二度目の冒険は『低レベル縛り』でいきましょう~『自称』ドMの女勇者ちゃんと一緒に、魔王になったヤンデレ妹を討伐します~

フーラー

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第6章

6-5 「このセリフ」を言うのは、男のロマンだ

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そして翌日。


「おはよ、お二人さん!」
「ああ。一日中兵士たちの看病をしてたのか?」

セドナはいつになく生き生きしている。
やはり、衛生兵として作られたロボット故だろう、人に奉仕するときのセドナは一番楽しそうだ。

「勿論! おかげでだいぶ、兵士たちも助けることができたよ。……さて、そろそろ時間みたいだね」
「だな……。おっと、演説が始まるみたいだな」


そういうと、俺たちは中央の広場に集まる。
そこには兵士たちがすでに集まっており、その中央には陛下が熱弁を振るっていた。

「皆! これから我らは魔王ロナを打倒すべく、戦うことになる! 準備はいいか!」
「わあああああ!」
「しかもだ! 我らのもとには『翼折れぬ勇者』マルティナと『杖つかぬ魔導士』シイルも来てくれた!」
「おおおおおお!」
「マルティナ様!」
「シイル様!


いつのまにか、俺たちにも新しい二つ名がついていた。
レベル1になっても諦めずに戦い続けるマルティナと、魔法の代わりにアイテムを駆使して戦う俺の名前から取ったのだろう。

「な、なんか恥ずかしいね、シイル……」
「だな……」

俺は陛下の演説に恥ずかしく思いながらもそれを聴き終えた後、魔王城に行軍を開始した。




それからしばらくして、俺たちは戦場である魔王城前の平原に到着した。
今日は風が強い。そのため、魔族の死臭や兵士たちの血の匂いが俺たちの鼻にも届いてくる。


「うおおおおお!」
『人間が! 我らをなめるな!』
「弟の仇だ、くたばりやがれ!」
『てめえこそ、リア・ヴァニア様を殺しただろうが!』


周囲からはそんな声とともに剣戟と矢の唸りが聞こえてくる。
……やっぱり、戦争は嫌なものだ。


「さあ、シイル殿。こちらです。敵に気取られぬよう、急ぎましょう」

俺たちは兵士たちが城門付近を制圧しているうちに数十人の精鋭部隊と一緒に城内に突入する予定だ。
周囲では、様々な魔族を相手に兵士たちが戦い、そして倒れていくのが分かる。


「……魔王城まではどれくらい?」
「10分ほどです。我々の後ろから離れないでください」

近衛兵の一人がそうつぶやく。
俺は周囲の壮絶な戦いを見ながら、不謹慎ながら俺は昔プレイしたSLGのゲームを思い出した。


(こういう『セミファイナル』のステージのほうが、ラスト面より熱いゲームって多いよな……)


大抵の戦略ものでは、ラストステージは敵の王城という場合が多く、それらは当然城内戦となる。

だが、城内戦はその特性上どうしてもこじんまりした印象を与えてしまう。
そのため、ラストステージよりも、寧ろ前座である城門前での攻防戦の方が個人的には印象深かったことを思い出した。


「……シイル! 城門まであと少しだ。準備はいいか?」

そう思っていると、隣から声をかけられた。
身なりのいい外見をした、美しい容姿の青年だ。


「えっと、確か……テイラー様でしたね」
「ああ、覚えていてくれたのは嬉しい」

彼は陛下の息子……つまり、王子だ。
先日、確か『変な女に引っかかって婚約破棄をしたけど、実は元婚約者がだったせいで逆に自分が追放され、王都に戻ってきた』と聞いている。

(いわゆる『婚約破棄ざまぁ』を受けたらしいな……。その話も、聴きたかったな……)

俺はそう思いながら、テイラー王子の方を見やる。
無論彼に王位継承権はないが、汚名返上ということもあり今回の戦いでは俺たちと一緒に城内への突撃班として加わってくれる。彼は剣の腕だけは確かだからだ。


「もうすぐ、味方の兵士たちが城門を開けてくれるはずだ……だが、恐らく城門はすぐに制圧され、奪い返される。……言いたいことは分かるな?」
「ええ……魔王ロナを倒すまでは……城内から出れない、ということですね」
「そういうことだ。……覚悟は今のうちにすませておけ」


そういうと、セドナが俺たちに向けて飛んできた矢を弾き飛ばしながら、軽口を叩いてくる。


「わかった! それじゃ、セーブはきちんと今のうちにしときなよ、シイル?」
「ハハハ、そうだな! ……よし、バッチリだ。別ファイルに保存した!」
「……えっと……」
「どういうこと、シイル?」


テイラー王子とマルティナが不思議そうにするのを見て、俺とセドナは笑う。
このジョークが分かるのは、俺たち現代人だけだからだ。


そして、数分後に城門の影が見え始めた。
俺は城門の方を見ながらテイラー王子に尋ねる。


「後、所定の時間までどれくらいですか……?」
「あと、30秒だ……」


俺たちは突撃前に最後の武器の点検をした後、テイラー王子の号令を待つ。
ドクン、ドクンと心臓が高鳴る。……そして。

「……いまだ! 突撃する!」

その掛け声とともに、城門が開いた。


「おおおお!」
「行こう、シイル!」
「……ああ」


そういいながら、俺たちは城門前に駆け出した。
だが、走りながら俺は違和感を感じていた。


(……なんだ、この嫌な予感……?)


通常、城門を開けられたとなれば、周囲の兵士たちが押し寄せてくるはずだ。
だが周囲の魔族たちはその様子を見せてこない。
俺は思わず叫ぶ。


「テイラー王子、ひょっとしてこれは罠では……!」
「だろうな。……だが、この状況で足踏みは出来ん!」


テイラー王子も、自身が出戻りということもあり功を焦っているのだろう。
だが、ここに来るまでに多くの将兵がすでに命を落としている。また、この状況で戦場に留まり続けることも、難しい。

……いずれにせよ、俺たちは突っ込むしかないのだ。


そう思いながら城門まで後数十メートルというところまで迫った刹那。


「うわああああ! 熱い! 熱い!」
「ぐはあ! ……なんて強さ……」


凄まじい火柱が立ち上るとともに、先頭の近衛兵たちが叫ぶ声が聞こえてきた。


「な……!」

戦闘を走っていた近衛兵は、王都の中でもかなりの手練れたちだ。
だが、そんな兵士たちが次々に消し炭にされていく。


……間違いない、奴だ。


『はあ、シイルにマルティナ……絶対に来ると思っていたよ……』


四天王の片割れ、ルネだ。
その眼は以前のような小悪魔じみたものではなく、怒りと憎しみに血走っている。
俺が与えた経験値のおかげもあるのだろう、以前よりも魔力がかなり強まっている。


「ルネ……!」
『久しぶりだね、シイル? ……キミたちと戦いたくて、たまらなかったよ……』

だが、奴がここを守っていることは想定していた。
マルティナはおずおずと、ルネに尋ねる。

「ルネは……ここを通して……くれるわけないよね?」
『通す? ……そうだね、君たちの……首から下だけなら、通してもいいけどね!』


そういうと、ルネは周囲の兵士たちを魔法で弾き飛ばす。
そして、草が燃え尽きて荒野のようになった城門前。

その中央に立ち、ルネは俺に対して挑発するように手招きした。


『……どうだい、ここは僕たちとの舞踏会場にふさわしいだろう? ……来なよ! 3人とも、ぶっ殺してやるから!』
「分かった……テイラー王子、周囲を守ってください」
「……ああ」

なるほど、この場で俺たちと決着を付けたいと思ったのか。
だが、俺は炎と氷を無効化するアクセサリーを身に着けているし、身かわしのマントも十分補充した。……うまく魔法をしのげば勝機はあるはずだ。


「シイル……行こう。ルネも……それを望んでるみたいだから」
「だね! あたしなら準備万端だよ! やろう、ルネ!」


マルティナ達もそういいながら俺たちは武器を構え、彼のもとに近づく。
……だが、俺はこの時ある種の慢心があった。

どんなにレベル差が開いたとしても、すでにルネの戦い方は読めている。
だからレベル1でも返り討ちにできると。


『フフン、誤解してるね、君たちは……』


そういうと、ルネは手を上げた。
……まずい!

そう思ったが、すでに遅い。城門の裏から数十人もの兵士たちが現れ、一斉にクロスボウを向けてきた。


『僕は一言も言ってないよ? ……こっちが一人で戦うなんてね! さあ、踊るのはキミたちだ! 断末魔の花を咲かせなよ!』

そういうとともに、彼が手を振り下ろし、凄まじい量の矢が飛んできた。

「くそ……!」

……だめだ、これを食らったら全滅する。
蘇生薬を使おうにも、この状況では俺たちに兵士は近づくことも出来ないだろう。
俺は敗北を覚悟し、目を閉じた。


……だが。



『ぐああああ!』
『ぎゃあああああ!』
『ば、バカな……お前は……!』


目を開けると、そこには無数の光の光弾が降り注ぎ、魔族の弓兵たちが次々に貫かれていた。
……そして俺たちの前には光の障壁が張られていた。


「これは……?」
「嘘……来て……くれるなんて……!」

そうマルティナは、信じられないといった表情で後ろを振り向く。
そこには、以前良く見知った顔があった。


「きっと、僕らは大人になったら思うよ~♪ あの時に見つけた思い出のかけらが~♪ 宝物になるから~♪」


助けに来てくれた救世主は、以前俺が弾いた曲を歌いながら、マントをキザったらしく翻した。


「ディラック! 嘘だろ!?」
「フフン、助けに来たよ、シイル!」


持ち逃げのディラックだ。
……正直、自己中心的な彼が来てくれるとは思わなかった。


「どうしてここに来たんだ?」
「フフン。決まっているだろう? ……僕のモットーは『人生は美味しいとこどり』さ。今、ここで一番『美味しいとこ』があるんだ。来ないわけがないだろう?」
「美味しいとこ? ……あ! そういうことか」


てっきり、俺はディラックが抜け駆けしてロナを倒そうとしたのかと思った。
……けど、違う。

あの中二病じみたディラック(バカ)にとっての『美味しいところ』とは、人生で一度は行ってみたい、あのセリフをいってかっこつけることだ。


『君は……僕の邪魔をするのかい?』
「ああ……相手になったげよう。この『真の勇者』ディラックがね!」


そう彼はルネに対して笑みを浮かべた後、この戦場全体に響くのではないかと思うくらいのバカでかい声で、こう叫んだ。



「さあ! ここは僕が食い止める! シイル君、マルティナちゃん! 君たちは先に行くんだ!」



……やっぱりだ。
この上なく、思いっきり気持ちよさそうにそう叫ぶディラックを見て、俺は少し緊張がほぐれた。

正直、この戦場でディラックの存在はどこか和む。


俺は苦笑しながらも、

「ああ……! ありがとな、ディラック!」

そう叫んで城内に進んでいった。
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