波紋

茉莉花 香乃

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第六章

01

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郁己と連絡が取れなくなった。

俺の中の綺麗な花は益々大きくなり、穏やかな水面みなもは凪いでいたのに…ある日突然嵐がやってきたように花を散らす。

朝、毎日笑顔を見せてくれて、俺の一日が始まってたのにいきなり来なくなった。

郁己はあの勝気な瞳の奥で、孤独に耐えていた。誰にも頼らずに生きていた。でも、俺にだけは頼ってくれていると信じていたのに。

郁己の携帯はガラケーで、連絡を入れても電波が届かない、電源が入っていないと虚しく響き繋がらない。

バイト先にも何度も行ったけど、一度も会えなかった。何度目かにコンビニに行った時店長に聞いてみた。

「ああ、片島くんね…ほんと、困るよね。突然辞められたらさ。こっちだって都合があるんだよ」

突然辞めたのか…。
次のバイトが入るまで大変なんだよ…と俺との話が終わっても、誰に言うともなく独り言を言い続ける店長とは離れ軽く会釈して帰った。
ファミレスを辞める時は一ヶ月我慢したと言ってた。

余程のことがあったのか?
何があった?
俺には何も言ってくれないのか?

郁己の家にも何回も行った。おばあさんを見たことはあるけど、郁己は見なかった。おばあさんに声を掛けるか迷ったけど仕方ない…郁己との繋がりはもうここしかなかった。

「あぁ、郁己かい?」
「はい、連絡が取れないのですが?」
「あんたは、郁己のなんだい?」
「わたしは…」
「まあ、いいさ。あの子はここにはもう帰って来ないよ。こんなことになるならもっと……」

ぶつぶつと文句を言いながら「もう用はないだろう!帰りな!」と追い払うようにされて、仕方なく帰った。

絶対何か知ってるだろうけど、俺たちの関係は不確かで曖昧なものだった。今、ここで恋人だから教えてくれと言っても何を言ってるんだと水でも掛けられるだけかもしれない。





郁己と知り合うまでの俺は何をして時間を潰していたのだろう。

郁己が友だちと出掛けるからと、土日に会えない日だって一人で買い物したり映画を観たりしてた。どこにも行かなくても寂しいと感じたことはない。
『ただいま』と家に帰る前にここに寄ってくれる時もあったから郁己と過ごさなかった休日も心乱されることはなかった。

こうしてみると、俺は郁己に頼ってたのか?俺から誘うことはあった。でも、それは最初の頃だけだったような気がする。
初めから朝は郁己がここに来たし、バイトが無い日の連絡も俺からはダメになったと断りの連絡が主だった。

俺からの誘いは…殆どなかったかもしれない。甘えてた。こんなに年下の恋人に甘えていたのだ。
それが嫌になった?良い加減にしろよと捨てられた?

そんなことはない!
思い出せ!
郁己がここに最後に来たのはいつだった?その時の郁己の様子は…?
いつもと変わらなかったように思う。不自然な言葉や行動はなかったと思う。帰りたがらず、俺に甘えてた。

……そう言えば、帰りたがらなかった。それは、最初からだったけどここ数週間は特にぐずぐずと駄々っ子のように俺を困らせた。

家で何かあったのか?
あのおばあさんの様子ではわからなかった。もう一度聞きに行っても同じかもっと酷い扱いをされるだけだろう。
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