66 / 98
番外編ー弐 兼道の疑問
01
しおりを挟む
☆★☆ ★☆★ ☆★☆
「父上、宜しいですか?」
兼房が三条邸のわたしの部屋に入ってきた。
「父上…藤壺の女御さまのことなのですが…」
チラリと女房を見るので、聞いてはいけないことなのだと理解したのか、古参の気がきく女房はこちらを見て、わたしが頷くと他の若い女房を退出させた。
若い女房は兼房が入ってきて、何やら自分に向けて色を見せてくれたと思ったのか、なかなか従わない。それでも背中を押されて渋々出て行った。
近頃の若い女房は自分のことばかりを優先する。直ぐに文句を云うし、誰彼構わず、色目を使う。
客あしらいも上手くできぬのに自分の…いや、若い女房の愚痴など…わたしも老いたと云うことか?
古参の女房は自らも深々とお辞儀をしてから戸を閉めて退出した。
兼房には東宮を後見すると決めた時に女御さまの秘密を打ち明けた。そりゃ疑問に思うだろう。女御さまが皇子を授かるかもしれないと思っているだろうから、理由を云っておかなければならない。
「父上、先日藤壺の女御さまと対面させて頂きました。その時に…大君と三の君によく似ていると思ったのです。本当に父上の子どもではないのですか?」
撫子はわたしの子だが、藤壺の女御さまはわたしの子ではない。
「びっくりしましたよ。兄弟ではないと思っていたのに言葉が出てきませんでした」
兼房はひとしきり似ていると騒いで、退出した。よほど驚いたのだろう。
しかし…撫子の乳姉妹の弟と云うことはあの六条の屋敷で育ったのは間違いないのだ。
確かにこの屋敷に来てからも後宮で会っている時も似ていると思っていた。
しかし、わたしの子だと思っていたのだから疑問には思わないだろう。
では、わたしの子ではないのなら…。
六条の屋敷にいた撫子の乳母は綺麗だった。
その乳母とは何度か交わったことがある。
撫子を産んだ後、あの人は床に臥すことが多かった。屋敷に赴き、見舞うとそのまま留まることもあった。
酒の用意をして、酌をしてくれたのが乳母だった。
「御方さまに申し訳ないです」
とわたしを拒むようになりしばらくすると子を身籠り、そして産んだ。
それは、桔梗の弟…惟忠だった。
何度も聞いた「わたしの子ではないのか?」と。
しかし、答えはいつも「違います」と云う返事しかしなかった。
そう云われてしまえば頷くしか出来ない。
「父上、宜しいですか?」
兼房が三条邸のわたしの部屋に入ってきた。
「父上…藤壺の女御さまのことなのですが…」
チラリと女房を見るので、聞いてはいけないことなのだと理解したのか、古参の気がきく女房はこちらを見て、わたしが頷くと他の若い女房を退出させた。
若い女房は兼房が入ってきて、何やら自分に向けて色を見せてくれたと思ったのか、なかなか従わない。それでも背中を押されて渋々出て行った。
近頃の若い女房は自分のことばかりを優先する。直ぐに文句を云うし、誰彼構わず、色目を使う。
客あしらいも上手くできぬのに自分の…いや、若い女房の愚痴など…わたしも老いたと云うことか?
古参の女房は自らも深々とお辞儀をしてから戸を閉めて退出した。
兼房には東宮を後見すると決めた時に女御さまの秘密を打ち明けた。そりゃ疑問に思うだろう。女御さまが皇子を授かるかもしれないと思っているだろうから、理由を云っておかなければならない。
「父上、先日藤壺の女御さまと対面させて頂きました。その時に…大君と三の君によく似ていると思ったのです。本当に父上の子どもではないのですか?」
撫子はわたしの子だが、藤壺の女御さまはわたしの子ではない。
「びっくりしましたよ。兄弟ではないと思っていたのに言葉が出てきませんでした」
兼房はひとしきり似ていると騒いで、退出した。よほど驚いたのだろう。
しかし…撫子の乳姉妹の弟と云うことはあの六条の屋敷で育ったのは間違いないのだ。
確かにこの屋敷に来てからも後宮で会っている時も似ていると思っていた。
しかし、わたしの子だと思っていたのだから疑問には思わないだろう。
では、わたしの子ではないのなら…。
六条の屋敷にいた撫子の乳母は綺麗だった。
その乳母とは何度か交わったことがある。
撫子を産んだ後、あの人は床に臥すことが多かった。屋敷に赴き、見舞うとそのまま留まることもあった。
酒の用意をして、酌をしてくれたのが乳母だった。
「御方さまに申し訳ないです」
とわたしを拒むようになりしばらくすると子を身籠り、そして産んだ。
それは、桔梗の弟…惟忠だった。
何度も聞いた「わたしの子ではないのか?」と。
しかし、答えはいつも「違います」と云う返事しかしなかった。
そう云われてしまえば頷くしか出来ない。
11
あなたにおすすめの小説
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
彼はオタサーの姫
穂祥 舞
BL
東京の芸術大学の大学院声楽専攻科に合格した片山三喜雄は、初めて故郷の北海道から出て、東京に引っ越して来た。
高校生の頃からつき合いのある塚山天音を筆頭に、ちょっと癖のある音楽家の卵たちとの学生生活が始まる……。
魅力的な声を持つバリトン歌手と、彼の周りの音楽男子大学院生たちの、たまに距離感がおかしいあれこれを描いた連作短編(中編もあり)。音楽もてんこ盛りです。
☆表紙はtwnkiさま https://coconala.com/users/4287942 にお願いしました!
BLというよりは、ブロマンスに近いです(ラブシーン皆無です)。登場人物のほとんどが自覚としては異性愛者なので、女性との関係を匂わせる描写があります。
大学・大学院は実在します(舞台が2013年のため、一部過去の学部名を使っています)が、物語はフィクションであり、各学校と登場人物は何ら関係ございません。また、筆者は音楽系の大学・大学院卒ではありませんので、事実とかけ離れた表現もあると思います。
高校生の三喜雄の物語『あいみるのときはなかろう』もよろしければどうぞ。もちろん、お読みでなくても楽しんでいただけます。
握るのはおにぎりだけじゃない
箱月 透
BL
完結済みです。
芝崎康介は大学の入学試験のとき、落とした参考書を拾ってくれた男子生徒に一目惚れをした。想いを募らせつつ迎えた春休み、新居となるアパートに引っ越した康介が隣人を訪ねると、そこにいたのは一目惚れした彼だった。
彼こと高倉涼は「仲良くしてくれる?」と康介に言う。けれど涼はどこか訳アリな雰囲気で……。
少しずつ距離が縮まるたび、ふわりと膨れていく想い。こんなに知りたいと思うのは、近づきたいと思うのは、全部ぜんぶ────。
もどかしくてあたたかい、純粋な愛の物語。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
雪解けを待つ森で ―スヴェル森の鎮魂歌(レクイエム)―
なの
BL
百年に一度、森の魔物へ生贄を捧げる村。
その年の供物に選ばれたのは、誰にも必要とされなかった孤児のアシェルだった。
死を覚悟して踏み入れた森の奥で、彼は古の守護者である獣人・ヴァルと出会う。
かつて人に裏切られ、心を閉ざしたヴァル。
そして、孤独だったアシェル。
凍てつく森での暮らしは、二人の運命を少しずつ溶かしていく。
だが、古い呪いは再び動き出し、燃え盛る炎が森と二人を飲み込もうとしていた。
生贄の少年と孤独な獣が紡ぐ、絶望の果てにある再生と愛のファンタジー
雪を溶かすように
春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。
和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。
溺愛・甘々です。
*物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています
リンドグレーン大佐の提案
高菜あやめ
BL
軍事国家ロイシュベルタの下級士官テオドアは、軍司令部のカリスマ軍師リンドグレーン大佐から持ちかけられた『ある提案』に応じ、一晩その身をゆだねる。
一夜限りの関係かと思いきや、大佐はそれ以降も執拗に彼に構い続け、次第に独占欲をあらわにしていく。
叩き上げの下士官と、支配欲を隠さない上官。上下関係から始まる、甘くて苛烈な攻防戦。
【支配系美形攻×出世欲強めな流され系受】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる