撫子の華が咲く

茉莉花 香乃

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華綻ぶは撫子

02

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「信じてくれるだろうか?あなたが飛香舎ひぎょうしゃに入られてから、あなた以外誰も抱いてはいないよ」
「…主上、そんな見え透いた嘘を…。そ、そんな嘘は…要らない。わ、わたしは…」
「いいよ。信じなくても、わたしが不実だったのは本当だから」

両手で頬を持たれて眼が合った。

至近距離にある帝の顔が更に近ずいて合わさる唇。

二度目の口付けは涙が次々に溢れた。嗚咽を堪えて震える唇に帝の唇が優しく触れて、唇から目尻、頬、そしてまた唇に…移動する度に心は凪いでいった。労わるように触れられて涙はようやく止まった。

「撫子、少し落ち着いた?」
「はい」
「では、座ろうか」

いつものように主座に帝がお座りになり向かい合う形で座ろうとするわたしの手を引いて、右近の少将と蔵人の少将の合奏を聞いた時の様に一緒に主座に上り、ゆるりと座られた。
けれど、帝の手はわたしから離れない。

「主上?」
「ここに、座れば良い」

ここに、と示された場所は帝の膝の上だった。

「あなたが、明日香を抱いているのをいつも羨ましく見ていたんだ」
「まあ、それならば明日香さまをお呼びになられたら如何ですか?」
「違うよ。わたしが明日香の様にあなたの膝に乗ることはできないから、わたしの膝にあなたが乗るんだよ」

手を引っ張っぱられて、帝の胸に飛び込んでしまった。

「申し訳ございません」
「これが良いんだ。…さて、話の続きだけど…。内裏を抜け出そうとしたの?」
「……はい」
「どうして?」
「あの…怒らないでいて下さいますか?」
「うーん、答えにもよるけど…多分怒らない」

正直に云った方が良いのかな?

帝はわたしを好きだと云って下さった。わたしも自分の気持ちを伝えても許されるだろうか?

「…わ、わたくしは男の身でありながら、主上を好きになってしまったのです。好きになった人には毎夜誰かがお側に添うていらっしゃる。わたくしはお側には行けない。この気持ちに気付いた時にはそれは辛うございました。いっそ…いえ…死ぬことは許さないと主上が仰ったので、それは出来ないと思い、抜け出そうと桔梗に相談しました」
「苦しめてしまったのだね。わたしは飛香舎から、或いは三条の大臣おとどから何か云われるんじゃ無いかと思っていた。わたしはずるいんだ。云って欲しかったのかな…」
「そんな…。わたくしは…そんなことは云える立場ではありません…。父上にも主上には『云わないで』とお願いしておりました…」
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