29 / 29
エピローグ バカな男たちの顛末
エピローグ なぜカイカフルの世界の男性はバカばかりだったのか?
しおりを挟む
そして、数カ月が経過し、ようやく互いの仕事も落ち着いてきた頃。
先日カイカフルの直轄地になった小さな街で、アンジュとマヌケットは落ち合っていた。
「お待たせしました」
「あ……マヌケットさん、素敵な格好ですね……」
「あ、ありがとうございます……バカヤネンさんに見てもらったんですよ、この服」
「へえ……。センスあるんですね、バカヤネンさんは」
マヌケットは動きやすいが、こじゃれた服を着てアンジュを迎えに着ていた。
彼は元々服のセンスはなかったが、そのあたりは見栄っ張りなバカヤネンに見繕って貰ったものだ。
尚、バカヤネンは先日の騎士団長襲撃未遂事件の首謀者ということもあり、現在も開拓地から出ることは許されていない。そのため、セドナを通じて手紙でのやり取りで教えてもらったものである。
一方のアンジュは、少々古風なドレスを身にまとっていた。
「アンジュさんも、今日も素敵なお召物ですね?」
「ありがとうございます。これ、カイカフルさんが作ってくれたんですよ」
「へえ……器用なんですね、カイカフルさんは」
「ええ。私にとって、自慢の義母ですから。そういえば、以前送ったジャム、食べてくれました?」
「勿論です! あんなに美味しいジャムは初めてでしたよ!」
「マヌケットさんも素敵なブローチ、ありがとうございました」
二人は、あれからもこまめに文通を続けていた。
その中で、たまにジャムやブローチといった商品を送り合うようなことも何度かあった。マヌケットは、彼女が身に着けているブローチが自分のものだと気づき、少し嬉しそうな表情を見せる。
「今日、着けてきてくれたんですね? 嬉しいですよ、アンジュさん」
「ええ。……私、この色が好きなので……ひょっとして、ご存じでした?」
「ええ。オロロッカさんに相談した甲斐がありました」
「あれ、マヌケットさんは、オロロッカさんとも知り合いなんですか?」
「セドナを通して、紹介していただいたんですよ」
オロロッカも短い時間とはいえアンジュと一緒にいた仲だ。
また、アンジュは彼とも文通を続けているため、彼女の嗜好については比較的詳しい。そのこともあり、マヌケットは彼に何度も相談をしていた。
因みに、今回のデート先もオロロッカの発案だ。
今流行の劇場に行くようにデート先に誘って、たまにはアンジュを喜ばせてほしいと彼が話していたのをマヌケットは思い出した。
「ええ。良い方ですね、オロロッカさんは」
彼は、セドナに喝を入れられて以降心を入れ替えて真面目に働くようになっている。
無論能力が低いところは、村娘達に手伝って貰いながらだが。……おかげでオロロッカも、最近は友人が増えてきたとアンジュも聞いている。
「ですよね? ……そろそろ、カイカフルさんもオロロッカさんに会いに行けばいいんですけどね……」
カイカフルは未だにオロロッカの愚行を許していない。
そのため、アンジュは少し心配そうな表情を見せた。
「そうですね……。おっと、早く行かないと劇も始まりますし、そろそろ行きましょうか、アンジュさん」
「ええ」
二人は、宝石鉱山にセドナと行ったときを除くと、今回が3回目のデートだ。
マヌケットは、実は今日は大事な提案をアンジュに行う予定であった。
(き、今日は……頑張らなきゃ、やるぞ、やるぞ……)
「ねえ、マヌケットさん?」
「ふへ!?」
そんな風に思っていると、突然アンジュが声をかけてきたため、思わずマヌケットは奇声を上げた。
「ところで、劇場はどこでしたっけ?」
「あ、ああ……。その……ここから20分ほど歩いたところにあるんですよ」
「結構離れていますね」
「ええ。それで、その……人込みも結構多いですから、その……」
そういいながら、大きく深呼吸をするマヌケット。
そして、
「だ、だから……アンジュさん……て……手を、つ、繋いで、一緒に行きませんか?」
「え……?」
そう言われたアンジュは、一瞬驚いたような表情を見せたがすぐに笑顔になり、
「ええ。……しっかり案内してくださいね、マヌケットさん?」
「は……はい!」
そういって、手を握ってくれた。
「いええええええい!」
「ひゃっほーーーーーー!」
そんな二人の初々しい姿を見て、大喜びをする影が2つあった。
カイカフルとセドナだ。
二人は物陰でダンスをしながら、何度もハイタッチを繰り返していた。
「やったね、あの子とマヌケット! やっと手を繋いだよ!」
「ったく、本当に進展が遅かったからなあ……」
実は今までのデートも二人は後をつけていたのである。
元々奥手な二人が進展するのは遅かったため、特にカイカフルはやきもきしていた。
そのため、ようやく手を繋げる関係になったのを見て楽しそうに二人は笑う。
「やっぱさ、人間が幸せにしているのって本当にいいな!」
「アハハ、そうだろ? ……そういや、あんたも転移者だったね」
「ああ。元の世界じゃ、俺たちは殺し合いばっかしていたからさ。この世界は本当にいいよ」
「へえ……」
そういうと、少し疑問に思うような表情を見せた。
「そういえばさ、セドナ」
「なんだ?」
「前から思ってたんだけどさ。なんでこの大陸の男たちって、バカばかりなんだろうね」
「え?」
突然そう尋ねられて、思わずセドナは驚いた表情を見せる。
「だってさ。あんたが例外的に賢いと思ってたけど、あんたは機械人形なんだろ?」
「ああ。だから俺は見た目は男性型だけど、中身は女性型と変わんないんだ」
「だよねえ……不思議だよ……」
そういうと、少し考える様子を見せた後、セドナは苦笑して答えた。
「けどさ……。俺は今の世界のほうが、自分がいた時の世界よりいいと思うよ」
「どうしてそう思うんだい?」
その質問に対して、セドナは少し考えた後カイカフルに尋ねる。
「……そうだな、この国ってさ。今の王朝が始まってから何年経過している?」
そう尋ねられると、カイカフルは当たり前といったように答える。
「そんなの誰でも知ってるよ。今年で王朝統一から3万4千324年のはずだね」
そういわれて、セドナは感心したように答える。
「……だろ? 俺はさ、知らないんだよ。そんなに長いこと続いている国なんて。アンジュの世界にも当然なかったよ。アンジュの国『日本』みたいに、1000年以上続いている国すら、相当珍しいんだよ」
「そうなのかい? 普通は1万年くらい、歴史があって当たり前だと思ってたけどねえ……」
そしてセドナは、少し考え込むように答える。
「実は俺の元居た世界はさ。皆、凄い頭が良かったんだよ。男も女もな」
「そうなんだね。どれくらい頭が良かったのさ?」
「アンジュの世界でいえば、小学校で因数分解が終わるくらい。俺が、元の世界では『単細胞の無能』っていわれるくらいかな」
それを聞いて、カイカフルは驚いた表情を見せる。
「嘘だろ? あんたほどの男……じゃない、えっと……まあいいや、あんたほどの奴がかい?」
セドナはそれに対しては同意しながらも、少し寂しそうな顔で答える。
「ああ。……けどさ、頭が良すぎてみんな『どうやったら周りより儲かるか』『どうやったら相手を出し抜けるか』ばかり考えていてさ。小競り合いや戦争もしょっちゅうだったんだよ」
「へえ。ちょっと金を盗まれても気づきもしない、出し抜くなんて考えても出来やしない、悪だくみなんてうまく行きやしない、そんなうちの男どもとは大違いだ。死んだ夫もそんな感じだったしね」
カイカフルの夫は愚かだったようだが、彼女は愛していたのだろう。
そういうと少し遠い目をしながらカイカフルは息を吐いた。
「後、皆賢いせいで、とにかく文明の進歩も早かったんだ。それで競争の果てに惑星資源を使い切って、俺が転移する前は絶滅寸前だったんだよ。小さなコロニーに数百人ずつが生き残るのが精一杯って感じにな」
「なるほどねえ……」
惑星資源、という言葉を理解できなかったためだろう、カイカフルは曖昧な返事をした。
「だからさ。この世界はあえて男性の頭を悪くすることで、人類が『競争しすぎない』ように、神様が調整したのかもしれないな……機械の俺がこういうの、おかしいかもしれないけどさ」
その発言に、カイカフルもうなづいて答える。
「なるほどな。……ひょっとしたら、あんたの言ってることが事実なのかもしれないね。少なくとも、あんたの話を聞いてるとそう思うよ」
「だからさ。この世界も悪くないと思うんだよ、俺はさ。……マヌケットもさ。バカな奴だけど、アンジュを出し抜いたり騙したりすることが出来なかっただろ?」
マヌケットが元々はノワールの差し金だったことは、さすがにもうセドナやカイカフルは分かっている。カイカフルも『彼が元々は、風邪と恋の病を勘違いした』という話は聞いている。
「ま、そりゃそうか。……私はさ。この大陸の男のバカさ加減に呆れていたけど、案外男ってのは、それくらいのほうがいいのかもね」
「勿論、医学も栄養学も元の世界のほうがずっと良かったけどさ。……それを差し引いても今の世界のほうが良い。俺はそう思うな」
「……そうだね……おっと、そろそろ帰らないと」
そしてカイカフルは帰途につくべく立ち上がる。
「それじゃ、あたしはさ。あの二人の夕飯の準備をダンクックと始めておくよ」
「あれ、まだ新しい使用人を雇ってないのか?」
ここ数カ月の間に、カイカフルの領地は大幅に拡大して税収も増えている。
だが、カイカフルは今の家から引っ越すこともなく生活水準を上げていない。
「ああ、あたしは今の生活の方が好きだからね。税収は全部農民たちの……そうさね、オロロッカのバカが欲しがってた農具でも買うのに使うよ」
「へえ……」
オロロッカという言葉が出て、セドナはニヤリと笑うが、カイカフルは少し照れたような表情を見せた。
「な、なんだい、別にあいつを許したわけじゃないよ? ただ、あの辺の農民たちが欲しがってると思っているだけさ!」
そういいながらも、カイカフルは最近はオロロッカのことを心配しているのは外交官のセドナからも分かっていた。
そのため、セドナはフフ、と少し笑う。
「ま、オロロッカも『バカ』だったから良かったよ。もし賢くて『例の計画』が成功していたら、そんなことしてなかったろ?」
『例の計画』とは、アンジュを吸血鬼のもとに売り飛ばす計画のことだ。
彼の自滅によって頓挫したことを思ってカイカフルは豪快に笑う。
「……あはは、確かにね! それじゃセドナ、後は二人のボディガード、頼んだよ?」
「ああ、任せてくれ! ……これからも、繁栄してくれよな、人間」
そうセドナは言ってカイカフルを見送ると、二人が手を繋いで人込みに消えていく姿をそっと追いかけた。
先日カイカフルの直轄地になった小さな街で、アンジュとマヌケットは落ち合っていた。
「お待たせしました」
「あ……マヌケットさん、素敵な格好ですね……」
「あ、ありがとうございます……バカヤネンさんに見てもらったんですよ、この服」
「へえ……。センスあるんですね、バカヤネンさんは」
マヌケットは動きやすいが、こじゃれた服を着てアンジュを迎えに着ていた。
彼は元々服のセンスはなかったが、そのあたりは見栄っ張りなバカヤネンに見繕って貰ったものだ。
尚、バカヤネンは先日の騎士団長襲撃未遂事件の首謀者ということもあり、現在も開拓地から出ることは許されていない。そのため、セドナを通じて手紙でのやり取りで教えてもらったものである。
一方のアンジュは、少々古風なドレスを身にまとっていた。
「アンジュさんも、今日も素敵なお召物ですね?」
「ありがとうございます。これ、カイカフルさんが作ってくれたんですよ」
「へえ……器用なんですね、カイカフルさんは」
「ええ。私にとって、自慢の義母ですから。そういえば、以前送ったジャム、食べてくれました?」
「勿論です! あんなに美味しいジャムは初めてでしたよ!」
「マヌケットさんも素敵なブローチ、ありがとうございました」
二人は、あれからもこまめに文通を続けていた。
その中で、たまにジャムやブローチといった商品を送り合うようなことも何度かあった。マヌケットは、彼女が身に着けているブローチが自分のものだと気づき、少し嬉しそうな表情を見せる。
「今日、着けてきてくれたんですね? 嬉しいですよ、アンジュさん」
「ええ。……私、この色が好きなので……ひょっとして、ご存じでした?」
「ええ。オロロッカさんに相談した甲斐がありました」
「あれ、マヌケットさんは、オロロッカさんとも知り合いなんですか?」
「セドナを通して、紹介していただいたんですよ」
オロロッカも短い時間とはいえアンジュと一緒にいた仲だ。
また、アンジュは彼とも文通を続けているため、彼女の嗜好については比較的詳しい。そのこともあり、マヌケットは彼に何度も相談をしていた。
因みに、今回のデート先もオロロッカの発案だ。
今流行の劇場に行くようにデート先に誘って、たまにはアンジュを喜ばせてほしいと彼が話していたのをマヌケットは思い出した。
「ええ。良い方ですね、オロロッカさんは」
彼は、セドナに喝を入れられて以降心を入れ替えて真面目に働くようになっている。
無論能力が低いところは、村娘達に手伝って貰いながらだが。……おかげでオロロッカも、最近は友人が増えてきたとアンジュも聞いている。
「ですよね? ……そろそろ、カイカフルさんもオロロッカさんに会いに行けばいいんですけどね……」
カイカフルは未だにオロロッカの愚行を許していない。
そのため、アンジュは少し心配そうな表情を見せた。
「そうですね……。おっと、早く行かないと劇も始まりますし、そろそろ行きましょうか、アンジュさん」
「ええ」
二人は、宝石鉱山にセドナと行ったときを除くと、今回が3回目のデートだ。
マヌケットは、実は今日は大事な提案をアンジュに行う予定であった。
(き、今日は……頑張らなきゃ、やるぞ、やるぞ……)
「ねえ、マヌケットさん?」
「ふへ!?」
そんな風に思っていると、突然アンジュが声をかけてきたため、思わずマヌケットは奇声を上げた。
「ところで、劇場はどこでしたっけ?」
「あ、ああ……。その……ここから20分ほど歩いたところにあるんですよ」
「結構離れていますね」
「ええ。それで、その……人込みも結構多いですから、その……」
そういいながら、大きく深呼吸をするマヌケット。
そして、
「だ、だから……アンジュさん……て……手を、つ、繋いで、一緒に行きませんか?」
「え……?」
そう言われたアンジュは、一瞬驚いたような表情を見せたがすぐに笑顔になり、
「ええ。……しっかり案内してくださいね、マヌケットさん?」
「は……はい!」
そういって、手を握ってくれた。
「いええええええい!」
「ひゃっほーーーーーー!」
そんな二人の初々しい姿を見て、大喜びをする影が2つあった。
カイカフルとセドナだ。
二人は物陰でダンスをしながら、何度もハイタッチを繰り返していた。
「やったね、あの子とマヌケット! やっと手を繋いだよ!」
「ったく、本当に進展が遅かったからなあ……」
実は今までのデートも二人は後をつけていたのである。
元々奥手な二人が進展するのは遅かったため、特にカイカフルはやきもきしていた。
そのため、ようやく手を繋げる関係になったのを見て楽しそうに二人は笑う。
「やっぱさ、人間が幸せにしているのって本当にいいな!」
「アハハ、そうだろ? ……そういや、あんたも転移者だったね」
「ああ。元の世界じゃ、俺たちは殺し合いばっかしていたからさ。この世界は本当にいいよ」
「へえ……」
そういうと、少し疑問に思うような表情を見せた。
「そういえばさ、セドナ」
「なんだ?」
「前から思ってたんだけどさ。なんでこの大陸の男たちって、バカばかりなんだろうね」
「え?」
突然そう尋ねられて、思わずセドナは驚いた表情を見せる。
「だってさ。あんたが例外的に賢いと思ってたけど、あんたは機械人形なんだろ?」
「ああ。だから俺は見た目は男性型だけど、中身は女性型と変わんないんだ」
「だよねえ……不思議だよ……」
そういうと、少し考える様子を見せた後、セドナは苦笑して答えた。
「けどさ……。俺は今の世界のほうが、自分がいた時の世界よりいいと思うよ」
「どうしてそう思うんだい?」
その質問に対して、セドナは少し考えた後カイカフルに尋ねる。
「……そうだな、この国ってさ。今の王朝が始まってから何年経過している?」
そう尋ねられると、カイカフルは当たり前といったように答える。
「そんなの誰でも知ってるよ。今年で王朝統一から3万4千324年のはずだね」
そういわれて、セドナは感心したように答える。
「……だろ? 俺はさ、知らないんだよ。そんなに長いこと続いている国なんて。アンジュの世界にも当然なかったよ。アンジュの国『日本』みたいに、1000年以上続いている国すら、相当珍しいんだよ」
「そうなのかい? 普通は1万年くらい、歴史があって当たり前だと思ってたけどねえ……」
そしてセドナは、少し考え込むように答える。
「実は俺の元居た世界はさ。皆、凄い頭が良かったんだよ。男も女もな」
「そうなんだね。どれくらい頭が良かったのさ?」
「アンジュの世界でいえば、小学校で因数分解が終わるくらい。俺が、元の世界では『単細胞の無能』っていわれるくらいかな」
それを聞いて、カイカフルは驚いた表情を見せる。
「嘘だろ? あんたほどの男……じゃない、えっと……まあいいや、あんたほどの奴がかい?」
セドナはそれに対しては同意しながらも、少し寂しそうな顔で答える。
「ああ。……けどさ、頭が良すぎてみんな『どうやったら周りより儲かるか』『どうやったら相手を出し抜けるか』ばかり考えていてさ。小競り合いや戦争もしょっちゅうだったんだよ」
「へえ。ちょっと金を盗まれても気づきもしない、出し抜くなんて考えても出来やしない、悪だくみなんてうまく行きやしない、そんなうちの男どもとは大違いだ。死んだ夫もそんな感じだったしね」
カイカフルの夫は愚かだったようだが、彼女は愛していたのだろう。
そういうと少し遠い目をしながらカイカフルは息を吐いた。
「後、皆賢いせいで、とにかく文明の進歩も早かったんだ。それで競争の果てに惑星資源を使い切って、俺が転移する前は絶滅寸前だったんだよ。小さなコロニーに数百人ずつが生き残るのが精一杯って感じにな」
「なるほどねえ……」
惑星資源、という言葉を理解できなかったためだろう、カイカフルは曖昧な返事をした。
「だからさ。この世界はあえて男性の頭を悪くすることで、人類が『競争しすぎない』ように、神様が調整したのかもしれないな……機械の俺がこういうの、おかしいかもしれないけどさ」
その発言に、カイカフルもうなづいて答える。
「なるほどな。……ひょっとしたら、あんたの言ってることが事実なのかもしれないね。少なくとも、あんたの話を聞いてるとそう思うよ」
「だからさ。この世界も悪くないと思うんだよ、俺はさ。……マヌケットもさ。バカな奴だけど、アンジュを出し抜いたり騙したりすることが出来なかっただろ?」
マヌケットが元々はノワールの差し金だったことは、さすがにもうセドナやカイカフルは分かっている。カイカフルも『彼が元々は、風邪と恋の病を勘違いした』という話は聞いている。
「ま、そりゃそうか。……私はさ。この大陸の男のバカさ加減に呆れていたけど、案外男ってのは、それくらいのほうがいいのかもね」
「勿論、医学も栄養学も元の世界のほうがずっと良かったけどさ。……それを差し引いても今の世界のほうが良い。俺はそう思うな」
「……そうだね……おっと、そろそろ帰らないと」
そしてカイカフルは帰途につくべく立ち上がる。
「それじゃ、あたしはさ。あの二人の夕飯の準備をダンクックと始めておくよ」
「あれ、まだ新しい使用人を雇ってないのか?」
ここ数カ月の間に、カイカフルの領地は大幅に拡大して税収も増えている。
だが、カイカフルは今の家から引っ越すこともなく生活水準を上げていない。
「ああ、あたしは今の生活の方が好きだからね。税収は全部農民たちの……そうさね、オロロッカのバカが欲しがってた農具でも買うのに使うよ」
「へえ……」
オロロッカという言葉が出て、セドナはニヤリと笑うが、カイカフルは少し照れたような表情を見せた。
「な、なんだい、別にあいつを許したわけじゃないよ? ただ、あの辺の農民たちが欲しがってると思っているだけさ!」
そういいながらも、カイカフルは最近はオロロッカのことを心配しているのは外交官のセドナからも分かっていた。
そのため、セドナはフフ、と少し笑う。
「ま、オロロッカも『バカ』だったから良かったよ。もし賢くて『例の計画』が成功していたら、そんなことしてなかったろ?」
『例の計画』とは、アンジュを吸血鬼のもとに売り飛ばす計画のことだ。
彼の自滅によって頓挫したことを思ってカイカフルは豪快に笑う。
「……あはは、確かにね! それじゃセドナ、後は二人のボディガード、頼んだよ?」
「ああ、任せてくれ! ……これからも、繁栄してくれよな、人間」
そうセドナは言ってカイカフルを見送ると、二人が手を繋いで人込みに消えていく姿をそっと追いかけた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~
水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。
彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。
失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった!
しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!?
絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。
一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~
ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。
しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。
やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。
そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。
そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。
これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。
悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~
咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」
卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。
しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。
「これで好きな料理が作れる!」
ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。
冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!?
レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。
「君の料理なしでは生きられない」
「一生そばにいてくれ」
と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……?
一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです!
美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる