ざまぁ担当の男たちが『アホの子』すぎて自滅ばかりするから、何もしてないのに『最凶の悪役令嬢』にされてるんですけど?

フーラー

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第3章 腕はいいけど思い込みが激しい鍛冶職人、マヌケット

3-4 鉱山デートって、案外穴場かもしれませんね

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そして鉱山への入場当日。


「あれ、どうやら来たみたいだね」
「ええ」

そういうと、アンジュたちはドアを開ける。
そこには、王子と見まがうような美貌を携えた、一人の男がセドナと一緒に立っていた。

「はじめまして、マヌケットと申します」
「あ、ああ……。初めまして、私はカイカフルで、こっちは……」
「その……アンジュと、申します……」


アンジュも、少し顔を赤らめながら俯く。
彼女の場合はイケメンに対して、赤面する傾向があるのだろう。

だが、それはマヌケットの方も同じだ。
そもそも彼はその容貌とは裏腹にあまり会話が得意な方じゃない。


「アンジュさん、ですね……。とても素敵な方で、お会いできて嬉しいです……」
「あ、ありがとうございます……。そ、それじゃその、鉱山の方に案内しますね……」
「ああ、宜しくな、アンジュ! 馬車はこっちで用意しているから、来てくれよ!」
「あ、はい」


そういってセドナはニコニコと笑って案内しようとしたところ、カイカフルは「お待ち!」と、セドナだけを呼び止めた。


「な、なに? カイカフルさん……」
「なんだい、あのマヌケットって! あんな良い男だったのかい?」
「あ、ああ……。俺にはあまり人間の美醜は分からないけど……みんなそう言ってるな」

セドナと付き合いが長いカイカフルは、彼の正体を知っている。
そのこともあり、その言葉には特に驚かない。


「まったくもう、こんなんだったら、もっとおしゃれしておくんだったよ!」

そう残念そうに呟くカイカフルは、セドナに耳打ちする。


「それに、アンジュの顔見たかい? あんなに照れた顔するなんて、初めてなんだよ!」
「そういや、そうだな……」
「きっとあの子も、マヌケットの坊やを気に入ったみたいだね……。一応言っとくけどあんた、邪魔だけはすんじゃないよ?」
「邪魔?」
「ああ。もしマヌケットが妙な下心を持ってあの子に接していたんなら、あんたがやっつける。そうじゃないなら、あんたは邪魔せず景色になる。良いね?」

恐らく、この発言にはカイカフル自身がマヌケットを義理の息子にしたいという気持ちがあるのだろう。

そして彼女が凄むと怖いのは、オロロッカから嫌というほど知っていたセドナは、苦笑いするような表情で答える。


「わ、分かったよ……」


そういうと、セドナはようやく解放されて馬車に向かった。



カイカフルの領地は、ここ数カ月でかなり肥大したとはいえ、もとは小さな領地しかなかった。
そのこともあり、宝石鉱山は一時間もすれば到着する場所にある。


「それで、ここが……私たちの銅鉱山なんです」
「へえ……綺麗ですね……」


薄暗い鉱山の中で、男たちがつるはしを振るい、トロッコを動かしているのを見ながら思わずマヌケットも呟く。

彼の足元がふらふらしているのを見て、アンジュはクスクスと笑う。

「ひょっとして、こういうところに来るのは初めてですか?」
「え、ええ……恥ずかしながら、普段は工房に入り浸っているので……」
「……いえ、体力より靴が原因ですね。ちょっと貸してください」

そういうとアンジュは、彼から靴を拝借して裏に滑り止めを取り付ける。


「はい、これで少しは歩きやすくなるはずです」
「すまないな、ありがとう……」

そんな様子を少し離れたところでセドナは見守っていた。

「やれやれ、俺の出番はなさそうだな……」

薄暗く、周囲に人がいないこともあるのだろう、アンジュは思ったよりも積極的にマヌケットに話しかけている。
……まあ、これは信頼できるセドナが控えており、万が一を心配する必要がないからなのだが。


「それで、どんな鉱石がご希望なんですか?」
「ええ。実は『セイレーン・アイ』を探しているんですよ。この鉱山では稀に取れるって聞いていますから」
「セイレーン・アイですか?」

聞きなじみのない表現を聞いて、アンジュは少し首を傾げるのを見て、セドナが後ろから声を出す。


「月長石……ムーンストーンのことだよ。この世界ではそういうらしいんだ」

それを聞いて、アンジュはポンと手を叩く。

「ああ、それだったら分かります。……それなら、もう少し先に言ったところで取れるので案内しますね?」
「ありがとうございます……。ところでセドナ、なんであなたはそんな後ろにいるんですか?」
「え? ……まあ、何となく気分かな」


そうセドナは少しうろたえるような表情で答えた。




そして鉱山の中を雑談交じりにしばらく歩きながら、マヌケットはアンジュに呟く。

「そうだ、アンジュさん。良かったら今度、あなたにも指輪を作りましょうか?」
「ゆ、指輪?」
「ええ。とても似合う指輪を作りますよ。『スカーレット・テイル』を使った素敵なものをね」


この世界では、指輪を渡すことはさほど大きな意味がない。
アホードがアンジュに迷わず渡したのも、それが理由である。

……だが、現代日本出身のアンジュには意味が違って聞こえる。


「い、いいんですか!? その……指輪を貰っても……!」
「ええ。鉱山に立ち入り許可をいただいたお礼と思ってください。……きっと似合うと思いますし、それに……」
「それに?」

そういいながら、マヌケットは少し恥ずかしそうに顔をそむける。


「私は、あまり口下手ではないので……あなたに思いを伝えるなら、それくらいしかないですからね」

この『思い』とは感謝の気持ち程度の意味合いなのだが、やはりアンジュには正しく伝わっていない。
彼女は顔を真っ赤にして、思わず動揺した様子を見せる。

「そ、そんなことないです! 私は、マヌケットさんと一緒にいるの、楽しいですから……きゃあ!」


鉱山に視察することが多いアンジュも、暗がりということもあり、動揺して足を滑らせる。

「おっと!」

そしてそれをマヌケットが華麗に受け止める……

「……って、うわ!」


なんてことが、鉱山生活に慣れていないマヌケットに出来るわけがない。
二人で仲良く、鉱山の近くに出来ていた水たまりにバシャンと落ちてしまった。


「お、おい大丈夫か、二人とも!」

その様子を見て、心配して駆けつけたセドナ。
だが、二人はずぶぬれになった互いを見て、思わず楽しそうに笑う。


「フフフ……マヌケットさん、泥だらけですよ?」
「アンジュさんこそ。酷い有様ですよ」
「……ケガはないな、二人とも……なら、いいか」


その様子を見たセドナは、空気を読んで二人の世界を壊さないようにすることにした。


「アンジュさん、すみませんでした……よかったら、これを着てください」

そういうと、マヌケットは自身のマントを差し出す。
幸い、マント自体は荷物袋に入れていたこともあり、汚れは殆どついていなかった。


「あ、ありがとうございます……」

そういって、アンジュは彼から借りたマントを身にまとう。



「あの二人、いい感じだな。マヌケットも、おかしな動きは見せてないし、これは考えすぎだったのかな?」

その様子をセドナはほほえましそうに見ていた。


「けど、スカーレット・テイルを指輪に使うのか……はは、いいじゃないか」


スカーレット・テイルは現代日本では赤砂岩……通称『セドナ・ストーン』のことである。
自身の由来になっている鉱物の名を聞いて、セドナは少し苦笑した。



一方マヌケットは、


(よし、いい感じで場を繋げていますね……。アンジュさんも、私のたくらみには気づいていないみたいですし……)

そんな風に思いながら、歩を進めていた。
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