ざまぁ担当の男たちが『アホの子』すぎて自滅ばかりするから、何もしてないのに『最凶の悪役令嬢』にされてるんですけど?

フーラー

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第3章 腕はいいけど思い込みが激しい鍛冶職人、マヌケット

3-6 勘違いから始まる恋なんてありきたりだけど

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翌日、ノワールは、先日マヌケットが案内した酒場の店主に金貨の入った袋を渡しながらほくそ笑んでいた。


「フフフ……首尾は上々のようね」
「はい……。私の手で確実にアンジュには薬を飲ませました……」


その店主がニヤリと笑いながら答えた。

……なお、この世界の男性がバカばかりだということはノワールも理解していたので、今回は女性に依頼をしている。

また、証拠として薬を入れたことを自身の信頼できる部下にも確認を行っていた。


「それで、効果はどうだったの?」
「少なくとも、店を出るまでには特に見た目に変化は出ていませんでした。ただ、さすがにそろそろ効果が出ているかと思います」
「そう……。とにかく、よくやったわね。これはお礼よ。今日のことは……」
「ええ、忘れますのでご安心を」

そういうと、店主はニヤニヤと笑いながら城を後にした。



「さて……。これで、あの忌々しいアンジュも骨抜きになるはずよね……そういえば、マヌケットはどうしているんだろうな……」

そう思って、ノワールはマヌケットのいる工房に向かった。




「あら、面会謝絶?」

ノワールは、マヌケットの住む村の村長に、そういわれて呼び止められた。

「ええ、どうも先日から酷い熱があるようで……」
「風邪でもひいたってこと?」
「だとは思いますが……それにしても酷かったみたいですね……峠を越したようですが、ひょっとしたら、風邪ではなかったのかも、と話をしています」
「そうなのね……。ちょっと、見に行ってもいい?」


ノワールがそういうが、村長は顔色を変えてそれを止めてきた。


「ダメです! 万が一、流行り病になるものだったらどうするのです!」
「う……」
「今は、セドナ殿が看病をされているので、回復するまではお待ちください。彼は病にはならないそうなので……」


セドナの正体が人間ではないことは、別に機密情報でも何でもない。
そのため、セドナはマヌケットの看病をするために、自身が機械人形であり、病気の感染の心配がないことを村長には伝えている。

だが、ノワールはセドナの正体には特に関心がないこともあり、その話は軽く流した。

「そう……。まあ、私も病気になりたくないし、一度帰ることにするわね?」
「そうしてください……」


そして、彼女は残念そうにその場を去っていった。




一方。


「おい、大丈夫か? まだ少し熱があるみたいだな」
「ええ、す、すみません……けど、だいぶ良くなりましたよ……」

セドナがそういいながらタオルを取り換える。


「けど、外交官のセドナに、こんなことまでさせるなんて……しかも、休暇を貰っているんですよね?」
「ああ。まあ、気にするなよ。俺はこうやって、人の世話をするのが好きなんだよ。元が介護用ロボットだからな」


そういいながら、生き生きと水を取り換えるセドナ。
彼はマヌケットの看病のために、休暇を貰って村まで来ている。


「にしても、こんな時期に風邪を引くなんて、珍しいな」
「ええ……私も、普段は風邪などひかないのですが……」


言うまでもないが、マヌケットが風邪を引いた理由は体を冷やしたためだ。
アンジュと一緒に水たまりに落ちた挙句、その体を拭くこともなくマントをアンジュに貸し与えたのだから、当然なのだが。


彼も、通常であればこのまま快癒したことは間違いない。
そして、いつも通り工房に籠って鍛冶職人の仕事を再会させていただろう。


……セドナの、この余計な一言がなければ。


「ひょっとしたらさ。マヌケットの病気って風邪じゃないのかもな」
「え?」


「……たとえば、恋の病とか? なんてな、ハハ」


無論、彼は冗談でその発言を行ったのは言うまでもない。
……だが、マヌケットは思い込みが激しいタイプだ。

そのため、この発言を真に受けてしまった。


(恋の病……。まさかアンジュさんは……惚れ薬が入ったグラスをすり替えた……? いや、それはなかったはず。じゃあ、今熱が出ているのは、ひょっとして私の方が……アンジュのことを好きになったから?)


彼は元々病気には強いタイプである上に、基本的には暖かい工房で誰とも関わらずに過ごすため、風邪などひいたことがなかった。

それがまた、彼が自身の病を『恋の病』と勘違いする理由にもなった。


(そういえば、熱の時にも何度もアンジュさんが頭に湧いてきたし……ずっと一緒にいたような気がします……。これも、私がアンジュさんを好きだから、ということ……?)


もとより、マヌケットはアンジュに対して悪印象は抱いていなかった。
それに加えて、元々人間関係が乏しかったマヌケットは、熱に浮かされながら何度もアンジュの夢を見ていた。


……というより、人間関係が狭い彼は、そもそも夢に出てくる『知り合い』の絶対数が悲しいかな、相当少ないのだから当然なのだが。


「お、おい、どうしたんだよマヌケット?」
「す、すみません……ひょっとしたら、セドナの話は正しいかもしれません……」
「どういうことだよ? ……まさか、お前……」


更に、ロボットということもあって人の悪意に対する認識の甘いセドナは元々、
「マヌケットはアンジュに好意を持っていた」
とも認識していた。


そのこともあり、セドナはニヤニヤと笑い始めた。


「そうか、やっぱりマヌケット、アンジュのこと、惚れたんだな?」
「ええ……。今にして思うと、私はあれからアンジュさんのことばかり考えていたみたいです……。この熱も、きっとそれが原因だと思います……」
「まあ、お前のそれは風邪だと思うけど……。けど、アンジュのことを思っているってのは分かるよ。あいつ、いい奴だもんな?」


セドナはさすがにそれは違うと首を振りながらも、彼がアンジュに恋愛感情を抱いていること自体は肯定した。


「ええ……。けど、不思議な気分です……。ふわふわしたような、頭がどこかぼんやりするような……これが、恋をするってことなんですね……」
「へえ。俺はそういうのは分からないけど、そういうものなんだな……」


マヌケットにとって間が悪かったのは、ちょうど隔離されていた彼自身の誤解を解くものがここにいなかったことだ。

セドナは『恋愛感情』を概念として理解しているが、本質的には分からないため、彼の勘違いには気づくことができなかったのだ。


「私はもう……。きっと、アンジュさんに夢中なんだと思います……。だから、熱が下がったら、その……」
「なんだよ?」
「彼女にまた会いたいです……。アンジュさんが会いたがってくれると嬉しいのですが……」


だが、ここ最近はカイカフルの領地ではやることが増えているらしく、アンジュもあまり時間にゆとりがないことを思い出したセドナは少し残念そうな表情を見せる。


「いや……アンジュは……これからしばらく忙しいらしいから難しいと思うな?」
「そう、ですか……」
「だからさ、代わりにラブレター……まあ、手紙を送るのはどうだ?」
「え?」
「アンジュって、筆まめなタイプだからさ。今でも何通もオロロッカの奴とやり取りしているし、喜ぶと思うしな」


手紙は、基本的に情報のやり取りでしか使ったことのないマヌケットにとっては、あまりなじみがなかった。

だが、その提案にマヌケットは少し笑みを浮かべた。


「確かに……それはいいかもしれませんね。ただ、私はあまりそういうのは得意じゃないので……手伝ってくれますか、セドナ?」
「ああ、任せてくれ! ……バッチリ、素敵な文章を書いてみような!」
「ありがとうございます。……すみません、そろそろ私も体調が回復してきたので、セドナは……」
「分かった。……お大事にな」


そういうと、セドナは工房を後にした。


そして、一人になったあと、まだ少し頭痛が残る頭を抱えながら思う。


(さすがはアンジュさんですね……きっと、私がこうやってあなたを愛するようになることも想定通りなんでしょう……)


彼の目線ではアンジュは、
「自分の作戦を逆手にとって、自身を色仕掛けによって篭絡させ、仲間に引き入れた恐ろしい悪女」


になっている。
だが、思い込みの激しいマヌケットは、自分はもう『恋の奴隷」になってしまったと考えるようになってしまった。


(けど、それであなたが喜ぶなら、それでいいです。……あなたが私を使ってやりたいことを全部引き受けます……。だからもう少しだけでいいから、傍に居させてください……)


そう思いながら、体力を回復するべく眠りについた。
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