【完結済み】午後の微熱(20代♂ × 40代♀)

苑々

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翔太は簡単な自己紹介を済ませると、リフォームの打ち合わせを始めた。

涼子はキッチンテーブルに資料を広げて彼と向き合うが、目の前の若い男性の存在感に不思議と気圧されていた。

大きな手が資料を指し示しながら説明するたび、その手の動きに無意識に目がいく。

力強く、厚みのある手。

夫の手とは違う、何か温かみのある生々しい感覚を連想させた。



「ここを新しいクロスに変えると、部屋全体がもっと明るくなりますよ。」

翔太の声は低く穏やかだったが、その中に若さ特有の熱っぽさが感じられる。

涼子は無意識に頷きながらも、彼の声が耳に響くたび、胸の奥で奇妙な感覚が膨らんでいくのを感じていた。

それが自分でも何なのか分からないまま、打ち合わせを進める。



涼子が押し入れの修繕箇所を説明するため、先に立ってリビングの隅に向かったときだった。

翔太が後ろからついてくる気配を感じ、その距離感が妙に意識される。

押し入れの扉を開け、中の劣化した箇所を指し示そうとした瞬間、翔太がふと涼子の肩に触れた。

「ここですか?」

気軽な仕草だった。

だが、その一瞬の接触が涼子の心臓を跳ねさせた。

触れた部分が熱を帯びたように感じられ、その熱が全身に広がる。

思わず振り向いた涼子の目と翔太の目がぶつかった。

翔太は何事もなかったように軽く笑みを浮かべているが、その視線は涼子の内面を探るように鋭く、まるで心の奥底を見透かしているようだ。

「すみません、急に触ってしまって。」

翔太が一歩引いて謝罪する。

涼子は微笑んで「いえ‥」と答えたが、声が少し震えているのに自分でも気づいていた。

翔太の視線が一瞬、涼子の髪のあたりに留まるのを感じ、何か言いたげな表情を見せたが、結局何も言わずに押し入れを覗き込んだ。



*



打ち合わせが終わり、涼子はキッチンでお茶を淹れた。

緊張感を隠そうと翔太に背を向けて作業をするが、彼がすぐ近くにいる気配に鼓動が早くなる。

お盆を持ってリビングに戻り、テーブルに置いた瞬間、翔太がふと涼子に声をかけてきた。

「おひとりで暮らしているんですか?」

不意打ちの質問だった。

涼子は少し驚いて「いえ、夫と2人暮らしです。」と答えた。

翔太は頷きながら「あれ、そうでしたか。それにしては何だか静かな家ですね…」とつぶやく。

その言葉が妙に胸に刺さった。

翔太は何気ないつもりだったのかもしれないが、涼子にはまるで自分の孤独を見抜かれたように感じられた。



その後も何事もないように会話が続いたが、涼子の中でのざわめきは次第に強くなっていった。

翔太の親しみやすい態度に惹かれる自分を抑えきれないのだ。

夫のいる身として、こんな感情を抱くことは許されない。

それはわかっているのに、翔太の視線や動きに心が揺れるのを止められなかった。



打ち合わせを終えて資料を片付ける翔太に、涼子は何気なく「お茶のお代わりはいかがですか?」と尋ねた。

自分でも驚くほど軽い調子で言ったつもりだったが、翔太は少し驚いたように目を丸くした後、にっこりと微笑んだ。

「ありがとうございます。でも、そろそろお暇させていただきます。」

彼はそう言いながら工具箱を片手に立ち上がった。



だが、そのとき。

翔太の指先がテーブルの上の涼子の手に触れた。

それはほんの一瞬だったが、涼子の中で理性の糸が音を立てて緩むのを感じた。

翔太が小さく笑って「またご相談があれば呼んでください」と言い残し、玄関に向かう姿を目で追いながら、涼子の心の中には抑えがたい熱が確実に芽生えていた。
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