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第二章
03
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抱きついたままだった郁己の腕は緩まない。
顔を俺の胸に押し付る。
「…貴方だけだった」
「何が?」
「俺が公園にいる時、貴方だけが俺を見てくれた」
ずっと見てたの知ってたのか?
下ばっか見てたじゃねぇか。
「俊一だよ」
抱きしめ返した。
顎を持って顔をこちらに向けさせると、そのままキスをした。温かな唇に触れるだけのキス。背中に回る腕が心地いい。
「俊一さん」
「郁己」
舌で唇をなぞる。
「んっ…はぁ…」
少し開いた隙間から舌を入れた。
舌が歯に当たり、我に返った。
「…続きは?」
瞳を潤ませ見つめてくる。
「ここまでだ」
「こんなの俺でもできるよ」
またキスしようとする郁己から離れた。
「今日は帰れ」
「誰も心配しないって言ってるだろ?」
「いつも帰ってないのか?」
「…帰ってるよ」
「じゃあ、帰れ」
「父さんが死んだんだ。だから誰も心配しない」
「一人で住んでるのか?」
「…ばあさんとおじいちゃんと」
「ほら、今頃心配してるぞ?」
「だから…」
「また、来たらいいから」
「えっ?」
「ここに、いつでも来たらいいから」
何故そんなことを言ったのかわからない。
でも、思わず口から出た言葉を訂正する気はなかった。
郁己の家は古びた一軒家だった。
それぞれ独立した家だけどその隙間は狭く、長屋を連想させる。
俺が住んでるマンションからそんなに離れてない。住宅街の奥に昔ながらの家が並んでいた。小さな頃に住んでたアパートに比べればずっといいだろ。
「挨拶しとこうか?」
「なんて言うんだよ?エロの師匠ですなんて言う?」
それもそうか?
郁己と俺の接点は公園とコンビニだけだった。
家の電気は全て消えている。日付も変わってる。もう寝てしまってるのか?本当に心配してないのか?孫が可愛くないのか?…親でもあんな態度だったんだ。あり得るかもしれないな。
そう言えば…母親はいないのか?離婚、死別…郁己が言うまで聞かない方がいいだろう。
「本当に、行ってもいいの…?」
今まで強気な態度だったのに、急にしおらしく聞いてくる。
「ああ、来いよ。バイトはするんだろ?」
「うん」
急に不安になる。
「バイトはコンビニだけなのか?」
「そうだけど?」
「客、取ったりしてないだろうな?」
「あんなキスで取れないのわかってるだろ?」
「そうだな」
良かった。
「ちゃんと学校行くんだぞ?」
「何それ?心配してくれてんの?」
「そうだ」
途端に笑顔になる。
静まってた俺の心にまた花びらが落ちる。
ひとひらの花びらは沈まず漂ってた花びらと重なり小さな花になった。
連絡先を交換してマンションに戻った。
酔いが醒め、身体は冷えてしまった。でも心はほっこりしてる。
郁己の寝ていた布団に潜り込み眠りに就いた。
朝起きると、携帯が震えてる。プライベートのスマホはいつもマナーモードだ。サイドテーブルでブルブル音を立てる。
この携帯に電話がかかってくることはこの一年なかったような気がする。
「なんだよ?」
『良かった。おはよう』
「ああ、おはよう。で?何が良かったんだ?」
『ちゃんと出てくれた。シカトされるかと思ったんだ』
何可愛いこと言ってるんだ。
花びらが落ちる。
顔を俺の胸に押し付る。
「…貴方だけだった」
「何が?」
「俺が公園にいる時、貴方だけが俺を見てくれた」
ずっと見てたの知ってたのか?
下ばっか見てたじゃねぇか。
「俊一だよ」
抱きしめ返した。
顎を持って顔をこちらに向けさせると、そのままキスをした。温かな唇に触れるだけのキス。背中に回る腕が心地いい。
「俊一さん」
「郁己」
舌で唇をなぞる。
「んっ…はぁ…」
少し開いた隙間から舌を入れた。
舌が歯に当たり、我に返った。
「…続きは?」
瞳を潤ませ見つめてくる。
「ここまでだ」
「こんなの俺でもできるよ」
またキスしようとする郁己から離れた。
「今日は帰れ」
「誰も心配しないって言ってるだろ?」
「いつも帰ってないのか?」
「…帰ってるよ」
「じゃあ、帰れ」
「父さんが死んだんだ。だから誰も心配しない」
「一人で住んでるのか?」
「…ばあさんとおじいちゃんと」
「ほら、今頃心配してるぞ?」
「だから…」
「また、来たらいいから」
「えっ?」
「ここに、いつでも来たらいいから」
何故そんなことを言ったのかわからない。
でも、思わず口から出た言葉を訂正する気はなかった。
郁己の家は古びた一軒家だった。
それぞれ独立した家だけどその隙間は狭く、長屋を連想させる。
俺が住んでるマンションからそんなに離れてない。住宅街の奥に昔ながらの家が並んでいた。小さな頃に住んでたアパートに比べればずっといいだろ。
「挨拶しとこうか?」
「なんて言うんだよ?エロの師匠ですなんて言う?」
それもそうか?
郁己と俺の接点は公園とコンビニだけだった。
家の電気は全て消えている。日付も変わってる。もう寝てしまってるのか?本当に心配してないのか?孫が可愛くないのか?…親でもあんな態度だったんだ。あり得るかもしれないな。
そう言えば…母親はいないのか?離婚、死別…郁己が言うまで聞かない方がいいだろう。
「本当に、行ってもいいの…?」
今まで強気な態度だったのに、急にしおらしく聞いてくる。
「ああ、来いよ。バイトはするんだろ?」
「うん」
急に不安になる。
「バイトはコンビニだけなのか?」
「そうだけど?」
「客、取ったりしてないだろうな?」
「あんなキスで取れないのわかってるだろ?」
「そうだな」
良かった。
「ちゃんと学校行くんだぞ?」
「何それ?心配してくれてんの?」
「そうだ」
途端に笑顔になる。
静まってた俺の心にまた花びらが落ちる。
ひとひらの花びらは沈まず漂ってた花びらと重なり小さな花になった。
連絡先を交換してマンションに戻った。
酔いが醒め、身体は冷えてしまった。でも心はほっこりしてる。
郁己の寝ていた布団に潜り込み眠りに就いた。
朝起きると、携帯が震えてる。プライベートのスマホはいつもマナーモードだ。サイドテーブルでブルブル音を立てる。
この携帯に電話がかかってくることはこの一年なかったような気がする。
「なんだよ?」
『良かった。おはよう』
「ああ、おはよう。で?何が良かったんだ?」
『ちゃんと出てくれた。シカトされるかと思ったんだ』
何可愛いこと言ってるんだ。
花びらが落ちる。
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