撫子の華が咲く

茉莉花 香乃

文字の大きさ
上 下
18 / 98
結婚相手が決まりました

08

しおりを挟む
☆★☆  ★☆★  ☆★☆


この頃、若い者が集まっているところでの話題は三条邸の宴の話ばかりらしい。

女房が今日もその噂で持ちきりだと云うから、殿上てんじょうの間で騒いでいる若い者たちをこちらに来るように申し付けた。

その話の中には当然三条邸の姫のことも含まれる。どこからその噂が出たかわからないけれど、『綺麗な姫』と文を出す者が後を絶たないらしい。

右大臣は、
『姫は六条にある別邸で育ちまして、三条邸でしばらく過ごさせたいと思っております』
と云っていた。

なので、女御の宣旨はまだだ。

三条邸の宴には何故か若い人が多く招かれていて、その誰もが、『わたしも文を出しました』と云うらしい。

右大臣は何を考えているのか?入内などしていらないと、女御はもう懲り懲りだと思うけれど、綺麗な人を見たいと思うし、『わたしのものだ』とどこかで思ってしまう。

後宮の女御たちは、煌びやかには遠い。華がないので若い人もあまり寄り付かない。今は相手を牽制するのに忙しいし、それぞれの女御に付いている女房がなんだか殺気だっている。

夜も誰が清涼殿(天皇の御殿)に召されるかを競っているので、どうも落ち着かなくてひとり寝の夜が続いている。
あちらを呼べば、こちらがヤイヤイと云うのである。

当然わたしの熱は冷めてゆく。


「観桜の宴とは風流だね」
「はい。先ごろ三条邸に移られた四の君がお元気になられるようにと右大臣兼道殿が急かされて、準備をしていらっしゃるとか。簾中にて聞いて下さるそうで、皆張り切っております」

左少弁さしょうべんが勢い込んで云ってくる。

「そなたも行くのか?」

隣に座る蔵人くろうどの少将に聞くと、
「勿論でございます。もし、招待されていないなら頭の中将兼房殿にお願いして、裏からでも入れてもらいますよ」

わたしの不機嫌さに気付きもせず皆、楽しそうである。

「わたくしも、笛の奏者に選ばれました」
と右近の少将が云ってくる。

忌々しい。

けれど、『四の君がお元気になられるように…』と云っていた。

大丈夫なのだろうか?

か弱き姫なのだろうか?

やはりわたしは後宮に上がるのを心待ちにしているようだ。


☆★☆  ★☆★  ☆★☆
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

私の婚約者は、いつも誰かの想い人

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:62,323pt お気に入り:4,070

ひとりじめ

BL / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:600

拾われた後は

BL / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:2,533

きみよ奇跡の意味を知れ 【本編完結・番外プチ連載5/14完結】

BL / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:144

孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話

BL / 連載中 24h.ポイント:61,167pt お気に入り:3,707

処理中です...