俺が「妖怪の総大将」? スキル「合法侵入」しか持たない俺「ナーリ・フォン」は「ぬらりひょん」として成り上がりを目指します

フーラー

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第4章 鉱山を守る妖怪、だいだらぼっち

4-3 だいだらぼっちはシャレにならない強さのようです

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翌日、俺たちは鉱山に向かって歩いていた。


「それにしても、寒いな……」
「おう……ワシもこれはちと厳しいぞ……」

俺と蛇骨婆はそういいながら身体を震わせていた。
鉱山に向かう途中の山だが、目的地に向かうにつれて気温が下がっていた。

寒さに強い雪女や頑健な肉体を持つ手の目はともかく、俺や変温動物の特徴を持つ蛇骨婆はさすがに厳しかった。


「大丈夫、ぬらりひょん? ……その……ハグしてあげよっか?」
「いや、いい……」

雪女に抱き着かれても暖かくなるわけがない。
彼女もそのことが分かっているのだろう、俺には近づかないようにしていた。


「ったく二人とも、しょうがねえな。……二人とも肩をよせろよ」
「え?」
「こうか?」
「そうそう。……ほら」

そういうと手の目は俺と蛇骨婆を寄せて、自身の上着をかぶせてくれた。


「俺はこれくらい平気だからさ。お前らくっついてりゃ、何とかしのげるだろ?」
「あ、ありがとな、手の目……」
「……おう……その……ありがとう……」

ニコニコと笑う手の目に対して俺たちはそう頭を下げた。

「ぬらりひょんも、すまんな。お主の体はワシよりも暖かいから助かるわい……」
「本当に冷たいんだな、蛇骨婆は。……その手の蛇、貸しなよ。俺に巻きつけていいから」
「おお、いいのか? 助かるわい」

俺は彼女の一部である蛇を身体に巻きつけた。
ひんやりとした感覚が身体を襲うが、何とか耐えられそうだ。


「おお……お主の身体も暖かいのう……これで何とか動けそうじゃ」
「そうか? ならよかったよ」


彼女の両腕にいる蛇は彼女の身体の一部だ。
俺の体で暖を取ることで、心地よさそうな表情をしていた。


「……む……ずるい……」

その様子を見て、フレアは手の目を恨めしそうに見つめる。


「手の目?」
「うひい! な、なんすか姉御?」
「後で覚えておきなさいよ……」
「そんな、俺はただ二人が心配だっただけなのに……」


これはほぼ八つ当たりのようなものだろう。
だが、気安い関係ということもあるのか、そんな風に二人が話している姿はどこかほほえましかった。


「そろそろ目的の鉱山ね……」


それから少し歩いた後、俺たちは目的の鉱山に近づいていることを感じた。
全身が凍てつくような寒さで震えている。この寒さの前では、正直手の目から借りた上着も、蛇骨婆と一緒にいることで得られる暖も気休めにしかならない。


「いた……あいつか……」

そして、俺たちの眼前には20mはあるかと思うような巨人が座り込んでいた。
その巨人の後ろには鉱山の入り口がある。


「ああ。あいつが妖怪『だいだらぼっち』だな」
「なるほどのう……そして冷気は、あの鉱山の奥から流れておる……」
「きっと何かが封印されているんじゃないかしら? それで、だいだらぼっちはそれを守っている……辻褄は合うと思わない?」
「だな……」

そうつぶやきながら、俺は彼に見つからないように草むらにでひそひそと話をしていた。


「とりあえず、俺が『合法侵入』を試みてみる」
「大丈夫か? ……お前のスキルって、言葉の通じない敵には効かないんじゃないか?」
「かもな。けど、試してみる価値はあるだろ? ダメだったらいったん撤退しよう」
「分かったよ、ナーリ。俺達はお前に何かあったときのために控えておく」
「ああ……フフフ」


こんな風に話をしていると、俺は昔を思い出して思わず笑ってしまった。


「どうしたんだ?」
「いや、以前も草むらでこんな感じで作戦を考えたことがあったんだけどさ。その時一緒にいたのがアカナメだったから……」
「おお……そりゃ、災難じゃったな……」

そこまで話しただけでも理解できたのか、蛇骨婆は少しあきれた様子を見せた。


「だから、こんな風にとんとん拍子で話を進められるのはありがたいよ。……それじゃ、行ってくる」
「ええ。……安心して、私があなたを守るから」

そうフレアに言われると心強い。
俺はそう思いながらだいだらぼっちに向かって歩いて行った。



「グア?」

しばらく歩くと、だいだらぼっちはおれに気づいたらしく不審そうな表情を見せた。
俺はすでに合法侵入を展開している。そのため、彼にとっては俺はモブキャラに見えているはずだ。


「はじめまして、だいだらぼっち……!」
「ガアアアアア!」


だが、俺がそうやって話をしようとするなり、いきなりブン! と近くにある大岩を投げつけてきた。


「うお!」

その岩は俺の隣にある木に命中し、真っ二つにその木をへし折った。
……なんて力だ。『ただ人間を大きくした生物』とは身体構造が根本から違うのだろう。

「ガアアアア!」

そういうと大声でこちらにだいだらぼっちは叫んできた。
恐らく先ほどの牽制でわざと外したのだろう。だが、そう思う間もなく奴は俺に向かって突進してきた。


「グガアアアア!」

そう叫ぶと今度は手に持っていたこん棒を振りかざす。
これも牽制かもしれないが、万一本気で当てるつもりなら……いや、当てるつもりがなくとも、この腕力だ。

貧弱な人間である俺の身体など、衝撃波だけで致命傷を負いかねない。
そんなだいだらぼっちの一撃が俺に向かって振り下ろされようとする刹那。


「はあ!」
「そこよ!」


手の目が俺の身体を抱きかかえ、フレアが冷気をだいだらぼっちの顔に吹き付ける。


……よかった、助けに来てくれたのか。


「やっぱり駄目だったな、ナーリ?」
「ああ。ああいうタイプにはそもそも合法侵入そのものがダメみたいだ……」


彼は最初から「外敵をすべて撃退する」というモードでこちらに対して接していた。
そのような相手であれば『合法侵入』なんて出来るはずもない。


「グフフフ……グワアアア!」
「なんて奴なの……私の氷魔法がまるで効かない……?」


全力で放った冷気だったようだが、だいだらぼっちの身体は、薄皮一つ凍り付いていない。
だが、奴は今の一撃で、こちらを完全に外敵と認識したようだ。


「くそ……これなら少しは効くか!?」

そういうと手の目は腕から気弾を放ち、だいだらぼっちの腹に直撃した。
どがああああん……という音とともに気弾がはじけ、轟音に包まれる。

……お前、その技ずっと隠してやがったな。


「フン!」
「ダメだ、効果がない!」


だが、その一撃もだいだらぼっちにはびくともしないようだった。


「グガアアアア! グオオオオオ!」

そう叫びながら、ブンブンとこん棒を振り回してくるだいだらぼっち。


「いかん、みんな逃げるのじゃ!」


だが、その様子を見た蛇骨婆が炎の魔法を彼のこん棒に打ち込む。


「グ……グオオオオ……」


だいだらぼっちは、あれほどの巨体だ。
彼の体格に合うような木材などそうはない。そのため、彼は得物を失っては困るとばかりに必死に足元の雪にこん棒を押し付け始めた。


「やはり……強いな……あいつは……?」
「あたりまえじゃ! リッチー程の種族が私兵まで居るのに、まるで手出し出来なかった相手じゃぞ? 今のワシらじゃ無理じゃ!」


この世界には大規模な戦争がないので忘れがちだが、この世界でもリッチーの魔力はすさまじいものがある。
そんな彼らが放置せざるを得ないだいだらぼっちは、やはり脅威ということなのだろう。


「みたいだな。……いったん立て直そう!」

俺たちは彼がこん棒に気を取られている間に、草むらの中に逃げ込む。
……彼は何かを守っているような素振りを見せている。そのことも考えると、深追いはしてこないはずだ。


「あいつは……何を守っているんだろうな……」

逃げる道すがら、俺はそうつぶやいた。

「さあな。……だが、大切なものなんだろうな」
「ああ。……そいつが分かれば……俺たちもあいつの力になれるかもな」


それを聞くと、蛇骨婆は少しあきれた様子を見せた。


「まったく、あんな目に遭っておいて、奴の心配か。本当にお人好しなんじゃな、お主は」
「あら? そこがぬらりひょんの良いところなんじゃない? ね?」

フレアはそんな風に言って俺に微笑みかけてくれた。
そういわれると少しこっぱずかしい気もしたが、悪い気持ちには慣れなかった。


「……妖怪たちの力を合わせれば……きっと上手くいくはずだよな……」

俺はそう独り言をつぶやいた。

彼ら妖怪は様々なスキルを持っている。
その力を使えば、出来ないことはないはずだ。

そんな風に思いながら。
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