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もう一度、ホワイトデー
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アキ…、晃典にバレンタインデーに呼び出された。
待ち合わせ場所にいたのはアキと一人の女子だった。
突き出した震えるチョコに、わけがわからずアキを見た。
そりゃ、そうか。
何勘違いしてるんだ。
「悪い。俺はこいつに頼まれてさ。これは俺から…じゃあ」
一応チョコはもらえたけど、こんな軽い感じで渡されたチョコが本命なわけないか。それに、どう見てもこの子の付き添い。いつも一緒に部活の練習とか試合を見にきてくれてた。
アキと同じ中学出身のクラスメイトが付き合ってるとかはないって言ってた。
『あれは女子同士って感じだね。晃典は嫌がってるけど、最後は折れてるし、結構楽しんでる感じ』
仲良いよって聞くと複雑な気分だったけど、絶対付き合ってないと笑ってたからそうなんだろう。
去り際のアキの辛そうな表情は、友だちが自分から離れてしまうことへの寂しさなのか?それとも、このチョコが気持ちの表れなのか?
「ごめん。俺、好きな子がいるんだ」
一人になり不安そうな、目の前の女子に断りの言葉を告げる。アキは智子と呼んでいた。
「そ、そ…なんだ。うん…。そうだよね。でも、チョコは…」
「うん。折角だし、それはもらうよ。ありがと」
「あの、神部くん。アキのチョコももらってあげて」
「ああ、これ?」
「うん。あの子の気持ちだから。できれば、返事してあげて」
その言葉が理解できなかった。
それでもとりあえず、また待ち合わせ場所を決めてそこへ向かう。アキへの連絡はしてくれるそうだ。大体俺には連絡方法がない。
「……友チョコだと思ってよ」
その言葉を絞り出すように言われると期待してしまう。ここはパン屋の前で、遅い時間にも関わらず駅前だからかお客は少なくない。もう少し落ち着いて話したかったから場所を変えた。おとなしく着いてきてくれる。
「悪かったって」
努めて明るく紡がれる言葉はどこか寂しげで、俺は賭けに出た。
「……俺、お前だったから今日、約束したんだ」
すると、戸惑いと喜びの表情がパッと明るく華やぐ。
「本命チョコならどうする?」
やっと本音を口にしたのか、今日初めて見た可愛い笑顔だった。
この笑顔が好きなんだ。
いつも女子と一緒にいて変なヤツって思って見てたけど、いつの間にか気になってた。一緒にいる女子は気にならないのに何故かアキばかり目で追ってた。
アキと付き合い始めて一ヶ月。今日はホワイトデー。板チョコのお返しをしたかった。
アキはこんなことなら板チョコじゃなくてもっとちゃんとしたの買えばよかったと言ってたけど俺はこれでよかった。
付き合いだしたと言っても俺は部活があるのでなかなか会えない。連絡先を交換してもっぱらスマホでのやり取り。
でも、学年末考査の間は一緒に過ごすことができた。と言っても、試験前でも基礎練習はあるので一緒には帰れない。
俺の家はアキの家より遠い。電車やバスでは不便なので、ちょっと遠いけど自転車通学。けど自転車だからアキの家にも寄って帰れる。2月14日に家を教えてもらった。
部活が終わりパンを買ってアキの家まで行く。優しそうなお母さんが迎えてくれた。
「まあ、パンが晩御飯?育ち盛りなんだからちゃんと食べないとダメよ!残りものでよかったら食べてって」
晃典が男の子を連れてきたことないから嬉しいのと喜ばれると複雑な気持ちだ。まさか付き合ってるとは思ってないだろうから、普通に勉強すると思ってるだろう。二重の申し訳なさに恐縮する。
アキの部屋で食べるかと聞かれたけど、それはできないと一緒に食べさせてもらった。下宿してる大学生のお姉さんの椅子を借りてアキの隣で食べる。おじさんはまだ帰ってなくて、おばさんとアキの二人に俺が加わった。後から食べ始めたのに食べ終わるのは一緒だった。
丁寧にお礼を言って淹れてもらったコーヒーを持ってアキの部屋にいく。アキのは砂糖たっぷりのカフェオレ。
綺麗に片付けられた部屋は物が少なくごちゃごちゃした感じはなかった。食後の片付けを手伝おうとすると勉強してらっしゃいと言われた。その日はまだ初対面なのでありがたくお言葉に甘えさせてもらった。次からはちゃんと手伝おう。
二人きりになり、ぎこちない空気が流れる。そう言えば、二人きりなんてバレンタイン以来だ。学校でもほとんどしゃべらない。アキは相変わらず智子って子と一緒にいるし接点がなさ過ぎて近寄ることはできない。今日も無理やり押しかけた。
「ごめん。迷惑だった?アキは乗り気じゃなかったのに。晩御飯までご馳走になって」
「違う!そうじゃなくて…」
アキの顔を見ると真っ赤な顔で俯いてる。顔を覗き込み手を取った。
「抱きしめてもいい?」
コクリと頷いてくれるけど顔は上げてくれない。
「アキ、好きだよ」
「!……俺も、好き」
真っ赤な顔で目がウルウルと綺麗に光ってたまらない。
キスしたいけど、焦ってはいけない。
俺の腕にすっぽりと収まり、少し震える腕を背中に回した。ああ、なんて可愛いんだ。ずっとこのままでいたいけど、このままでいたらキスもしたくなる。振り切るように腕を離した。
「勉強しよっか?」
「うん」
そんなふうに試験が終わるまでは一緒に過ごすことができた。
毎回は申し訳ないと思い、弁当を買っていくとおばさんに怒られた。実の母親より俺の事を心配してくれる。
試験が終わりまた部活一色の日が続く。
最近アキの様子がおかしい。俺を見て悲しそうな顔をする。原因がわからないのでどうすることもできない。デパートや専門店にお返しを買いに行く暇がないので、コンビニで買った。それなりの物を準備してその日に備える。
アキの家でも良かったけど、バレンタインの時の公園で待ち合わせた。
「ごめん、待った?」
「ううん。時間、教えてくれたから、今来たとこ」
こんなところでこんな時間にアキを一人待たせるわけにはいかない。俺のが先に着くように伝えたけど、アキの方が早かった。
「あのさ…無理してないか?」
突然の言葉に何の話かわからなかった。
「無理って?」
「俺と…その…付き合うとか。なんか悪いなって。ほら、神部、忙しいだろう?それなのに俺の家にいっつも寄ってくれる。遠回りだろ?そんなことしてるより、早く帰ってゆっくりするとか、勉強するとか、早く寝るとかさ。その方がいいんじゃないかなって」
「そんなことない。俺がしたいからしてるだけで」
「それに……俺、男だし。その、ほら、欲求不満の解消?…には役立たないかな…って。ははっ、こんなの、変なの」
校門でチョコを渡した時のような諦めた悲しそうな顔。
思わず抱きしめる。
「ちょっと、ここ、公園」
「大丈夫。暗いし、アキは小さいから俺が隠してあげる」
キスしなかったから不安だった?
あんな我慢しなきゃよかった。でも、キスだけで終わる自信なかったんだよな。そんな俺の気持ちも素直に言葉にすればアキがこんな不安にならなかったのかな。
「アキ…晃典、好きだよ。キスしたい。アキの家でも本当はキスしたかった。でも、我慢した」
「本当に?俺、男だけど…」
「そんなの学生服着てる晃典を好きになった俺に確認しなくても良いだろ?」
「バレンタイン、智子以外の女子からもいっぱいもらったって」
「あれは、友チョコ…まあ、一部は本気もあったみたいだけど全部断った。だって晃典と約束してたから」
「ご、こめん、あの時は…」
「もう良いよ。こうして俺の腕の中にアキがいるから」
「じゃあ、俺だけ?」
「そうだよ。不安だった?」
「うん」
「ごめん。はいこれ」
鞄の中からこの日のために用意したクッキーをアキに渡した。
「もう一度、俺から…。こんな俺だけど、付き合ってください」
涙をためた目をウルウルさせて、俺の大好きな笑顔で頷いた。
待ち合わせ場所にいたのはアキと一人の女子だった。
突き出した震えるチョコに、わけがわからずアキを見た。
そりゃ、そうか。
何勘違いしてるんだ。
「悪い。俺はこいつに頼まれてさ。これは俺から…じゃあ」
一応チョコはもらえたけど、こんな軽い感じで渡されたチョコが本命なわけないか。それに、どう見てもこの子の付き添い。いつも一緒に部活の練習とか試合を見にきてくれてた。
アキと同じ中学出身のクラスメイトが付き合ってるとかはないって言ってた。
『あれは女子同士って感じだね。晃典は嫌がってるけど、最後は折れてるし、結構楽しんでる感じ』
仲良いよって聞くと複雑な気分だったけど、絶対付き合ってないと笑ってたからそうなんだろう。
去り際のアキの辛そうな表情は、友だちが自分から離れてしまうことへの寂しさなのか?それとも、このチョコが気持ちの表れなのか?
「ごめん。俺、好きな子がいるんだ」
一人になり不安そうな、目の前の女子に断りの言葉を告げる。アキは智子と呼んでいた。
「そ、そ…なんだ。うん…。そうだよね。でも、チョコは…」
「うん。折角だし、それはもらうよ。ありがと」
「あの、神部くん。アキのチョコももらってあげて」
「ああ、これ?」
「うん。あの子の気持ちだから。できれば、返事してあげて」
その言葉が理解できなかった。
それでもとりあえず、また待ち合わせ場所を決めてそこへ向かう。アキへの連絡はしてくれるそうだ。大体俺には連絡方法がない。
「……友チョコだと思ってよ」
その言葉を絞り出すように言われると期待してしまう。ここはパン屋の前で、遅い時間にも関わらず駅前だからかお客は少なくない。もう少し落ち着いて話したかったから場所を変えた。おとなしく着いてきてくれる。
「悪かったって」
努めて明るく紡がれる言葉はどこか寂しげで、俺は賭けに出た。
「……俺、お前だったから今日、約束したんだ」
すると、戸惑いと喜びの表情がパッと明るく華やぐ。
「本命チョコならどうする?」
やっと本音を口にしたのか、今日初めて見た可愛い笑顔だった。
この笑顔が好きなんだ。
いつも女子と一緒にいて変なヤツって思って見てたけど、いつの間にか気になってた。一緒にいる女子は気にならないのに何故かアキばかり目で追ってた。
アキと付き合い始めて一ヶ月。今日はホワイトデー。板チョコのお返しをしたかった。
アキはこんなことなら板チョコじゃなくてもっとちゃんとしたの買えばよかったと言ってたけど俺はこれでよかった。
付き合いだしたと言っても俺は部活があるのでなかなか会えない。連絡先を交換してもっぱらスマホでのやり取り。
でも、学年末考査の間は一緒に過ごすことができた。と言っても、試験前でも基礎練習はあるので一緒には帰れない。
俺の家はアキの家より遠い。電車やバスでは不便なので、ちょっと遠いけど自転車通学。けど自転車だからアキの家にも寄って帰れる。2月14日に家を教えてもらった。
部活が終わりパンを買ってアキの家まで行く。優しそうなお母さんが迎えてくれた。
「まあ、パンが晩御飯?育ち盛りなんだからちゃんと食べないとダメよ!残りものでよかったら食べてって」
晃典が男の子を連れてきたことないから嬉しいのと喜ばれると複雑な気持ちだ。まさか付き合ってるとは思ってないだろうから、普通に勉強すると思ってるだろう。二重の申し訳なさに恐縮する。
アキの部屋で食べるかと聞かれたけど、それはできないと一緒に食べさせてもらった。下宿してる大学生のお姉さんの椅子を借りてアキの隣で食べる。おじさんはまだ帰ってなくて、おばさんとアキの二人に俺が加わった。後から食べ始めたのに食べ終わるのは一緒だった。
丁寧にお礼を言って淹れてもらったコーヒーを持ってアキの部屋にいく。アキのは砂糖たっぷりのカフェオレ。
綺麗に片付けられた部屋は物が少なくごちゃごちゃした感じはなかった。食後の片付けを手伝おうとすると勉強してらっしゃいと言われた。その日はまだ初対面なのでありがたくお言葉に甘えさせてもらった。次からはちゃんと手伝おう。
二人きりになり、ぎこちない空気が流れる。そう言えば、二人きりなんてバレンタイン以来だ。学校でもほとんどしゃべらない。アキは相変わらず智子って子と一緒にいるし接点がなさ過ぎて近寄ることはできない。今日も無理やり押しかけた。
「ごめん。迷惑だった?アキは乗り気じゃなかったのに。晩御飯までご馳走になって」
「違う!そうじゃなくて…」
アキの顔を見ると真っ赤な顔で俯いてる。顔を覗き込み手を取った。
「抱きしめてもいい?」
コクリと頷いてくれるけど顔は上げてくれない。
「アキ、好きだよ」
「!……俺も、好き」
真っ赤な顔で目がウルウルと綺麗に光ってたまらない。
キスしたいけど、焦ってはいけない。
俺の腕にすっぽりと収まり、少し震える腕を背中に回した。ああ、なんて可愛いんだ。ずっとこのままでいたいけど、このままでいたらキスもしたくなる。振り切るように腕を離した。
「勉強しよっか?」
「うん」
そんなふうに試験が終わるまでは一緒に過ごすことができた。
毎回は申し訳ないと思い、弁当を買っていくとおばさんに怒られた。実の母親より俺の事を心配してくれる。
試験が終わりまた部活一色の日が続く。
最近アキの様子がおかしい。俺を見て悲しそうな顔をする。原因がわからないのでどうすることもできない。デパートや専門店にお返しを買いに行く暇がないので、コンビニで買った。それなりの物を準備してその日に備える。
アキの家でも良かったけど、バレンタインの時の公園で待ち合わせた。
「ごめん、待った?」
「ううん。時間、教えてくれたから、今来たとこ」
こんなところでこんな時間にアキを一人待たせるわけにはいかない。俺のが先に着くように伝えたけど、アキの方が早かった。
「あのさ…無理してないか?」
突然の言葉に何の話かわからなかった。
「無理って?」
「俺と…その…付き合うとか。なんか悪いなって。ほら、神部、忙しいだろう?それなのに俺の家にいっつも寄ってくれる。遠回りだろ?そんなことしてるより、早く帰ってゆっくりするとか、勉強するとか、早く寝るとかさ。その方がいいんじゃないかなって」
「そんなことない。俺がしたいからしてるだけで」
「それに……俺、男だし。その、ほら、欲求不満の解消?…には役立たないかな…って。ははっ、こんなの、変なの」
校門でチョコを渡した時のような諦めた悲しそうな顔。
思わず抱きしめる。
「ちょっと、ここ、公園」
「大丈夫。暗いし、アキは小さいから俺が隠してあげる」
キスしなかったから不安だった?
あんな我慢しなきゃよかった。でも、キスだけで終わる自信なかったんだよな。そんな俺の気持ちも素直に言葉にすればアキがこんな不安にならなかったのかな。
「アキ…晃典、好きだよ。キスしたい。アキの家でも本当はキスしたかった。でも、我慢した」
「本当に?俺、男だけど…」
「そんなの学生服着てる晃典を好きになった俺に確認しなくても良いだろ?」
「バレンタイン、智子以外の女子からもいっぱいもらったって」
「あれは、友チョコ…まあ、一部は本気もあったみたいだけど全部断った。だって晃典と約束してたから」
「ご、こめん、あの時は…」
「もう良いよ。こうして俺の腕の中にアキがいるから」
「じゃあ、俺だけ?」
「そうだよ。不安だった?」
「うん」
「ごめん。はいこれ」
鞄の中からこの日のために用意したクッキーをアキに渡した。
「もう一度、俺から…。こんな俺だけど、付き合ってください」
涙をためた目をウルウルさせて、俺の大好きな笑顔で頷いた。
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