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応急処置
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俺が足三里に打った鍼は、なんの役にも立っていなかったことになる。
気海からは陽気を流し込むことができるのに、足三里からはダメなんだ。
そんなこと知らなかった。
爺ちゃんが勉強が大切だって言うのも、一理あるのかもしれない。
俺が注入した陽気は、落差が激しい滝の水のように、由香里ちゃんの経絡にものすごい勢いで吸い込まれた。
さっき万焼亭で陽気をチャージしていたから助かったけど、チャージせずに、こんなに勢いよく陽気が抜けたら、俺は死んでいたかもしれない。
由香里ちゃんの呼吸が穏やかになった。
真っ白だったほほが、薄い桜色に変わっている。
「スゴイ……」
「いや、これは、治ったわけじゃなくて……」
「先生」
由香里ちゃんが静かに目を開けて、自分の手で酸素マスクを外した。
「わたし、本当にパパの誕生日までに退院できるかな?」
「できるよ! 絶対大丈夫」
「さっき怖い夢を見たの。大きなゲジゲジが、私の足を食べる夢。
怖い夢って、何か悪いことが起きる前触れなのかな?」
「そんなことない! 逆だよ、逆。
怖い夢は、いいことが起きるサインなんだ。
由香里ちゃんは、すぐによくなるよ」
「ホント?」
「ホントだよ。俺なんかさ、財布落とした夢を見た次の日に、千円拾ったんだよ。
夢と現実は反対になる。だから安心して」
「うん、わかった。先生、ありがとう」
「じゃあ、また様子見に来るからね」
俺は笑顔で病室を出た。
廊下で待っていると、星野さんが出て来た。
「あの皮内鍼は、そのままにしておいてください。
あれがあるうちは、急に悪化することはないと思います」
「さっき、治ったわけじゃないって言ってましたけど、どういうことなんですか?」
「皮内鍼は応急処置なんです。
由香里ちゃんの体からは陽気が抜けていました。
陽気が完全に抜けると、魂が体と別れて、死んでしまうんです」
「やっぱり、死にかけてたのね」
「さっきの鍼で、たっぷり陽気を補いましたから、もう命に別状はありません。
だけど、病気のモトは、まだ由香里ちゃんの体の中にいます。
そいつを退治しないと、由香里ちゃんの病気は治らないんです」
「どうすれば、その病気のモトを退治できるんですか?」
気海からは陽気を流し込むことができるのに、足三里からはダメなんだ。
そんなこと知らなかった。
爺ちゃんが勉強が大切だって言うのも、一理あるのかもしれない。
俺が注入した陽気は、落差が激しい滝の水のように、由香里ちゃんの経絡にものすごい勢いで吸い込まれた。
さっき万焼亭で陽気をチャージしていたから助かったけど、チャージせずに、こんなに勢いよく陽気が抜けたら、俺は死んでいたかもしれない。
由香里ちゃんの呼吸が穏やかになった。
真っ白だったほほが、薄い桜色に変わっている。
「スゴイ……」
「いや、これは、治ったわけじゃなくて……」
「先生」
由香里ちゃんが静かに目を開けて、自分の手で酸素マスクを外した。
「わたし、本当にパパの誕生日までに退院できるかな?」
「できるよ! 絶対大丈夫」
「さっき怖い夢を見たの。大きなゲジゲジが、私の足を食べる夢。
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怖い夢は、いいことが起きるサインなんだ。
由香里ちゃんは、すぐによくなるよ」
「ホント?」
「ホントだよ。俺なんかさ、財布落とした夢を見た次の日に、千円拾ったんだよ。
夢と現実は反対になる。だから安心して」
「うん、わかった。先生、ありがとう」
「じゃあ、また様子見に来るからね」
俺は笑顔で病室を出た。
廊下で待っていると、星野さんが出て来た。
「あの皮内鍼は、そのままにしておいてください。
あれがあるうちは、急に悪化することはないと思います」
「さっき、治ったわけじゃないって言ってましたけど、どういうことなんですか?」
「皮内鍼は応急処置なんです。
由香里ちゃんの体からは陽気が抜けていました。
陽気が完全に抜けると、魂が体と別れて、死んでしまうんです」
「やっぱり、死にかけてたのね」
「さっきの鍼で、たっぷり陽気を補いましたから、もう命に別状はありません。
だけど、病気のモトは、まだ由香里ちゃんの体の中にいます。
そいつを退治しないと、由香里ちゃんの病気は治らないんです」
「どうすれば、その病気のモトを退治できるんですか?」
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