世界崩壊RTA(小説版)

フーラー

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第3章 彼女には、やりがいがあって楽しい仕事をあてがおう

3-2 この会社は人間にとっては『キャバクラテーマパーク』だ

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それから少しののち。

「部長。あなたの企画、独りよがりでつまらないわ。一から考え直して?」

件の女は、『天使』の経営する会社に雇われた。
元々フリーターだった彼女がこの会社に雇われるまでの経緯は、当然『就活サイト』などではない。


彼女が普段からネットで書き散らしていた漫画論を見て、


「あなたのそのセンスに惹かれました! ぜひ、うちの会社で働いてほしいのです!」


という形で『向こうから』アプローチをされたのがきっかけだ。
この会社はいわゆる電子コミックの配信を行う企画会社であり、そこで彼女は働いている。

彼女は『部長』と称する中年男性……彼は本当はこの会社を作り上げた『天使』だが……を自分の席に読んで、説教するように自身の漫画論を伝える。

「あのね、最近の漫画ってさ。いわゆる『継母』が悪者になることって減ったでしょ?」
「ええ」
「どうしてだかわかる?」
「えっと……」

彼女は、自分の好きな話については延々と、相手の反応を待たずにしてしまうところがある。
そのため、彼の返答を待たずに続ける。


「最近の漫画の読者は女性が増えたし、年齢も上がっているでしょ? それに、なにより少子化で子どもが減っている。だから、大人……厳密には『中高年の女性』ね……を悪者にする漫画を描きにくくなったし、『子ども側』の立場を描く場面も減ったのよ」
「おお、なるほど!」
「だから『大人は分かってくれない!』みたいな作品は漫画よりも音楽の分野でやってることが多いわね。それも無料で聴けるコンテンツでね」
「はあ……流石です……」

その部長と呼ばれた中年男性は、そう感心したようにうなづく。
そして女は、彼の相槌に気を良くしたようで、更にニコニコと話を続ける。


「独身の女性にはね? 『子育ての楽しくて面白い部分』を疑似体験する体験が必要なの。だから『可愛くて従順な幼女や少年』をもっと描く作品にして? それと、この作画者は気に入らないから別の人を頼んで?」
「は! すぐに取り掛かります!」


彼女の役職は、ご意見番(アドバイザー)と呼ばれるものだ。
自分が考える『面白い漫画の企画』について意見を出し、そしてそれを『天使』である部下たちに伝えるのが役割だ。


職位としては役員に相当するため、当然売り上げに対する責任は営業側が負うことになるため、これで作品が売れなかった場合でも、彼女に注意するものはいないし咎も負わない。


また、代表取締役でもないためいわゆる経営面の理解や株主との折衝に顔を出す必要もない。顔を出すのはヒット作が出た時に『天才役員現る!』といった、自分が褒めてもらえるような取材の時だけでいい。

彼女は部長を帰らせると、また机の上に置いてある漫画を読みながら、

「アハハ! なにこのシーン! バカみたいだけどいいわね!」

そんな風に笑い転げていた。
彼女はこの職場では『取材』『研究』として、話題のヒット作を読んで時間を過ごす。

そしてその中で面白いと思った企画を適当なタイミングで部長達『天使』に伝えるのが『仕事』である。

当然、彼女の企画に見合う漫画家や作画者を探すのは部下である彼らの仕事だ。
彼ら『天使』の能力ならば、彼女の曖昧な指示でも十分な仕事が出来る。そしてヒット作が生まれたら彼女の手柄となる。


……即ち、意地の悪い言い方をすれば、

「権利と裁量権は大きいが、義務と責任は持たない美味しい役職」

だ。
そして彼女は漫画を読み飽きたのか、定時10分前になったのを見て立ち上がる。


「もう定時ね。私は帰るから、後よろしく」
「はい、お疲れ様です!」

当然彼女が何時に出社・退社しようと文句をいうものはいない。
彼女は時間を守ることが苦手で、定時出社もあまり出来ないタイプだ。
そのせいでバイトをクビになることも多かったが、この職場では遅刻は大目に見てもらえる。


だが、正社員としての経験が乏しいうえに、好きな漫画のジャンルが『中世風ファンタジーもの』と『中華風ファンタジーもの』に偏っている彼女はいわゆる『普通の会社員』のイメージがない。

そのため彼女は自分の生活を『普通』と思い込んでおり、自分のことを
「世間の荒波の中で一生懸命頑張るバリキャリ」
となっている。




彼女は駅の近くまで歩きながら、

「今日も頑張ったな、私……」

そんな風にのんびりと帰途に着こうとしていた。
そこに、

「先輩!」

と呼び止める声が聞こえてきた。


「あれ、ロージィも仕事終わったの?」

彼女は職場の部下だ。
入った時期は実際には彼女のほうが先だが、立場上は『後輩』として振舞っている。
いわゆる『ゆるふわ女子』と行ったかわいらしいいでたちの彼女は息を切らせながら答える。

「はい、先輩と一緒に帰りたかったんで、急いで来ちゃいました!」
「そう?」
「えへへ! 先輩は私の憧れですから! だから、ちょっとでも一緒に居たくて!」


そう答えた。
無論彼女ロージィも『天使』だ。

彼女のような『ゆるふわあざと女子』とも言えるような美少女に『先輩』として慕ってもらうことを、女は潜在的に望んでいた。

実際、彼女の趣味はいわゆる『メイド喫茶めぐり』で、綺麗な格好をした美少女に奉仕してもらうことが好きというのも大きい。

このロージィは、会社における面倒な雑務を肩代わりするだけでなく、彼女にとって『理解ある後輩ちゃん』となるために作られたのだ。

ロージィは彼女の前で手を組んで、尊敬のまなざしで答える。


「先輩みたく『思ったことを何でも言える人』って、凄いカッコいいですよね!」
「そう? この性格のせいで、バイト先ではトラブルばかり起こしてたんだけどね……」
「え~? それは変ですよ! 先輩、仕事も出来るし言っていることはいつも正しいじゃないですか!」
「そ、そうかな……」


現実の世界では『相手の立場を考えずに思ったことをズケズケいう人間』は嫌われることが多い。特に『上から目線で説教ばかりする奴』は基本的に孤立しやすい。

……実際『あなたのそんなところが好き』『思ったことを口にするなんて、魅力的!』と言って全肯定してくれるものなど、基本的にはフィクションのキャラか、或いはキャバクラ嬢やホストくらいだろう。


だが、このロージィは、まさにそういう『無料キャバクラ嬢』として彼女の立場になってくれている。
過去にバイトをクビになった経験を聴いて、

「そうなんですか……。よかったら、カフェでその話、聴いていいですか?」
「え?」
「私、もっと先輩とおしゃべりしたいんで! いいお店がこの辺にあるんですよ!」


そんな風に言いながら、女をカフェに案内した。
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