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* 死神生活ニ年目 *
第182話 死神ちゃんとおしゃれさん②
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死神ちゃんが〈五階〉の火炎地区にやって来てみると〈担当のパーティー〉と思しき女性戦士がひとり、岩場の隅に蹲っていた。死神ちゃんは見覚えのあるちぐはぐな装備と角の生えた頭にニヤリと笑みを浮かべた。そしてふわりと浮かび上がると、地面と彼女との間に滑り込むように割って入り、彼女の頬をぺちりと両手で挟んだ。
驚いた彼女は悲鳴を上げて尻もちをついた。そして死神ちゃんを認識するとすぐに目くじらを立てて悪態をついた。
「なんだ、死神ちゃんか。脅かさないでよ」
「そう言われましても、これも仕事なんでね」
肩を竦める死神ちゃんを〈おしゃれさん〉は睨みつけた。そしてすぐさま、死神ちゃんを無視して何かの作業を再開させた。死神ちゃんは傍らに腰掛けると、体育座りした膝の上に 腕と顎を乗せてぼんやりとした調子で言った。
「今日はおしゃれじゃないんだな」
「こういう作業に向いてる衣装を、生憎持っていないのよ」
おしゃれさんは死神ちゃんを見ることなく答えた。死神ちゃんは相槌を打つと、不思議そうに首を傾げた。
「ところで、お前、さっきから石を拾っては投げての繰り返しで、一体何がしたいんだよ」
「おしゃれするなら、やっぱり本物の宝石をひとつでもいいから身につけておきたいでしょう? でも、噂の属性指輪は産出量が少なすぎて正直眉唾ものレベルだし。市場にも一応出てはきてるけど偽物が多いみたいだし。ローン組んでようやくゲットしたものが偽物だったら目も当てられないし」
「だから、自力で探そうってか」
おしゃれさんは頷くと、採掘もできるようにと用意したというノミと金槌、そしてピッケルを得意げに見せつけてきた。死神ちゃんは感心して唸り声を上げると、笑顔を浮かべて言った。
「おしゃれ好きもそこまで行くとすごいな。お前、そこまでダンジョンの探索進んでなかっただろ。まさか、おしゃれのためにここまで頑張れるだなんて」
すると、おしゃれさんは死神ちゃんからスッと目を逸らした。そしてバツが悪そうに目を細めて、居心地の悪さからか、それとも単にこの場所が暑いからなのか、額に汗を滲ませた。
「探索は、ロクにしていないの……」
「は?」
「先行組に、引っ張ってきてもらったの……」
「はい……?」
死神ちゃんが顔をしかめると、おしゃれさんは一層顔を背けて同じ言葉を繰り返した。つかの間二人は沈黙したが、死神ちゃんは盛大なため息をついてそれをあっさりと破った。
「好きなことのためなら努力を惜しまないヤツなのかと感心して損したよ。そういやあ、お前、〈強さもファッションする〉とか言って金で解決してたもんな」
「いいでしょう、別に! ダンジョンライフは人それぞれなんだから!」
「まあ、そうだけどさ……」
死神ちゃんが不服そうに口を尖らせると、おしゃれさんはフンと鼻を鳴らした。そして石ころを漁りながらブチブチと文句を垂れた。
「そうよ、イチャモンつけられる筋合いはないのよ。だって炎の剣のローンだって遅れることなくきちんと支払っているし、ここまでご一緒させてもらった人たちが戦闘する羽目になった際も、一応回復とかできる範囲で支援したし。帰りだって〈脱出の巻物〉で地上までパパッと帰るんだから――」
「俺が憑いた状態だと、その巻物使えないだろ。だってそれ、ダンジョン外まで飛ばされるアイテムなんだろう?」
おしゃれさんは作業の手を止めると、愕然とした表情で死神ちゃんを見つめた。そしてキッと睨みつけると、彼女は死神ちゃんめがけて小さな石ころをぽこぽこと投げ飛ばした。
「ちょっと、何でとり憑いたのよ!」
「いや、だって、これが仕事だから」
「マッピングもしてないっていうのに、どうやって自力で帰れっていうのよ!」
「手抜きしたのが災いしたな」
死神ちゃんが鼻で笑うと、おしゃれさんはさらに石を投げて寄こしながら悪態をつきまくった。しばらくして、彼女は深くため息をつくと、おもむろに立ち上がった。そして「このまま暑さに負けて灰になるよりは、少しでも地上に近づこう」とぼやくと、記憶を頼りに歩き出した。
しかし、ノームの特性なのか何なのか、今まで死神ちゃんが出会ったノームの例に漏れることなく、二股に分かれた道ではどちらを選択すべきか悩み、目印となり得るものを見落とし、段差で躓き、罠に足を取られということを彼女はした。死神ちゃんがそれについて思わず突っ込むと、彼女は鋭い目つきで口を尖らせた。
「そういう言い方、とても差別的だと思うんですけど。ノームだからって馬鹿にしないでくれる? そういう事実は、たしかにあるけれども」
「何だよ、やっぱり事実なんじゃないか。ていうか、何で二股の道のどちらとか、目印になりそうなものですら迷ったりスルーしたりするんだよ。マッピングしてないとはいえ、流石にそのくらいはメモってあるだろ?」
「……ないのよ」
「はあ!? それは他力本願すぎるし、見通しが甘すぎるだろう。たしかにダンジョンライフは人それぞれだけど、それは冒険者として手を抜いたらいけないレベルの基本事項なんじゃないのか?」
おしゃれさんは苦虫を噛み潰したような顔でグッと言葉を詰まらせると、きまり悪そうに死神ちゃんから視線を逸らした。
死神ちゃんが呆れ果ててため息をつくと、背後に暑苦しい気配を感じた。ゆっくり振り返ってみると、そこには炎の魔人が白い歯を見せて爽やかに笑って立っていた。おしゃれさんは顔を青ざめさせると、小さな声でポツリと呟いた。
「どうしよう、まだ〈姿くらまし〉の術を再使用できる時間じゃない……」
「こういうときのために覚えておいたものなんじゃないのか」
「そうなんだけどね!?」
死神ちゃんが頬を引きつらせると、おしゃれさんは半べそをかきながら抜刀して構えた。しかし、彼女の唯一の武器である〈炎の剣〉は、この区域の敵を傷つけることができるどころか、逆に元気づけるだけだった。
おしゃれさんが剣を振るうごとに切っ先からほとばしる炎を吸収し、笑顔を一層輝かせる暑苦しい熱血漢は彼女に詰め寄った。そして追い詰められた彼女はとうとう、彼の篤い(熱い?)抱擁を受け、その身を焦がした。
黒焦げから一気に消し炭となりサラサラと散り積もる彼女の姿にため息をつくと、死神ちゃんは壁の中へと消えていった。
――――おしゃれもダンジョンライフも、手抜きをしたいのであれば知識と経験をある程度積んでからでないとボロが出る。〈最低限必要なもの〉というものは、きちんと身につけておかないと恥ずかしい結果になってしまうのDEATH。
驚いた彼女は悲鳴を上げて尻もちをついた。そして死神ちゃんを認識するとすぐに目くじらを立てて悪態をついた。
「なんだ、死神ちゃんか。脅かさないでよ」
「そう言われましても、これも仕事なんでね」
肩を竦める死神ちゃんを〈おしゃれさん〉は睨みつけた。そしてすぐさま、死神ちゃんを無視して何かの作業を再開させた。死神ちゃんは傍らに腰掛けると、体育座りした膝の上に 腕と顎を乗せてぼんやりとした調子で言った。
「今日はおしゃれじゃないんだな」
「こういう作業に向いてる衣装を、生憎持っていないのよ」
おしゃれさんは死神ちゃんを見ることなく答えた。死神ちゃんは相槌を打つと、不思議そうに首を傾げた。
「ところで、お前、さっきから石を拾っては投げての繰り返しで、一体何がしたいんだよ」
「おしゃれするなら、やっぱり本物の宝石をひとつでもいいから身につけておきたいでしょう? でも、噂の属性指輪は産出量が少なすぎて正直眉唾ものレベルだし。市場にも一応出てはきてるけど偽物が多いみたいだし。ローン組んでようやくゲットしたものが偽物だったら目も当てられないし」
「だから、自力で探そうってか」
おしゃれさんは頷くと、採掘もできるようにと用意したというノミと金槌、そしてピッケルを得意げに見せつけてきた。死神ちゃんは感心して唸り声を上げると、笑顔を浮かべて言った。
「おしゃれ好きもそこまで行くとすごいな。お前、そこまでダンジョンの探索進んでなかっただろ。まさか、おしゃれのためにここまで頑張れるだなんて」
すると、おしゃれさんは死神ちゃんからスッと目を逸らした。そしてバツが悪そうに目を細めて、居心地の悪さからか、それとも単にこの場所が暑いからなのか、額に汗を滲ませた。
「探索は、ロクにしていないの……」
「は?」
「先行組に、引っ張ってきてもらったの……」
「はい……?」
死神ちゃんが顔をしかめると、おしゃれさんは一層顔を背けて同じ言葉を繰り返した。つかの間二人は沈黙したが、死神ちゃんは盛大なため息をついてそれをあっさりと破った。
「好きなことのためなら努力を惜しまないヤツなのかと感心して損したよ。そういやあ、お前、〈強さもファッションする〉とか言って金で解決してたもんな」
「いいでしょう、別に! ダンジョンライフは人それぞれなんだから!」
「まあ、そうだけどさ……」
死神ちゃんが不服そうに口を尖らせると、おしゃれさんはフンと鼻を鳴らした。そして石ころを漁りながらブチブチと文句を垂れた。
「そうよ、イチャモンつけられる筋合いはないのよ。だって炎の剣のローンだって遅れることなくきちんと支払っているし、ここまでご一緒させてもらった人たちが戦闘する羽目になった際も、一応回復とかできる範囲で支援したし。帰りだって〈脱出の巻物〉で地上までパパッと帰るんだから――」
「俺が憑いた状態だと、その巻物使えないだろ。だってそれ、ダンジョン外まで飛ばされるアイテムなんだろう?」
おしゃれさんは作業の手を止めると、愕然とした表情で死神ちゃんを見つめた。そしてキッと睨みつけると、彼女は死神ちゃんめがけて小さな石ころをぽこぽこと投げ飛ばした。
「ちょっと、何でとり憑いたのよ!」
「いや、だって、これが仕事だから」
「マッピングもしてないっていうのに、どうやって自力で帰れっていうのよ!」
「手抜きしたのが災いしたな」
死神ちゃんが鼻で笑うと、おしゃれさんはさらに石を投げて寄こしながら悪態をつきまくった。しばらくして、彼女は深くため息をつくと、おもむろに立ち上がった。そして「このまま暑さに負けて灰になるよりは、少しでも地上に近づこう」とぼやくと、記憶を頼りに歩き出した。
しかし、ノームの特性なのか何なのか、今まで死神ちゃんが出会ったノームの例に漏れることなく、二股に分かれた道ではどちらを選択すべきか悩み、目印となり得るものを見落とし、段差で躓き、罠に足を取られということを彼女はした。死神ちゃんがそれについて思わず突っ込むと、彼女は鋭い目つきで口を尖らせた。
「そういう言い方、とても差別的だと思うんですけど。ノームだからって馬鹿にしないでくれる? そういう事実は、たしかにあるけれども」
「何だよ、やっぱり事実なんじゃないか。ていうか、何で二股の道のどちらとか、目印になりそうなものですら迷ったりスルーしたりするんだよ。マッピングしてないとはいえ、流石にそのくらいはメモってあるだろ?」
「……ないのよ」
「はあ!? それは他力本願すぎるし、見通しが甘すぎるだろう。たしかにダンジョンライフは人それぞれだけど、それは冒険者として手を抜いたらいけないレベルの基本事項なんじゃないのか?」
おしゃれさんは苦虫を噛み潰したような顔でグッと言葉を詰まらせると、きまり悪そうに死神ちゃんから視線を逸らした。
死神ちゃんが呆れ果ててため息をつくと、背後に暑苦しい気配を感じた。ゆっくり振り返ってみると、そこには炎の魔人が白い歯を見せて爽やかに笑って立っていた。おしゃれさんは顔を青ざめさせると、小さな声でポツリと呟いた。
「どうしよう、まだ〈姿くらまし〉の術を再使用できる時間じゃない……」
「こういうときのために覚えておいたものなんじゃないのか」
「そうなんだけどね!?」
死神ちゃんが頬を引きつらせると、おしゃれさんは半べそをかきながら抜刀して構えた。しかし、彼女の唯一の武器である〈炎の剣〉は、この区域の敵を傷つけることができるどころか、逆に元気づけるだけだった。
おしゃれさんが剣を振るうごとに切っ先からほとばしる炎を吸収し、笑顔を一層輝かせる暑苦しい熱血漢は彼女に詰め寄った。そして追い詰められた彼女はとうとう、彼の篤い(熱い?)抱擁を受け、その身を焦がした。
黒焦げから一気に消し炭となりサラサラと散り積もる彼女の姿にため息をつくと、死神ちゃんは壁の中へと消えていった。
――――おしゃれもダンジョンライフも、手抜きをしたいのであれば知識と経験をある程度積んでからでないとボロが出る。〈最低限必要なもの〉というものは、きちんと身につけておかないと恥ずかしい結果になってしまうのDEATH。
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