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第五章
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「お酒の匂いがする…」
「そうか?そんなに飲んでないけどな」
俺が未成年だからか、俺の前ではあまりお酒を飲まない。最初見かけたコンビニでは見るたびにビールとつまみを買ってたのに。
「楽しかった?」
「上司と二人だぞ?楽しいわけないじゃんか」
「でも、お酒好きだろ?」
「まあ、嫌いではないかな。郁己、早く大人になれよ。そしたら一緒に飲みに行こう」
「そうだね。楽しみ…」
俊一さんは約束通り家まで送ってくれた。そのまま泊まらせてくれないのはいつものことだよね。おじいちゃんの事を心配してるの知ってるし、あんなばあさんでも家族だろ?と言うんだ。
自分は会うことがない家族を俺には大切にしろって言う。俊一さんの言葉じゃなきゃ『ほっといて』と思うだろう。これ以上親しみを持つことはない。しかし、憎しみを増やさないことはできるよと、優しく俺を包んでくれる。
◇◇◇◇◇
おじいちゃんが死んだ。
俊一さんには言えなかった。
言ったら、俊一さんの前で涙が止まらなくなりそうだった。
きっと受け止めてくれると思うけど負担になりたくなかった。
泣かずに報告することができるようになったら言うつもり。
怒るだろうか?
直ぐに言わないことを怒るだろうか?
亡くなったのが金曜日だったから、不自然にならずに過ごせたと思う。
俊一さんは俺が友だちと出掛けるのを嫌がらないし、どっちかって言うと友だちとも遊べと言うんだ。友だちは大事だぞ?と。週末に会えないのは寂しいけど、楽しんでこいよって送り出してくれるから。
葬儀の時、涙は出なかった。
悲しくないわけじゃない。父さんが死んだ時に比べればおじいちゃんを失うことは俺の中でははるかに悲しく、辛いことだった。
ぽっかりと空いた穴は俊一さんが埋めてくれてた。
日に日に弱っていくおじいちゃん。朝、出かける時に顔を見る。笑顔を見せてくれることはなかったけど、そこに寝ている姿を見ると落ち着いた。
おじいちゃんがいなくなってしまうという不安定な気持ちは俊一さんが補ってくれた。
だから、泣かずに済んだんだ。
ばあさんと叔母さんが俺を見て悪口を言う。
「涙も見せないなんて」
「なんて薄情なんだろうね。母親に似たんだよ」
「嫌だね。さんざ、世話になったのに」
小さな声だけど俺に聞こえるように近くで言う。言い返すことはしない。おじいちゃんの前で喧嘩はしたくない。
悪口を発するその目にも涙がないことは本人が一番よくわかっているだろう。
身内だけの葬儀だったけど、近所の人も何人も来てくれておじいちゃんがみんなに慕われていたのがわかった。
おじいちゃんの葬儀の時くらいから誰かに見られている。
同じ人じゃないけど、俺が出かける時に慌てて通行人の振りをする。
この辺りは住宅街の奥で、家の前の道は狭く、車の通りも人の通りも少ない。そんなところに不自然に立っていたら割と目立つ。隠れているつもりなのか?
ドラマなんかで聞いたことある探偵。俺の事を調べたって何も楽しいことはない。学校が一生徒の素行調査をわざわざ探偵雇ってするわけない。じゃあ、何を調べてるんだ?
それに、こんなに対象者にバレバレの仕事をプロがしないだろう。あの人たちは誰なのだろうか?
バイトのない日の夜、一緒にご飯の準備をして一緒に食べた。後片付けも一緒にする。
俊一さんがお茶を入れてくれて一緒にテレビを見てる時に相談しようか迷いながら声をかけた。
「俊一さん…」
「何?どうした?」
「あのさ…テレビなんかで探偵とか出てくるだろ?それって普通、何を調べてって頼むのかな?」
「?…俺も頼んだことないな…そうだな…浮気調査とか?」
「浮気…」
「ちょ…俺はそんなの頼んだことないからな!」
「わかってるって」
「後は、誰か探してるとか?信用調査、素行調査くらいしか思い浮かばないな…どうした?探偵になりたいのか?」
「ううん…今日大野がさ、聞いてきたから」
また、誤魔化した。
「そう?おいで、郁己」
「うん」
手を引いて俺を抱き寄せてくれる。
温かい。
俊一さんの腕の中は落ち着く。
そろそろおじいちゃんの事、言った方がいいかな。
おじいちゃんが居ない家に帰りたくない。ばあさんの俺への攻撃はますます酷くなる。
もう嫌だ。
もう…耐えられない。
「そうか?そんなに飲んでないけどな」
俺が未成年だからか、俺の前ではあまりお酒を飲まない。最初見かけたコンビニでは見るたびにビールとつまみを買ってたのに。
「楽しかった?」
「上司と二人だぞ?楽しいわけないじゃんか」
「でも、お酒好きだろ?」
「まあ、嫌いではないかな。郁己、早く大人になれよ。そしたら一緒に飲みに行こう」
「そうだね。楽しみ…」
俊一さんは約束通り家まで送ってくれた。そのまま泊まらせてくれないのはいつものことだよね。おじいちゃんの事を心配してるの知ってるし、あんなばあさんでも家族だろ?と言うんだ。
自分は会うことがない家族を俺には大切にしろって言う。俊一さんの言葉じゃなきゃ『ほっといて』と思うだろう。これ以上親しみを持つことはない。しかし、憎しみを増やさないことはできるよと、優しく俺を包んでくれる。
◇◇◇◇◇
おじいちゃんが死んだ。
俊一さんには言えなかった。
言ったら、俊一さんの前で涙が止まらなくなりそうだった。
きっと受け止めてくれると思うけど負担になりたくなかった。
泣かずに報告することができるようになったら言うつもり。
怒るだろうか?
直ぐに言わないことを怒るだろうか?
亡くなったのが金曜日だったから、不自然にならずに過ごせたと思う。
俊一さんは俺が友だちと出掛けるのを嫌がらないし、どっちかって言うと友だちとも遊べと言うんだ。友だちは大事だぞ?と。週末に会えないのは寂しいけど、楽しんでこいよって送り出してくれるから。
葬儀の時、涙は出なかった。
悲しくないわけじゃない。父さんが死んだ時に比べればおじいちゃんを失うことは俺の中でははるかに悲しく、辛いことだった。
ぽっかりと空いた穴は俊一さんが埋めてくれてた。
日に日に弱っていくおじいちゃん。朝、出かける時に顔を見る。笑顔を見せてくれることはなかったけど、そこに寝ている姿を見ると落ち着いた。
おじいちゃんがいなくなってしまうという不安定な気持ちは俊一さんが補ってくれた。
だから、泣かずに済んだんだ。
ばあさんと叔母さんが俺を見て悪口を言う。
「涙も見せないなんて」
「なんて薄情なんだろうね。母親に似たんだよ」
「嫌だね。さんざ、世話になったのに」
小さな声だけど俺に聞こえるように近くで言う。言い返すことはしない。おじいちゃんの前で喧嘩はしたくない。
悪口を発するその目にも涙がないことは本人が一番よくわかっているだろう。
身内だけの葬儀だったけど、近所の人も何人も来てくれておじいちゃんがみんなに慕われていたのがわかった。
おじいちゃんの葬儀の時くらいから誰かに見られている。
同じ人じゃないけど、俺が出かける時に慌てて通行人の振りをする。
この辺りは住宅街の奥で、家の前の道は狭く、車の通りも人の通りも少ない。そんなところに不自然に立っていたら割と目立つ。隠れているつもりなのか?
ドラマなんかで聞いたことある探偵。俺の事を調べたって何も楽しいことはない。学校が一生徒の素行調査をわざわざ探偵雇ってするわけない。じゃあ、何を調べてるんだ?
それに、こんなに対象者にバレバレの仕事をプロがしないだろう。あの人たちは誰なのだろうか?
バイトのない日の夜、一緒にご飯の準備をして一緒に食べた。後片付けも一緒にする。
俊一さんがお茶を入れてくれて一緒にテレビを見てる時に相談しようか迷いながら声をかけた。
「俊一さん…」
「何?どうした?」
「あのさ…テレビなんかで探偵とか出てくるだろ?それって普通、何を調べてって頼むのかな?」
「?…俺も頼んだことないな…そうだな…浮気調査とか?」
「浮気…」
「ちょ…俺はそんなの頼んだことないからな!」
「わかってるって」
「後は、誰か探してるとか?信用調査、素行調査くらいしか思い浮かばないな…どうした?探偵になりたいのか?」
「ううん…今日大野がさ、聞いてきたから」
また、誤魔化した。
「そう?おいで、郁己」
「うん」
手を引いて俺を抱き寄せてくれる。
温かい。
俊一さんの腕の中は落ち着く。
そろそろおじいちゃんの事、言った方がいいかな。
おじいちゃんが居ない家に帰りたくない。ばあさんの俺への攻撃はますます酷くなる。
もう嫌だ。
もう…耐えられない。
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