国民のほぼ全員が『人生2週目の転生者』なので、前世で起きた『聖女様闇落ち世界滅亡エンド』を総力あげて回避します

フーラー

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第4章 人生をやり直すためなら、人は悪魔にもなれるのか

4-6 道具と思っていた相手は、最後の味方でいてくれるのか

「やっと、ついた……これが、因果律の鎖……」


そう祭壇の最深部でつぶやいていた。
因みに『因果律の鎖』という名前ではあるが、実際には大量のモニターやコンソールが使われた近代的な装置だ。


「これを起動すれば……また、新しい人生が……今度は生まれた時からやり直せば、また私は……」


だが、そうつぶやいた瞬間、オルティーナの身体から自由が奪われた。


「な……これは……拘束魔法?」
「はあ……はあ……間に合ったのですね……」


そこにいたのはラジーナだ。
拘束魔法を受けたら、オルティーナの高い能力もまったく意味をなさない。

走ってここまで来たのだろう、肩で息をしながらオルティーナに近づく。


「なんで……フォスターの自爆魔法を喰らったはずでしょ? なんで……生きてるの?」
「私の大切な……エイドが守ってくださったからですの……まあ……私も無傷じゃすまなかったのですけどね……」

そしてラジーナは、憎しみをこめた目でつぶやく。


「自爆魔法のことを知っているということは……やはり、あの魔法はフォスターの意思ではなく、あなたが仕込んだのですね……とことんまで下種な聖女様だこと……」

「うるさいな! 私を大事にしてくれない世界なんて、もういらない! それに『因果律の鎖』を使えば、フォスター将軍のことも全部、なかったことになるんだから!」

「……なかったことに? ……それは、私のこの指も……ですか?」




そうラジーナは右手を見せる。
……その右手からは、指が数本欠損していた。

「ひ……」
「未夏を守るのに……私も防御魔法を使いすぎた……ツケが回ったようですわね……」


未夏が先ほどの爆発の時に傷が浅かったのは、エイドだけでなくラジーナも彼女を守るために魔法を展開したからである。
……未夏本人がこのことを聴いたら、きっと自身を責めていただろう。


「そんな……ちょっと……待って……」


だらだらと血が流れるラジーナの手を見て、オルティーナは怖気ついたのか表情を変える。


だが、オルティーナは顔色一つ変えずに、右手を振り上げる。


「まって! 『因果律の鎖』をどうするの?」
「決まっていますわ! ……こうするのです! ……はあああ!」
「まさか……やめて!」


だがオルティーナの制止など聴く気もないラジーナは、魔力をこめた手を思いっきり『因果律の鎖』にたたきつけた。


バチバチ! ……という凄まじい音とともに『因果律の鎖』は爆発音を響かせる。
……そして、装置は起動を停止した。


「な、ど、どうしてこんなことを……」
「決まっています。……こんな装置が存在していたら……私が使いたくなるからですわ?」
「使いたくなる? ……使わないの?」
「ええ。……私は、自分だけズルをするのは嫌です。それに、自分の欲のために……人が歩んでいた足跡をなかったことにするのだけは……死んでもごめんです」


そう言いながらも、ラジーナは目に涙を溜めていた。
……やろうと思えば、この『因果律の鎖』を使って『エイドがケガをしていない世界』を作ることも可能ではあった。

だが、一度でもそれをしてしまうと、間違いなくこの装置を手放せなくなり、いずれはオルティーナと同じ末路をたどる。

また、ラジーナにとってはそのような『自分達だけ欠損した手足を取り戻す』ことを『ズル』と認識しているのだろう。



「あと、あなたに言いたいことがありますの」

「あなた」とはオルティーナのことではない。
……いつのまにか彼女の後ろにいた、プログリオに対してラジーナは吐き捨てるようにつぶやく。



「人間、舐めるな……ですわ?」



『……ちぇっ……。君の作る世界……見たかったんだけどなあ……絶対、面白い世界になったと思ったんだけどね……』


そういうとプログリオは面白くなさそうな表情をしながら徐々に身体が崩れていく。
……彼は『因果律の鎖』の管理者だ。当然本体が破壊されれば本人も消滅する運命である。


「私たちはあなたのおもちゃじゃありませんもの。……おもちゃとして天国で生きるよりも、人間として地獄で死ぬほうがマシですわ?」
『そういったのは君が初めてだよ。……みんな、都合のいい世界に転生したがるからね』


すでに彼の体は顔以外は残っていない。
そんな彼は最後に、


『まあ、いいや。……じゃあせいぜい、この地獄みたいな世界で生きるんだね?』


そういうと完全に身体が崩れ、消滅した。


そしてラジーナは、オルティーナを睨みつける。


「さて……オルティーナ。……私の指を奪ったこと……はまだ許せるわ? けど……エイドに対して一生消えない傷を負わせたことは……絶対に許せません……!」

その眼には凄まじいまでの殺気がみなぎっていた。

「ひ……」
「本来あなたはラウルド共和国の法で裁くべきでしょうが、ここは他国で、あなたは国民ではない……だから、法であなたを裁くつもりはありませんわ……」

ラジーナは、オルティーナの首を刎ねるべく、剣を大きく振りかぶる。


「ま、待って……! お願い、許して……」
「それにあなたはこの国で居場所を失いつつある身。……あなたを殺しても……戦争にはならないでしょうね……」

無論これは詭弁であり、実際には大きな国際問題になるだろう。
だが、そのことも理解できないほどラジーナの心に憎しみがあふれているのは、その凄まじい形相から理解できた。


「ひ……」


拘束魔法によって、彼女は一切魔法も剣技も発動できない。
オルティーナは表情をゆがめながら必死で謝り倒す。


「やめて! お願い、本当に! だから助けて!」
「命乞いなら……あなたのために死んだもののために叫ぶのですね……!」


そういって剣を振りおろそうとした瞬間。


「待ってください!」

そう叫ぶ声があった。
……フォスター将軍だ。



「フォスター? 生きていたのね……」

恐らく肺がつぶれているのだろう。
ほかにも臓器に損傷があるのか、口から血を流しながらも、かろうじて動く足だけを頼りにしてここまで来たのが分かる。


「…………」


彼はすでに戦うことは出来ないだろう。
そう判断したオルティーナは、彼に語りかける。


「あなたは……自爆魔法をオルティーナにかけられていたの……知っていたの?」
「はい……薄々は……」
「え?」

その発言に、オルティーナは少し驚いた表情を見せた。
……やはり、オルティーナは彼に無断で魔法を使っていた。それが分かったラジーナはいらだつような表情をオルティーナに向けた後、すぐにフォスター将軍に向き直る。


「ではなんで、そうまでして彼女のために戦うの?」
「私は……決めたのです……。どんなことになっても、何があっても……今世では私だけは、最後まで彼女の味方でいると……!」
「その思いすらも、改ざんされた記憶によるものと知っていても、ですか?」

ラジーナは、すでに『一部の転生者は記憶が改ざんされている』ということを未夏を通して知っている。

だが、フォスター将軍はその質問に、達観したような笑みを浮かべる。



「もしそうだったら、なんなんですか?」



そして覚悟を決めた『転生者の眼』をして、ラジーナに語りかける。


「たとえ改ざんでもなんでも……オルティーナ様を愛した私の気持ちに……嘘はない……嘘だとは認めるつもりはありませんから……!」
「……あなたは、その女にただ利用されてるだけよ?」

ラジーナの問いかけに、フォスター将軍はそっとうなづいて答える。


「それでいいのです。……前世で私がオルティーナ様を守れなかった……。そんな私が、償う機会を与えられたのですから……」

ゴフ……と吐血しながらもフォスター将軍は続ける。


「そんな私が今世で……彼女に使い捨ての道具として利用され、殺されるなら本望です……」
「フォスター将軍……」


そういいながら、フォスター将軍は二人の前に立つ。


「お願いです。……私の命なら差し上げますので……どうか、オルティーナの命……だけ……は……」


だが、そこまで言ってフォスター将軍は倒れこんだ。


「……フォスター……将軍? いや……待って! 死なないで!」

かろうじてまだ息はあるが、このまま放っておくと命を落とすことは、誰の目にも明らかだった。


「……お願い、ラジーナ……ううん、ラジーナ様!」


それを見て、オルティーナはつぶやく。


「……私の命ならあげるから……フォスター将軍を助けてあげて? 未夏にも、酷いことしたこと、謝るから……」
「…………」

その彼女の目は、今までの転生者と同じ『覚悟を決めた眼』だった。
それを見たラジーナは尋ねる。


「それなら……命の代わりに……なんでもいうことを聴きますか?」
「ええ。……処刑されても……あんたの兵士の慰み者にされても構わない……」
「そう……」


それを聞いたラジーナは剣をおろし、鋭い眼光で尋ねる。



「それだけの覚悟があるなら……私の復讐を手伝ってほしいの……。労働奴隷兼、性奴隷として。……言っておきますが、容赦するつもりはありません」
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