二度目の冒険は『低レベル縛り』でいきましょう~『自称』ドMの女勇者ちゃんと一緒に、魔王になったヤンデレ妹を討伐します~

フーラー

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第6章

6-6 最終局面では、思いっきりアイテムを大盤振る舞いしよう

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魔王城の内部は俺たちが以前来た時と変わらず、禍々しい雰囲気を漂わせていた。
恐らく、城内には近衛兵となる強敵が変わらず守っているのだろう。当時、相当なレベルを誇っていた俺達でも手を焼いた相手だった。


マルティナはテイラーに叫んだ。


「テイラー! ここからはあたしにも戦わせて!」
「いや……お前たちは魔王ロナを倒すための最後の武器だ。だから温存しておきたい」
「けど! ……これ以上、仲間の兵士さんに守ってもらうのはもう嫌なの! ……お願い!」

マルティナは、誰かに自分を守ってもらうのを極度に嫌う。
だが、それは俺も同じだ。ロナと俺の戦いに、兵士たちを可能な限り巻き込みたくない。


「……俺からもお願いします。……心配しないでください。ロナを倒すためのアイテムは残しておきます」


また、俺は昔から貧乏性の気質だ。
ゲームなどでも貴重な回復アイテムを最後まで温存し続けて、結局死蔵させる悪癖がある。

……だが、この世界はファンタジーだが『ゲームの世界』じゃない。
一緒に戦っている兵士たちは皆、家族や思い出を持つ生きた人間なんだ。
俺がアイテムをケチったことで、余計な命が失われるなんてことは、耐えられない。


「うーむ……」


テイラーは周囲の兵士たちが疲弊しているのを見て、少し考えたのちに頷いた。


「分かった。……手を貸してくれ」
「ありがとうございます!」
「あと、ここからはテイラーでいい。敬語も辞めてくれ。……どうも他人行儀なのは慣れなくてな」


テイラーは昔からずっと、戦場で戦い続けていたと話を聴いている。
だからこそ、あまり敬語で会話をされることは好まないのだろう。

「わかった! ……それじゃあ、テイラー! 皆も、こっちに集まってくれ!」
「ああ」

そして俺は全員を集めると『親子愛のペンダント』を使って、俺が残っていた全ての経験値を分配した。


「おお……」
「凄い……力が溢れてくる……!」
「シイル様、これは?」

やはり、陛下自慢の手練れの近衛兵たちなだけあって、レベルアップに必要な経験値も高いのだろう。

あれほどため込んでいた経験値を全部放出したにもかかわらず、俺が期待していた程レベルは上がらなかった。……だが、それでもこの先の戦いは少しでも有利になるはずだ。


「俺が持ってた経験値を全部、みんなに分配した。……それと、これもだ!」

そして俺は、さる伝説の薬師が作ったとされる『希望の霧』を取り出した。
これは、味方全員の体力と精神力、状態異常を全回復する最高の回復アイテムだ。

……大抵の場合、俺はゲームでは最後まで使うことが出来ないが、ここでは遠慮なく大盤振る舞いしよう。

そして俺は、兵士たちに伝える。

「全員、全快したな!? みんな、一人でも多くここから生きて出てくれ!」
「おおおおおお!」


……よし、士気も高まったようだ。
そう思いながら俺たちは城内に進んでいく。




「来たな……!」

まず最初に現れたのはローブに身を包んだ怪しげな魔導士の一団だ。
彼らは玉座に続く2階への階段を守っていた。ロナのもとにたどり着くには、ここは必ず通らないといけない。


『……ここは通さぬわ……』
『我らの禁呪の餌食になるがいい!』

そういうと、魔導士たちは呪文の詠唱を開始した。

『光よ、闇よ……! その混沌を生み出し、そして終わりを告げる力となれ……!』

……まずい、あの魔法は確か禁呪『ハデス・ロード』だ。
対象を問答無用で冥界に送り込む魔法であり、蘇生薬も効果がない。
あれを発動されたら終わりだ。


『神よ、これはあなたのその無能な眼を見開く光。悪魔よ、これはあなたの愚かな耳を突き刺す闇……』


相当訓練しているのだろう、魔導士たちの詠唱は恐ろしく速い。通常の兵士であれば、彼らのもとに到達する前に発動を許すだろう。
……だが。


「マルティナ、頼む!」
「うん!」

俺は、マルティナは荷物袋から大鎌を取り出した。
そしてマルティナは一蹴りで魔導士たちの懐に飛び込んだ。

「はあ!」
『な……! 速い……なぜ……!?』


確かに『素早さ』では、マルティナは奴らには遠く及ばない。
だが、彼女は『愚か者のブローチ』のおかげで、必ず先制攻撃ができる。
そして、敵陣の中央に切り込んだ後、大鎌をビュンビュンと振り回して、


「この一発で決める!」

そう叫ぶとともに、その鎌を空に掲げる。


『ぎいやああああああ!』
『があああああ!』

すると、その鎌は周囲に暗黒の風を呼び起こし、そして魔導士たちは断末魔とともにバタバタと倒れていった。
その様子を見ながら、テイラーは俺に尋ねてくる。

「……なんだ、そのアイテムは?」
「ああ。『死神の大鎌』って道具だ。使うと敵全体を『即死』させることができる。愚か者のブローチとの相性は抜群なんだ。……貴重品だけど、どのみちロナには効果がないだろうからな」
「流石だな、シイル! 後は任せろ!」


そうテイラーは言いながらもマルティナの隣に飛び込み、仕留めそこなった魔導士にとどめをさした。


『ぐあ……!』


あと少しで呪文が発動するところだったのだろう、その魔導士は悔しそうな表情でこと切れた。


(魔導士がひるんだ一瞬の隙に、先制を取るか……。凄いな、テイラーは……)


俺は思わずそう感心した。
……テイラーは『RPGなどでは物語終盤にポッと出で仲間になる、超強力な助っ人』というところなのだろう。

彼のような味方は『低レベル縛り』では大体救世主となる。
そう思いながらも、俺たちは2階に上った。




そして、城内の敵を倒しながらも突き進むと、俺たちは十字路に到着した。


「シイル殿、どちらですか!?」
「右だ! 玉座まであと少しだ、持ちこたえてくれ!」
「ええ……!」

だが、曲がり角を曲がるとすぐに無数の翼を生やした蛇がこちらに襲い掛かってきた。

「うわ……!」
「危ない、シイル!」


テイラーはすぐさま反応し周囲の蛇を一瞬で切り落とす。
だが、蛇たちはすぐに数を揃え、こちらに再度襲い掛かってきた。

「く……! 新手……?」
『フン……! 貴様らはここで終わりにしてくれる!』


そう言いながら、蛇使いが使うような独特の形状の笛を吹く男がニヤニヤとこちらを見やってきた。

(なるほど……よくある、あれだな……)


恐らく、あの男を倒さない限りこの化け物たちは無限にわき続けるのだろう。
RPGなどではお約束の敵だ。


「これじゃ、近づけない……!」
「なら私が! 蛇なら、この一撃で倒せる! アイス・ブリザード!」


そういうと、周囲に暴風とともに氷の雨が吹き荒れた。
……だが、蛇たちの前で障壁が張られ、それは弾き飛ばされた。


『無駄だ……その程度の対策もしていないと思ったのか? こいつらに魔法は効かぬよ』


そう笛吹きの男はニヤリと笑いながらこちらを見やる。
まあ、それは当然だろう。冷気攻撃に弱い蛇たちに対して対策をしていないわけがない。
彼の操る翼を持つ蛇たちが、俺たちに迫ってくる。俺はセドナに叫んだ。


「セドナ!」
「ああ! ……ここは私たちに任せな!」


セドナは俺の声に合わせるように、兵士たちを抱えて後ろに飛びのく。
そして俺は荷物袋から一本のフルートを取り出した。


「音楽ってのはな! 誰かを操るものじゃない! 聴くものを幸せにするものだ!」


そういいながら、俺は目を閉じ、演奏を開始する。
笛吹きの男の攻撃的な曲に対抗するような、ヒーリングミュージックのような曲。


……まあ、元の世界で元カノから教わったクラシックの曲なのだが。
フルートの音色が周囲の壁に反響しながら響き渡るにつれ、蛇たちの動きが鈍くなってきた。そして、笛吹きの男も瞼が重くなってきたのか、ふらふらと身体を揺らがせた。

『ぐ……なんだ……これ……は……』
『ギイ……』
『グ……』

それから数秒後、男は自身が操っていた蛇たちに覆いかぶさるように倒れた。


「……戦いが終わるまで、眠ってろ……」
「シイル、そのアイテムは?」
「ああ。『安眠のフルート』だよ。使うと敵全体を眠らせるんだ。3日は目が覚めないはずだ。……どんな魔法の障壁も、音だけは通すからな。因みに直接空気を震わせるアイテムだから、聴覚がない蛇にも有効なんだ」


いわゆる『眠りの露』の全体攻撃版だ。
こういう貴重な攻撃アイテムを惜しげなくバンバン使えるのは正直気持ちがいい。
テイラーはそれを見て、感心したように呟く。

「流石だな、シイル……」
「凄いのはアイテムだ、俺じゃない」
「いや、それでもこのタイミングで選択する判断力は大したものだな。……こいつに、とどめは指すのか?」

そういって剣を抜くが、俺は首を振る。

「やめてくれ。……どのみちこいつは、3日は起きないからな。それに、何より音楽を人殺しの道具に使いたくない。……余計な殺生は避けてくれ」
「……優しいんだな、お前は。……分かった、先をいそごう」


そういって、俺たちはこの笛吹きの男を念のため拘束した後、城内を進んだ。



……それから数分後。
俺たちは大きな扉の前に到着した。


「ここが、玉座だ。多分ロナはここにいる」
「だな……なんて魔力だ……ここからでも、伝わってくる……」


テイラーはロナと直接対面するのが初めてなのだろう、そう恐れるような表情で呟いた。
そして彼は生き残った近衛兵達に声をかけた。

「お前たちは、この扉の前で退路を確保してくれ」
「え? ……ですが、我々だってまだ戦えます!」
「分かっている。だからこそ、ここで待機してほしいんだ。増援の始末は頼んだぞ?」


ゲームの世界では、通常魔王は一人でこちらと戦ってくれる。
だが現実的に考えれば、一国の城主が手練れの敵兵と戦っている最中に、配下の兵士が加勢に来ないわけがない。

だからこそ、ここで兵士たちに増援を食い止めて貰う役割は必要だ。

……それに、これなら万一俺たちが負けても全滅は免れる。そうすれば、手練れである彼らのうちの誰かから、また新しい『勇者』が生まれる可能性は高い。
兵士たちもそれに納得したのか、頷いてこたえる。


「分かりました、シイル殿、マルティナ殿、セドナ殿……短い間ですが、ありがとうございました」
「あなたたちと戦えたことは誇りです。……どうか、心置きなくロナを討ち取ってください」
「…………」


俺はそれには答えずに、ギイ……と扉を開けた。
いよいよ、最終決戦だ。
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