波紋

茉莉花 香乃

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第六章

02

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郁己と一緒に食べた定食屋でお昼を食べる。郁己はなんでも美味しそうに食べるから一緒に食べるといつもの料理が普段より美味しく感じた。人間は感情が全てなのか?同じものを食べても、なんて味気なく感じてしまうのだろう。

忘れたいのか?
忘れたくないのか?
……忘れたくないに決まってる。

でも、会えない。

一緒に行った所に一人で来たりしたら益々郁己を探してしまう。いくら探しても見つからないのに。

辛い。

でも、ついつい一緒に行った所に行ってしまう。

初めて一緒に観た映画。
マフラーに隠れて手を繋いだ。高校生のデートのようで、映画の内容そっちのけで郁己が気になって仕方なかった。

郁己が一生懸命映画に集中するから、映画に嫉妬してしまう。お目当の俳優でもいるのか?俺を見ろよ!子どものような独占欲。

『愛してるよ…』

耳元で囁くと途端にカチンと固まった。よく見えないけどきっと顔や首はほんのりと赤く色付いているだろう。ああ、抱きしめたい。

それは今も同じ思いだ。

抱きしめたい。
俺の側に帰ってきて欲しい。


◇◇◇◇◇


連絡が取れなくなり一か月が過ぎた。

何もする気がおきないまま、掃除もろくにしてなかったから休みの日に掃除機をかけた。

郁己がいつも勉強に使ってた机には問題集が置いたままになってる。学校の教材じゃないと言って持ってきた。

そうか…学校。

行けば会えるだろうか?
郁己には会えないだろうか?

たわいない会話の中で友だちの名前は何人か知ってる。でも、連絡先を知ってる訳じゃない。携帯の中で仲良さ気に写ってる写真を何度か見せてもらったことがあるけど、同じ制服の中から見つけることはできないだろう。

でも、会えるかもしれない。
何か知ってるかもしれない。

下校時間はバラバラだろうと思い、郁己の登校していた時間より少し早く学校に行ってみた。

校門の近くまでは行けない。不審人物に思われて通報されたらたまらない。

やっぱり郁己は見なかった。
郁己の友だちもあやふやな記憶が同じ制服で更にあやふやなものになりわからなかった。

毎日は行けないけど、仕事の都合がつく日に学校に行った。

通学路に立ち見ていると、学校へ急ぐ高校生は皆同じに見える。

ここに郁己が混じると、俺にははっきりと郁己だけに色が付いているように見えるだろう。
郁己のいない世界が色褪せて見える。

顔のない高校生を眺めていても仕方ないのかもしれない。もう、ここに来るのは最後にしようと立ち去りかけた時だった。
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