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番外編ー伍 それぞれの未来 《麗景殿の女御編》
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それでも後宮はその夜、いつもとは様子が違い騒がしかった。
飛香舎は麗景殿とは離れているのでその様子はわからないけれど、清涼殿も時間を追うごとに騒がしく、ただ猫に驚いたのではなかったのだろうと思われた。
帝が危険が無いと仰ったなら怨霊が出たと云うことでも、夜盗の類でもないのだろうけれど、それならば何があったのかは、いくら話していても答えは出なかった。
翌日、午後も遅い時間に父上が飛香舎にお見えになった。
帝は今日はこちらにお渡りではなく忙しくされているようだ。
「…麗景殿に行ってもらわなくてよくなりました」
「父上、どういうことでしょうか?憂いが無くなったと云うことですか?」
「いや…里に戻られることになりました」
「ああ、気分転換に里下がりされるのですね」
「まあ、名目は妹姫のお見舞いと云うことになります」
「…?…どう云うことでしょう?」
「失礼致します。…お殿さま昨晩のことが何か関係しているのですね。猫に驚いたと云うのはやはり偽りだったのですね?」
部屋の隅に控えていた衛門が父上を見た。
「ああ、それは…」
父上はちらっと衛門を見ると、衛門は心得たとばかりに他の女房を下がらせて人払いをした。
部屋の戸を閉めて三人になると、まるで三条のお屋敷で入内の話にどのようにするか相談していた時と同じような光景に思わず頬が緩んでしまった。
「女御さま?如何されました?」
衛門が不思議そうに聞いてくるが「なんでもないよ」としか云えない。
しかし、微笑ましい空気は父上から聞いた話で吹き飛んでしまった。
「実は昨晩、六条大納言は以前より様子のおかしな自分の娘を気遣って、自ら宿直をしていたところ、男が女御さまの部屋に忍んで来たのを取り押さえたのです。その事はそれで問題なのですが、その男は女御さまのところに以前より通っていて、女御さまも…」
「待っていらっしゃったと…」
「はい…」
「それはいつから?」
「昨年の秋あたりかと」
「……」
「女御さま?…女御さまの所為ではございませんよ」
「でも…」
「到底、あってはならないことです」
「それはわかってる。でも…」
「罪業深きことです」
「……」
「…でも、男と女とは当人同士でしかわからない機微がございます。まあ、こちらの女御さまは…」
「衛門…」
父上がたしなめて下さったけれど、それどころではない。
「体調と云うのは?どこかお悪いのですか?」
「それが…あってはならない事なのですが、麗景殿さまは御懐妊されていると…」
「まあ…それは…」
「そうなのです。その男の子だと思われます」
「それで、里下がりですか…」
「はい…後宮にはお戻りになれないのです。六条大納言は出家いたしました。女御も尼にすると怒っていたけれど、それは色々と問題があってね…」
「その相手の方は如何されたのですか?」
「島流しが妥当かと思われますが、主上が表沙汰にはしないようにと仰せになり、今は自宅で謹慎しております」
「そうですか…主上は、今はどちらに?」
「御帳台の奥に御隠れになられて…」
「衛門、これから清涼殿へ参ります」
父上はくれぐれも話が漏れないようにと念を押して退出された。
清涼殿へ行くと、女蔵人と一条が待っていてくれた。
「憔悴されていて、お声をかけることも憚られて…」
こんなことは初めてなのか女蔵人が困惑しているのがわかる。
「主上…撫子です」
声をかけるも返事はない。
そろりと入ると背中が見えた。
思わず背中に抱き付いて、帝を包むように抱きしめた。
飛香舎は麗景殿とは離れているのでその様子はわからないけれど、清涼殿も時間を追うごとに騒がしく、ただ猫に驚いたのではなかったのだろうと思われた。
帝が危険が無いと仰ったなら怨霊が出たと云うことでも、夜盗の類でもないのだろうけれど、それならば何があったのかは、いくら話していても答えは出なかった。
翌日、午後も遅い時間に父上が飛香舎にお見えになった。
帝は今日はこちらにお渡りではなく忙しくされているようだ。
「…麗景殿に行ってもらわなくてよくなりました」
「父上、どういうことでしょうか?憂いが無くなったと云うことですか?」
「いや…里に戻られることになりました」
「ああ、気分転換に里下がりされるのですね」
「まあ、名目は妹姫のお見舞いと云うことになります」
「…?…どう云うことでしょう?」
「失礼致します。…お殿さま昨晩のことが何か関係しているのですね。猫に驚いたと云うのはやはり偽りだったのですね?」
部屋の隅に控えていた衛門が父上を見た。
「ああ、それは…」
父上はちらっと衛門を見ると、衛門は心得たとばかりに他の女房を下がらせて人払いをした。
部屋の戸を閉めて三人になると、まるで三条のお屋敷で入内の話にどのようにするか相談していた時と同じような光景に思わず頬が緩んでしまった。
「女御さま?如何されました?」
衛門が不思議そうに聞いてくるが「なんでもないよ」としか云えない。
しかし、微笑ましい空気は父上から聞いた話で吹き飛んでしまった。
「実は昨晩、六条大納言は以前より様子のおかしな自分の娘を気遣って、自ら宿直をしていたところ、男が女御さまの部屋に忍んで来たのを取り押さえたのです。その事はそれで問題なのですが、その男は女御さまのところに以前より通っていて、女御さまも…」
「待っていらっしゃったと…」
「はい…」
「それはいつから?」
「昨年の秋あたりかと」
「……」
「女御さま?…女御さまの所為ではございませんよ」
「でも…」
「到底、あってはならないことです」
「それはわかってる。でも…」
「罪業深きことです」
「……」
「…でも、男と女とは当人同士でしかわからない機微がございます。まあ、こちらの女御さまは…」
「衛門…」
父上がたしなめて下さったけれど、それどころではない。
「体調と云うのは?どこかお悪いのですか?」
「それが…あってはならない事なのですが、麗景殿さまは御懐妊されていると…」
「まあ…それは…」
「そうなのです。その男の子だと思われます」
「それで、里下がりですか…」
「はい…後宮にはお戻りになれないのです。六条大納言は出家いたしました。女御も尼にすると怒っていたけれど、それは色々と問題があってね…」
「その相手の方は如何されたのですか?」
「島流しが妥当かと思われますが、主上が表沙汰にはしないようにと仰せになり、今は自宅で謹慎しております」
「そうですか…主上は、今はどちらに?」
「御帳台の奥に御隠れになられて…」
「衛門、これから清涼殿へ参ります」
父上はくれぐれも話が漏れないようにと念を押して退出された。
清涼殿へ行くと、女蔵人と一条が待っていてくれた。
「憔悴されていて、お声をかけることも憚られて…」
こんなことは初めてなのか女蔵人が困惑しているのがわかる。
「主上…撫子です」
声をかけるも返事はない。
そろりと入ると背中が見えた。
思わず背中に抱き付いて、帝を包むように抱きしめた。
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