波紋

茉莉花 香乃

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第二章

01

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違うんだ
壊してやりたかった
自分に向けられない愛情
全て奪っていく拓真を壊してやりたかった
親父は再婚して直ぐに義母かあさんと拓真と一緒に住み始めた
拓真は多感な時期なのに直ぐに親父に打ち解けていた
俺にも直ぐに懐いてくれたからそこまで違和感はなかった
けれど、俺とは年が近い
三つ違いなんてダチができたようなもんだ
今まで仕事で遅くなっていると思っていたけれど、一緒に住むようになると帰りは早かった
中学生の時には帰りが遅いことにも慣れてた
多少の寂しさはあったけど生活のための仕事で遅くなるんだ『寂しい』なんて言えない
でも、小学生の時は辛かった
布団に包まって泣きながら寝たことも何度もあった
慣れない家事
鍵を開け、電気を点ける
温もりのない部屋
親父は罪滅ぼしのつもりなのかゲームや時間を潰せるものを買うのを叱らなかった
それは…優しさなんかじゃなかった
「俊一の家行くと何でもあるな。良いな~」
そりゃそうだ
でも、当時は鼻高だった
それは勘違いだった
俺と一緒に過ごす時間はなくても彼女と…その息子の拓真と過ごす時間はいくらでもあったんだ
知らなかった
気づかなければ良かった
気づいたのは一緒に住み住み始めて直ぐだった
ためらいなく親父を「パパ」と呼ぶ拓真
一瞬で理解した
ああ、そう言うことか
俺は要らないんだな
泣くことも、なじることもしなかった
できなかった
高校生の俺はもう片足が大人の領域に入っていた
そんなことで文句を言うことはできない
小学生の俺に謝ってくれよ
温もりを返してくれよ
誰も居ない部屋に入る息苦しさを
寂しかった夜を
誰も来ない授業参観
誰も来ない運動会
拓真の運動会にはお弁当持って行ってたのか?
日曜も俺とはたまに近くの公園に行くだけだった
出張…仕事で出かけると言って、泊まりで出かけたことも何度もあった
そうか、家族旅行だったんだな
拓真…元気にしてるのか?
今となっては会いたいのか会いたくないのかわからない
俺は正真正銘親父の息子だったんだな
好みが同じだなんて
拓真は義母かあさんによく似ている
拓真が悪いんじゃない
親父は俺を持て余してたんだ
もしかしたら、子どもはいないとか言ってたのか?
義母かあさんは優しい人だった
俺が一人でアパートで待ってるなんて知らなかったのかもしれない
必ずアパートに帰る親父を疑ったかもしれないな
必要以上に『母親』を意識する
罪の意識なのか?
そんなものは要らない
無邪気な拓真
壊したい
守りたい
穢したい
かばいたい
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