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第二章 西端半島戦役
第十一話 とある虜囚の困惑
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(どうしてこんな事になってんだ?)
リースの港町に在って尚且つ自身を襲った、想定外の出来事に頭悩ませている者は多く、それは帝国人に限らなかった。
当然と言えば当然であるが、拉致された日本人である。
彼等は薄暗い牢獄の中で、一様に怯えていた。
夜遅くの、しかも建物の地下にも拘らず、真っ暗ではないのは幸いと言えば幸いなのか。
少しとはいえ、灯りがある事でパニックにはならなかった事は、幸いであると言えるだろう。
しかし同時に、灯りが灯っているという事は、逃亡の難しさを意味しているのだ。
さらにいえば、松明の様な火を使った原始的な灯りの傍には、逃亡と火事を防ぐ為の見張り役も、必ず居る筈だ。
そういう事を踏まえて考えると、一概に良かったとは言い切れないであろう。
(頼れそうな人が居ないな)
周囲を見渡した木下は、そんな事を思った。
事実、木下の様に悩める者はまだましな方であり、彼等の大半はただ震えるだけである。
無理も無い話だ。
動乱の時代を、自らの判断やら才覚やらで生き抜いて来た、戦前生まれならばともかく、ここにいる拉致被害者の平均年齢は、それなりに低かった。
ちなみに、彼等の平均年齢が低い理由は、単純である。
神聖軍は、拉致被害者達を奴隷とするつもりで、捕らえた為だ。
そして、奴隷としての価値は、男性ならば丈夫さが重視され、女性ならば美しさが判断基準となる。
故に、拉致被害者の平均年齢は二十歳程であった。
成長し切っているか、若干成長の余地を残した年齢こそが、奴隷とするのに最も都合が良かったのだ。
そして、若い世代である彼等は平和な時代を生きる日本人であり、修羅場には慣れていない。
もちろん同世代の中には、波乱万丈な人生経験がある者もいるだろう。
修羅場慣れしている者も、いなくはない筈だ。
しかし、少なくともこの場にそういった経験のある者は、皆無である。
拉致被害者の一人である木下洋平は、大学二年生となったばかりの観光客であった。
シュノーケリングが趣味であり、イルカを始めとする小笠原諸島特有の海の生き物と戯れる事を目的に、遠くまでやって来たのだ。
21世紀初頭の小笠原では、移動こそ便利になったものの、交通費や宿泊費等の面では、大幅に値上がりしている。
木下はその為に、勉強の傍ら複数のアルバイトをこなして、結構な金額を貯めている必要があった程だ。
苦労した甲斐も無く、楽しい旅行となる筈であった小笠原行きは、最悪なものとなった。
何せ、言葉の通じない海賊船らしき船に、拉致されたのだ。
現代日本に於いて、これ以上最悪な事はそうそう起きないであろう。
しかし、残念ながらだからと言って、これから事態が好転するという甘い期待をする事も出来ない。
何故なら、工学部という歴史や文化とはかけ離れた分野の学生であっても、自身が奴隷扱いされている事は明白だからだ。
この様な状況で、未来を楽観的に考えられるのは、とてつもなく鈍い者だけであろう。
ほとんどの者は、悲観的になって当然である。
(手枷に足枷填められちゃ、期待する方がおかしいよな。
本当にどうしてこうなったんだ)
幸か不幸か、木下は比較的冷静であった。
残念ながらというべきか、幸運であったというべきか、修羅場慣れしている訳ではない。
あくまでも、他の拉致被害者と比較すると冷静な方、というだけの事である。
その証拠に彼の思考は、状況確認で止まっていた。
堂々巡りを続けているのだ。
この様子では、現状打破を目論む事さえ難しいだろう。
実際問題、彼の脳裏に解決策は浮かんでいない。
もちろんそれは、彼が阿呆であるからではなかった。
この状況で冷静さを失うのは、当然の事である。
ましてや周囲からは啜り泣く声が聞こえているのだ。
これの影響で、気が滅入るという事も大きいのであろう。
引き摺られないだけ、胆が据わっていると観てもよい。
(しっかし、分かんないよなぁ。
タイムスリップとか、そういう状況なんだろうか。
でも連中、島に上陸して来たからなぁ…………)
取り敢えず、木下は状況確認を続けた。
それはそれで、気持ちを落ち着かせる為にも、必要な事なのだ。
最善の行動とは言い切れないが、それなりに正しい行動である。
(今時、ドッキリでここまでやったら、訴えられるよなぁ。
ドッキリなら楽なんだけど、それを考えるのは現実逃避だよな。
もちろん、夢ではないし…………
連中、魔法みたいなの使ってたけど、ファンタジーの軍隊が攻めて来たとか?
だとしたら、ここは何処なんだ?)
木下にネット小説を読む趣味でもあれば、話は簡単であったろう。
しかし、残念な事に彼はその様な趣味を、持ってはいなかった。
理系という事もあって、木下の友人にはインドア派が多かったものの、彼自身はアウトドア派であったのだ。
門が開くタイプの神作も、昭和初期に国丸ごと転移するタイプの名作も、木下は知らないのである。
これ等を知らないという事は、彼にとって色々な意味での不幸であった。
知ってさえいれば、現状を把握するまでに、然程時間は必要無かったであろう。
だが、木下は知らなかった。
知らなかったが故に、現状を把握するのに時間を必要としているのだ。
(逃げるべきか、逃げないべきか。
逃げるとしたら、どうやって逃げるべきか……………)
木下の思考は、暫くの間現状確認を繰り返していたものの、漸く具体的な現状打破に向かい始める。
しかし、そう簡単に思い付く事ではない。
神聖軍としても、逃げられない様にと考慮して監禁しているのだ。
逃げ出す手段など、簡単に思い付かなくて当然である。
「うぅ??ん………………」
木下は唸りだした。
その苦しげな表情を見れば、考えが浮かばないのであろう事が丸分かりだ。
それでも、考え続ける他無いというのが、木下の判断であった。
すると木下の背後から、唸り出した事への忠告をする者が現れる。
「なあ、あんた。
目立たない方が良いんじゃないか?
うるさいと、連中にどやされるぜ」
決して大きくない囁く様な声であったが、木下は驚いて振り向く。
そこに居たのは、金髪の男であった。
歳は木下よりも少し下であろう。
高校生程だ。
正確に言うと、男の髪は金というよりも黄色に近く、如何にも染めた様な色をしている。
おそらく、染色に失敗したのであろう。
深夜のゲームセンターや、コンビニに屯していそうなタイプである。
かといって肌の色は青白く、江ノ島辺りにいる様には見えない。
(不健康そうな、田舎のヤンキーだな)
木下はそう思った。
「そうだね、ありがとう。
君は地元の人かな?
お互いついてないね」
木下は、相手を地元民であろうと推察して、声を掛ける。
今の父島は、ゲームセンターの一つも無く、コンビニが早くに閉まる様な、平凡な田舎の島であった頃とは違う。
八百万組の開発によって、本土の田舎にもある様なそういった施設は、大々的に展開していた。
そしてそれと同時に、そういった施設に屯していそうな輩が出現するのも、必然と言えば必然であろう。
さらに言うと、小笠原諸島に興味を持つ観光客であれば、日焼けをしていないというのが、不自然である。
サーファーにしろダイバーにしろ、日焼けをしないという事は難しいものだ。
故に、この海が似合わない金髪の男は、地元への忌避感からわざと日焼けを避けている、というのが木下の推察であった。
「な、なんで分かったんだよ!?」
どうやら木下の推察は正しかったらしく、男は動揺する。
「わざわざ南の島まで、船で遊びに来るタイプじゃなさそうだったからね。
都心のゲーセンにでも居そうだよ」
木下は苦笑しつつ、そう答えた。
面倒を避ける為、リップサービスも忘れない。
よく考えれば、なんともお粗末な言葉を付け加えているものだが、男は納得した様だ。
顔がにやけている。
「お、おう。
そうか……………
都心に居そうなのか…………」
その様子を見た、木下は心の中で呆れた。
(少なくとも頭の方では、頼りにならなさそうだ)
アイデアの浮かばない自身を棚に上げて、そんな事を思う。
「まあ、少しぐらい騒がしくても、殴られる様な事はないと思うよ。
奴隷っぽい扱いだし」
呆れていても仕方がないので、木下は気を取り直してそう言った。
「ど、どどどど、どどど、奴隷!?
どういう事だ!?
あんた何か知ってるのか!?」
男は、状況を理解していなかったらしく、奴隷という単語を聞いただけで、大きく動揺する。
いや、男だけではなかった。
周囲の人間の半数以上が、動揺した素振りを見せている。
(しまったな。
半分ぐらいの人が気付いていないからこそ、静かに安定していたのか)
木下は自らの失敗に気付くが、これを挽回する方法を、すぐには思い付けなかった。
「なあ、説明しろよ!?」
男は堪えきれなくなったのか、声を荒らげる。
自然と、周囲の視線は木下に集中した。
「多分、そういう事だと思うよ。
連中、こんな所に押し込めた割りに、怪我人を出して無いだろ?
そこそこ丁重に閉じ込めてる。
それに、尋問みたいな事も無い」
木下は、観念して説明を始める。
「でも、人質になってる可能性もあるんじゃないか!?
その方があり得るだろ!?」
男は声のトーンを落とさず、問い掛けた。
男の意見に、頷く者も居る。
「人質なら、人選がおかしいよ。
それなら抵抗される事を考えて、子供や老人を拐う筈さ。
若くて元気そうな僕らを拐ったって事は、そういう事だよ」
木下は淡々と答えた。
「でも、そんなのおかしいだろが!?
あり得ねーだろ!?」
残念な事に、男は状況を受け止められない様で、ヒートアップするばかりだ。
「ファンタジーな連中が居る時点で、あり得るとかあり得ないとか、そういう話じゃないんだよ。
現状に起こってる事なんだ」
木下は根気よく男を諭す。
もちろん男だけでなく、この場に居る日本人全員に向けて言っているのだ。
「正直、何がどうなっているのかなんて、さっぱりだよ。
でも、非現実的な事は起きてる。
それを認めた上で、それらしい事を言ってるんだ。
もちろん、違ってる可能性もあるけどね。
連中は、これでも歓待してるつもりなのかもしれない」
木下は場の雰囲気を和ませようと、冗談を交える。
「そんな事言い出したら、最悪生け贄の可能性もあるだろ!?」
男は木下の意図に気付かず、悲観的な事を言う。
木下の冗談で一瞬和んだ空気は、すぐに戻った。
(こいつ、ちょっと静かにしてくれないかな………)
これでは木下も、おもしろくない。
不愉快そうな顔をして、それっきり黙り込んでしまう。
牢獄の中は、重苦しい沈黙に包まれた。
(泣き声が収まっただけ、環境はましになったかな)
木下は男への不満を抑え、前向きな事を思う。
しかしそれはつい先程、自身が否定した筈の現実逃避である。
前向きの様に見えて、実は後ろ向きなのだ。
その事に気付いた木下は、そんな後ろ向きな考えを振り払うかの様に、頭を左右に振った。
「ま、まあ、そんなに悲観的になる必要も無いよね」
木下は、どうにかして重苦しい空気を打ち消そうと、悲観的であった持論を取り下げる。
とにかく最初に必要なのは、場の雰囲気を和ませる事と思ったのだ。
「それに「ちょっと静かにしてくれ!?」
さらに続けようとした木下を、金髪の男が遮る。
木下は、再び不愉快そうな顔をするが、文句だけは堪えた。
そして文句の代わりに、疑問を投げ掛ける。
「どうしたんだい?」
「銃声が聞こえる!」
男の答えは、暗い牢獄に希望の光を灯すものであった。
リースの港町に在って尚且つ自身を襲った、想定外の出来事に頭悩ませている者は多く、それは帝国人に限らなかった。
当然と言えば当然であるが、拉致された日本人である。
彼等は薄暗い牢獄の中で、一様に怯えていた。
夜遅くの、しかも建物の地下にも拘らず、真っ暗ではないのは幸いと言えば幸いなのか。
少しとはいえ、灯りがある事でパニックにはならなかった事は、幸いであると言えるだろう。
しかし同時に、灯りが灯っているという事は、逃亡の難しさを意味しているのだ。
さらにいえば、松明の様な火を使った原始的な灯りの傍には、逃亡と火事を防ぐ為の見張り役も、必ず居る筈だ。
そういう事を踏まえて考えると、一概に良かったとは言い切れないであろう。
(頼れそうな人が居ないな)
周囲を見渡した木下は、そんな事を思った。
事実、木下の様に悩める者はまだましな方であり、彼等の大半はただ震えるだけである。
無理も無い話だ。
動乱の時代を、自らの判断やら才覚やらで生き抜いて来た、戦前生まれならばともかく、ここにいる拉致被害者の平均年齢は、それなりに低かった。
ちなみに、彼等の平均年齢が低い理由は、単純である。
神聖軍は、拉致被害者達を奴隷とするつもりで、捕らえた為だ。
そして、奴隷としての価値は、男性ならば丈夫さが重視され、女性ならば美しさが判断基準となる。
故に、拉致被害者の平均年齢は二十歳程であった。
成長し切っているか、若干成長の余地を残した年齢こそが、奴隷とするのに最も都合が良かったのだ。
そして、若い世代である彼等は平和な時代を生きる日本人であり、修羅場には慣れていない。
もちろん同世代の中には、波乱万丈な人生経験がある者もいるだろう。
修羅場慣れしている者も、いなくはない筈だ。
しかし、少なくともこの場にそういった経験のある者は、皆無である。
拉致被害者の一人である木下洋平は、大学二年生となったばかりの観光客であった。
シュノーケリングが趣味であり、イルカを始めとする小笠原諸島特有の海の生き物と戯れる事を目的に、遠くまでやって来たのだ。
21世紀初頭の小笠原では、移動こそ便利になったものの、交通費や宿泊費等の面では、大幅に値上がりしている。
木下はその為に、勉強の傍ら複数のアルバイトをこなして、結構な金額を貯めている必要があった程だ。
苦労した甲斐も無く、楽しい旅行となる筈であった小笠原行きは、最悪なものとなった。
何せ、言葉の通じない海賊船らしき船に、拉致されたのだ。
現代日本に於いて、これ以上最悪な事はそうそう起きないであろう。
しかし、残念ながらだからと言って、これから事態が好転するという甘い期待をする事も出来ない。
何故なら、工学部という歴史や文化とはかけ離れた分野の学生であっても、自身が奴隷扱いされている事は明白だからだ。
この様な状況で、未来を楽観的に考えられるのは、とてつもなく鈍い者だけであろう。
ほとんどの者は、悲観的になって当然である。
(手枷に足枷填められちゃ、期待する方がおかしいよな。
本当にどうしてこうなったんだ)
幸か不幸か、木下は比較的冷静であった。
残念ながらというべきか、幸運であったというべきか、修羅場慣れしている訳ではない。
あくまでも、他の拉致被害者と比較すると冷静な方、というだけの事である。
その証拠に彼の思考は、状況確認で止まっていた。
堂々巡りを続けているのだ。
この様子では、現状打破を目論む事さえ難しいだろう。
実際問題、彼の脳裏に解決策は浮かんでいない。
もちろんそれは、彼が阿呆であるからではなかった。
この状況で冷静さを失うのは、当然の事である。
ましてや周囲からは啜り泣く声が聞こえているのだ。
これの影響で、気が滅入るという事も大きいのであろう。
引き摺られないだけ、胆が据わっていると観てもよい。
(しっかし、分かんないよなぁ。
タイムスリップとか、そういう状況なんだろうか。
でも連中、島に上陸して来たからなぁ…………)
取り敢えず、木下は状況確認を続けた。
それはそれで、気持ちを落ち着かせる為にも、必要な事なのだ。
最善の行動とは言い切れないが、それなりに正しい行動である。
(今時、ドッキリでここまでやったら、訴えられるよなぁ。
ドッキリなら楽なんだけど、それを考えるのは現実逃避だよな。
もちろん、夢ではないし…………
連中、魔法みたいなの使ってたけど、ファンタジーの軍隊が攻めて来たとか?
だとしたら、ここは何処なんだ?)
木下にネット小説を読む趣味でもあれば、話は簡単であったろう。
しかし、残念な事に彼はその様な趣味を、持ってはいなかった。
理系という事もあって、木下の友人にはインドア派が多かったものの、彼自身はアウトドア派であったのだ。
門が開くタイプの神作も、昭和初期に国丸ごと転移するタイプの名作も、木下は知らないのである。
これ等を知らないという事は、彼にとって色々な意味での不幸であった。
知ってさえいれば、現状を把握するまでに、然程時間は必要無かったであろう。
だが、木下は知らなかった。
知らなかったが故に、現状を把握するのに時間を必要としているのだ。
(逃げるべきか、逃げないべきか。
逃げるとしたら、どうやって逃げるべきか……………)
木下の思考は、暫くの間現状確認を繰り返していたものの、漸く具体的な現状打破に向かい始める。
しかし、そう簡単に思い付く事ではない。
神聖軍としても、逃げられない様にと考慮して監禁しているのだ。
逃げ出す手段など、簡単に思い付かなくて当然である。
「うぅ??ん………………」
木下は唸りだした。
その苦しげな表情を見れば、考えが浮かばないのであろう事が丸分かりだ。
それでも、考え続ける他無いというのが、木下の判断であった。
すると木下の背後から、唸り出した事への忠告をする者が現れる。
「なあ、あんた。
目立たない方が良いんじゃないか?
うるさいと、連中にどやされるぜ」
決して大きくない囁く様な声であったが、木下は驚いて振り向く。
そこに居たのは、金髪の男であった。
歳は木下よりも少し下であろう。
高校生程だ。
正確に言うと、男の髪は金というよりも黄色に近く、如何にも染めた様な色をしている。
おそらく、染色に失敗したのであろう。
深夜のゲームセンターや、コンビニに屯していそうなタイプである。
かといって肌の色は青白く、江ノ島辺りにいる様には見えない。
(不健康そうな、田舎のヤンキーだな)
木下はそう思った。
「そうだね、ありがとう。
君は地元の人かな?
お互いついてないね」
木下は、相手を地元民であろうと推察して、声を掛ける。
今の父島は、ゲームセンターの一つも無く、コンビニが早くに閉まる様な、平凡な田舎の島であった頃とは違う。
八百万組の開発によって、本土の田舎にもある様なそういった施設は、大々的に展開していた。
そしてそれと同時に、そういった施設に屯していそうな輩が出現するのも、必然と言えば必然であろう。
さらに言うと、小笠原諸島に興味を持つ観光客であれば、日焼けをしていないというのが、不自然である。
サーファーにしろダイバーにしろ、日焼けをしないという事は難しいものだ。
故に、この海が似合わない金髪の男は、地元への忌避感からわざと日焼けを避けている、というのが木下の推察であった。
「な、なんで分かったんだよ!?」
どうやら木下の推察は正しかったらしく、男は動揺する。
「わざわざ南の島まで、船で遊びに来るタイプじゃなさそうだったからね。
都心のゲーセンにでも居そうだよ」
木下は苦笑しつつ、そう答えた。
面倒を避ける為、リップサービスも忘れない。
よく考えれば、なんともお粗末な言葉を付け加えているものだが、男は納得した様だ。
顔がにやけている。
「お、おう。
そうか……………
都心に居そうなのか…………」
その様子を見た、木下は心の中で呆れた。
(少なくとも頭の方では、頼りにならなさそうだ)
アイデアの浮かばない自身を棚に上げて、そんな事を思う。
「まあ、少しぐらい騒がしくても、殴られる様な事はないと思うよ。
奴隷っぽい扱いだし」
呆れていても仕方がないので、木下は気を取り直してそう言った。
「ど、どどどど、どどど、奴隷!?
どういう事だ!?
あんた何か知ってるのか!?」
男は、状況を理解していなかったらしく、奴隷という単語を聞いただけで、大きく動揺する。
いや、男だけではなかった。
周囲の人間の半数以上が、動揺した素振りを見せている。
(しまったな。
半分ぐらいの人が気付いていないからこそ、静かに安定していたのか)
木下は自らの失敗に気付くが、これを挽回する方法を、すぐには思い付けなかった。
「なあ、説明しろよ!?」
男は堪えきれなくなったのか、声を荒らげる。
自然と、周囲の視線は木下に集中した。
「多分、そういう事だと思うよ。
連中、こんな所に押し込めた割りに、怪我人を出して無いだろ?
そこそこ丁重に閉じ込めてる。
それに、尋問みたいな事も無い」
木下は、観念して説明を始める。
「でも、人質になってる可能性もあるんじゃないか!?
その方があり得るだろ!?」
男は声のトーンを落とさず、問い掛けた。
男の意見に、頷く者も居る。
「人質なら、人選がおかしいよ。
それなら抵抗される事を考えて、子供や老人を拐う筈さ。
若くて元気そうな僕らを拐ったって事は、そういう事だよ」
木下は淡々と答えた。
「でも、そんなのおかしいだろが!?
あり得ねーだろ!?」
残念な事に、男は状況を受け止められない様で、ヒートアップするばかりだ。
「ファンタジーな連中が居る時点で、あり得るとかあり得ないとか、そういう話じゃないんだよ。
現状に起こってる事なんだ」
木下は根気よく男を諭す。
もちろん男だけでなく、この場に居る日本人全員に向けて言っているのだ。
「正直、何がどうなっているのかなんて、さっぱりだよ。
でも、非現実的な事は起きてる。
それを認めた上で、それらしい事を言ってるんだ。
もちろん、違ってる可能性もあるけどね。
連中は、これでも歓待してるつもりなのかもしれない」
木下は場の雰囲気を和ませようと、冗談を交える。
「そんな事言い出したら、最悪生け贄の可能性もあるだろ!?」
男は木下の意図に気付かず、悲観的な事を言う。
木下の冗談で一瞬和んだ空気は、すぐに戻った。
(こいつ、ちょっと静かにしてくれないかな………)
これでは木下も、おもしろくない。
不愉快そうな顔をして、それっきり黙り込んでしまう。
牢獄の中は、重苦しい沈黙に包まれた。
(泣き声が収まっただけ、環境はましになったかな)
木下は男への不満を抑え、前向きな事を思う。
しかしそれはつい先程、自身が否定した筈の現実逃避である。
前向きの様に見えて、実は後ろ向きなのだ。
その事に気付いた木下は、そんな後ろ向きな考えを振り払うかの様に、頭を左右に振った。
「ま、まあ、そんなに悲観的になる必要も無いよね」
木下は、どうにかして重苦しい空気を打ち消そうと、悲観的であった持論を取り下げる。
とにかく最初に必要なのは、場の雰囲気を和ませる事と思ったのだ。
「それに「ちょっと静かにしてくれ!?」
さらに続けようとした木下を、金髪の男が遮る。
木下は、再び不愉快そうな顔をするが、文句だけは堪えた。
そして文句の代わりに、疑問を投げ掛ける。
「どうしたんだい?」
「銃声が聞こえる!」
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一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
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