撫子の華が咲く

茉莉花 香乃

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結婚相手が決まりました

06

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日向なんか兼房さまを『ぼぅ~』と見惚れている。いつもテキパキとしているのに今日は挙動不振だ。

「ご気分が優れないと聞きましたが、如何ですか?」
「はい。ありがとうございます。こちらの皆さまがよくして下さるので、穏やかに過ごせております」
桔梗に取り次いでもらう。

右大臣さまには対面して、自らの声で挨拶もするが、貴族の娘は普通、生の声を聞かせない。わたしは姫などでは無いけれどやはり男の身がバレるのを怖れて桔梗に取り次いでもらった。

「次の宴ではわたしも琵琶の奏者に選ばれて、演奏するんだ。今日も練習をしてきたところなんだよ。ぜひ聴いて欲しいな」
「まあ、それは楽しみです」
「今までは別の屋敷で育ったとはいえ、あなたにとってわたしは兄なのだから、何かあったら頼って下さいね」
「はい。ありがとうございます」

当たり障りのない会話をしてお帰りになられた。


「近頃、三条邸の警護が厳しくなった」
と保憲さまは相談したいのになかなか来てくれなかった。外の様子がわからないので、話を聞きたいのにもどかしい。

そんな時「わたしが行ってきます」と云ってくれたのは小百合だった。

日向が何度も三条邸を出入りするよりは、小百合に行ってもらう方が目立たないのではないかと姉上も日向も云うのである。

小百合はもう二、三年もすれば女房として仕えてくれるだろうし、秘密を共有する数少ない同士である。不服などはないが、小さい頃より知っているので心配なだけだ。

わたしを慕ってくれているのは知っていた。

こんな姿になってしまっても変わらずにわたしへの思いは持ってくれているようで申し訳なく思う。

あのまま姫さまに仕えていれば、いずれは結婚していたかもしれない。
保憲さまに通ってもらえなくなって、元の生活には戻れなくなるかもしれない今となっては考えても詮無いことである。

ただ、あのままの生活でも果たしてわたしにさいを持つことができたかは甚だ疑問ではある。

何しろあの時の記憶がわたしの中でまざまざと思い出されて、一人寝のわたしを苛むのだ。

小百合を組み敷くよりもわたしは…


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