撫子の華が咲く

茉莉花 香乃

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番外編ー四 誰の疑問?

03

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そして、兼道さまの腕の中…。

「にゃぁぁんにゃにゃん」『ここに居る惟忠があなたの子ですよ』

あの頃と同じ香りは懐かしく、惟忠を身籠ってからは側に寄ることはなかったその温もりは安心する。

もうわたしの言葉が兼道さまに届くことはないとわかってしまったけれど、一度も会わせることがなかった息子のことを伝えたかった。

「父上に抱かれている時が一番嬉しそうにしていますね?なんだか父上に一目惚れしたみたいですよ」
「そう云えば、その猫を拾った直ぐも右大臣さまには何か伝えようとするようににゃんにゃんとよく鳴いていましたね」
「ところで名は決まったのですか?」
「ぼくが決めるの!」
「明日香、決められるのか?」
「兄さま!大丈夫だよ」
「兼道が好きなら『三条』とかでも良いんじゃないかな」
「兄さま!ぼくが決めるのに!」
「なんだか女房名みたいですね」
「人なら兼道に仕えたいんじゃないのかな?」
「にゃん!」『はい!』
「あははっ、返事してるよ」
「もう!兄さま」

わたしの名は『三条』に決まったようだ。

幼い宮さまは自分で名を付けられなかったことをしばらく怒っていらっしゃったけれど、宥めるように頬を舐めると次第に機嫌を直されて遊び始められた。


わたしは梨壺に住み、ご主人は宮さまだ。

お世話をしてくれるのは梨壺に仕えている女房で、兼道さまも梨壺によくいらっしゃるので楽しみだ。
宮さまたちは惟忠を慕っているようで、わたしも度々連れて行ってくれる。

惟忠は何故か撫子姫さまの代わりに女御として入内して、何故か帝の寵愛を一身に受け幸せにしている。
桔梗も忙しそうにしているけれど、充実しているのか生き生きとしている。

どうやら兼道さまは惟忠が自分の子だとおわかりの様子で良かった。

ここに居れば、雨風も寒さもしのげるし、食べ物の心配もいらない。
歩くことがないほど抱いて連れまわされる。……たまに逃げ出して、日向ぼっこをしたりするけれど。

愛しい人と子供たちと会えるここはわたしにとってはこの上ない場所だ。
たまに帝も抱っこして下さる。なんということだろう。最高位の人に大切にされて腕に抱かれるなんて都で一番幸せな猫なのではないだろうか?


日が経つにつれて前世の記憶が薄れゆくけれど、大事にされてここでの生活は云うことない。

「にゃん、にゃぁぁん?」『惟忠、幸せかい?』
「はい、かあさま」


☆★☆  ★☆★  ☆★☆

おわり
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