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番外編ー六 それぞれの未来 《桔梗編》
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言い淀むことが増えれば誤解を招き、有らぬ疑いから仲が壊れるかもしれない。
もしわたしが原因でそのようなことになれば桔梗に申し訳ない。わたしの保身の為に吐いた嘘が後々桔梗の枷にならないようにしなければ。
勿論、ほんの遊びのつもりならいくら内大臣家の子息であろうと追い出して二度と桔梗に近寄れないようにするつもりだ。
「女御さま…お連れ致しました」
桔梗の声にこれからのことを考えていたわたしは驚いてしまった。
兄上はどこか悪戯が見つかった幼児のようにこめかみの辺りを指でポリポリと掻きながら現れた。
「兄上、男前が台無しですよ」
茶化すように云うと「女御さまには敵わないな」と『はあぁ』と深いため息をつかれた。
「少し、お話を聞いていただけますか?」
先ほどの失敗から部屋を変えようとすると、桔梗は嫌がった。二人で話している間、為佐の相手をするのは桔梗だから。しかし、為佐のことを兄上に聞かなくてはならない。
わたしのことをどこまで打ち明けるかは、兄上の言葉次第だ。
兄上によると、為佐は弘徽殿さまの直ぐ下の弟君で、先ほど本人が云っていた通り、わたしが梨壺に渡った時に桔梗を見初めたそうだ。一度飛香舎にも来ていて、兄上の琵琶と笛の合奏しようと思ったところ運悪く右近の少将が顔を見せたので、左京の亮である為亮は遠慮したと云う。
覚えていないけれど…。
「内大臣家の若君がなにゆえ…為亮は本気なのでしょうか?」
「そうですね。遊びでは無いとは思いますよ。わたしがまるきり遊びだと思ったら女御さまの大切になさっている方の所に手引きなどしませんよ」
「でも、桔梗は文を一度しか貰ってないと云ってました。あまり誠意がある対応とは思えませんが?」
「為佐殿は飛香舎に伝がないのでは?それに桔梗は女御さまの近くに控えていることが多いからね」
それはそうかもしれない。弘徽殿さまの手前、大胆に振る舞うこともできなかったのもわかる。
「兄上はどう思われますか?」
わたしの秘密について自分の考えを伝えると頷いてくれた。
「全て明かすか、何も云わないか…どちらかだろうね。もし、秘密を全て明かしたとしても、為佐殿が直ちに父君に報告されるとも思いませんが…。もう少し様子を見ると云うことではいけませんか?お互い、相性もあるでしょうし」
「桔梗が遊ばれるだけなのは嫌です」
「本当に仲の良い姉弟ですね」
「まあ、はい」
先ほどの『だって、十二単衣姿が見たかったんだもん』発言が言葉を濁らせたけれど大切な姉に変わりはない。
「時に兄上」
「はい、何でしょう?」
「今回、三条邸でこのように二人きりで話していたことは主上には内密にして頂けますか?」
「はい、構いませんが?なにゆえに女御さまが気になさるのですか?もしや、わたくしに…」
「えっ?兄上に…?いえ、違います。主上が兄上のことを気にしておいでなので、有らぬ疑いを持たれると鬱陶しいと云うか、邪魔くさいと云うか…」
もしわたしが原因でそのようなことになれば桔梗に申し訳ない。わたしの保身の為に吐いた嘘が後々桔梗の枷にならないようにしなければ。
勿論、ほんの遊びのつもりならいくら内大臣家の子息であろうと追い出して二度と桔梗に近寄れないようにするつもりだ。
「女御さま…お連れ致しました」
桔梗の声にこれからのことを考えていたわたしは驚いてしまった。
兄上はどこか悪戯が見つかった幼児のようにこめかみの辺りを指でポリポリと掻きながら現れた。
「兄上、男前が台無しですよ」
茶化すように云うと「女御さまには敵わないな」と『はあぁ』と深いため息をつかれた。
「少し、お話を聞いていただけますか?」
先ほどの失敗から部屋を変えようとすると、桔梗は嫌がった。二人で話している間、為佐の相手をするのは桔梗だから。しかし、為佐のことを兄上に聞かなくてはならない。
わたしのことをどこまで打ち明けるかは、兄上の言葉次第だ。
兄上によると、為佐は弘徽殿さまの直ぐ下の弟君で、先ほど本人が云っていた通り、わたしが梨壺に渡った時に桔梗を見初めたそうだ。一度飛香舎にも来ていて、兄上の琵琶と笛の合奏しようと思ったところ運悪く右近の少将が顔を見せたので、左京の亮である為亮は遠慮したと云う。
覚えていないけれど…。
「内大臣家の若君がなにゆえ…為亮は本気なのでしょうか?」
「そうですね。遊びでは無いとは思いますよ。わたしがまるきり遊びだと思ったら女御さまの大切になさっている方の所に手引きなどしませんよ」
「でも、桔梗は文を一度しか貰ってないと云ってました。あまり誠意がある対応とは思えませんが?」
「為佐殿は飛香舎に伝がないのでは?それに桔梗は女御さまの近くに控えていることが多いからね」
それはそうかもしれない。弘徽殿さまの手前、大胆に振る舞うこともできなかったのもわかる。
「兄上はどう思われますか?」
わたしの秘密について自分の考えを伝えると頷いてくれた。
「全て明かすか、何も云わないか…どちらかだろうね。もし、秘密を全て明かしたとしても、為佐殿が直ちに父君に報告されるとも思いませんが…。もう少し様子を見ると云うことではいけませんか?お互い、相性もあるでしょうし」
「桔梗が遊ばれるだけなのは嫌です」
「本当に仲の良い姉弟ですね」
「まあ、はい」
先ほどの『だって、十二単衣姿が見たかったんだもん』発言が言葉を濁らせたけれど大切な姉に変わりはない。
「時に兄上」
「はい、何でしょう?」
「今回、三条邸でこのように二人きりで話していたことは主上には内密にして頂けますか?」
「はい、構いませんが?なにゆえに女御さまが気になさるのですか?もしや、わたくしに…」
「えっ?兄上に…?いえ、違います。主上が兄上のことを気にしておいでなので、有らぬ疑いを持たれると鬱陶しいと云うか、邪魔くさいと云うか…」
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