逢魔刻に氷菓を手折り

茉莉花 香乃

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黎明

09

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『見た目によらず、肝が据わってる』

これは尊の事を評して、誰もが口を揃えて云う言葉だ。尊にしてみれば、そんなことはないと思うが、ぐっすりと寝られたことがその証のようである。

親彬が来る前に、リンをリュックに戻す。

「もう少し様子を見てから紹介するからね」
「わかってるよ」

尊がこんなに大きくなっても、リンの尊に対する愛は変わらない。
ひとしが付いて来ることはできないが、リンならどこでも付いてきてくれる。平安時代にタイムトリップしなければならないとわかった時でも、それを受け止められたのはリンがいたからだ。リンと一緒なら大丈夫…だから、強くなれた。だって、一人じゃないんだ。話し相手がいるのは安心する。

「今日は、休みって云ってたよね?何もしないのかな?」
「どうだろうねぇ」
「このお屋敷の中、探検しても良いかな?」
「聞いてみたら良いよ」
「そうだね。ちかが主上や上皇さまに挨拶って云ってたけど、それって天皇陛下のことだよね?」
「そうだね」
「太政大臣って、総理大臣ってことかな?僕、テレビでしか見たことないよ。緊張する」
「優しい人たちだといいね」
「うん」

リンはリュックの中の服の上にちょこんと座り、覗き込む尊に返事した。

「尊?誰かと一緒なのか?」

格子を開け、部屋に入ってきた親彬は周りをキョロキョロ見回し、不審者の存在を探そうとする。声が聞こえたのか、几帳の陰にいやしないかと、バタバタと動く。勿論そこには尊しかいない。

パジャマにダウンを着て綿入れ単衣を肩に掛けて寒さに耐える尊を見て、慌てた親彬が火桶に真っ赤な炭をおこしてくれた。途端にジワリと暖かくなり、安堵の息を吐く。

現代人の尊はサッシに冷暖房完備の部屋で長年過ごし、自然対応能力ゼロである。

ブルブル震えながら火桶に縋る。女房〈尊は勉強してきた。これは親彬の奥さんではないと判断する〉に温石おんじゃくなるものを頼んでくれた。何?と聞くとどうやらカイロのようなものらしい。寒がり認定されたことに恥ずかしさかはあるが、暖かいのに越したことはない。
部屋に入って来た女房が寝具を片付けてくれた。尊の着ているものやリュックを物珍しそうに見るが、何も云わなかった。いい人たちである。
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