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* 死神生活ニ年目 *
第181話 死神ちゃんと農家⑦
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死神ちゃんが朝の挨拶をしながら待機室に入ると、部外者三人がモニタールーム付近に椅子を並べて座っているのが目に入った。その三人とは、今にも泣きそうな表情を浮かべて俯くサーシャと、気難しそうに目をチカチカと光らせるビット所長と、それから〈裏世界〉の食を支える農場に勤めているという精霊のアディだ。
嫌な予感を覚えて頬を引きつらせた死神ちゃんが立ち尽くしていると、死神ちゃんの存在に気がついた三人が一斉に立ち上がり、死神ちゃんの元へと駆け寄った。三人に取り囲まれ同時に話しかけられた死神ちゃんは〈どうしたものか〉と困惑した。次第にイライラとしてきた死神ちゃんは「うるさいな、落ち着けよ!」と叫ぶと、一人ずつ話してくれと目くじらを立てた。すると、それに頷いた三人が「あの角農婦が」と声を揃えた。
「はあ!? あいつ、また何かやらかしたのかよ!」
「そうなのよ、お花ちゃん。あの人、また〈回復の泉〉の石組みを壊して水路を作って、堂々と農作業してるの! ギルド側から〈耕すべからず〉〈栽培するべからず〉って警告も出してもらっているのに!」
目の下に隈を浮かべ、疲れ果ててボロボロの様子のサーシャが泣き出すと、今度はビットが話しだした。
「おかげで、またダンジョン内の生態系が少し崩れているのだ。小花薫よ、どうにかしてくるのだ」
「ついでに、彼女が今育てている農作物を持ち帰って頂きたいんです」
ビットに続いて、アディが口を開いた。どうやら彼女たちの部門でも、農家の存在はずっと気になってはいたそうだ。そしてマッスル大豆の一件で、一気に注目度が上がったらしい。死神ちゃんは苦い顔でため息をつきながら、頭をガシガシと掻いた。
「もういっそさ、あいつをこっちの世界にスカウトしてきたらいいんじゃないのか?」
「我々農場の方で声をかけたんですけれど、素気無く断られたんですよね。『農家たるもの、自分の畑から完全に離れるだなんてことはできない』ってことで」
「もう声かけてたのかよ! ――じゃあ、ギルドに頼んで永久追放してもらったらいいだろう。そしたら平和だろう?」
死神ちゃんが顔をしかめると、サーシャが「それが……」と言葉を濁しながらビットを見上げた。するとビットが腕を組んでふんぞり返った。
「たしかに事あるごとに騒動を起こされるのは迷惑ではあるが、あの角はとてもおもしろい逸材だからな。追い出してしまうのは忍びない。それに、もしも何かトラブルが生じたとしても、お前に押し付ければ即解決だからな」
「……今、〈押し付ける〉って言いました?」
呆れや憤りを通り越して表情を失った死神ちゃんが抑揚無くそう言うと、ビットは不思議そうに小首をかしげた。死神ちゃんは肩を落としてため息をつくと、ダンジョンへとぼとぼと向かって行った。
**********
四つん這いになって作業をしていたノームの農家は、背中に重みを感じて顔をしかめた。手を止めて自身の背中へと首を振ると、そこにはすさまじく不機嫌そうな幼女が腰掛けていた。
「げっ、死神ちゃん」
「毎度毎度、精が出ますねえ」
ギラリと睨んでくる死神ちゃんを面倒くさそうに見つめながら、農家は「何でのっけから不機嫌なの」と言った。当たり前だろうと声を荒げながら、死神ちゃんは彼女の背中からぴょんと降りた。
「ダンジョンを! 耕すべからず! ダンジョンで! 栽培するべからず!!」
「ぎゃんぎゃん言わなくても分かってるよ、もう~。一体何なわけ? ギルドの人でもないくせにさあ」
「分かっているなら、やめてくれませんかね? そもそも、俺はこのダンジョンの罠なんです。ギルドの人よりもよっぽど、関係大アリなんだよ!」
身を起こした農家は、なおも面倒くさそうに死神ちゃんを見つめながら手ぬぐいで手を拭った。そして部屋の端に移動すると、腰を下ろしてポーチを漁りだした。
「そんなカリカリしてさあ、お腹でも減ってるの? ほら、私のおやつ、分けてあげるから」
そう言って、彼女はりんごを差し出してきた。死神ちゃんはそれを渋々ながら受け取ると、彼女の隣に座り込んだ。シャクリとりんごに噛み付いた死神ちゃんが無表情であることを不満に思った農家は、美味しくないのかと聞きながら首を傾げた。死神ちゃんはシャクシャクとりんごを口に運びながらボソリと言った。
「いや、美味いんだけどさ。前にライバル農家からもらったりんごのほうが、正直美味い」
「ああああああ! あの人間が、こんなところでも立ち塞がってくるだなんて! 何なの!? 何でなの!? どうして、農耕神に愛されしノーム族の私が人間のおっさんに負けるわけ!? 今年のマンドラゴラ品評会も、やっぱり負けたし! マンドラっちさえ連れていければ、私が絶対優勝なのに!」
「そうやって勝手に変なもんを生み出し続けるから、農耕神も呆れているんじゃあないのか」
悔しそうに歯噛みしている農家を他所に、死神ちゃんはりんごを食べ続けた。もくもくと顎を動かしながら、死神ちゃんは首をひねった。
「ところで、さっきから気になっているんだが。お前、何で頭に南瓜被ってるんだ? そもそも、それ、どうやって被っているんだよ」
農家は何故か、南瓜を兜のように被っていた。しかし二つに割ったものを後からくっつけたような形跡もなく、しかしながらしっかりと頭にフィットしているため、まるで頭ではなく南瓜から角が生えているように見えた。
死神ちゃんに訝しげに見つめられて、農家は何故か照れくさそうに笑った。そしてただヘラヘラと笑っているだけで、疑問の答えになるようなことを特に何も言わないので、死神ちゃんは彼女を余計に不審に思った。そんなことなど気にすることもなく、農家はにこやかな笑みを浮かべて言った。
「先日、ダンジョン内でジャック・オ・ランタンを見かけたんです」
「あー、南瓜被った精霊な。なんだ、それの真似でもしたくなったのか」
「当たらずも遠からずです。――知ってる? ジャック・オ・ランタンって、農家界隈では〈蠢くヘドロ〉と同じく害獣扱いなんだよ。この季節になると、南瓜畑に涌くことがあってさ。去年、うちのお隣さんの畑農家でも大発生して、私も駆除に駆り出されて、それはもう大変だったね!」
「……そんな農家の敵を、どうしてフィーチャーしたんだよ」
死神ちゃんが不思議そうに首を傾げると、農家は楽しそうに話を続けた。
秋の今ごろといえば、どこの地域でも収穫祭を執り行うそうなのだが、地域によっては害獣であるはずのジャック・オ・ランタンのコスプレをしてお祭りをするのだそうだ。ジャック・オ・ランタンは過剰なほど豊作な南瓜畑に涌くことが多いそうで、故に〈豊作の象徴〉と見なしている地域もあるのだとか。
先日ダンジョン内でジャック・オ・ランタンを見かけた際に、去年散々な目に遭った思い出とともに、地方のお祭りのことを農家は思い出したのだそうだ。そして、この街でも流行らせたら南瓜需要が増大して懐が潤うだろうと思ったのだという。
「せっかくダンジョンの魔力で高速栽培するんだから、防具として着用できるようなものを目指したいじゃない! そしたら防具としての需要も増えて、さらにお金ガッポガッポじゃない! 儲かれば儲かるほど、来年のマンドラゴラのための資金が潤沢になるでしょう!? そしたら今度こそ、あの人間を打ち倒せるでしょう!? ――私は! これで! ファッション業界と防具流通の世界でトップを獲る!」
「はあ、そう……。で、さっき四つん這いになってたのは何でなんだよ」
「それがねえ。そろそろ収穫だなあっていう感じのやつが、いざ収穫ってときには消えてなくなっているんだよねえ。コボルトとかラットとかに蔓かじられて持って行かれてるのか、それとも他の冒険者が持っていってるのかなと思って、調べてたんだよ」
農家の話を聞きながら、死神ちゃんは持て余していたりんごの芯をぼとりと落とした。そのまま口をあんぐりとさせて固まる死神ちゃんを不審に思った彼女は、死神ちゃんの視線を追って小さく「わあお」と呻いた。――ジャック・オ・ランタンがニ、三体、ふわふわと浮いていたのだ。
「なあ、南瓜が無くなっていく原因って、これじゃあないのか?」
「あーうん、そうかもね」
死神ちゃんと農家の見つめる先では、いくつもの南瓜がポコポコと音を立ててジャック・オ・ランタンへと変化していっていた。生まれ出たジャック・オ・ランタンは農家を取り巻くと、嬉しそうにカボカボと鳴いた。
「おーおー、すごい懐かれてんな、お前」
「いや、ちょっと待って! 鍬! 鍬! 武器プリーズ! ――あああああ!」
農家は、産みの母親を慕って集った南瓜精霊による熱烈なおしくらまんじゅうの海に溺れて果てた。死神ちゃんはガシガシと頭を掻くと、まだ精霊化していない南瓜を収穫して帰ったのだった。
**********
「少々水辺の管理を怠るとレプリカではない〈野生のクレイウーズ〉が発生することがあるのだが、まさか野生のジャック・オ・ランタンまで発生するとはな。しかも、増えすぎだ。それは生態系に変化が生じてしまうのも無理はない」
修復課が南瓜の残りを焼き払うのをモニターで眺めながら、ビットが頷いた。野生のものはいくらダンジョンで生まれたと言えども環境に適してはいないため、しばらくすれば淘汰されるだろうということだった。
死神ちゃんは持ち帰った南瓜をアディに渡しながら、これを使って何を作るつもりなのかと尋ねた。すると彼女はニコリと笑って言った。
「またアイテム開発の方々と協力して、防具でも作ろうと思います。先ほどの農家さんのアイディア、とてもおもしろいと思ったので。――彼女、本当におもしろいですよね。ビット所長に、私たちは賛成です」
どうやら、サーシャ達修復課の面々が多大なる疲労を抱え、死神ちゃんが面倒事を押し付けられる流れが切れることは、当分ありそうもないようだ。死神ちゃんは思わず、頬を引きつらせて乾いた笑いを浮かべたのだった。
――――なお、農家発案の収穫祭は街の皆さんに歓迎されたようで、大盛り上がりだったそうDEATH。
嫌な予感を覚えて頬を引きつらせた死神ちゃんが立ち尽くしていると、死神ちゃんの存在に気がついた三人が一斉に立ち上がり、死神ちゃんの元へと駆け寄った。三人に取り囲まれ同時に話しかけられた死神ちゃんは〈どうしたものか〉と困惑した。次第にイライラとしてきた死神ちゃんは「うるさいな、落ち着けよ!」と叫ぶと、一人ずつ話してくれと目くじらを立てた。すると、それに頷いた三人が「あの角農婦が」と声を揃えた。
「はあ!? あいつ、また何かやらかしたのかよ!」
「そうなのよ、お花ちゃん。あの人、また〈回復の泉〉の石組みを壊して水路を作って、堂々と農作業してるの! ギルド側から〈耕すべからず〉〈栽培するべからず〉って警告も出してもらっているのに!」
目の下に隈を浮かべ、疲れ果ててボロボロの様子のサーシャが泣き出すと、今度はビットが話しだした。
「おかげで、またダンジョン内の生態系が少し崩れているのだ。小花薫よ、どうにかしてくるのだ」
「ついでに、彼女が今育てている農作物を持ち帰って頂きたいんです」
ビットに続いて、アディが口を開いた。どうやら彼女たちの部門でも、農家の存在はずっと気になってはいたそうだ。そしてマッスル大豆の一件で、一気に注目度が上がったらしい。死神ちゃんは苦い顔でため息をつきながら、頭をガシガシと掻いた。
「もういっそさ、あいつをこっちの世界にスカウトしてきたらいいんじゃないのか?」
「我々農場の方で声をかけたんですけれど、素気無く断られたんですよね。『農家たるもの、自分の畑から完全に離れるだなんてことはできない』ってことで」
「もう声かけてたのかよ! ――じゃあ、ギルドに頼んで永久追放してもらったらいいだろう。そしたら平和だろう?」
死神ちゃんが顔をしかめると、サーシャが「それが……」と言葉を濁しながらビットを見上げた。するとビットが腕を組んでふんぞり返った。
「たしかに事あるごとに騒動を起こされるのは迷惑ではあるが、あの角はとてもおもしろい逸材だからな。追い出してしまうのは忍びない。それに、もしも何かトラブルが生じたとしても、お前に押し付ければ即解決だからな」
「……今、〈押し付ける〉って言いました?」
呆れや憤りを通り越して表情を失った死神ちゃんが抑揚無くそう言うと、ビットは不思議そうに小首をかしげた。死神ちゃんは肩を落としてため息をつくと、ダンジョンへとぼとぼと向かって行った。
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四つん這いになって作業をしていたノームの農家は、背中に重みを感じて顔をしかめた。手を止めて自身の背中へと首を振ると、そこにはすさまじく不機嫌そうな幼女が腰掛けていた。
「げっ、死神ちゃん」
「毎度毎度、精が出ますねえ」
ギラリと睨んでくる死神ちゃんを面倒くさそうに見つめながら、農家は「何でのっけから不機嫌なの」と言った。当たり前だろうと声を荒げながら、死神ちゃんは彼女の背中からぴょんと降りた。
「ダンジョンを! 耕すべからず! ダンジョンで! 栽培するべからず!!」
「ぎゃんぎゃん言わなくても分かってるよ、もう~。一体何なわけ? ギルドの人でもないくせにさあ」
「分かっているなら、やめてくれませんかね? そもそも、俺はこのダンジョンの罠なんです。ギルドの人よりもよっぽど、関係大アリなんだよ!」
身を起こした農家は、なおも面倒くさそうに死神ちゃんを見つめながら手ぬぐいで手を拭った。そして部屋の端に移動すると、腰を下ろしてポーチを漁りだした。
「そんなカリカリしてさあ、お腹でも減ってるの? ほら、私のおやつ、分けてあげるから」
そう言って、彼女はりんごを差し出してきた。死神ちゃんはそれを渋々ながら受け取ると、彼女の隣に座り込んだ。シャクリとりんごに噛み付いた死神ちゃんが無表情であることを不満に思った農家は、美味しくないのかと聞きながら首を傾げた。死神ちゃんはシャクシャクとりんごを口に運びながらボソリと言った。
「いや、美味いんだけどさ。前にライバル農家からもらったりんごのほうが、正直美味い」
「ああああああ! あの人間が、こんなところでも立ち塞がってくるだなんて! 何なの!? 何でなの!? どうして、農耕神に愛されしノーム族の私が人間のおっさんに負けるわけ!? 今年のマンドラゴラ品評会も、やっぱり負けたし! マンドラっちさえ連れていければ、私が絶対優勝なのに!」
「そうやって勝手に変なもんを生み出し続けるから、農耕神も呆れているんじゃあないのか」
悔しそうに歯噛みしている農家を他所に、死神ちゃんはりんごを食べ続けた。もくもくと顎を動かしながら、死神ちゃんは首をひねった。
「ところで、さっきから気になっているんだが。お前、何で頭に南瓜被ってるんだ? そもそも、それ、どうやって被っているんだよ」
農家は何故か、南瓜を兜のように被っていた。しかし二つに割ったものを後からくっつけたような形跡もなく、しかしながらしっかりと頭にフィットしているため、まるで頭ではなく南瓜から角が生えているように見えた。
死神ちゃんに訝しげに見つめられて、農家は何故か照れくさそうに笑った。そしてただヘラヘラと笑っているだけで、疑問の答えになるようなことを特に何も言わないので、死神ちゃんは彼女を余計に不審に思った。そんなことなど気にすることもなく、農家はにこやかな笑みを浮かべて言った。
「先日、ダンジョン内でジャック・オ・ランタンを見かけたんです」
「あー、南瓜被った精霊な。なんだ、それの真似でもしたくなったのか」
「当たらずも遠からずです。――知ってる? ジャック・オ・ランタンって、農家界隈では〈蠢くヘドロ〉と同じく害獣扱いなんだよ。この季節になると、南瓜畑に涌くことがあってさ。去年、うちのお隣さんの畑農家でも大発生して、私も駆除に駆り出されて、それはもう大変だったね!」
「……そんな農家の敵を、どうしてフィーチャーしたんだよ」
死神ちゃんが不思議そうに首を傾げると、農家は楽しそうに話を続けた。
秋の今ごろといえば、どこの地域でも収穫祭を執り行うそうなのだが、地域によっては害獣であるはずのジャック・オ・ランタンのコスプレをしてお祭りをするのだそうだ。ジャック・オ・ランタンは過剰なほど豊作な南瓜畑に涌くことが多いそうで、故に〈豊作の象徴〉と見なしている地域もあるのだとか。
先日ダンジョン内でジャック・オ・ランタンを見かけた際に、去年散々な目に遭った思い出とともに、地方のお祭りのことを農家は思い出したのだそうだ。そして、この街でも流行らせたら南瓜需要が増大して懐が潤うだろうと思ったのだという。
「せっかくダンジョンの魔力で高速栽培するんだから、防具として着用できるようなものを目指したいじゃない! そしたら防具としての需要も増えて、さらにお金ガッポガッポじゃない! 儲かれば儲かるほど、来年のマンドラゴラのための資金が潤沢になるでしょう!? そしたら今度こそ、あの人間を打ち倒せるでしょう!? ――私は! これで! ファッション業界と防具流通の世界でトップを獲る!」
「はあ、そう……。で、さっき四つん這いになってたのは何でなんだよ」
「それがねえ。そろそろ収穫だなあっていう感じのやつが、いざ収穫ってときには消えてなくなっているんだよねえ。コボルトとかラットとかに蔓かじられて持って行かれてるのか、それとも他の冒険者が持っていってるのかなと思って、調べてたんだよ」
農家の話を聞きながら、死神ちゃんは持て余していたりんごの芯をぼとりと落とした。そのまま口をあんぐりとさせて固まる死神ちゃんを不審に思った彼女は、死神ちゃんの視線を追って小さく「わあお」と呻いた。――ジャック・オ・ランタンがニ、三体、ふわふわと浮いていたのだ。
「なあ、南瓜が無くなっていく原因って、これじゃあないのか?」
「あーうん、そうかもね」
死神ちゃんと農家の見つめる先では、いくつもの南瓜がポコポコと音を立ててジャック・オ・ランタンへと変化していっていた。生まれ出たジャック・オ・ランタンは農家を取り巻くと、嬉しそうにカボカボと鳴いた。
「おーおー、すごい懐かれてんな、お前」
「いや、ちょっと待って! 鍬! 鍬! 武器プリーズ! ――あああああ!」
農家は、産みの母親を慕って集った南瓜精霊による熱烈なおしくらまんじゅうの海に溺れて果てた。死神ちゃんはガシガシと頭を掻くと、まだ精霊化していない南瓜を収穫して帰ったのだった。
**********
「少々水辺の管理を怠るとレプリカではない〈野生のクレイウーズ〉が発生することがあるのだが、まさか野生のジャック・オ・ランタンまで発生するとはな。しかも、増えすぎだ。それは生態系に変化が生じてしまうのも無理はない」
修復課が南瓜の残りを焼き払うのをモニターで眺めながら、ビットが頷いた。野生のものはいくらダンジョンで生まれたと言えども環境に適してはいないため、しばらくすれば淘汰されるだろうということだった。
死神ちゃんは持ち帰った南瓜をアディに渡しながら、これを使って何を作るつもりなのかと尋ねた。すると彼女はニコリと笑って言った。
「またアイテム開発の方々と協力して、防具でも作ろうと思います。先ほどの農家さんのアイディア、とてもおもしろいと思ったので。――彼女、本当におもしろいですよね。ビット所長に、私たちは賛成です」
どうやら、サーシャ達修復課の面々が多大なる疲労を抱え、死神ちゃんが面倒事を押し付けられる流れが切れることは、当分ありそうもないようだ。死神ちゃんは思わず、頬を引きつらせて乾いた笑いを浮かべたのだった。
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