撫子の華が咲く

茉莉花 香乃

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華綻ぶは撫子

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撫子が愛しくて仕方がない。

夜に飛香舎ひぎょうしゃ(藤壺)を訪れる様になって、毎日行きたいのだけれど撫子が辛いだろうと日を開けて行っている。

「撫子、おいで」
「あっ、はい、待って、主上…」
「わたしが来ているのに、誰からの文を読んでいるの?」
「姫さまからの文です」
「ああ。なんと書いてあったの?」
「保憲さまに付いて任国に下られました。あちらで獲れたものを一緒に送って下さったようですよ。あと、小百合も一緒に行ったと書いてありました」
「そう、それは良かった」

小百合なんて名は聞きたくない。遠くに行って、帰って来なければ良いんだ。

後宮に上がらなければ結婚していたかもしれない相手のことなんて…撫子は気になるのだろうか?

こうして抱きしめられるのに何故か不安になる。

「主上?申し訳ございません。お気に触ったのならお許し下さい」

きっと何に機嫌が悪くなったのかわかっていない。おそらく『文を読んでいた』ことに怒っていると思ったのだろう文箱に戻している。

「小百合のことが気になるのか?」

自然と口調もきつくなる。

「…?…小百合ですか?別に…そうですね…元気にやってるならそれで…。姫さまの文によれば、あちらにも慣れてきているようですし…特には」

不意に振られた小百合と云う名に、今初めて考えたような答えに安堵した。以前もしつこく聞いたけれど、小百合からの思慕はただそれだけのようだ。

「兼道がまた持ってきたよ」

撫子が男であると知ってから、自分に男の恋人がいるのもバレているので、色々と云ってくる。
『主上、香油をお持ちしました』やら、撫子が辛くないようにするにはどうすれば良いか、から始まって様々なことを教えたがって困る。まあ、経験者から聞くのは最初のことがあるだけに『優しくしてあげたい』と思うわたしにはありがたいけれど。

舅として盤石な今、以前より若々しく見えるのは基良の後見としては心強い。

「はあ、またですか?…恥ずかしので、わたくしにはどうかそのような入手の経緯などお話にならないで…」
「でも、必要でしょう?なんだか良い匂いがするんだよ。早く試したい」

撫子を抱きしめ口付ける。
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