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第3章 腕はいいけど思い込みが激しい鍛冶職人、マヌケット
3-7 結局人間がもらってうれしいのは「手紙」ですよね
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それから1カ月ほどが経過した。
「フフフ、アンジュさんから返事が来ましたか……。セドナ、届けてくれてありがとうございます」
「だから言っただろ、マヌケット? あいつは、本当にいい奴だって!」
そういいながらセドナは手紙を手渡すと、そのまま工房を出ていった。
「なるほど……。やっぱり、アンジュさんが『悪女」というのは嘘だったみたいですね……」
あれから、マヌケットはアンジュと文通で連絡を取り合っていた。
アンジュも仕事が忙しくなっていることもあり、直接顔を合わせることは難しい。
「さて、手紙を読んで元気も出たし……続きをやるとしますかね……」
マヌケットのほうも決して仕事が楽という訳ではない。
アンジュから受け取ったムーンストーンの評判が思いのほか高く、また兼ねてより販売しているセドナストーンをあしらったバングルの売り上げも、上々の利益を出している。
……まあ、これはカイカフルの領地が「あの『最凶の悪女』アンジュの出身地だということで知名度が高かったことも理由としては大きい。
評判はどうあれ、急速に勢力を伸ばしている彼女の領地の特産品を身に着けるということは、ある種のご利益であるだけでなく『私はアンジュに関わりのある人間だ』と主張することにも繋がる。
「オロロッカさんも頑張っているみたいだし、私も頑張らないと……。それにしても、なんて楽しいんでしょう……彼女と文通を始めて、本当に毎日が輝いて感じますね……」
そう思いながら、彼はハンマーより先に、アンジュが過去に書いてくれた手紙を開き、もう一度読んでみる。
最初はややよそよそしい印象を受ける文章だったが、次第に自分のちょっとした秘密や、日常で起きた楽しかったことといったやり取りが書かれるようになっている。
やり取りをはじめてほんの一カ月しか経っていないが、すっかり何でも言い合える……少なくとも、マヌケットは『何でもいうことが出来る相手』になっているような気がしてきた。
(好きな人から貰える手紙が、こんなに嬉しいなんて、思いませんでしたね……)
手紙にはその人の筆跡や文字の癖から、その人のことを思い起こさせるものがある。
そのこともあり、彼にとってはその一枚一枚の手紙が、どんな宝石よりも価値のあるものになっていた。
……そしてなにより、
「自分と同じような思い……即ち恋愛感情を相手も持ってくれているのかもしれない」
と思える……否、『思い込める』だけでも、それはマヌケットにとっては幸せなものであった。
しばらく彼女から貰った過去の手紙を読み返した後、
「おっと、もうこんな時間か。さて、今度こそ仕事をしないと……」
そう言ってハンマーを手にしたとき、ドアがノックされる音が聞こえてきた。
「入るわよ、マヌケット」
「あ、ノワールさん……何の用ですか?」
そういうと、あまりマヌケットはあまりいい顔をしないで答える。
普段は自分を笑顔で出迎えてくれたマヌケットがそんな風な態度で答えるのを見て、ノワールは少し嫌そうな表情を見せた。
「あら何よ、その態度?」
「……さあ、理由はご存じじゃありませんか?」
「理由?」
そう尋ねると、マヌケットは不愉快そうな表情を見せて答える。
「アンジュさんから聴いたんですけど……。ノワールさん、少しアンジュさんに対する態度が酷いと聞いていますよ?」
「そ、そう?」
「ええ。何でもいつも自分の自慢をしてきたり、我がままな命令をしてきたり……それだから、正直関わるのが辛いなんて言っています……」
そういわれてノワールは少しむっとする表情を見せた。
「けど、それは説明したでしょ? アンジュが『最凶の悪女』だったから牽制しただけだって……」
だが、マヌケットはそれを遮るように叫ぶ。
「彼女は悪女じゃありません! アンジュさんとここ最近、ずっとやり取りをしていたんです! 話を訊くと、いつも文句を言ったり喧嘩を売ったりしていたのはノワールさんの方からだったじゃないそうですか!」
それを聞いたノワールは、少しドキリとしたような表情を見せる。
「ま、まあそれは……」
「特に先日の武道大会! 『ぶどう』を出してひっかけるなんて酷いですよ! アホードさんがわざと負けてくれなかったら、殺されていたかもしれないんですよ!」
「アホードが、わざと……?」
ノワールの視点では、アホードは『アンジュの策略によって睡眠薬を謝って飲まされた』ということになっている。
そのため『アホードがわざと負けてくれた』という表現をマヌケットにしたことについては、
「アンジュは、自分に都合のいいように話を捻じ曲げ、悪者にならないようにした」
というようにも捉えられた。
(くそ……。相変わらず狡猾な女だ、あいつは……もう、なりふり構っては居られんか……)
そう思いながらも、ノワールは尋ねる。
「そういえば、今度アンジュとまた、鉱山の宝石採掘について交渉する用事があるようね?」
「ええ、セドナから聴いたんですか?」
「そうよ。……だったらその時にアンジュを私のもとに連れてきてくれる?」
だが、マヌケットは当然と言わんばかりに首を振る。
「嫌です」
「え?」
「ノワールさん、もうアンジュさんにちょっかいを出すのは辞めてください。……正直、もう嫌なんですよ。彼女があなたのせいで傷つくのは……」
「何をいうんだ?」
彼女の顔が紅潮するにしたがって、口調も次第に荒くなってきた。
だがカイカフルは彼女に毅然とした態度で言い放つ。
「あなたの計画はもう失敗しているんです……。もう、私はアンジュさんを喜ばせるために人生を使うと決めましたから……」
そういわれて、
「どういうことだ?」
「私はセドナに言われて分かったんです。先日倒れたのは『恋の病』によるものだと。それだけ、私の心にアンジュさんが残っていたんだと思います」
「恋の病? ……じゃあ、マヌケット、あんたは……」
「ええ。……彼女を愛してしまったのです。なので私は、もうノワールさんに強力はしません……」
そうまっすぐな表情で答えるマヌケット。
……無論、思い込みの激しい彼のアンジュに対する恋愛感情は、セドナの余計な一言のせいで、
「自分は恋の病にかかるほど、アンジュのことを好きになった」
と勘違いしてしまったことで始まったものだ。
……だが、そこから始まった文通でのやり取りは、潜在的には人づきあいに飢えていた彼の心を潤した。
そのこともあり現在は、本当にアンジュに対する恋心を抱き始めている。
無論まだ、それを茶化されたりバカにされたら揺らぐような思いではあるのだが、それでもその淡い思慕の念は、少しずつ確かなものになっている。
「……ノワールさん。私にとってはあなたもまだ大切な従妹です。……ですので、これ以上私はあなたに失望したくありません……。どうか、アンジュさんにはご迷惑はもうおかけしないでください……」
「く……」
彼の発言はまた、正論でもある。
そのため何も言い返せずにアンジュは、
「くそ……また来る!」
そういうと工房を後にした。
「くそ……あの『最凶の悪女』が……あいつも、惚れ薬を使ったな……! やはり、侮れん……いや、ずっとやりこめられているな、私は……!」
帰る道すがら、ノワールはそう毒づいた。
彼女の中では、
「アンジュのほうも何らかの方法で、マヌケットに惚れ薬を飲ませて、自分の都合のいいように操った」
というように見えているためだ。
「これで、しばらく私の手駒は種切れか……くそ! しばらく大人しくするしかない、か……」
そして、忌々しそうにしながらも、そう呟いた。
「フフフ、アンジュさんから返事が来ましたか……。セドナ、届けてくれてありがとうございます」
「だから言っただろ、マヌケット? あいつは、本当にいい奴だって!」
そういいながらセドナは手紙を手渡すと、そのまま工房を出ていった。
「なるほど……。やっぱり、アンジュさんが『悪女」というのは嘘だったみたいですね……」
あれから、マヌケットはアンジュと文通で連絡を取り合っていた。
アンジュも仕事が忙しくなっていることもあり、直接顔を合わせることは難しい。
「さて、手紙を読んで元気も出たし……続きをやるとしますかね……」
マヌケットのほうも決して仕事が楽という訳ではない。
アンジュから受け取ったムーンストーンの評判が思いのほか高く、また兼ねてより販売しているセドナストーンをあしらったバングルの売り上げも、上々の利益を出している。
……まあ、これはカイカフルの領地が「あの『最凶の悪女』アンジュの出身地だということで知名度が高かったことも理由としては大きい。
評判はどうあれ、急速に勢力を伸ばしている彼女の領地の特産品を身に着けるということは、ある種のご利益であるだけでなく『私はアンジュに関わりのある人間だ』と主張することにも繋がる。
「オロロッカさんも頑張っているみたいだし、私も頑張らないと……。それにしても、なんて楽しいんでしょう……彼女と文通を始めて、本当に毎日が輝いて感じますね……」
そう思いながら、彼はハンマーより先に、アンジュが過去に書いてくれた手紙を開き、もう一度読んでみる。
最初はややよそよそしい印象を受ける文章だったが、次第に自分のちょっとした秘密や、日常で起きた楽しかったことといったやり取りが書かれるようになっている。
やり取りをはじめてほんの一カ月しか経っていないが、すっかり何でも言い合える……少なくとも、マヌケットは『何でもいうことが出来る相手』になっているような気がしてきた。
(好きな人から貰える手紙が、こんなに嬉しいなんて、思いませんでしたね……)
手紙にはその人の筆跡や文字の癖から、その人のことを思い起こさせるものがある。
そのこともあり、彼にとってはその一枚一枚の手紙が、どんな宝石よりも価値のあるものになっていた。
……そしてなにより、
「自分と同じような思い……即ち恋愛感情を相手も持ってくれているのかもしれない」
と思える……否、『思い込める』だけでも、それはマヌケットにとっては幸せなものであった。
しばらく彼女から貰った過去の手紙を読み返した後、
「おっと、もうこんな時間か。さて、今度こそ仕事をしないと……」
そう言ってハンマーを手にしたとき、ドアがノックされる音が聞こえてきた。
「入るわよ、マヌケット」
「あ、ノワールさん……何の用ですか?」
そういうと、あまりマヌケットはあまりいい顔をしないで答える。
普段は自分を笑顔で出迎えてくれたマヌケットがそんな風な態度で答えるのを見て、ノワールは少し嫌そうな表情を見せた。
「あら何よ、その態度?」
「……さあ、理由はご存じじゃありませんか?」
「理由?」
そう尋ねると、マヌケットは不愉快そうな表情を見せて答える。
「アンジュさんから聴いたんですけど……。ノワールさん、少しアンジュさんに対する態度が酷いと聞いていますよ?」
「そ、そう?」
「ええ。何でもいつも自分の自慢をしてきたり、我がままな命令をしてきたり……それだから、正直関わるのが辛いなんて言っています……」
そういわれてノワールは少しむっとする表情を見せた。
「けど、それは説明したでしょ? アンジュが『最凶の悪女』だったから牽制しただけだって……」
だが、マヌケットはそれを遮るように叫ぶ。
「彼女は悪女じゃありません! アンジュさんとここ最近、ずっとやり取りをしていたんです! 話を訊くと、いつも文句を言ったり喧嘩を売ったりしていたのはノワールさんの方からだったじゃないそうですか!」
それを聞いたノワールは、少しドキリとしたような表情を見せる。
「ま、まあそれは……」
「特に先日の武道大会! 『ぶどう』を出してひっかけるなんて酷いですよ! アホードさんがわざと負けてくれなかったら、殺されていたかもしれないんですよ!」
「アホードが、わざと……?」
ノワールの視点では、アホードは『アンジュの策略によって睡眠薬を謝って飲まされた』ということになっている。
そのため『アホードがわざと負けてくれた』という表現をマヌケットにしたことについては、
「アンジュは、自分に都合のいいように話を捻じ曲げ、悪者にならないようにした」
というようにも捉えられた。
(くそ……。相変わらず狡猾な女だ、あいつは……もう、なりふり構っては居られんか……)
そう思いながらも、ノワールは尋ねる。
「そういえば、今度アンジュとまた、鉱山の宝石採掘について交渉する用事があるようね?」
「ええ、セドナから聴いたんですか?」
「そうよ。……だったらその時にアンジュを私のもとに連れてきてくれる?」
だが、マヌケットは当然と言わんばかりに首を振る。
「嫌です」
「え?」
「ノワールさん、もうアンジュさんにちょっかいを出すのは辞めてください。……正直、もう嫌なんですよ。彼女があなたのせいで傷つくのは……」
「何をいうんだ?」
彼女の顔が紅潮するにしたがって、口調も次第に荒くなってきた。
だがカイカフルは彼女に毅然とした態度で言い放つ。
「あなたの計画はもう失敗しているんです……。もう、私はアンジュさんを喜ばせるために人生を使うと決めましたから……」
そういわれて、
「どういうことだ?」
「私はセドナに言われて分かったんです。先日倒れたのは『恋の病』によるものだと。それだけ、私の心にアンジュさんが残っていたんだと思います」
「恋の病? ……じゃあ、マヌケット、あんたは……」
「ええ。……彼女を愛してしまったのです。なので私は、もうノワールさんに強力はしません……」
そうまっすぐな表情で答えるマヌケット。
……無論、思い込みの激しい彼のアンジュに対する恋愛感情は、セドナの余計な一言のせいで、
「自分は恋の病にかかるほど、アンジュのことを好きになった」
と勘違いしてしまったことで始まったものだ。
……だが、そこから始まった文通でのやり取りは、潜在的には人づきあいに飢えていた彼の心を潤した。
そのこともあり現在は、本当にアンジュに対する恋心を抱き始めている。
無論まだ、それを茶化されたりバカにされたら揺らぐような思いではあるのだが、それでもその淡い思慕の念は、少しずつ確かなものになっている。
「……ノワールさん。私にとってはあなたもまだ大切な従妹です。……ですので、これ以上私はあなたに失望したくありません……。どうか、アンジュさんにはご迷惑はもうおかけしないでください……」
「く……」
彼の発言はまた、正論でもある。
そのため何も言い返せずにアンジュは、
「くそ……また来る!」
そういうと工房を後にした。
「くそ……あの『最凶の悪女』が……あいつも、惚れ薬を使ったな……! やはり、侮れん……いや、ずっとやりこめられているな、私は……!」
帰る道すがら、ノワールはそう毒づいた。
彼女の中では、
「アンジュのほうも何らかの方法で、マヌケットに惚れ薬を飲ませて、自分の都合のいいように操った」
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