撫子の華が咲く

茉莉花 香乃

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番外編ー弐 兼道の疑問

01

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「父上、宜しいですか?」

兼房が三条邸のわたしの部屋に入ってきた。

「父上…藤壺の女御さまのことなのですが…」

チラリと女房を見るので、聞いてはいけないことなのだと理解したのか、古参の気がきく女房はこちらを見て、わたしが頷くと他の若い女房を退出させた。
若い女房は兼房が入ってきて、何やら自分に向けて色を見せてくれたと思ったのか、なかなか従わない。それでも背中を押されて渋々出て行った。

近頃の若い女房は自分のことばかりを優先する。直ぐに文句を云うし、誰彼構わず、色目を使う。
客あしらいも上手くできぬのに自分の…いや、若い女房の愚痴など…わたしも老いたと云うことか?

古参の女房は自らも深々とお辞儀をしてから戸を閉めて退出した。

兼房には東宮を後見すると決めた時に女御さまの秘密を打ち明けた。そりゃ疑問に思うだろう。女御さまが皇子を授かるかもしれないと思っているだろうから、理由を云っておかなければならない。

「父上、先日藤壺の女御さまと対面させて頂きました。その時に…大君と三の君によく似ていると思ったのです。本当に父上の子どもではないのですか?」

撫子はわたしの子だが、藤壺の女御さまはわたしの子ではない。

「びっくりしましたよ。兄弟ではないと思っていたのに言葉が出てきませんでした」

兼房はひとしきり似ていると騒いで、退出した。よほど驚いたのだろう。

しかし…撫子の乳姉妹の弟と云うことはあの六条の屋敷で育ったのは間違いないのだ。

確かにこの屋敷に来てからも後宮で会っている時も似ていると思っていた。
しかし、わたしの子だと思っていたのだから疑問には思わないだろう。

では、わたしの子ではないのなら…。

六条の屋敷にいた撫子の乳母は綺麗だった。
その乳母とは何度か交わったことがある。

撫子を産んだ後、あの人は床に臥すことが多かった。屋敷に赴き、見舞うとそのまま留まることもあった。

酒の用意をして、酌をしてくれたのが乳母だった。

「御方さまに申し訳ないです」
とわたしを拒むようになりしばらくすると子を身籠り、そして産んだ。

それは、桔梗の弟…惟忠だった。

何度も聞いた「わたしの子ではないのか?」と。

しかし、答えはいつも「違います」と云う返事しかしなかった。

そう云われてしまえば頷くしか出来ない。
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