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番外編ー六 それぞれの未来 《桔梗編》
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「…女御さま、一人でうろうろと出歩かないで下さい。先ほど物音がしたもの…だ!、誰ですか!?」
「桔梗…静かに!」
「えっ…に、女御さま!?…き、桔梗さん…」
「!…あっ」
「桔梗!」
なおも叫びだしそうな二人に何とか黙ってもらう。
「桔梗、几帳を」
「女御さま、ここにはそのようなものありませんよ。寂しいからと、ご自分の部屋からうろうろと一人で動かないで下さい」
「ああ、はい、わかりました。あの部屋は何故か落ち着かなかったのです」
「…あの…こちらは…女御さまで…」
「そう云えば!そなたは!」
「この者は桔梗のことを知っているようね?桔梗は知ってるの?」
「はい。弘徽殿の女御さまの弟君でございます」
「まあ、弘徽殿の…。それで、この部屋が桔梗の部屋だとわかった上で来られたのですね?」
「…はい。申し訳…」
「あら、申し訳ないことをしに来られたのですか?」
「えっ…いえ…まあ…できれば…あっ、いえ」
「わたくしは邪魔のようですね。桔梗、戻ります」
「はい」
一緒に行こうとする桔梗に、
「いいえ、一人で帰ります」
「そう云う訳には」
「ここにも一人で来たのですから」
「それが問題ですから」
「せっかく来て頂いたのに、弘徽殿さまの弟君を待たせておくのは駄目ですよ。ねえ?」
未だ床と仲良くしている人に話を振るとがばっと顔を上げた。
「俺…わ、わたくしはもう…」
「あら、用事があったのでしょう?思わぬ無粋な邪魔をしてしまい、悪かったわね」
「に、女御さま」
情けない声を出す姉の耳元で、「文でも貰ったの?」と聞くと小さく首を縦に振る。
わたしの話になると結構大胆に振る舞うのになんと生娘のように真っ紅になって俯いている。
「どんな文だったの?」
「どんなって…」
「何度も貰ったの?」
「いいえ…一度だけ」
わたしは恋の文を出したことがない。
女として貰ったことはあるらしいけれど、見せて貰ってはいない。
「ねえ?」
「お歌が…」
「そう…弘徽殿さまの弟君と云うことは随分お若いんだね?」
「確か元服なされてそう日は経っていないと思います。本当に二人きりにさせるの?惟…女御さま。酷い」
今にも泣きそうだ。
「歳上としての威厳を見せて軽くあしらってみたら?」
「そ、そのような!」
「声が大きいよ」
床とはもう喧嘩別れしたのかわたしたちの会話を聞こうとしているのか、こちらをちらちらと伺うさまはやはりまだ幼く見える。
「わたしがそんな経験ないの知ってるでしょ?」
「えっ…知らないよ。そうなの?」
こくんと頷く、普段は何事もてきぱきとこなす如才ない姉を不思議な気持ちで見た。
そうなのか?
そうか…ずっとわたしの側から離れなかった。いや…わたしが離さなかった。
みんなに守られていることは理解していても、やはり一番は桔梗に頼ってしまう。主に心の部分はどうしても…そこに居てくれるだけでいいんだ。
呼べば「はい」と返事をくれる距離に居ると思うだけで安心する。
「ごめんね…」
「桔梗…静かに!」
「えっ…に、女御さま!?…き、桔梗さん…」
「!…あっ」
「桔梗!」
なおも叫びだしそうな二人に何とか黙ってもらう。
「桔梗、几帳を」
「女御さま、ここにはそのようなものありませんよ。寂しいからと、ご自分の部屋からうろうろと一人で動かないで下さい」
「ああ、はい、わかりました。あの部屋は何故か落ち着かなかったのです」
「…あの…こちらは…女御さまで…」
「そう云えば!そなたは!」
「この者は桔梗のことを知っているようね?桔梗は知ってるの?」
「はい。弘徽殿の女御さまの弟君でございます」
「まあ、弘徽殿の…。それで、この部屋が桔梗の部屋だとわかった上で来られたのですね?」
「…はい。申し訳…」
「あら、申し訳ないことをしに来られたのですか?」
「えっ…いえ…まあ…できれば…あっ、いえ」
「わたくしは邪魔のようですね。桔梗、戻ります」
「はい」
一緒に行こうとする桔梗に、
「いいえ、一人で帰ります」
「そう云う訳には」
「ここにも一人で来たのですから」
「それが問題ですから」
「せっかく来て頂いたのに、弘徽殿さまの弟君を待たせておくのは駄目ですよ。ねえ?」
未だ床と仲良くしている人に話を振るとがばっと顔を上げた。
「俺…わ、わたくしはもう…」
「あら、用事があったのでしょう?思わぬ無粋な邪魔をしてしまい、悪かったわね」
「に、女御さま」
情けない声を出す姉の耳元で、「文でも貰ったの?」と聞くと小さく首を縦に振る。
わたしの話になると結構大胆に振る舞うのになんと生娘のように真っ紅になって俯いている。
「どんな文だったの?」
「どんなって…」
「何度も貰ったの?」
「いいえ…一度だけ」
わたしは恋の文を出したことがない。
女として貰ったことはあるらしいけれど、見せて貰ってはいない。
「ねえ?」
「お歌が…」
「そう…弘徽殿さまの弟君と云うことは随分お若いんだね?」
「確か元服なされてそう日は経っていないと思います。本当に二人きりにさせるの?惟…女御さま。酷い」
今にも泣きそうだ。
「歳上としての威厳を見せて軽くあしらってみたら?」
「そ、そのような!」
「声が大きいよ」
床とはもう喧嘩別れしたのかわたしたちの会話を聞こうとしているのか、こちらをちらちらと伺うさまはやはりまだ幼く見える。
「わたしがそんな経験ないの知ってるでしょ?」
「えっ…知らないよ。そうなの?」
こくんと頷く、普段は何事もてきぱきとこなす如才ない姉を不思議な気持ちで見た。
そうなのか?
そうか…ずっとわたしの側から離れなかった。いや…わたしが離さなかった。
みんなに守られていることは理解していても、やはり一番は桔梗に頼ってしまう。主に心の部分はどうしても…そこに居てくれるだけでいいんだ。
呼べば「はい」と返事をくれる距離に居ると思うだけで安心する。
「ごめんね…」
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