撫子の華が咲く

茉莉花 香乃

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華綻ぶは撫子

03

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「保憲だったかな…男の名が聞こえたけれど…」
「撫子姫の結婚相手です。この方とのことがなければ姫さまがこちらにいらっしゃってました」
「そうか。ではわたしは保憲に礼を云わなければな」
「…どう云う事でしょうか?」
「わたしはあなたを好きになったんだ。わかるだろう?」
「…はい」
「わかってないね。その姫が入内していたらあなたとは会えなかったんだよ」
「でも、主上は姫さまを好きになられていたかもしれないし…そうすると御子さまがお生まれになっていたかもしれないし…」

泣きそうだ…。

「私には基良と明日香がいる。他に御子はいらない。そうだな、あなたが姫ならと考えると…わからないけれど。今は二人が大切なんだよ。だから御子は良いんだ。撫子が皇子たちを大切にしてくれて嬉しいよ」
「はい。それはもう可愛らしくて、愛しくて…」
「妬けるね…」
「…?…宮さまたちはおとうさまが大好きでいらっしゃいますよ?」
「本当に…。わたしは撫子の一番になりたいんだ」
「主上…。勿論です」

顔は多分紅くなっているだろう。

熱が集まってくるのが分かって帝の肩に顔を埋めて隠そうとするけれど、
「あっ…」
「隠しちゃ駄目だよ」

顎を持たれて帝の親指がわたしの唇を…つっ…っとなぞっていく。

ドキドキとしてもうこれ以上恥ずかしく「お許しを…」と云うけれど、帝はわたしの顔をじっとご覧になって「わたしが一番なのかな?」と切なそうに仰るのを嬉しく思った。

「はい、一番です…。主上は?……他の女御さまにも同じように仰ってるんじゃないですか?」

思わず本音を云ってしまって、
「あっ、申し訳ございません。今のは…」
「撫子、信じてくれるまで何度でも云うよ。撫子だけだ。愛しているよ。…実は基良にも藤式部にも怒られたんだ…」
「まあ…」
「わたしの話はまたゆっくり聞かせてあげる。今は撫子のことだ。えっと、女の名が聞こえたけれど、あれは…」
「主上…全て聞こえていたのですか?」
「そうだね。始まりはわからないけれど、二人、結構大きな声だったよ」
「…あっ!」

桔梗に『誰に会いたい?誰に慰めて欲しいって思った?』って聞かれて『…主上だよ』と答えた。
もしかして…。

「いや…。意地悪です。知ってて聞くなんて…」
「大切なところは聞き取れなかったんだ。何と云ってたの?撫子から聞きたいんだ」
「知らない…」
「聞かせてくれないのか?誰に慰めて欲しいの?」
「……主上です」

恥かし過ぎる。

それから帝は、わたしがどうして後宮に来たのかを詳しくお尋ねになり、聞かれるままに答えた。
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