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第3章 腕はいいけど思い込みが激しい鍛冶職人、マヌケット
3-5 今度は正しく飲ませることに成功した……水だけど
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それから数時間ほど経過して、三人は鉱山から出てきた。
「ありがとうございます、アンジュさん」
大量のムーンストーンを手に、嬉しそうな表情でマヌケットは笑みを浮かべる。
「思ったよりずっと品質がいいんですね、ここの宝石は」
「ええ、元々は鉱夫が趣味で掘ってたものだったんですですけど、一部を買い取るようにしたらみんな集めてくれるようになってくれたんです」
銅鉱石は集めた分が個人の収益になるが、宝石は設備投資になる。
この方式を考えたのはカイカフルだが、それが機材の老朽化に悩む鉱夫たちには都合がよかったようだった。
「うう……それにしても、今日は冷えますね」
そして、外に出た途端に寒風が体を突き抜けるのを感じたマヌケットはそう震えるような声で呟く。
「そうですね……。マヌケットさん、このマント、返しますよ!」
そう言って脱ごうとしたアンジュをマヌケットは制止する。
「いえ、それはアンジュさんに差し上げます。風邪などひかれては困りますから」
「いいんですか?」
「ええ。それより温まれる場所に行きましょう。近くに行きつけの酒場があるんですよ」
「酒場?」
勿論、普段から工房に引きこもっているマヌケットには行きつけの店などない。その店はアンジュがマヌケットに指定したものだ。
「もちろん奢りますよ。すてきな宝石のお礼です」
「そんな、悪いですよ! 宝石だって、あんな高い値段で買ってもらえたのに...」
実際、マヌケットは相場の数倍の値段で買い取ってくれた。そもそも奢られ慣れていないアンジュはそう言いながら手をブンブンと振る。
すると横からセドナが口を挟んできた。
「じゃあさ。今回はマヌケットが。次回はアンジュがデートで奢るってのはどうだ?」「で、デートですか?」
そう言われて、アンジュは恥ずかしそうな表情を見せる。
「あれ、そもそも今日はデートじゃなかったのか?」
「ち、違いますよ! 今日は、その……」
マヌケットは「アンジュに薬を盛るために来ただけだ」と言えないことから言い淀んだ。
だがアンジュは、
「マヌケットも、デートだと思って来ていたが、恥ずかしくて言えなかった」
と解釈した。
そのためアンジュは照れながらも、
「そ、そうですね。今度はすてきなレストランがあるので、そこに行きましょう?」
「いいんですか? ありがとうございます。...ほら、着きましたよ?」
「ああ、俺は外で待ってるよ」
そう聞いて、アンジュは意外そうな表情を見せた。
「え、セドナさんも一緒に食べませんか?」
「ああ、その件は私から説明しますよ」
そう言うと、マヌケットは店に入っていった。
「え、セドナさんってロボットなんですか?」
マヌケットから話を聞いたアンジュは驚いた様子で、グラスを置いた。
「ええ。彼はアンジュさんと違う世界からの転移者なんですよ。思い当たる節はありませんか?」
「そういえば……」
セドナが人前で物を食べることはないし、体力も常人のそれとは比べ物にならない。
それに、不自然なほど世話好き……というよりケア好きで、他者を贔屓しない博愛主義ぶりには、違和感を覚えていた。
だが、それらもすべて人外だとするなら察しが付く。
「そうだったんですん。知りませんでした……」
「私もノワールさんから聴いたんですけどね。……けど、彼は良い人ですよね」
「分かります! この間料理に失敗した時にも助けてくれて...」
もとよりコミュニケーションが苦手な2人にとって、セドナは数少ない共通の話題だ。
また、2人とも「誰かの悪口で盛り上がるタイプ」でもない。
そのため、『悪口を言われるような人格ではない、共通の知人』に関する話題は、互いの距離を縮めるのにピッタリだった。
……しばらくして、酒場の店主がマヌケットに目配せする。
(ええ、お願いします)
そしてマスターは笑いながらグラスを差し出す。
「まったく2人はお似合いだねえ」
「お似合いだなんて、そんな...」
「ほら、これは奢りだ。飲みなよ」
前回の失敗を踏まえ、ほれ薬を入れたグラスはマスターが直接渡すことにした。
「ありがとうございま……」
「待ってください!」
だが、それを見たマヌケットは思わずそれを制した。
「ど、どうしたんですか?」
「あ、いえ...」
もとよりマヌケットは悪辣な性格ではない。実際にアンジュと話して好感を覚えたこともあるのだろう、彼女を騙して薬を飲ませることに呵責を覚えたのだ。
だが、
(おい、私の立場も考えろ! しくじったらノワールにひどい目に遭わされるんだ!)
そう、マスターが不安そうな表情で睨みつけるのを見て、
「あ、いえ...なんでもないです」
マヌケットは、半ば諦めるような表情を見せた。
「そうですか? じゃあ、いただきます。……うん、とても美味しいです」
そう言ってアンジュは惚れ薬……実際はただの水だが……が混じったそれを一気に飲み干した。
それを見て、マヌケット以上にマスターがホッとしたような顔を見せて、
「ふう...あと、悪いけど今日はこれで店じまいさ。気をつけて帰るこった」
アンジュも、もう飲めないのだろう。グラスを置くと、立ち上がった。
「はい、ごちそうさまでした。マヌケットさん、ありがとうございました」
「こちらこそ。それじゃあ夜道は気をつけてください」
流石にこの時間になると、マヌケットはアンジュを送るわけにはいかない。
その為、彼女を送る仕事は、疲れ知らずのセドナの任せることにした。
「ええ、それではまた!」
アンジュがそう言って去っていくのを見て、マヌケットは呟いた。
「これで、うまく行ったんですかね……それにしても、今日は冷えますね……」
勿論上手くいってる訳はないのだが、事情を知らないマヌケットは、去っていくセドナとアンジュを見つめ、そう呟いた。
「ありがとうございます、アンジュさん」
大量のムーンストーンを手に、嬉しそうな表情でマヌケットは笑みを浮かべる。
「思ったよりずっと品質がいいんですね、ここの宝石は」
「ええ、元々は鉱夫が趣味で掘ってたものだったんですですけど、一部を買い取るようにしたらみんな集めてくれるようになってくれたんです」
銅鉱石は集めた分が個人の収益になるが、宝石は設備投資になる。
この方式を考えたのはカイカフルだが、それが機材の老朽化に悩む鉱夫たちには都合がよかったようだった。
「うう……それにしても、今日は冷えますね」
そして、外に出た途端に寒風が体を突き抜けるのを感じたマヌケットはそう震えるような声で呟く。
「そうですね……。マヌケットさん、このマント、返しますよ!」
そう言って脱ごうとしたアンジュをマヌケットは制止する。
「いえ、それはアンジュさんに差し上げます。風邪などひかれては困りますから」
「いいんですか?」
「ええ。それより温まれる場所に行きましょう。近くに行きつけの酒場があるんですよ」
「酒場?」
勿論、普段から工房に引きこもっているマヌケットには行きつけの店などない。その店はアンジュがマヌケットに指定したものだ。
「もちろん奢りますよ。すてきな宝石のお礼です」
「そんな、悪いですよ! 宝石だって、あんな高い値段で買ってもらえたのに...」
実際、マヌケットは相場の数倍の値段で買い取ってくれた。そもそも奢られ慣れていないアンジュはそう言いながら手をブンブンと振る。
すると横からセドナが口を挟んできた。
「じゃあさ。今回はマヌケットが。次回はアンジュがデートで奢るってのはどうだ?」「で、デートですか?」
そう言われて、アンジュは恥ずかしそうな表情を見せる。
「あれ、そもそも今日はデートじゃなかったのか?」
「ち、違いますよ! 今日は、その……」
マヌケットは「アンジュに薬を盛るために来ただけだ」と言えないことから言い淀んだ。
だがアンジュは、
「マヌケットも、デートだと思って来ていたが、恥ずかしくて言えなかった」
と解釈した。
そのためアンジュは照れながらも、
「そ、そうですね。今度はすてきなレストランがあるので、そこに行きましょう?」
「いいんですか? ありがとうございます。...ほら、着きましたよ?」
「ああ、俺は外で待ってるよ」
そう聞いて、アンジュは意外そうな表情を見せた。
「え、セドナさんも一緒に食べませんか?」
「ああ、その件は私から説明しますよ」
そう言うと、マヌケットは店に入っていった。
「え、セドナさんってロボットなんですか?」
マヌケットから話を聞いたアンジュは驚いた様子で、グラスを置いた。
「ええ。彼はアンジュさんと違う世界からの転移者なんですよ。思い当たる節はありませんか?」
「そういえば……」
セドナが人前で物を食べることはないし、体力も常人のそれとは比べ物にならない。
それに、不自然なほど世話好き……というよりケア好きで、他者を贔屓しない博愛主義ぶりには、違和感を覚えていた。
だが、それらもすべて人外だとするなら察しが付く。
「そうだったんですん。知りませんでした……」
「私もノワールさんから聴いたんですけどね。……けど、彼は良い人ですよね」
「分かります! この間料理に失敗した時にも助けてくれて...」
もとよりコミュニケーションが苦手な2人にとって、セドナは数少ない共通の話題だ。
また、2人とも「誰かの悪口で盛り上がるタイプ」でもない。
そのため、『悪口を言われるような人格ではない、共通の知人』に関する話題は、互いの距離を縮めるのにピッタリだった。
……しばらくして、酒場の店主がマヌケットに目配せする。
(ええ、お願いします)
そしてマスターは笑いながらグラスを差し出す。
「まったく2人はお似合いだねえ」
「お似合いだなんて、そんな...」
「ほら、これは奢りだ。飲みなよ」
前回の失敗を踏まえ、ほれ薬を入れたグラスはマスターが直接渡すことにした。
「ありがとうございま……」
「待ってください!」
だが、それを見たマヌケットは思わずそれを制した。
「ど、どうしたんですか?」
「あ、いえ...」
もとよりマヌケットは悪辣な性格ではない。実際にアンジュと話して好感を覚えたこともあるのだろう、彼女を騙して薬を飲ませることに呵責を覚えたのだ。
だが、
(おい、私の立場も考えろ! しくじったらノワールにひどい目に遭わされるんだ!)
そう、マスターが不安そうな表情で睨みつけるのを見て、
「あ、いえ...なんでもないです」
マヌケットは、半ば諦めるような表情を見せた。
「そうですか? じゃあ、いただきます。……うん、とても美味しいです」
そう言ってアンジュは惚れ薬……実際はただの水だが……が混じったそれを一気に飲み干した。
それを見て、マヌケット以上にマスターがホッとしたような顔を見せて、
「ふう...あと、悪いけど今日はこれで店じまいさ。気をつけて帰るこった」
アンジュも、もう飲めないのだろう。グラスを置くと、立ち上がった。
「はい、ごちそうさまでした。マヌケットさん、ありがとうございました」
「こちらこそ。それじゃあ夜道は気をつけてください」
流石にこの時間になると、マヌケットはアンジュを送るわけにはいかない。
その為、彼女を送る仕事は、疲れ知らずのセドナの任せることにした。
「ええ、それではまた!」
アンジュがそう言って去っていくのを見て、マヌケットは呟いた。
「これで、うまく行ったんですかね……それにしても、今日は冷えますね……」
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