撫子の華が咲く

茉莉花 香乃

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華綻ぶは撫子

01

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☆★☆  ★☆★  ☆★☆


「撫子!今の話は本当なのかい?」
「あっ、主上…」

驚いた。

思わず桔梗と立ち上がり部屋の奥へと逃げる。

今の話を聞かれたのか?
帝がいつから聞いておられたのかわからない。

「桔梗、撫子と話がしたい」

桔梗は帝とわたしの間に入り両手を広げて守ってくれている。

「恐れながら、これ以上女御さまを傷付けることはいくら主上と云えど…」
「わかっているよ。ね え さ ま」
「えっ…」
「傷付けることなんてしない。信じて欲しい」

桔梗がこちらを見た。
手を握り、一度大きく頷くと勇気を与えるように微笑んだ。

「では、くれぐれもお頼み申します」

座り直し、帝に深々と一礼してから退出した。

わたしはまだ立ったままで、桔梗が退出して二人きりの部屋でどうすれば良いか思い悩んでいた。
内裏を抜け出す相談など、お咎めがあって然るべきなのだ。どのような罪になるのかと身体がふるふると震えてしまう。帝を裏切る相談を聞かれたと云う恐怖がわたしを襲う。
それでなくてももう既に騙していて、慈悲の心で許されている身には今回の裏切りは許されるものではない。

わたしの嘘に優しくして下さった帝に『耐えられない』と我儘を云ったのはわたしなのだから。

「撫子、おいで」

帝の手がわたしの手を捕まえて引き寄せられる。振りほどく事は出来ないけれど、素直に従う事も出来ない。けれど、帝の香りが優しくわたしを包み次第に力が抜けていった。

「お願いだ。わたしの側から離れないで」
「何を…」

抱きしめられて戸惑う。

小さな、内緒話でもするような、大事なものを守るような声が耳元で聞こえた。

「撫子、好きだよ」
「う、そ…。嘘、嘘…」
「嘘なんか云わないよ」
「だって…わたしは男なのに…」
「知ってるよ」
「そうでしたのなら、何故?…」
「何?」

泣き出してしまいそうだ。
云っても良いだろうか?

「……他の女御さまと……」
………過ごした夜に、同じように仰っていたのでしょう?
……わたしが好きだと囁きながら側に召されるのは何故わたしではないの?
…声にならない、わたしの気持ちは帝には届かない。

帝に何人も妃がいるのは入内する前から知っている。わたしがその中の一人に数えられないこともわかっている。言い訳も何もしなくて良いのに思わず『好きだ』と云って下さったことに甘えてしまいそうだ。
例えわたしが女の身でも帝をわたしだけの人にできないのに…。
例え帝に好きな人がいても誰がお側に居ようと何も云えないのに…。

そして、帝を裏切ろうとしていたのに…。
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