいるものの基本的な部分はそれで通用している。
もちろん、現状に当て嵌めるには不具合もあった。
前提条件が違うのだ。
相手が弓矢や剣等で武装している、技術的に圧倒された民間人である事は、想定すら(少なからず黙殺された存在はあったのだろうが)されていないだろう。
だが民間人である事を否定し切れない存在だ。
商人であり村人でもあるのだから、現地の慣例がハッキリしない以上、断言は出来ない。
対応を誤れば、マスコミが群がって来る案件になり兼ねなかった。
「ささ、万屋殿。
やってしまってくだされ」
伯爵がまるで、用心棒を呼び寄せるヤクザの親分の様な事を言う。
その言い回しは時代劇に出て来る小者の様でもあり、側から見ればクスリと笑えたのだろうが、当事者達は笑えなかった。
「「「……………」」」
アンジェリカを除くエルフ達の期待に満ちた視線に、万屋達自衛官は何とも居た堪れない気分になる。
「(正当防衛になるのかねぇ?)」
万屋は誰とも無くヒソヒソと訊ねた。
問題がデリケートな事もあってか、山田だけで無く幅広い意見を求めたのだ。
「今の政権は、少なくとも現状を理解しようとはしています。
政権交替でも起こればお仕舞いでしょうがね」
山田は明言する事も、万屋と目を合わせる事も避けた。
『相手のリーチと射程は重要っスよ。
長剣は怪しいっスけど、弓矢と槍を持ってるんで正当防衛っス。
発砲許可願うっス』
インカムからは、緊張感の薄い霧谷の声が聞こえる。
任務の性質上、遠くで待機しているのは仕方の無い事だが、緊張感が欠けている様な意見だ。
状況を肌で感じていないのだろう。
「いや、正当防衛になるか分からないって議論だからね。
二階堂はどう思う?」
現状、万屋の頼れる相手は少ない。
以前はもう少し頼れる部下が多かったのだが、美人に言い寄られている今となってはそれも居なくなっている。
ベアトリクスに言い寄られた結果として、失ったものは多かった。
部下には若い男が多く、万屋が嫉妬されるのは当然だ。
そして、その気も無いのに突き放せない立場から、中途半端な振る舞いをしていると、女の部下からの受けも悪い。
ただでさえ低い権威と、少ない人望がゴリゴリと削られているのが、万屋の現状だった。
「隊長が逮捕されても大丈夫です!」
二階堂は元気に毒を吐く。
「酷い………」
以前と変わらない付き合いをしてくれる、数少ない部下ではあるのだが、だからこそ万屋は落ち込むしかなかった。
「やいやいやい!!!
言う事を聞く気がねぇのか!?」
無視された形となった店主改め、村人兼商人兼盗賊は遂に堪忍袋の緒を切らしたのだろう。
抜いた長剣をブンブンと振り回して、怒りの叫び声をあげる。
(挑発してたのに………)
万屋は、相手が予想以上にお人好しだった事で苛立つ。
議論という名目で相手を無視し、怒り出して斬り掛かって来てからであれば、誰がどう見ても正当防衛である。
万屋はそれを狙ったのだ。
だが、相手は口調こそ田舎訛りを止めているものの、根本から悪人になりきれて無いらしい。
普段は朴訥な田舎者なのだろう。
「殺り辛いなぁ」
万屋は面倒臭くなったのか、投げやり気味だ。
「お前ら、恐れを知らないのか!?」
投げやりな態度に、不気味なものを感じてのだろう。
盗賊達は、脅しに屈しない万屋に動揺する。
「村長、何かおかしいべ」
訛ったままの中年が、店主だった盗賊に近付く。
当然の反応だろう。
彼等から見ると、万屋達はロクに武器も持っていないカモだ。
武装もしない、護衛も雇わないで旅をする世間知らずにしか見えない。
その筈だった。
エルフ三人は長剣やレイピアを持っているが、大人数を護衛しながら戦える程度の戦力差ではない。
普通なら、彼等は戦うまでも無く圧倒しているだろう。
だが、万屋達は何やら相談している。
それも、盗賊達を無視して熱心に話しているのだ。
余裕があるのか、極端に世間知らずなのか。
とにかく、盗賊達にはその姿が不気味に映った。
「おかしいのは分かっとる!」
動揺はダダ漏れだ。
相談するにしても、もう少し声を小さくすれば良いのだが、彼等は所詮素人である。
誰にでも分かる程度の情報秘匿すら、落ち着きを失えば出来なくなった。
(村長だったのか………)
万屋は盗賊店主の意外な素性に、困惑を深める。
囮だの足止めだのを、村長自らが率先して行うのに違和感を感じたのだ。
「(連中、本当に盗賊なんですか?)」
万屋は伯爵に確認を取る。
万が一の事があっては困るのだ。
万屋としても、大事件を起こして責任を取らされる訳にはいかない。
世話になった親族に、迷惑は掛けられないのだ。
(最悪、首でも吊ればいいか…………)
日本の場合、何か事件が起これば世間からの風当たりが親族にまで及ぶ。
だがその風潮には、起こした当事者さえ死ねばそれで終わるという側面もあった。
基本的には、死人に鞭を打つ様な事が無い。
追求出来ずに有耶無耶になってしまう事もあるが、この場合万屋自身には関係無かった。
身内の平穏こそが第一目標となるからだ。
(でも迷惑だろうなぁ…………)
だが、部下にも影響がある事を考えると、そう簡単には終われない。
ベストなのは、明らかに正当防衛が認められる状況だ。
「(盗賊であり、農民でもありますな。
武具が古いので、昔は落ち武者狩りもしていたでしょう)」
万屋にとって、落ち武者狩り云々はどうでもよかった。
このメンツの中ではおそらく一番確実であろう、伯爵の見解を欲したのだ。
「よーし、面倒だから撃っちまえ!(正当防衛射撃用意)」
面倒臭い最終確認を終え、テンションが上がったのだろう。
万屋は本音と建て前を取り違えるという、恐ろしいミスをやらかした。
「ちょっと、待ってくだせぇ!」
山田がその大ポカを咎めようとする前に、村長兼盗賊が武器を捨てる。
「あれ?」
万屋が周囲を見渡すと、盗賊兼村人達は既に村人モードに戻っていた。
具体的には、村長の半歩後ろで横並びに揃って平伏している。
「(どうしてこうなったの?)」
万屋は山田に囁き掛けるが、首を横に振る反応しか得られない。
奇妙なまでに余裕を持った彼等に対して、農業の片手間に弱そうな相手ばかりを狙う盗賊達は、いつの間にか勝手に戦意を喪失していた。
余裕の有無は大きかったのだ。
「何か言い訳がある様で」
万屋は棘を持った言い回しで続きを促す。
「へぇ。
オラ達は、神聖軍の斥候さを探しとったんですだぁ」
盗賊改め村長がそう言うと、盗賊改め村人達が示し会わせたかの様に、揃って頷く。
「はぁ…………」
万屋は溜息を吐いた。
呆れからではなく、ややこしさが増した為だ。
言い訳は稚拙な嘘だった。
動きは揃っていたが、全員目が泳いでいる。
いざという時の為に、最初から言い訳を決めていたのだろう。
そういった点も含めて、計画的な盗賊行為である事は明白だった。
(放置していいのか?)
計画的な凶悪犯罪である以上、放置しては良心が痛む。
だが、万屋達は全員が外国人であり、現地人に代わって盗賊を捕らえるのも、それはそれで問題があるだろう。
そもそも、この土地に主権国家が存在する事は明確に確認されていない為、自国内と言い張る事も出来なくはない。
だが、それはそれで捜査権限が自衛官に無い点から、警察庁と揉める事になりかねない。
自衛隊も、駐屯地外で捜査をしたい訳ではなかった。
そもそも、こんな事態は想定しておらず、任せられるものなら警察庁に任せたいのが本音だろう。
それでも、やはり警察官を現地に派遣するのはあまりにも危険過ぎる。
国内と言い張って警察官に任せるという手法は、現実的ではないだろう。
放置出来ない以上、現地の人々に引き渡すのが、現状で一番良い方法である。
だが、そこにも問題はあった。
西天津国と日本の間に、国交が無い点だ。
今の密入国状況で村人として暮らしている人々を捕まえては、後々の交渉に差し障りが出てしまう。
つまり、悪人である事が明白であっても、万屋達にはそれをどうこうする権限が無いのだ。
「これ、どうすればいいんですかね?」
万屋は伯爵に問い掛ける。
そこに貸し借り云々と言っている余裕は無い。
「?
ダッカの政庁へ引き渡すだけですぞ」
伯爵は当然の事を訊かれたかの様に、戸惑った顔をする。
(ああ、難しく考える必要を感じていないのか)
万屋は少し反省した。
将来的には、この世界が日本の慣例に合わせるべきだと、完全に思い込んでいたのだ。
彼方の世界の慣例に合わせるのであれば、ここで下手な行動を起こすと将来的に問題とされてしまう。
外交的な失点となるのだ。
だが、そこまで考えると既に領土侵犯等の失点も存在している為、今更感が強い。
現場で考えるべき事ではないのだ。
「隊長、盗賊を連れ回すのは無理です。
車両にスペースがありません」
万屋が『外交問題には発展しそうに無い』とばかりに安堵していると、山田が物理的な問題を提起する。
やはり、そう簡単に解決する問題ではないのだ。
「綱で数珠繋ぎにして引き摺れば良い」
山田の発言が天津語であった為か。
自衛官達がドン引きする様な意見を、
アンジェリカが言い出した。
万屋はその事実を目の当たりにしたものの、状況を認識するのには暫く時間を必要とした。
頭が追い付かなかったのだ。
人間の頭は機械の様に数年で進化はしない。
幾ら発展速度が速まっても、脳の処理速度まで速まる事はないのだ。
「こんな田舎で、珍しい銀貨が通じるなんておかしいとは思わなかったのか?」
今や標準語を話す店主はそう言うと、長剣を抜く。
彼だけでは無い。
先程の口笛は合図だったのだろう。
ゾロゾロと集まって来た村人も、武器を手にしている。
「身包み全部に女も置いてけ。
それで勘弁してやる」
「????????????????」
万屋は要求が徐々に大きくなっていく為だろう。
混乱から戻って来れないどころか、余計に混乱する。
「れ、連中は盗賊も兼ねている様です」
山田が慌てた様に言う。
慌てつつも、然りげ無く銃の安全装置を外しているのだから大したものだ。
「こういった手合いは珍しくありませんぞ。
戦争があれば落武者狩りをするんでしょうが、平和な場合は商隊を襲います。
どうやら間違えられましたな」
伯爵が憐れむ様な視線を向ける。
もちろん、万屋達にでは無い。
村人兼商人兼盗賊が、為す術も無く蜂の巣になると思っての事だ。
ところが、話はそう簡単に終わるものでは無かった。
伯爵があまり理解し切れていない日本の事情によって、今の状況は非常に面倒なのだ。
理由は色々とあるが、大まかに言えば世論や法律、隊規といったところか。
これ等の鎖は、あまりにも現状にそぐわなかった。
法律上、隊規上は問題無くとも世論の反発が大きければ、責任を押し付けられるのだ。
そして、法律と隊規も怪しかった。
武装しているものの相手は村人、つまり一般市民とも解釈出来るからだ。
商人であっても同じである。
盗賊である証拠が必要なのだが、現地の慣例や法律が分からない以上、相手を盗賊と定義する事も難しい。
もっとも、国際法の話をすればそれはまた別である。
武装して害意を露わにしている以上、自衛の為に発砲する事は何の問題も無い話だった。
ジュネーブ条約にしろハーグ陸戦協定にしろ、カビが生えかけてはいるものの基本的な部分はそれで通用している。
もちろん、現状に当て嵌めるには不具合もあった。
前提条件が違うのだ。
相手が弓矢や剣等で武装している、技術的に圧倒された民間人である事は、想定すら(少なからず黙殺された存在はあったのだろうが)されていないだろう。
だが民間人である事を否定し切れない存在だ。
商人であり村人でもあるのだから、現地の慣例がハッキリしない以上、断言は出来ない。
対応を誤れば、マスコミが群がって来る案件になり兼ねなかった。
「ささ、万屋殿。
やってしまってくだされ」
伯爵がまるで、用心棒を呼び寄せるヤクザの親分の様な事を言う。
その言い回しは時代劇に出て来る小者の様でもあり、側から見ればクスリと笑えたのだろうが、当事者達は笑えなかった。
「「「……………」」」
アンジェリカを除くエルフ達の期待に満ちた視線に、万屋達自衛官は何とも居た堪れない気分になる。
「(正当防衛になるのかねぇ?)」
万屋は誰とも無くヒソヒソと訊ねた。
問題がデリケートな事もあってか、山田だけで無く幅広い意見を求めたのだ。
「今の政権は、少なくとも現状を理解しようとはしています。
政権交替でも起こればお仕舞いでしょうがね」
山田は明言する事も、万屋と目を合わせる事も避けた。
『相手のリーチと射程は重要っスよ。
長剣は怪しいっスけど、弓矢と槍を持ってるんで正当防衛っス。
発砲許可願うっス』
インカムからは、緊張感の薄い霧谷の声が聞こえる。
任務の性質上、遠くで待機しているのは仕方の無い事だが、緊張感が欠けている様な意見だ。
状況を肌で感じていないのだろう。
「いや、正当防衛になるか分からないって議論だからね。
二階堂はどう思う?」
現状、万屋の頼れる相手は少ない。
以前はもう少し頼れる部下が多かったのだが、美人に言い寄られている今となってはそれも居なくなっている。
ベアトリクスに言い寄られた結果として、失ったものは多かった。
部下には若い男が多く、万屋が嫉妬されるのは当然だ。
そして、その気も無いのに突き放せない立場から、中途半端な振る舞いをしていると、女の部下からの受けも悪い。
ただでさえ低い権威と、少ない人望がゴリゴリと削られているのが、万屋の現状だった。
「隊長が逮捕されても大丈夫です!」
二階堂は元気に毒を吐く。
「酷い………」
以前と変わらない付き合いをしてくれる、数少ない部下ではあるのだが、だからこそ万屋は落ち込むしかなかった。
「やいやいやい!!!
言う事を聞く気がねぇのか!?」
無視された形となった店主改め、村人兼商人兼盗賊は遂に堪忍袋の緒を切らしたのだろう。
抜いた長剣をブンブンと振り回して、怒りの叫び声をあげる。
(挑発してたのに………)
万屋は、相手が予想以上にお人好しだった事で苛立つ。
議論という名目で相手を無視し、怒り出して斬り掛かって来てからであれば、誰がどう見ても正当防衛である。
万屋はそれを狙ったのだ。
だが、相手は口調こそ田舎訛りを止めているものの、根本から悪人になりきれて無いらしい。
普段は朴訥な田舎者なのだろう。
「殺り辛いなぁ」
万屋は面倒臭くなったのか、投げやり気味だ。
「お前ら、恐れを知らないのか!?」
投げやりな態度に、不気味なものを感じてのだろう。
盗賊達は、脅しに屈しない万屋に動揺する。
「村長、何かおかしいべ」
訛ったままの中年が、店主だった盗賊に近付く。
当然の反応だろう。
彼等から見ると、万屋達はロクに武器も持っていないカモだ。
武装もしない、護衛も雇わないで旅をする世間知らずにしか見えない。
その筈だった。
エルフ三人は長剣やレイピアを持っているが、大人数を護衛しながら戦える程度の戦力差ではない。
普通なら、彼等は戦うまでも無く圧倒しているだろう。
だが、万屋達は何やら相談している。
それも、盗賊達を無視して熱心に話しているのだ。
余裕があるのか、極端に世間知らずなのか。
とにかく、盗賊達にはその姿が不気味に映った。
「おかしいのは分かっとる!」
動揺はダダ漏れだ。
相談するにしても、もう少し声を小さくすれば良いのだが、彼等は所詮素人である。
誰にでも分かる程度の情報秘匿すら、落ち着きを失えば出来なくなった。
(村長だったのか………)
万屋は盗賊店主の意外な素性に、困惑を深める。
囮だの足止めだのを、村長自らが率先して行うのに違和感を感じたのだ。
「(連中、本当に盗賊なんですか?)」
万屋は伯爵に確認を取る。
万が一の事があっては困るのだ。
万屋としても、大事件を起こして責任を取らされる訳にはいかない。
世話になった親族に、迷惑は掛けられないのだ。
(最悪、首でも吊ればいいか…………)
日本の場合、何か事件が起これば世間からの風当たりが親族にまで及ぶ。
だがその風潮には、起こした当事者さえ死ねばそれで終わるという側面もあった。
基本的には、死人に鞭を打つ様な事が無い。
追求出来ずに有耶無耶になってしまう事もあるが、この場合万屋自身には関係無かった。
身内の平穏こそが第一目標となるからだ。
(でも迷惑だろうなぁ…………)
だが、部下にも影響がある事を考えると、そう簡単には終われない。
ベストなのは、明らかに正当防衛が認められる状況だ。
「(盗賊であり、農民でもありますな。
武具が古いので、昔は落ち武者狩りもしていたでしょう)」
万屋にとって、落ち武者狩り云々はどうでもよかった。
このメンツの中ではおそらく一番確実であろう、伯爵の見解を欲したのだ。
「よーし、面倒だから撃っちまえ!(正当防衛射撃用意)」
面倒臭い最終確認を終え、テンションが上がったのだろう。
万屋は本音と建て前を取り違えるという、恐ろしいミスをやらかした。
「ちょっと、待ってくだせぇ!」
山田がその大ポカを咎めようとする前に、村長兼盗賊が武器を捨てる。
「あれ?」
万屋が周囲を見渡すと、盗賊兼村人達は既に村人モードに戻っていた。
具体的には、村長の半歩後ろで横並びに揃って平伏している。
「(どうしてこうなったの?)」
万屋は山田に囁き掛けるが、首を横に振る反応しか得られない。
奇妙なまでに余裕を持った彼等に対して、農業の片手間に弱そうな相手ばかりを狙う盗賊達は、いつの間にか勝手に戦意を喪失していた。
余裕の有無は大きかったのだ。
「何か言い訳がある様で」
万屋は棘を持った言い回しで続きを促す。
「へぇ。
オラ達は、神聖軍の斥候さを探しとったんですだぁ」
盗賊改め村長がそう言うと、盗賊改め村人達が示し会わせたかの様に、揃って頷く。
「はぁ…………」
万屋は溜息を吐いた。
呆れからではなく、ややこしさが増した為だ。
言い訳は稚拙な嘘だった。
動きは揃っていたが、全員目が泳いでいる。
いざという時の為に、最初から言い訳を決めていたのだろう。
そういった点も含めて、計画的な盗賊行為である事は明白だった。
(放置していいのか?)
計画的な凶悪犯罪である以上、放置しては良心が痛む。
だが、万屋達は全員が外国人であり、現地人に代わって盗賊を捕らえるのも、それはそれで問題があるだろう。
そもそも、この土地に主権国家が存在する事は明確に確認されていない為、自国内と言い張る事も出来なくはない。
だが、それはそれで捜査権限が自衛官に無い点から、警察庁と揉める事になりかねない。
自衛隊も、駐屯地外で捜査をしたい訳ではなかった。
そもそも、こんな事態は想定しておらず、任せられるものなら警察庁に任せたいのが本音だろう。
それでも、やはり警察官を現地に派遣するのはあまりにも危険過ぎる。
国内と言い張って警察官に任せるという手法は、現実的ではないだろう。
放置出来ない以上、現地の人々に引き渡すのが、現状で一番良い方法である。
だが、そこにも問題はあった。
西天津国と日本の間に、国交が無い点だ。
今の密入国状況で村人として暮らしている人々を捕まえては、後々の交渉に差し障りが出てしまう。
つまり、悪人である事が明白であっても、万屋達にはそれをどうこうする権限が無いのだ。
「これ、どうすればいいんですかね?」
万屋は伯爵に問い掛ける。
そこに貸し借り云々と言っている余裕は無い。
「?
ダッカの政庁へ引き渡すだけですぞ」
伯爵は当然の事を訊かれたかの様に、戸惑った顔をする。
(ああ、難しく考える必要を感じていないのか)
万屋は少し反省した。
将来的には、この世界が日本の慣例に合わせるべきだと、完全に思い込んでいたのだ。
彼方の世界の慣例に合わせるのであれば、ここで下手な行動を起こすと将来的に問題とされてしまう。
外交的な失点となるのだ。
だが、そこまで考えると既に領土侵犯等の失点も存在している為、今更感が強い。
現場で考えるべき事ではないのだ。
「隊長、盗賊を連れ回すのは無理です。
車両にスペースがありません」
万屋が『外交問題には発展しそうに無い』とばかりに安堵していると、山田が物理的な問題を提起する。
やはり、そう簡単に解決する問題ではないのだ。
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どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
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