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第2章 チート級の戦闘力を持つけど、婚約破棄されて国を出る男『アホード』
2-8 こんな試合が書きたかった。まあ落ちは……
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「いくぞ!」
「ええ、かわせるかしら?」
アンジュはセットした魔法を解き、一斉に四方八方に打ち返す。
「させるか!」
だが、自分に向けて放たれたそれを魔力をアホードは、こめた剣によって叩き切る。
「こんな攻撃、当たると思うな!」
「へえ、やるじゃない、ならこれならどう?」
アンジュはそうつぶやくと、残っていた光弾をアホードの周囲を包むように配置した。
包囲してからの一斉射撃を狙っていることは明らかだ。
「受けてみなさい!」
アンジュが手を振るとともにその光弾は猛烈な勢いでアホードに襲い掛かる。
……だが。
「そっちこそ、見切れるかな!」
アホードはそう呟いた瞬間、土煙だけを残してその場から姿を消す。
「ああっと! これはどうしたことだ! アホード選手が消えた~~~~!」
「……やるじゃない……けど、読めてるわよ!」
この手の『視界から消える技』を使った場合、大抵の場合は相手が居る場所など、大体決まっている。
「上ね……しまった!」
だが、アホードは試合場にある照明を背にするように飛び上がっていた。
それに一瞬幻惑するアンジュ。
それでも魔法障壁を上面に展開していた彼女に対してとびかかりながらの斬りつけは無意味と判断したのだろう、
「もらった!」
アホードは地面に着地するなり、大きく踏み込みフェンシングの要領で飛び込み突きを放つ。
しかしその一撃は空を切る。……否。
「やるじゃない、アホード……。今のは惜しかったわね……」
攻撃を大きく後方回転しながら飛び上がって突きをかわしたアンジュは、彼のサーベルの上に飛び乗っていた。
いわゆるフィクションなどでは『定番』ともいえるシーンだが、物理的にこれを行うのはまず不可能だ。
だが、それを難なく行うアンジュに、
「化け物だな、君は……」
そう思わず呟いた。
「おほめいただきどうも!」
「ぐは!」
そのまま顔面に蹴りを喰らい、アホードは一瞬よろめく。
そしてアンジュはその隙に着地すると手元を蹴り飛ばして剣を弾く。
「ぐ……」
「おおっと! アンジュ選手の凄まじい格闘技!
「やったぞ、アンジュ! 俺の教えが生きたな!」
「フン、ありがとね、セドナ!」
一瞬アンジュは観客席にいたセドナに投げキッスを飛ばした後、追撃とばかりに飛び蹴りを打ち込もうとする。
「せい!」
だが、飛び蹴りは足が伸びきるまでの一瞬が命取りになる技だ。
一撃が来る前に一歩前に踏み込み、アホードはヘッドバッドをアンジュの顔面に打ち込む。
「きゃあ!」
「であ!」
そしてアホードは両手で掌底をアンジュの腹に打ち込む。
……が、それはアンジュの魔力の障壁に阻まれる。
彼女は大きく吹き飛ばされたが、態勢は崩せなかった。
「やるじゃない、アホード! ここまで手ごわい相手はあなたが初めてよ!」
「ああ……俺もだ! 最高だよ、アンジュ!」
そういいながら、アホードは地面に落ちた剣を拾い上げる。
(楽しい……! なんだよ、この子は……! 僕が『頭突き』まで使うなんて初めてだよ……!)
「けど、まだ私の全力じゃないわよ……! さあ、かかってきなさい!」
アンジュはそう叫ぶと両手両足に魔力をほとばしらせる。
「へえ、強化魔法か……。まさかその技が使えるなんてな」
これは異大陸で『天才』とされた格闘少女、チャロが得意としていた魔法だ。
使うと使用者の筋力を一時的に引き上げられる。
伝聞でしか知らなかったが、これによってアホードが持つ『身体能力』というアドバンテージが失われたことはアホードにも理解できた。
「今度は私から行くわよ! うけてみなさい!」
そういうとアンジュは高速でフットワークを放つ。
残像が各地に散らばり、それをアホードを包囲する。
「凄い、凄いぞ今日の試合は! アンジュが何人にも見える技だ! なんという神速! なんという足さばき! これが頂点の戦いか~~~~!」
司会が興奮して叫ぶのに呼応するように楽団たちも曲調を盛り上げる。
……だが、アホードは冷静だった。
(違うな……。残像が見える? そんなことはありえない……)
物理的に考えれば残像というのは一瞬で消えるものだ。それがずっと留まり続けるなど、どんなに高速移動をしても起こりえない。
即ちこれは魔法によって、幻覚を見せているだけだ。
(そっちがそうくるなら、こっちだって!)
そう判断し、アホードは呪文を唱える。
「そこよ!」
そしてアンジュの光をまとった拳は正確にアホードの顔面を捉えた……はずだった。
だが。
「手ごたえなし……?」
「そこだ!」
自身の一撃が空を切ったことに意外そうな表情を見せる間もなく、大きく身をかがめていたアホードは彼女の足を払う。
どんなに身体能力を強化しても、彼我の体重差が変わるわけではない。
その一撃にアンジュは思わず態勢を崩す。
「はあ!」
「くっ!」
だが、アンジュは強化した腕力で地面を叩き自らの体を宙に投げ出す。
そしてアホードと距離を取ったあと、荒い息を吐きながら笑みを浮かべる。
「まさか、あなたも幻覚魔法を使っていたなんてね……」
「そっちが魔法を使うなら、こっちもね……」
そしてアホードは剣を正眼に構える。
「まだまだ戦える、アンジュ?」
「勿論よ。……とことんやりましょ?」
そしてしばらくの間、二人の斬り合いは続いた。
「アンジュの一撃は決まらない! しかし、アホードの魔法も空を切る! なんだ、今日の試合は~~~~! 我々は今ここで、伝説を見ているのか~~~~!」
司会たちはそう叫ぶのがアホードの耳に響く。
「アンジュ様~~~! お姉さまって呼ばせて~~~~!」
「きゃあ~~~~! アホード様~~~~!」
「素敵! 素敵! 今度デートして~~~~!」
「ふざけるな! あの素敵な男、美しい男であるアホードは! 私の! この私の! 婚約者だぞ!」
観客席の女性陣が黄色い声や、それを制止する婚約者、ノワールの声が聞こえる。
「いけ、アンジュ! アホードの伸びきった鼻っ柱を叩き折ってやれ!」
親友のセドナが、そう叫ぶのが心にこだまする。
(最高だ……本当に、今僕は……!)
そのすべてがアホードにとっては至福の福音だった。
戦いの中での高揚に半ば酔いながら、アホードはアンジュの方を見据える。
「フフフ……どうやら、お互いに限界のようね……」
「だな……。次の一撃……耐えてみてよ……そしたら……君の……勝ちだ!」
「……ええ、来なさい。全部受け止めてあげるわよ!!」
そうアンジュは叫び、構えを見せた。
もう強化魔法はとっくに切れている。……だが、彼女の闘志は微塵も失せていない。
まさに横綱の胸を借りる新入りのような気分で、アホードは眼を閉じると剣を上段に構え、残りの魔力を全て込める。
「はああああああ……!」
サーベルの一撃に全てをこめる。
アンジュも魔力を全て両腕にこめているようだ。
……彼女の魔力を上回り、一撃を打ちぬけばこちらの勝ちだ。
そう思ってアホードは眼を開ける。
「いくぞ!」
「ええ!」
そしてアホードは剣を構える。……くしくもそれは、示現流の構えに酷似していた。
そして、その一撃に全てをかけた一撃を放つべく、剣を振り上げる。
「だああああああ!」
「はああああああ!」
そして、その一撃をアンジュは手を振り上げて最後の魔力を全力で放出して押しとどめる。
……もはや、二の太刀などない。
魔力が切れるまで腕力が持ち、剣を振り下ろせればアホードの勝利、逆にアホードが力尽きればアンジュの勝ちだ。
二人の戦士の熱い叫びと闘志、魔力のほとばしりが会場中に響き渡る。
……そして数秒後。
アンジュがぐらりと体を傾けるのを見て、アホードはニヤリと笑った。
「アンジュ……」
そして……、
「君の……勝ちだ……」
そういうとともに、魔力も筋力も全て使い果たしたアホードは倒れた。
「……いい……戦いだったわね……」
アンジュもそういうと膝をつきながらも手を空高く掲げる。
「凄い! なんという戦いだ~~~~! 勝利を制したのは『最凶の魔姫』アンジュだ~~~~!」
その叫びとともに、周囲の歓声は最高潮に達する。
「うーん……。ま、参ったよ、アンジュ……」
そう地面に倒れこんで笑顔で眠りながら、そう寝言をつぶやくアホード。
「あ、あの……アホード……さん……?」
その様子を見て、アンジュは不思議そうに尋ねた。
「どうしたことだ、アホード選手! 試合開始とともにいきなり倒れたきり、動かない~~~~!」
司会はそう叫んだ。
「あれ、ひょっとしてアホードの奴……」
「あのバカ、寝ているな! ……まさか……あの薬、間違えて飲んだのか?」
そう思わず叫ぶノワールと、訝しげに尋ねるセドナ。
「薬? まさか、お前何かズルしようとしたのか?」
「あ、いや……なんでもない……」
……賢明な読者諸君はとっくに気づいていただろう。
アホードはドワーフの酒場で間違えて、薬入りのグラスを自分で飲んでしまっていたのだ。
また、ノワールが薬師未夏から譲り受けた薬は『素敵な夢を見せる薬』と称されているが、これは単なる比喩表現ではなく、文字通りの意味であることを知らなかった。
それを間違えて飲んでしまっていたアホードは試合の直前に眠りこけてしまい、自分に取って都合のいい夢を見ていたのだ。
「アンジュ! 幻術を使うとは卑怯だぞ!」
ノワールはそう大声で叫ぶ。
まさか自分が『アンジュに薬を盛ろうとした』ことを誤魔化すためだろう。
そのノワールの必死の形相を見て、空気を呼んだのか司会はこくりとうなづく。
「なんと~~~! アホードが倒れたのは、アンジュの幻術によるものだったのか~~~~! だが、勝負は勝負! この試合はアンジュの勝ちだ~~~~!」
その彼女の発言とともに、楽団が試合終了の曲を流す。
観客の反応は、
「ふざけんな!」
「金返せ! つまんねえ試合見せやがって!」
そんな罵声が半分。
「だが……。恐ろしい女だ……アンジュ……。あのアホードに何もさせずに勝つなんて……」
「アホード様は魔法への耐性も高いはずなのに……。いつの間に、魔法をかけた?」
「いや、あの女は凄まじい魔力を感じる……フフフ、どうやら私以外の観客は、感じ取ることも出来ないみたいだけどね……」
「わ、私は最初から気づいていたぞ? ……アンジュは、恐ろしい力を隠していたとな……」
アホードの実力を知る者や『私は実は彼女が強いことを分かってた』とばかりに、知ったかぶりをするおバカさんたちによる、畏怖の声が半分だった。
そして当のアンジュは、
「アホードさん……。まさか、私のために勝ちを譲ってくれるなんて……ありがとうございます……」
「アホードは、自分を傷つけないようにわざと負けたふりをして、代わりに恥をかいてくれた」
と、のんきに思い込みながら、ぺこりと頭を下げた。
「ええ、かわせるかしら?」
アンジュはセットした魔法を解き、一斉に四方八方に打ち返す。
「させるか!」
だが、自分に向けて放たれたそれを魔力をアホードは、こめた剣によって叩き切る。
「こんな攻撃、当たると思うな!」
「へえ、やるじゃない、ならこれならどう?」
アンジュはそうつぶやくと、残っていた光弾をアホードの周囲を包むように配置した。
包囲してからの一斉射撃を狙っていることは明らかだ。
「受けてみなさい!」
アンジュが手を振るとともにその光弾は猛烈な勢いでアホードに襲い掛かる。
……だが。
「そっちこそ、見切れるかな!」
アホードはそう呟いた瞬間、土煙だけを残してその場から姿を消す。
「ああっと! これはどうしたことだ! アホード選手が消えた~~~~!」
「……やるじゃない……けど、読めてるわよ!」
この手の『視界から消える技』を使った場合、大抵の場合は相手が居る場所など、大体決まっている。
「上ね……しまった!」
だが、アホードは試合場にある照明を背にするように飛び上がっていた。
それに一瞬幻惑するアンジュ。
それでも魔法障壁を上面に展開していた彼女に対してとびかかりながらの斬りつけは無意味と判断したのだろう、
「もらった!」
アホードは地面に着地するなり、大きく踏み込みフェンシングの要領で飛び込み突きを放つ。
しかしその一撃は空を切る。……否。
「やるじゃない、アホード……。今のは惜しかったわね……」
攻撃を大きく後方回転しながら飛び上がって突きをかわしたアンジュは、彼のサーベルの上に飛び乗っていた。
いわゆるフィクションなどでは『定番』ともいえるシーンだが、物理的にこれを行うのはまず不可能だ。
だが、それを難なく行うアンジュに、
「化け物だな、君は……」
そう思わず呟いた。
「おほめいただきどうも!」
「ぐは!」
そのまま顔面に蹴りを喰らい、アホードは一瞬よろめく。
そしてアンジュはその隙に着地すると手元を蹴り飛ばして剣を弾く。
「ぐ……」
「おおっと! アンジュ選手の凄まじい格闘技!
「やったぞ、アンジュ! 俺の教えが生きたな!」
「フン、ありがとね、セドナ!」
一瞬アンジュは観客席にいたセドナに投げキッスを飛ばした後、追撃とばかりに飛び蹴りを打ち込もうとする。
「せい!」
だが、飛び蹴りは足が伸びきるまでの一瞬が命取りになる技だ。
一撃が来る前に一歩前に踏み込み、アホードはヘッドバッドをアンジュの顔面に打ち込む。
「きゃあ!」
「であ!」
そしてアホードは両手で掌底をアンジュの腹に打ち込む。
……が、それはアンジュの魔力の障壁に阻まれる。
彼女は大きく吹き飛ばされたが、態勢は崩せなかった。
「やるじゃない、アホード! ここまで手ごわい相手はあなたが初めてよ!」
「ああ……俺もだ! 最高だよ、アンジュ!」
そういいながら、アホードは地面に落ちた剣を拾い上げる。
(楽しい……! なんだよ、この子は……! 僕が『頭突き』まで使うなんて初めてだよ……!)
「けど、まだ私の全力じゃないわよ……! さあ、かかってきなさい!」
アンジュはそう叫ぶと両手両足に魔力をほとばしらせる。
「へえ、強化魔法か……。まさかその技が使えるなんてな」
これは異大陸で『天才』とされた格闘少女、チャロが得意としていた魔法だ。
使うと使用者の筋力を一時的に引き上げられる。
伝聞でしか知らなかったが、これによってアホードが持つ『身体能力』というアドバンテージが失われたことはアホードにも理解できた。
「今度は私から行くわよ! うけてみなさい!」
そういうとアンジュは高速でフットワークを放つ。
残像が各地に散らばり、それをアホードを包囲する。
「凄い、凄いぞ今日の試合は! アンジュが何人にも見える技だ! なんという神速! なんという足さばき! これが頂点の戦いか~~~~!」
司会が興奮して叫ぶのに呼応するように楽団たちも曲調を盛り上げる。
……だが、アホードは冷静だった。
(違うな……。残像が見える? そんなことはありえない……)
物理的に考えれば残像というのは一瞬で消えるものだ。それがずっと留まり続けるなど、どんなに高速移動をしても起こりえない。
即ちこれは魔法によって、幻覚を見せているだけだ。
(そっちがそうくるなら、こっちだって!)
そう判断し、アホードは呪文を唱える。
「そこよ!」
そしてアンジュの光をまとった拳は正確にアホードの顔面を捉えた……はずだった。
だが。
「手ごたえなし……?」
「そこだ!」
自身の一撃が空を切ったことに意外そうな表情を見せる間もなく、大きく身をかがめていたアホードは彼女の足を払う。
どんなに身体能力を強化しても、彼我の体重差が変わるわけではない。
その一撃にアンジュは思わず態勢を崩す。
「はあ!」
「くっ!」
だが、アンジュは強化した腕力で地面を叩き自らの体を宙に投げ出す。
そしてアホードと距離を取ったあと、荒い息を吐きながら笑みを浮かべる。
「まさか、あなたも幻覚魔法を使っていたなんてね……」
「そっちが魔法を使うなら、こっちもね……」
そしてアホードは剣を正眼に構える。
「まだまだ戦える、アンジュ?」
「勿論よ。……とことんやりましょ?」
そしてしばらくの間、二人の斬り合いは続いた。
「アンジュの一撃は決まらない! しかし、アホードの魔法も空を切る! なんだ、今日の試合は~~~~! 我々は今ここで、伝説を見ているのか~~~~!」
司会たちはそう叫ぶのがアホードの耳に響く。
「アンジュ様~~~! お姉さまって呼ばせて~~~~!」
「きゃあ~~~~! アホード様~~~~!」
「素敵! 素敵! 今度デートして~~~~!」
「ふざけるな! あの素敵な男、美しい男であるアホードは! 私の! この私の! 婚約者だぞ!」
観客席の女性陣が黄色い声や、それを制止する婚約者、ノワールの声が聞こえる。
「いけ、アンジュ! アホードの伸びきった鼻っ柱を叩き折ってやれ!」
親友のセドナが、そう叫ぶのが心にこだまする。
(最高だ……本当に、今僕は……!)
そのすべてがアホードにとっては至福の福音だった。
戦いの中での高揚に半ば酔いながら、アホードはアンジュの方を見据える。
「フフフ……どうやら、お互いに限界のようね……」
「だな……。次の一撃……耐えてみてよ……そしたら……君の……勝ちだ!」
「……ええ、来なさい。全部受け止めてあげるわよ!!」
そうアンジュは叫び、構えを見せた。
もう強化魔法はとっくに切れている。……だが、彼女の闘志は微塵も失せていない。
まさに横綱の胸を借りる新入りのような気分で、アホードは眼を閉じると剣を上段に構え、残りの魔力を全て込める。
「はああああああ……!」
サーベルの一撃に全てをこめる。
アンジュも魔力を全て両腕にこめているようだ。
……彼女の魔力を上回り、一撃を打ちぬけばこちらの勝ちだ。
そう思ってアホードは眼を開ける。
「いくぞ!」
「ええ!」
そしてアホードは剣を構える。……くしくもそれは、示現流の構えに酷似していた。
そして、その一撃に全てをかけた一撃を放つべく、剣を振り上げる。
「だああああああ!」
「はああああああ!」
そして、その一撃をアンジュは手を振り上げて最後の魔力を全力で放出して押しとどめる。
……もはや、二の太刀などない。
魔力が切れるまで腕力が持ち、剣を振り下ろせればアホードの勝利、逆にアホードが力尽きればアンジュの勝ちだ。
二人の戦士の熱い叫びと闘志、魔力のほとばしりが会場中に響き渡る。
……そして数秒後。
アンジュがぐらりと体を傾けるのを見て、アホードはニヤリと笑った。
「アンジュ……」
そして……、
「君の……勝ちだ……」
そういうとともに、魔力も筋力も全て使い果たしたアホードは倒れた。
「……いい……戦いだったわね……」
アンジュもそういうと膝をつきながらも手を空高く掲げる。
「凄い! なんという戦いだ~~~~! 勝利を制したのは『最凶の魔姫』アンジュだ~~~~!」
その叫びとともに、周囲の歓声は最高潮に達する。
「うーん……。ま、参ったよ、アンジュ……」
そう地面に倒れこんで笑顔で眠りながら、そう寝言をつぶやくアホード。
「あ、あの……アホード……さん……?」
その様子を見て、アンジュは不思議そうに尋ねた。
「どうしたことだ、アホード選手! 試合開始とともにいきなり倒れたきり、動かない~~~~!」
司会はそう叫んだ。
「あれ、ひょっとしてアホードの奴……」
「あのバカ、寝ているな! ……まさか……あの薬、間違えて飲んだのか?」
そう思わず叫ぶノワールと、訝しげに尋ねるセドナ。
「薬? まさか、お前何かズルしようとしたのか?」
「あ、いや……なんでもない……」
……賢明な読者諸君はとっくに気づいていただろう。
アホードはドワーフの酒場で間違えて、薬入りのグラスを自分で飲んでしまっていたのだ。
また、ノワールが薬師未夏から譲り受けた薬は『素敵な夢を見せる薬』と称されているが、これは単なる比喩表現ではなく、文字通りの意味であることを知らなかった。
それを間違えて飲んでしまっていたアホードは試合の直前に眠りこけてしまい、自分に取って都合のいい夢を見ていたのだ。
「アンジュ! 幻術を使うとは卑怯だぞ!」
ノワールはそう大声で叫ぶ。
まさか自分が『アンジュに薬を盛ろうとした』ことを誤魔化すためだろう。
そのノワールの必死の形相を見て、空気を呼んだのか司会はこくりとうなづく。
「なんと~~~! アホードが倒れたのは、アンジュの幻術によるものだったのか~~~~! だが、勝負は勝負! この試合はアンジュの勝ちだ~~~~!」
その彼女の発言とともに、楽団が試合終了の曲を流す。
観客の反応は、
「ふざけんな!」
「金返せ! つまんねえ試合見せやがって!」
そんな罵声が半分。
「だが……。恐ろしい女だ……アンジュ……。あのアホードに何もさせずに勝つなんて……」
「アホード様は魔法への耐性も高いはずなのに……。いつの間に、魔法をかけた?」
「いや、あの女は凄まじい魔力を感じる……フフフ、どうやら私以外の観客は、感じ取ることも出来ないみたいだけどね……」
「わ、私は最初から気づいていたぞ? ……アンジュは、恐ろしい力を隠していたとな……」
アホードの実力を知る者や『私は実は彼女が強いことを分かってた』とばかりに、知ったかぶりをするおバカさんたちによる、畏怖の声が半分だった。
そして当のアンジュは、
「アホードさん……。まさか、私のために勝ちを譲ってくれるなんて……ありがとうございます……」
「アホードは、自分を傷つけないようにわざと負けたふりをして、代わりに恥をかいてくれた」
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