30 / 41
第五章
09
しおりを挟む
顔を引き締める。声をかけてきたのは同じクラスの大野。クリクリした巻き毛の可愛い奴だ。可愛いって言うと怒るから言わないけど、クラスの誰もが思ってる。
「何々、例のあの人からの秘密の連絡かな~」
「そうだよ」
「なんだよ?愛してるとか書いてあるのか?」
「ばっ!そんなの、書いてない」
何恥ずかしいこと言ってくれるんだよ。一気に顔が熱くなって俯いた。
「真っ赤…こっちまで恥ずかしくなる」
「変なこと言うからだろ…」
「片島は可愛くなったな」
「大野に言われたくない」
友だちには…特にこの大野には朝食を一緒に食べ始めた頃に『良いことあったな?何があった?言いなさい』と詰め寄られた。
『好きな人ができた』
そんな言葉で誤魔化されてくれない友だちはグイグイ人の気持ちに触れてくる。それは嫌な強制じゃなくて、日頃俺の事を構ってくる、ちょっとお節介なクラスメイトが俺の些細な変化に気付いてくれた証拠だった。
その時は本当にただ好きだと思ったからそう言ったのに信じてくれなかった。「ただの片思いじゃないだろ?」そんな風に見えたのかな?
きっと俺はその時、浮かれてたんだ。押しかけて無理やり一緒に食べる朝食を嫌がってない俊一さんに…。
「お邪魔しま…す」
誰もいないのはわかってる。鍵を開けてそろりと入るのは、怪しい人のようだ。買ってきた材料をテーブルに並べ、今日必要でないものは片付けて冷蔵庫から必要な材料を出す。二人分の食事の準備をして待ってると電話が掛かってきた。
『郁己?今どこ?』
「俊一さんの部屋」
『そうか…悪い。上司に飲みに誘われてさ、断れないんだ』
「うん。行ってらっしゃい」
いろいろお付き合いがあるのだろう。俺にはまだわからないけれど、今回が初めてではない。もっと早くに…午前中とかに誘われる時もあるけど、さあこれから帰ろうかという時もあるらしい。同僚なら断ることもできるけど上司なら仕方ないよね。
この頃ますます過保護な俊一さんはこれから俺が夕飯を食べて家に帰ると遅くなるから、ここで待っていなさいと言う。送るからと。
一人で食べたけど、家の自室で食べる一人きりの食事とは違った。同じものでもここで食べるとちゃんと味がする。どちらも自分で作った物だ。同じ物のはずなのに、家で食べる食事は楽しむものではなかった。
生きるためだけに食べていた。いや、違う。空腹を紛らわすためだけに食べていた。朝も普段はきちんと食べてなかった。あの時、朝を一緒に過ごすなら、やっぱり食べなきゃ…って思ったんだ。
後片付けをして、お茶を飲む。一人では落ち着かないけど、自分の部屋に居るより穏やかな気持ちなのが驚く。ばあさんは俺の部屋に来てまで悪口をいう訳じゃないから、部屋に入れば逃げることができた。それでも直ぐ近くにばあさんがいると思うだけで、落ち着かなかったんだろう。
宿題を済ませ、大好きな人が帰ってくるのを待つのはウキウキする。でも、少し寂しくなる。
「早く帰ってこないかな」
ベッドに潜り込む。俊一さんの匂いを嗅ぎながら目をつむった。
「郁己」
「…んっ…」
「ただいま」
ふわりと抱きしめられ、名前を呼ばれた。半分寝ぼけながら腕を回す。冷たい空気を纏った腕からはいろんな匂いがした。その中から俊一さんの匂いを自然と探す。
ああ、落ち着く。
「………おはよう」
「まだ、夜だよ」
「…そう?」
「ごめんな…遅くなって。晩御飯はちゃんと食べた?一人で食べさせて悪かったな。送って行くよ。起きられる?」
家でいつも一人で食べているのを知ってるからここでまで一人きりで食べさせたと謝ってくれるけど、そんな心配はいらないよ。そんな気持ちを込めて抱きしめ返す腕の力を強くする。
「何々、例のあの人からの秘密の連絡かな~」
「そうだよ」
「なんだよ?愛してるとか書いてあるのか?」
「ばっ!そんなの、書いてない」
何恥ずかしいこと言ってくれるんだよ。一気に顔が熱くなって俯いた。
「真っ赤…こっちまで恥ずかしくなる」
「変なこと言うからだろ…」
「片島は可愛くなったな」
「大野に言われたくない」
友だちには…特にこの大野には朝食を一緒に食べ始めた頃に『良いことあったな?何があった?言いなさい』と詰め寄られた。
『好きな人ができた』
そんな言葉で誤魔化されてくれない友だちはグイグイ人の気持ちに触れてくる。それは嫌な強制じゃなくて、日頃俺の事を構ってくる、ちょっとお節介なクラスメイトが俺の些細な変化に気付いてくれた証拠だった。
その時は本当にただ好きだと思ったからそう言ったのに信じてくれなかった。「ただの片思いじゃないだろ?」そんな風に見えたのかな?
きっと俺はその時、浮かれてたんだ。押しかけて無理やり一緒に食べる朝食を嫌がってない俊一さんに…。
「お邪魔しま…す」
誰もいないのはわかってる。鍵を開けてそろりと入るのは、怪しい人のようだ。買ってきた材料をテーブルに並べ、今日必要でないものは片付けて冷蔵庫から必要な材料を出す。二人分の食事の準備をして待ってると電話が掛かってきた。
『郁己?今どこ?』
「俊一さんの部屋」
『そうか…悪い。上司に飲みに誘われてさ、断れないんだ』
「うん。行ってらっしゃい」
いろいろお付き合いがあるのだろう。俺にはまだわからないけれど、今回が初めてではない。もっと早くに…午前中とかに誘われる時もあるけど、さあこれから帰ろうかという時もあるらしい。同僚なら断ることもできるけど上司なら仕方ないよね。
この頃ますます過保護な俊一さんはこれから俺が夕飯を食べて家に帰ると遅くなるから、ここで待っていなさいと言う。送るからと。
一人で食べたけど、家の自室で食べる一人きりの食事とは違った。同じものでもここで食べるとちゃんと味がする。どちらも自分で作った物だ。同じ物のはずなのに、家で食べる食事は楽しむものではなかった。
生きるためだけに食べていた。いや、違う。空腹を紛らわすためだけに食べていた。朝も普段はきちんと食べてなかった。あの時、朝を一緒に過ごすなら、やっぱり食べなきゃ…って思ったんだ。
後片付けをして、お茶を飲む。一人では落ち着かないけど、自分の部屋に居るより穏やかな気持ちなのが驚く。ばあさんは俺の部屋に来てまで悪口をいう訳じゃないから、部屋に入れば逃げることができた。それでも直ぐ近くにばあさんがいると思うだけで、落ち着かなかったんだろう。
宿題を済ませ、大好きな人が帰ってくるのを待つのはウキウキする。でも、少し寂しくなる。
「早く帰ってこないかな」
ベッドに潜り込む。俊一さんの匂いを嗅ぎながら目をつむった。
「郁己」
「…んっ…」
「ただいま」
ふわりと抱きしめられ、名前を呼ばれた。半分寝ぼけながら腕を回す。冷たい空気を纏った腕からはいろんな匂いがした。その中から俊一さんの匂いを自然と探す。
ああ、落ち着く。
「………おはよう」
「まだ、夜だよ」
「…そう?」
「ごめんな…遅くなって。晩御飯はちゃんと食べた?一人で食べさせて悪かったな。送って行くよ。起きられる?」
家でいつも一人で食べているのを知ってるからここでまで一人きりで食べさせたと謝ってくれるけど、そんな心配はいらないよ。そんな気持ちを込めて抱きしめ返す腕の力を強くする。
10
あなたにおすすめの小説
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる