波紋

茉莉花 香乃

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第一章

02

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十五年前の記憶が鮮やかに蘇る。

初めて拓真と会った時の…。
拓真とはもう何年も会っていない。俺の気持ちは今もあの頃とあまり変わらない。
誰か他の人を好きになれば義弟として会えるかもしれないけど、未だに心の奥底に居座り続ける拓真。

何人か恋人と呼べる人はいた。けれど、誰も拓真を忘れさせてはくれなかった。
その恋人が好きだった。
間違いなく好きだった。言い訳するつもりはない。利用しようとかそんな気持ちで付き合った訳じゃない。

あの頃の狂気のような熱は年とともに薄らいだ。けれど、正面切って向き合うことができないまま誰にも本気に、その先に進む気になれなかった。





顔を見ると小学生ではなかった。

痩せているけど、意思の強そうなひとみが印象的だ。

ふっと頬を緩ませ笑顔で会釈する。

俺に向けた笑顔と挨拶だったのか?
突然のことに戸惑った。三十を超えた大人が狼狽え、ぎこちなく頭を下げているのははたから見たら笑えるだろう。

一応確認のため後ろを振り向く。
俺じゃなく、別の誰かに向けての笑顔だったらもっと滑稽だ。
良かった。
誰もいなかった。

クスクスと笑う顔は無邪気で、暗さは感じられない。いつも、下を向きつまらなそうと思ったけど、違ったのか?

次の日もその子は公園にいたけれど、目も合わない…挨拶もしない今までと同じ他人の関係だった。





仕事が忙しくなった。

夕方のあの薄暗い公園は、夜の真っ暗な時間に通るようになった。

それまでも毎日見た訳じゃない。同じ時間に公園の脇の道を通ることはなかったから、毎日公園にいたかもわからない。でも俺は、無意識にこっちの道を選んでたんだ。

季節が変われば景色が変わるような、当たり前の気にも留めないような変化。

そんな変わりない日常に紛れるように、俺の心に花びらが一つ落ちて小さな波紋を描いた。

自分でも気付かないくらいの小さな花びらだった。





仕事が遅くなるにつれてコンビニ弁当の頻度が高くなる。弁当さえ買わず、ビールとつまみを買って帰る時もある。

駅の近くにスーパーとコンビニがある。この頃はコンビニばっかだ。駅からマンションを通り越して少し行ったところにもコンビニがある。マンションからだとこっちの方が近い。

冷えたビールを飲むために、わざわざマンションを通り越した。

たった二、三分のことだ。その間に温くなる距離じゃない。けど、たまには違うルートで帰ったりしたくなる。そんな気紛れだった。

レジのところにいる店員を見てその場から動けなかった。

「あっ…」

間抜けな顔してたんだろ。

あの時と同じクスクスと可愛く笑う。

また花びらが小さな波紋を作る。

前に落ちた花びらは俺も気付かない端の方でクルクル回り、浮いていた。

あの時、確かに小学生には見えなかった。けど中学生がバイトって…ダメだろ。それもこんな時間に。

ぎこちなく店内を回る。系列が違っても商品の配置はそんなに変わらない。まずつまみを探す。定番のチーズとナッツ類をカゴに入れ、ビールを取り出す。

名札を見ると『片島』と書いてあった。何か事情があるのか?中学生を働かせる理由なんてろくなもんじゃない。

でも、俺には関係ない。
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