撫子の華が咲く

茉莉花 香乃

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姫と呼ばれています

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遂に、三条邸に来てしまった。

わたしの部屋を用意して下さっていて意外に歓迎されているのに嬉しく思う。

本当に後戻りはできなくなってしまった。

十二単衣のこの姿で右大臣さまに会うのは辛く、幾日かをやり過ごしたが、流石にもう無視できなくなってきた。

何しろ毎日のようにご機嫌窺いと来るのだから。

「何度もお見舞いに来て頂いたにも関わらず申し訳ございません」

わたしの挨拶にも疑問を持たず、内心『男とバレずに良かった。一先ず第一関門突破だ!』と思った。
それどころか「綺麗だ」「流石はあの人の娘だ」と褒めそやすのでいたたまれない。

姫さまの母君は確かに綺麗であった。
あちこちから求婚の文はあったと思うけれど、心動いたのがなぜ不実な右大臣さまだったのかはわたしには分からない。
わたしはまだ男と女の駆け引きと云うものには関係のない生活をしていたから。
姫さまの結婚相手もはっきり云って損得だけで決めてしまった。姫さまが気に入って下さり、また保憲さまも大事にして下さり良かったと思う。
まあ、賭けではある。

三条邸に来るに当たって『何の用意も要らない。全てこちらで準備するから』と云われていたけれど女房を二人連れてきた。

姉上と保憲さまの伝手で雇った日向、こちらも頼もしい。
それと、小百合がどうしても一緒に行きたいと云ったので連れてきた。

それから、保憲さまが用意したくし箱などの調度品と着物数点を『思い出の品なので』と持ち込んだ。
表向きはそう云うことにして、裏ではどのような待遇になるか分からないので、もしもの時のためにと姉上が保憲さまに用意させた。

これらは蒔絵の素晴らしいもので、美しい蔦の絵がいちめんに描かれた豪華なものや螺鈿がちりばめられたきらきらと光る綺麗なものがあり、姉上は喜んでいたが、もちろん別段思い出などあるはずもない。
いざとなれば……女は逞しい。付いて行こうと思った。

右大臣さまの言葉通り、生活するのになんの支障もないお支度がされていて、やはりここでも歓迎されているように思った。

着物も色とりどり用意してあり、男のわたしでもうっとりと見てしまったくらいだ。
姉上や日向は歓喜していた。
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