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5 これだけやっても『奴隷主になりたい』男性がいる理由
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この世界には多くの「男女逆転物語」がある。
女性向けの物語で多いのは「社会的に地位を得たり、妊娠のリスクを代わってもらったりする」という「社会的地位や肉体が逆転するもの」であり、逆に男性向けの物語で多いのはもっぱら「性欲や貞操観念」という「内面が逆転するもの」だろう。
だが女性向けの「男女逆転もの」……特に『旦那に読んでほしい!』と女性読者が思うような作品では「男性の性的充足への欲求」「モテない男性の苦悩」が、極度に矮小化されることが多い。
具体的には、男性が恋愛で特に苦労する「パートナーを作るまで」が書かれることはまずない。
だが実際には、男性の「性的充足への欲求」は女性のそれとは比べ物にならないほど強い傾向がある。
分かりやすいのが、男性向けの同人ゲームだ。
「死ぬまで子作り要員として、幽閉生活を余儀なくされる物語」
「自身を除いた同性がいない離島で、ひたすら種馬として働く物語」
という話は普通にあり、ここに『人権や日常生活と引き換えにしてでも、性的充足を得たい』という男性の願望が現れている(実際、男性読者の中には『紫音が羨ましい』という方も多いのではと思われる)。
これは即ち言ってしまえば、
「可愛い女の子と合意の上で好きなだけセックスできるのならば、どんな扱いを受けてもいいという男性は、この世界には一定数いる」
ということだ。
……これが男女の決定的な価値観の違いであり、分かり合えない理由の一つと言える(実際、スレィフと紫音の性別が逆だったら、本作はギャグにならないだろう)。
以上のことを踏まえて、ここからの紫音の行動を見てほしい。
『品評会』が終わった日の夜。
紫音は酒に酔ったためか、高いびきをかいて寝ているスレィフを見ながら思った。
(はあ……やっと、終わった……)
そう思いながら、彼女の寝ているわら布団に横になり、寝ている彼女を後ろからそっと抱きしめる(この世界では、奴隷主が奴隷に抱き着く際には、合意は必要ない)。
そして、彼はいつもやっている「ささやかな復讐」を試みるべく、彼女の耳元でささやく。
「いつも、ありがとう、スレィフ……。僕は君が好きだよ……本当に愛してる……」
信じられない読者もいるかもしれないが、彼はこれを本心から言っている。
無論こんなことを聞かれたら『奴隷』である彼女が怒りだす。
そのため彼女が寝ているときにしか言えないので、ある種の『復讐』でもあるわけだ。
そして、彼女を抱きしめながら紫音は思った。
(……元の世界では、女の子に近づいただけで嫌われてたからなあ……)
女性から仲間外れにされ、連絡を無視され、陰口を叩かれ、ひどい時には近づいただけで露骨に机を動かされた過去を思い出し、紫音は思った。
(スレィフは、毎日毎晩僕に話しかけてくれて、身体を求めてくれる……。しかも今朝なんて、僕とのセックスを「気持ちいい」なんて言ってくれた……それだけで、この世界は天国だよ……)
そう思いながら彼はいつくしむように彼女を抱きしめていると、ぱちっとスレィフは眼を開ける。
「あれ、ご主人様? まだ眠れないんですか?」
「ああ……」
そういうと、少し罰が悪そうにスレィフは答える。
「ご主人様、今日はご苦労様でした。ただ、その……」
今日は珍しく機嫌がいいスレィフは、紫音につぶやく。
「あのお婆さんの言ったことは、気にしないでください。私は、ご主人様が不妊だとしても、気にしませんから……」
一見優しげに見える発言だが、スレィフの言葉には当然『不妊の理由はあなたにある』という意味がこめられている。
……この世界では、不妊の原因は男性にあるとされるためだ。
「あなたは家事育児をするだけでいいです。そうすれば一生、この離れに置いてあげますし……死ぬまで私が面倒見てあげますので、ご安心ください……」
これもまた言外に『私は家事育児は楽な仕事と思ってる。また、そちらからの三行半も、経済的自立も認めない』という意味がある。
……客観的に見て、スレィフは「ろくでもない奴」なのだろう。
だが、それらをすべて理解しつつも、紫音は彼女を愛おしそうに、ぎゅっと抱きしめてつぶやく。
「おい、急にお前を使いたくなった。奉仕しろ」
「はい、ご主人様!」
この場でも、やはり『奴隷主』は高圧的な態度を取らないとならない。
その発言にスレィフは嬉々として起き上がり、幸せそうな表情で彼に対してキスを行ってきた。
女性向けの物語で多いのは「社会的に地位を得たり、妊娠のリスクを代わってもらったりする」という「社会的地位や肉体が逆転するもの」であり、逆に男性向けの物語で多いのはもっぱら「性欲や貞操観念」という「内面が逆転するもの」だろう。
だが女性向けの「男女逆転もの」……特に『旦那に読んでほしい!』と女性読者が思うような作品では「男性の性的充足への欲求」「モテない男性の苦悩」が、極度に矮小化されることが多い。
具体的には、男性が恋愛で特に苦労する「パートナーを作るまで」が書かれることはまずない。
だが実際には、男性の「性的充足への欲求」は女性のそれとは比べ物にならないほど強い傾向がある。
分かりやすいのが、男性向けの同人ゲームだ。
「死ぬまで子作り要員として、幽閉生活を余儀なくされる物語」
「自身を除いた同性がいない離島で、ひたすら種馬として働く物語」
という話は普通にあり、ここに『人権や日常生活と引き換えにしてでも、性的充足を得たい』という男性の願望が現れている(実際、男性読者の中には『紫音が羨ましい』という方も多いのではと思われる)。
これは即ち言ってしまえば、
「可愛い女の子と合意の上で好きなだけセックスできるのならば、どんな扱いを受けてもいいという男性は、この世界には一定数いる」
ということだ。
……これが男女の決定的な価値観の違いであり、分かり合えない理由の一つと言える(実際、スレィフと紫音の性別が逆だったら、本作はギャグにならないだろう)。
以上のことを踏まえて、ここからの紫音の行動を見てほしい。
『品評会』が終わった日の夜。
紫音は酒に酔ったためか、高いびきをかいて寝ているスレィフを見ながら思った。
(はあ……やっと、終わった……)
そう思いながら、彼女の寝ているわら布団に横になり、寝ている彼女を後ろからそっと抱きしめる(この世界では、奴隷主が奴隷に抱き着く際には、合意は必要ない)。
そして、彼はいつもやっている「ささやかな復讐」を試みるべく、彼女の耳元でささやく。
「いつも、ありがとう、スレィフ……。僕は君が好きだよ……本当に愛してる……」
信じられない読者もいるかもしれないが、彼はこれを本心から言っている。
無論こんなことを聞かれたら『奴隷』である彼女が怒りだす。
そのため彼女が寝ているときにしか言えないので、ある種の『復讐』でもあるわけだ。
そして、彼女を抱きしめながら紫音は思った。
(……元の世界では、女の子に近づいただけで嫌われてたからなあ……)
女性から仲間外れにされ、連絡を無視され、陰口を叩かれ、ひどい時には近づいただけで露骨に机を動かされた過去を思い出し、紫音は思った。
(スレィフは、毎日毎晩僕に話しかけてくれて、身体を求めてくれる……。しかも今朝なんて、僕とのセックスを「気持ちいい」なんて言ってくれた……それだけで、この世界は天国だよ……)
そう思いながら彼はいつくしむように彼女を抱きしめていると、ぱちっとスレィフは眼を開ける。
「あれ、ご主人様? まだ眠れないんですか?」
「ああ……」
そういうと、少し罰が悪そうにスレィフは答える。
「ご主人様、今日はご苦労様でした。ただ、その……」
今日は珍しく機嫌がいいスレィフは、紫音につぶやく。
「あのお婆さんの言ったことは、気にしないでください。私は、ご主人様が不妊だとしても、気にしませんから……」
一見優しげに見える発言だが、スレィフの言葉には当然『不妊の理由はあなたにある』という意味がこめられている。
……この世界では、不妊の原因は男性にあるとされるためだ。
「あなたは家事育児をするだけでいいです。そうすれば一生、この離れに置いてあげますし……死ぬまで私が面倒見てあげますので、ご安心ください……」
これもまた言外に『私は家事育児は楽な仕事と思ってる。また、そちらからの三行半も、経済的自立も認めない』という意味がある。
……客観的に見て、スレィフは「ろくでもない奴」なのだろう。
だが、それらをすべて理解しつつも、紫音は彼女を愛おしそうに、ぎゅっと抱きしめてつぶやく。
「おい、急にお前を使いたくなった。奉仕しろ」
「はい、ご主人様!」
この場でも、やはり『奴隷主』は高圧的な態度を取らないとならない。
その発言にスレィフは嬉々として起き上がり、幸せそうな表情で彼に対してキスを行ってきた。
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